芋者奮闘録 作:舞い降りるズゴック
「ここが倉持技研か」
「そうみたいだな、迎えもいるようだし」
数日前に襲撃してきたゴーレムⅢ。その戦いによってダメージを負った機体のメンテナンスを行うため、俺と一夏は倉持技研に来ていた。
一夏の『白式』と簪の『打鉄弐式』の開発元ではあるのだが、俺個人としてはあまり関わりがない。整備が必要ならコンパスから人が来るか、俺が直接アポ取って本社に行けばいいのだから。
だからといって、ただ一夏の付き添いに来たわけではない。俺も人に呼ばれているのだ。
「やぁ、二人とも。誕生日会以来だね」
「戸高さん、今日はよろしくお願いします」
「あ、どうも。……え、なんで戸高さんがここに?」
「私も技術者の端くれだからね。今回イモータル・ジャスティスのメンテナンスを担当することになっているんだ」
そう、戸高さんはなんとIS関連の知識も豊富であり、俺が二人目の男性操縦者として世間に知られた頃には、その腕を買われてコンパスにスカウトされていたのだ。もちろん、男性操縦者の身内の保護という名目もあるのだが。
「えっ、戸高さんISのこと結構詳しいのか?初耳だぞ」
「……少なくとも、俺が中学に上がる前からは関わってたと思う。まぁ、腕は保証するぞ」
俺も最初に聞いた時は驚いた。なんせ、ISという存在が世に知れ渡ったのは約十年前の『白騎士事件』。俺たちが中学1年の頃には第二回モンドグロッソが開催され、今も量産型として活躍する第二世代型のISが完成していたと考えると、戸高さんはIS業界においては古参とも言えるのではないか?
どこまで関わってるかは知る由もないが、芋者を弄れるという時点で凄腕か開発に関われるほどの人材なのは確かだ。この人たまにとんでもなくハイスペックな一面出すからな。ほとんどが趣味の範疇で発揮されるものだけど。
「聞きたいことがあるのはわかるが、他にも人を待たせている。中に入ろうか」
……少々考え事が過ぎたようだ。戸高さんに先導されて倉持技研にお邪魔する。しばらく進むとラボ施設があり、IS学園でも目にするような設備が幾つも存在している。メンテナンスを行う予定の場所であることはわかるのだが、誰も見当たら……。
「フンッ!!」
「おぉっと危ない!しかし噂通りの蹴り……とそれを可能とする良いケツだ。堪能できないのは残念だけどね」
悪寒を感じたので咄嗟に背後へ回し蹴りをしてしまった。それもかなり本気で。だが、それをしなければISスーツの上に白衣を着ただけの変態に尻を触られていただろう。しかも白衣の前止めてないからISスーツ丸見えだし。
「相変わらずだね。ヒカルノくん」
「え、えっと、お知り合いで?」
一人蚊帳の外になっていた一夏が疑問を投げかける。俺も気にはなった、戸高さんとこの変態にどんな面識があるのか。
「私は
「……なんか、今日一日で戸高さんの印象変わるようなことばかりだな」
倉持技研第二研究所所長、それが今目の前にいる変態……もとい篝火ヒカルノだそうだ。白式のメンテナンスを請け負うのはこの人らしい。
しかし、やけにスムーズに案内してくれると思えば、以前の勤め先だったのか。隠し事が多いのか、必要最低限のことしか言わないのか。戸高さんは未だに掴みどころのない人だ。
「さて、一夏くん。私と飛鳥くんは別の場所で作業を行う。ここでお別れだな」
「はい、案内ありがとうございました。飛鳥もまた後でな!」
「あぁ……背後には気をつけろよ。特に下半身」
世が世ならセクハラで訴えているところだ。女尊男卑の影響はここまで……いや、多分あの人の趣味趣向でやってるのだろうから思想も何も関係ないのだが。
それはさておき、俺と戸高さんは別室に移動して、イモータル・ジャスティスの点検を行っている。
「胸部以外は目立った損傷はない。他に受けたダメージはISの自己修復で間に合っているようだな」
「ちょっとしくじりましたね。まさか敵が六本腕……いや、俺がイージスを使いこなせていればこんなことには」
「……飛鳥くん、このデータを見てくれるか?」
戸高さんが提示したのは、ISの適正ランクと二種類のデータが比較されている棒グラフ。棒グラフの方はISの稼働時間で区切られており、どちらの棒も右肩上がりなのだが、進むにつれて二つの棒の差がどんどん縮まっているのがわかる。
一方のIS適正ランク。これはISを扱う上での身体的な素質をわかりやすく格付けしたものだ。だが、これらは訓練や操縦の経験が蓄積することで変動することもある。ISの操縦時間が重要とされているのは、この仕様も関係している。
わざわざ見せてきたということは、俺のIS適正に変化があったというわけだ。
「適正ランク……C?」
「
適正ランクの高さは、強さにも直結する。代表候補生クラスともなると、その大半がAだし、世界最強と謳われる千冬さんに至ってはSだ。
箒は紅椿に乗ってからはCからSに異常な変動を見せたが、俺のは別ベクトルでおかしい。
その疑問について、戸高さんは推測を立てる。
「これが、君の動きがジャスティスに反映される速度。それによって引き出されるスペックの期待値がこちらだ」
棒グラフを一つずつ指し示す。ISには自己進化能力もあり、操縦者に合わせて機体をリアルタイムで調整してくれる。この機能は多くの人間が動かせるようにと作られた量産機ではロックされているのだが、芋者は俺の専用機。俺の動きに完璧に対応している。
そのはずだった。俺の動きは以前より向上し続けている。もちろん、芋者もそんな俺に合わせて最適化を行なっているはず。そうであるならば、なぜスペックの期待値と動きの反映速度との差がこんなにも縮まりつつあるのか。
「…………ISが君に合わなくなったのではなく、君が
「まぁ、他のヤツらより伸びが悪いなとは思ってましたけど。……このまま動かし続けたら、どうなります?」
「これも推測になるが、動きに決定的なズレが生まれるだろうね。だが、心配はいらない。私の方で調整してみよう。少なくとも適正ランクをBに戻すことはできるはずだ」
戸高さんはそう言ってプログラミングに集中し始める。しかし、ISの自己進化では追いつかないほど俺の動きが洗練されていたとは、到底信じがたい。一夏と白式……は短期間でセカンドシフトまで行ってるからこれもレアケースだが、いくら成長速度が早かろうとISは対応できるとばかり思っていた。
……IS側に問題がある、と結論づけられるなら話は早いのだが、果たしてそれだけで済む問題なのだろうか。
「よし、これでなんとかなるだろう。残念ながら、私はもうこの研究所の職員ではない。性能テストがしたいならヒカルノくんに声をかけるべきだが、向こうもまだ終わりきってはいないだろう」
「しばらく待ちますか。お茶でも淹れてきます」
「あぁ、頼むよ」
近くに備え付けてあった電気ケトルを利用して茶を淹れる。戸高さんの家にいた頃と比べれば簡素なものだが、たまにはこういうのに頼ってもいいだろう。
「どーぞ」
「いただくよ。……ふむ、悪くない」
「そりゃ粉とはいえ良さげなもの選びましたから。戸高さんの教育の賜物ですよ」
「フ、そうか。……もう6年になるか。君を引き取ってから」
遠い目をする戸高さん。俺もここまで長い付き合いになるとは思ってなかった。
「俺はまだ幸運な方です。
「……すまない、家族のことを思い出させるつもりはなかった」
俺の保護者……両親は、俺が小学4年の時に亡くなった。不慮の事故だった、と聞いている。それ以上は何も教えられなかった。
戸高さんが俺を引き取ったのは、それから少し経った頃だ。あそこで戸高さんと会ってなかったら、俺は今以上に歪んだ性格になっていたかもしれない。
「いいんです。いつまでも目を逸らすわけには行きませんから。……何があっても、受け入れる覚悟はできてます」
俺の決意は揺るがない。世の中には知らない方が良いことだってあるだろう。でも、この世界で出来た唯一無二の家族のことだ。俺は知らなければならない。
「成長したな。飛鳥くん」
「戸高さんほどじゃないですって。親孝行の対象にしてやりますから、老後楽しみにしといてくださいよ」
「そうか……………………なぁ、飛鳥くん。君の両親のことだが」
「待った……なんか、騒がしくないです?」
何かがぶつかる音が遠くから響いてくる。金属音、それもかなりの質量があるもの……恐らくISのものだろうが、一体何があった?
「おっとここにいたか!いやー、一夏くんが白式に乗ってIS学園に帰っちゃってね。君にも伝えるよう言われたんだけど、何か心当たりあるかい?」
「はぁ!?」
なにやってんだアイツ!?いや、さっきピキーンとした感覚があったが、それはここが襲撃されたのではなく、IS学園側に危険が迫っているってことだったのか……?
それですぐにIS学園に戻ろうと思えるのすごいな。ニュータイプかよアイツ。
「戸高さん!」
「ジャスティスの調整は終わっている。いつでも出せるぞ」
「ありがとうございます!あの野郎先走りやがって……!」
MA形態となって倉持技研から飛び立つ。飛翔能力は優れているMA形態だが、スタートの差や向こうも機動力重視の機体であることから合流は少し遅れた。
「追いついたぞ一夏!」
「飛鳥!よかった。ヒカルノさん、ちゃんと伝えてくれたか」
「全く、何があったんだ?」
「……誰かの声が聞こえた気がした」
「なんだそれ?って、もうIS学園か。……様子がおかしいな?」
猛スピードで帰ってきたIS学園だが、あまりにも静かすぎる。良く見れば、ガラス張りされているところはどこもシャッターが閉まっている。まさか、また襲撃か?
「飛鳥、こっちだ!」
「おい待て、一体どこに……っ!」
ISが熱源反応を感知する。通路に三人、内一人は負傷……何が起こっているかはわからないが、とにかく一夏に続いて突入する。
「ッ!?楯無さんっ!!」
「その人を放せぇ!!」
先行していた分、一夏が一足早く楯無さんを連れ去ろうとしている何者かを無力化する。武装した男性……光学迷彩の機能まであるようだ。すぐに思いついたのは亡国企業だが、何か引っかかる。別の勢力の可能性も考えておこう。
だが、まずは目の前の楯無さんだ。気を失っている。しかも、銃で撃たれた形跡もある。当たりどころは悪くなさそうだが……。
「楯無さん!聞こえてますか!」
「目ぇ覚ませ!生きてるだろ?楯無さん!!」
「っ……一、夏くん…………飛鳥、くん………」
なんとか一命は取り留めたようだ。あとは医務室に運ばなければならないが、その前に楯無さんが口を開く。
「この場所に、行って……みんなが、危ない……!」
「……一夏、お前が行け。俺はあとで合流する」
「わかった、頼んだぞ!」
楯無さんの送った座標に一夏を向かわせ、俺は楯無さんを抱え、優しくかつ急いで医務室へと向かう。
「情け、無いわね。油断して……撃たれる、なんて」
「喋るな!アンタが死んだら、簪が悲しむ!!俺の依頼も、反故にはさせませんよ……!」
「ではヒカルノくん。この惨状の中で悪いが、私は帰らせてもらおう」
「えぇ、今度会った時は飛鳥くんの尻触れるよう説得お願いしますね」
「ははは、前向きに考えさせていただくよ」
急いでいた一夏がぶち抜いた壁、その後処理に追われるであろう倉持技研から去る戸高。一仕事終えた彼であったが、その手には赤色を基調としたメモリースティックが握られている。
内容は、飛鳥とイモータル・ジャスティスの戦闘記録。
「……私は、
彼のもう一つの仕事は、まだ続いている。
こうやって話進めてると、過去に書いた描写と矛盾してないだろうなと不安になる時があったりする。特にcv関係の発言とか。
サラッとEOS使う描写飛ばしましたが、展開のテンポ重視で後回しにすることにしました。早足な気はしますが、武装回もあるので話数かさまない方が良いかなと思いまして。