芋者奮闘録 作:舞い降りるズゴック
「…………」
気がつくと、俺は一つの墓の前に立っていた。
……特に墓参りの予定はなかったし、そもそも俺はIS学園にいたはずだが。
「名前、ないな」
墓、と認識したのはいつか見たものと同じ形をしていたから。人の名前も刻まれていないのに、俺は
「……こっちなら進めそうだな」
不思議なことに、この場所に道と言えるのは二つしかなかった。一つは墓の真後ろ、明るく広がっていて先の先までハッキリと見える。
もう一つ、その正反対の方向にある道は、黒一色のみが広がっていた。先が見えず、道と認識できる箇所は途中で途切れていた。
どちらを選ぶか。いや、俺は選ぶことすら放棄した。
墓に背を向ける。その先にあるのは、何もない。ただ暗闇だけが存在する道だ。
「…………?」
一歩踏み出すと、肩に手が置かれた。おかしい、他に人なんて見当たらなかった。それも真後ろ……墓のある方向になんて。
構わず進もうとすると、ものすごい力で引っ張られて俺は後ろを向かされた。その次の瞬間には、俺の顔目掛けて開いた手が迫っていて。
「ッ………!痛いのは、夢じゃないのかよ……」
まさか夢の中でビンタされて目覚める日が来るとは。ただし、俺の身体は痛覚を否定していない。
それもそうだろう。俺の身体には包帯が巻かれており、ベッドも病室仕様。俺の推測が間違っていなければ、ここはIS学園の保健室だ。下手な医療施設よりも設備が整ったこの場所に、俺は寝かされていた。
「……これ、肋骨折れてるな。内臓にも刺さったか?」
痛みから冷静に怪我の状況を分析する。手痛い一撃は胸部に貰ったビームのみ。そして、その後にハイリスクローリターンの近距離ラッシュ。どう考えてもこれが原因だろう。
とはいえ、ISによって医療技術も発達したこの世界では、医療用ナノマシンといった代物もある。これぐらいなら回復には一週間もかからないだろう。
起き上がるのも良くなさそうなので、俺は再び眠りにつこうとする。その時ようやく、仕切りの向こうで誰かが話していることに気づいた。
「お姉ちゃん、ごめんなさい!」
聞こえた声は簪のものだった。お姉ちゃん……というと、隣のベッドにいるのは生徒会長か。そういえば俺以外に結構なダメージ負ってたの、あの人だけだったな。
そんなことより、あの簪が生徒会長と正面から話し合っている。長い間すれ違っていた姉妹が、遂に分かり合えたのだ。仕切り越しに聞こえる会話に、俺は心から安堵していた。
(……全く、前みたいに接することはできないな)
俺が更織楯無を軽蔑していたのは、ただ一つ。簪と上手くやれていないということ。たったそれだけだが、俺が邪険に扱う理由には十分過ぎる。……まぁ、そうじゃなくても奇行の数々が目立つのだが、色々世話になったのも事実だ。これからの態度には気をつけるとしよう。
「ところで、聴き耳を立ててるのはどこのどちら様かしら?」
「……仕方ないでしょう。聴き耳立てるも何も、隣なんですから」
やっべ、バレた。妹関連ポンコツだけど、この人暗部の党首だからな。いや待て、その妹との関係良くなったから無敵になったのでは?
「飛鳥!?い、いつから……!?」
「居たのは最初から、聞いたのは一部だけだよ。俺も怪我し、デッ!?」
上半身を起こそうと、仰向けの状態から身体を捻る。しかし、胸の辺りに激痛が走ったことで、俺の身体は叩きつけられるようにベッドへ逆戻りした。
「無理しないで、飛鳥もひどい怪我なんだから……!」
「大丈夫だって、ここでくたばったらタダ働きになるからな。そうでしょう、楯無さん?」
「……今更名前呼びなんて。なぁに、お姉さんの魅力に気づいちゃった?」
「
「あ、あの、飛鳥くん?お世辞にしてはちょっと大胆じゃないかしら?…………おかしいわね、いつもツンツンしてる飛鳥くんが、こんなこと言うようになるなんて……」
妹絡みでもないのに妙に弱々しくなったぞ。わかった、無人機との戦闘中に頭を強く打ったか。
「楯無さん、ショック療法でも試してみます?」
「ちょっと!?私も飛鳥くんも怪我人でしょ!?お互いタダじゃ済まないわよ!」
ギリギリと鳴るほど握られた拳を見て我に返る楯無さん。やっぱり飛鳥くんは飛鳥くんね、と返されたがどういう意味だ。
「……その、本当は楯無さんに頼むべきか、すっごく悩んでたんです。まず大人を頼るべきっていうのはそうなんですけど、そもそもこの件に向き合うの、怖くて」
恩人である戸高さんはもちろんだが、千冬さんにも頼みづらかった。IS関連ではこれ以上頼りになる存在はいないが、関係性としては友達の姉に過ぎない。
……というのもあるが、あの人、なぜかは知らないが
「でも、楯無さんと簪が一歩踏み出せたんです。だから、俺も腹を括ることにしました」
「……わかったわ、飛鳥くん。更織の名にかけて、あなたに手を貸すわ」
楯無さんが真っ直ぐこちらを見据える。俺も覚悟を決めて口を開こうとする。
その時、先ほど夢で見た光景がフラッシュバックした。あの夢は、俺の行く末を暗示していたのだろうか。最後に俺をビンタしたヤツについては謎のままだが、一瞬のことで姿もハッキリと見ていない。ただ、
とにかく、俺は楯無さんに一つの依頼を出した。
「人探しを、手伝ってくれませんか」
ここでまた区切りがついたと思うので、日常回やこの小説における芋者や各シルエットの設定を書いてから、また本編進めようと思います。
恐らく次の章で事態は大幅に動くことになるでしょう。見切り発車から始まった作品ですが、この話の行き着く先を楽しみにしてもらえれば光栄です。