芋者奮闘録   作:舞い降りるズゴック

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 ジークアクス見てきました。グラハムが溶鉱炉に出し入れされるシーンでは周りから笑い声が響いていましたね(集団幻覚)

 


逃げたら一つ

「きゃっ……!」

 

 

「うぉっ!?わりぃ……って、簪?」

 

 

 積み上がった武装の山を半分ヤケになりながら整備を完了させた俺は、そのまま一夏の部屋へと向かっていた。

 その道中、廊下の曲がり角で簪とぶつかってしまう。遂に専用機が完成したと聞いたので、お祝いの言葉でも送ろうと思っていたのだが、簪の表情と手に持ったままの菓子入りの小袋を見るに、想像以上にマズイことが起きたのではないだろうか。

 

 

「あ、飛鳥、なんでここに……」

 

 

「……とりあえず、何があったか聞いてもいいか?」

 

 

 

 

 精神的なダメージを負ったことは明らかだったので、心身共に落ち着かせるためにも俺の部屋に簪を招いた。本来二人一部屋で利用するところを俺一人で占有しているため、スペースにはかなり余裕がある。

 学舎から直行するつもりだったので、簪を座らせた後は荷物の整理をした。その間に少しは落ち着いたのか、簪は先程起こった出来事について話しをしてくれた。

 

 

「…………ふざけんてんじゃねぇよあの生徒会長。一歩間違えたら俺の努力水の泡になるとこだったじゃねぇか……」

 

 

 最初は一夏を目の敵にしていた簪だったが、専用機が完成するまでの期間でだいぶ距離が縮まったようで、お礼に手作りのカップケーキを用意するほどまで行ったらしい。流石は一夏(女たらし)

 

 さて、問題はこの後だ。専用機の完成を聞いた生徒会長が、一夏を労おうと部屋に押しかけており、その光景を簪は遠目から目撃してしまったわけだ。苦手意識を持つ優秀な姉と紆余曲折あって仲良くなった男子が自分の預かり知らぬところで一緒にいるとか、下手な浮気現場よりドロッドロの構図である。

 

 

「えっと……大丈夫?」

 

 

「ごめん、ホンットごめんな簪。泣きたいの絶対お前の方なのにな。でも限界だよ、あのアホ会長に付き合わされるの」

 

 

 あまりのショックに宥める側と宥められる側が逆転する始末。妹絡みになるとポンコツになるのはわかりきっていたが、まさかこんな大ポカやらかすとは。張本人が何も気づいてないのが余計に腹立たしい。

 

 

「……飛鳥って、変わってるよね」

 

 

「え?……まぁ、一般人の定義からは外れてるかもしれないけどさ」

 

 

「そうじゃなくて…………飛鳥が姉さんの話すると、イメージ崩れるような話ばかり出てくるから」

 

 

 ……言われてみれば、俺があの人を肯定すること滅多にないな。いや、いくら疎遠になってるとはいえ、姉の悪口言われて簪が良い気分になるか?

 

 

「……悪い、聞いてて気分の良い話じゃなかったよな。お前の姉さんのことだし」

 

 

「あ、その……責めてるわけじゃない。姉さんは、私なんかよりずっと優秀だから…………だから、一夏と仲良くてもおかしくなんか……」

 

 

 次第に俯いてしまう簪。元々ネガティブ気味な彼女だが、心を許した相手が実は姉の指示で手を貸していたという事実は誰だって受け入れ難いだろう。

 

 

「……簪。お前、どうしたいんだ?」

 

 

「……え?な、何、急に……」

 

 

「専用機、完成したんだろ?それに一夏っていうパートナーもいる。専用機タッグマッチに出れば、生徒会長とだって戦うチャンスもあるんだ」

 

 

 そうだ、生徒会長の依頼はもう達成している。一夏が簪のタッグになること、専用機の開発に協力して完成させること。俺がこれ以上関わらずとも、生徒会長に俺の仕事ぶりは伝わっているだろうし、どんな頼みだって請け負ってくれるだろう。

 

 

「ちなみに、出ないって選択肢もあるぞ(・・・・・・・・・・・・)

 

 

「で、出ないって……!?どうして?」

 

 

「今急いで生徒会長と戦わなくたって、いつかその機会はやってくる。一夏の方はまぁ、裏切ることになるな。あいつ、生徒会長に頼まれたとはいえ、お前をサポートする気持ちは本物だったし。でも簪としては、前々からの目標だった専用機は完成したんだ。それだけでも十分だろ」

 

 

 だから、ここからは俺のワガママだ。生徒会長の筋書きとか、もう知らん。元々俺はその先のことを考えていたのだ。首を突っ込みすぎだとは思っているが。

 

 

「で、でも、そんなの……」

 

 

「じゃあ、今度はタッグマッチに出た時の話だ。生徒会長とは戦える。一夏を裏切ることもない。それに他の相手だって代表候補生ばかり、有益なデータも戦闘経験も得られる。あとは、そうだな…………生徒会長をギャフンと言わせて、生徒会長の座を手に入れる!とか?」

 

 

「…………話、飛躍しすぎじゃない?」

 

 

「かもな。でも、こっから一つ進むだけでこれだけ……いや、これ以上が手に入るかもしれないんだ。逃げたら一つだけど、進めば二つ……なんてな」

 

 

 某水星女の言葉を借りてしまったが、これぐらい言わないと簪を動かせる自信はなかった。生徒会長はやり方こそ信じられないぐらい不器用だが、間違いなく歩み寄ってはいる。あとは、簪次第なのだ。

 

 

「……進めば二つ、か。ちょっと、考えてみる」

 

 

「あぁ、もし欠場するなら、俺が一夏と組んで生徒会長ぶっ飛ばしにいくから安心していいぞ!」

 

 

「……そもそも出れないからタッグ組めないんじゃなかったの?」

 

 

 ド正論。そりゃあ、タッグマッチ出れるなら最初から嬉々として参加してるよ。アレだろ?一人羽交締めにしてそいつを一夏に攻撃させるのを二回繰り返すだけで勝てるじゃん。言っといてなんだけど絶対上手くいかないし、そもそもやるつもりないけど。

 

 

「飛鳥は、強いよね。ISもそうだけど、すごく前向きなところとか」

 

 

「……そうか?良く言われるけど、実感湧かないんだよなぁ」

 

 

 一夏や他のヤツらからも強い強いとは言われるが、俺は自分をそう思ったことは一度だってない。

 なんせ、どれだけ頑張って、どれだけ進んだところで、俺が手に入れられるのは一つだけ(・・・・・・・・・・・・・・・)。力だけしかないのだから。

 

 ……そういう意味では、俺はただ必死に逃げているだけなんだろう。残ったものを、これ以上失いたくないから。俺と違って、何かに向かって進むことができるヤツがいるから。

 別にヒーローになりたいとか、そういう願望はない。ただ欲しかっただけなのだ。

 

 誰かの手を握って、離さないだけの力が。

 

 

 

 

 

「よっ、一夏。専用機開発お疲れ」

 

 

「飛鳥!お前途中から全然顔出さなくなって心配したんだぞ?そんなに忙しかったのか」

 

 

「悪い悪い、ちょっと面倒ごとに巻き込まれてさ」

 

 

 主にお前と組めなかったヒロインズのせいでな。身体張ってまで裏でヘイト管理するのは本当に大変だった。慣れないことはするものじゃないな。

 

 

「まぁ、それなら仕方ないか……。って、なんだそれ?」

 

 

「あぁこれ?簪の手作りだと。専用機作り手伝ってくれたお礼でな」

 

 

 ほれ、とカップケーキが入った袋を一夏に手渡す。流石に今会いに行っても生徒会長とまた鉢合わせる可能性もあったので、俺が代わりに届けにいくことになったのだ。

 

 

「へぇ、美味そうだな!……ところで、その簪はどこに?」

 

 

「部屋で休んでる。明日の試合に思うところでもあるのかもな。礼なら明日言っとけ」

 

 

「そうか、ここまで頑張ってきたもんな。俺も明日の試合、下手なことはできない」

 

 

「そう固くなるなって。ミスったらどこからともなく謎のブーメラン飛んでくるだけだから」

 

 

「俺の知る限りISでブーメラン使うような奴一人しかいないんだが」

 

 

 明日のタッグマッチがどんな結果になるか。俺としても非常に楽しみなところだ。一夏と簪だけじゃない、出場予定の専用機持ち達もこの期間に全員手合わせしたのだ。勝敗抜きにしても、白熱した試合が見られることは間違いない。

 

 明日、何も起こらなければの話だが。




 飛鳥が零落白夜対策に拘る理由と、物語開始時からメンタル面がしっかりしてるように見えて実はかなり危ない橋渡ってるのが明らかになったと思います。

 ある程度立ち直った後ということもあり、ちょっとやそっとのことでは揺らがないと思うので、曇らせ展開は期待できない……かもしれません。
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