芋者奮闘録 作:舞い降りるズゴック
「ふぅ、やっと着いたか」
「やっぱ三回目ともなると、新鮮さ薄れるわねぇ……」
新幹線から降りると、そこには中学時代でも見たことのある景色。IS学園からの長旅でようやく着いた京都の駅。作戦目的で来ているとはいえ、京都観光が楽しみなのに変わりはないのか、移動中はそれなりに騒がしかった。
「…………」
だが、それとは裏腹に駅に着くまでの俺は大人しく窓を眺めているだけだった。会話も必要最低限しか行わなかったため、山田先生からは体調不良すら疑われていた。
それは今日に限った話ではなく、先日の一夏との模擬戦で白星を挙げてからずっとだ。あれ以来、一夏とは同室であるにも関わらず中々面と向かって話せずにいた。無論、他の専用機持ちとも。
原因はもちろん、最後の決め手に繋がったあの現象。たった一瞬、されど一瞬の動きの差が、勝敗を分けた。しかし、あれから何度思い返しても、己の限界を超えた動きが何の苦もなく行えた実感が湧かない。
もし、また同じように追い込まれた時、それが起こる保証はない。己の中で
「なにボーッとしてんのよ」
「っ……鈴か。なんだよ急に」
「なんだよ、じゃないわよ!写真撮るって言ってるじゃない。さっさと行くわよ」
鈴に小突かれたと思えば、腕を引かれ強引に連れていかれる。進行方向を見ると、他のメンバーは京都駅の名物とも言えるあの長階段の前に集まっていた。
肝心のカメラマンだが、それは持参の物を持ってきた一夏が務めるようで。
「ほら一夏!アンタも早く入りなさいよ」
「あ、お、おい!じゃあ誰が写真を……」
「はい、山田先生。よろしく」
「え、えぇ!?私ですか……!?」
一夏愛用のカメラが鈴の流れるような手つきで山田先生の手に渡る。そのまま連れてこられた俺と一夏は、写真の中心になる位置で隣り合わせとなった。
「アンタらこの間から辛気臭いのよ。今ぐらい笑いなさい」
鈴に言われて、お互い顔を見合わせる。そして同時に苦笑い。その流れがどこかおかしかったのか、シャッターが切られる前には写りの悪くない顔ができるようになった。
「じゃあ、撮りますよ〜」
俺含め11人の専用機持ちと千冬さんの姿がカメラに収められる。ちょっとした集合写真とでも言うべきか。あとで見せてもらった時は良く撮れていると感じる一枚だった。
「で、お前はいつまで猫追いかけてんだ……!?」
「いや、なんかついてこいって言われてるよう気がして」
京都に着いたはいいものの、楯無さん曰く、亡国機業の動きを掴んだ情報提供者の一人と連絡がつかず、合流の予定が崩れたという。しかし、何かがあっても個人で対応できるような人物であるのか、楯無さんは接触してくることを確信しており、自分一人でも探すのだという。一体何者なのか。
そんなわけで、その間は二人一組でペアを組み、京都を巡っていいのだと。そんなわけで、俺はカメラマン役として回る一夏に同行することとなった。まだ気まずさは抜けてないが、先ほどの鈴の仲介もあって会話ぐらいはできるようになった。
問題はそこからだった。とりあえず観光スポットに行ったはいいものの、人が多いため脇道に入った。そこで見つけた白い猫に釣られたのか、一夏は30分も追いかけていたのだ。あとを追いかける俺の身にもなってほしい。
「おかえり、シャイニィ」
白猫の行き先には、赤い着物を纏った赤髪の女性の姿が。赤い髪、赤い服というとデジャブを感じるが、いつかの夢で見た人物とは違う。なんせ、この女性には右腕と右目がない。
だからだろうか。
「……アンタ、イタリア代表の?」
「おや、初対面で当てられたのは初めてサね。まさか、私のファンだったりするのサ?」
「……試合は良く見返してましたから」
「え!?あのテンペスタの!?」
「アリーシャ・ジョセスターフ。アーリィでいいのサ」
俺の発言で一夏も気づいたのか、驚きの声を上げる。イタリア代表、アリーシャ・ジョセスターフ。第二回モンドグロッソで優勝を果たした、二代目ブリュンヒルデだ。
数少ないIS適正ランクSの一人であり、格闘型IS『テンペスタ』を専用機とし、単一使用も発現させている。これだけ並べても戦闘能力の高さは計り知れるだろう。片目片腕の欠損は気になるところだが……。
「それにしても、キミたち揃って相が良くないネぇ」
「えっ」
「……」
突然として不吉なことを言われ、一夏は間の抜けた声を出し、俺は無言で顔を顰めた。
「んー、キミは晴れのち女難。時々銃弾」
そして、と区切り、一夏から俺へと目線が移る。
「そっちのキミは……
「はぁ……?」
急に占われた(?)と思ったら、俺と一夏とで内容が全然違う。一夏は天気予報風なのに、俺は二択か?その選択肢もあるモノを彷彿とさせるようなワードだ。
「気をつけなよ、でまとめるのも酷サね。失せものと背負いものには折り合いつけておくべきサ」
「あ、ちょっと……!」
白猫を乗せたまま、その場から立ち去ったアリーシャ・ジョセスターフ。彼女の言葉は一体何を意味していたのか。それを考える間もなく、一夏の携帯からメールの着信音が鳴る。
「お、シャルロットからだ。和菓子店にいるみたいだな。行こうぜ!」
「あ、あぁ……」
小走りで向かう一夏の後を追う。先程の忠告染みた占いは、ここからしばらく頭に浮かぶことはなかった。
「あ、一夏!こっちこっち!」
「……ん」
「おぉ、着物姿か。二人とも似合ってるぜ!」
メールで指定された位置へ向かうと、そこには着物姿とシャルロットと簪の姿が。話を聞くと、簪が着物の着付けや髪の結い方などに詳しく、シャルロットもセッティングしてもらったのだと。楯無さんもだが、こういった所作は更織家では普通なのだろうか。
「せっかくだし、団子食べてるところでも撮ろうぜ!そうだな……お互いに食べさせ合うとかどうだ!」
「そ、それは、どうなの……?」
「セクハラ……」
カメラマンとしての役を果たそうとする一夏だが、流石に浮かれてるのか、中々センシティブな絵面を求めてるようだ。本人にそのつもりがあるかは知らないが。
早速団子を買って差し出しに行くという行動力を見せる一夏と、たじろぐシャルロットと簪を後方から見つめながら、俺は片足の先で地面をトン、トンと軽く鳴らした。
「(ビクッ)」
「?どうした一夏。写真、撮るんだろ?」
「あ、飛鳥……圧が、圧がすごいよ!?」
「目が、笑ってない」
そんな心外な。写真の件については一夏に一任してるし、俺は口出しするつもりはない。……まぁ、度が過ぎれば
結局、一夏のカメラにはシャルロットと簪が自分達の手で団子を食べるシーンが収められた。
その後に合流した箒や鈴にその時のことを話すと……。
「はぁ、一夏。お前はまたろくでもないことを」
「飛鳥がいなかったらタダじゃ済まなかったかもね。大人しい人ほど怒ると怖いっていうし」
「ぐ、ぐぐ……」
幼馴染二人の言い分に何も言い返せない一夏であった。現在、俺たち四人は鴨川と呼ばれる場所で腰を降ろして休息を取っている。一夏はそっさと写真を撮って次に行こうとしたようだが、箒と鈴は必死に引き止めていた。まぁ、俺も歩き疲れたから休みたいと言って、助け舟は出したのだが。
「全く、アンタら二人のこと心配してたこっちがアホらしいわね」
「心配って、そんなにか?」
「うむ、特に飛鳥。お前は気を落としすぎだ。一夏が相談に来る程にはな」
「そんなにか……」
確かに最近は必要以上に人と関わることはしなかったが、まさかそれで勘づかれていたのか?……思い詰めてると周りとのコミュニケーションを疎かにしがちなのは、昔から変わってないな。
……これ以上のらりくらりしてても追求されるのがオチだろうし、少しは胸の内を明かすか。
「……ちょっと昔のこと思い出してセンチになってたのかも。気持ちの整理つけたかったんだけど、簡単じゃないよな」
家族のことについては色々明らかになった。だが、それを難なく受け入れられるほど、俺は強い人間ではない。だからこそ一夏との模擬戦で少しでも気を紛らわそうとしたのだが、それで悩みの種が増えたのは想定外。
余計なことをするぐらいなら、時間に解決してもらおうと考えて今の今まで引き摺ってきたのだ。
何かを察したのか、場の雰囲気が暗くなってきたようだ。……あまり心配されてもこちらが困る。
「そう、アレは忘れられないぞ。一夏の焼き栗騒動ッ……!」
「よりによって思い出したのそれかよ!?」
「私も忘れてないわよ。あの時の千冬さんと来たら、あぁ思い出すだけでも鳥肌が……」
「ま、待て!まさか、あの焼き芋の一件のような真似をしたのではあるまいな?」
「「前科持ちか
ただ休憩しているだけでも色々あったのだが、まぁそれぞれ満足行く結果となっただろう。……箒と鈴にとっては予想の斜め上を行かれたようだったが。
写真も撮ったことで、次にラウラとセシリアに会おうと考えた一夏はメールを送ろうと試みたが、そうするまでもなく二人はこちらに合流してきた。
「ごきげんよう。一夏さん、飛鳥さん」
「迎えに来たぞ、嫁よ!ついでに飛鳥!」
おいこら。ついで扱いとは良い度胸してるなラウラさんよ?人力車に乗って登場した二人は何故かドレスをレンタルしていたようだったが、これはこれで雰囲気が出てるな。
そう思ったところで、やけに息を切らしている人力車の運転手に目が行った。
「「は?」」
「ぜー、ぜー。よ、よぅ、お前ら」
赤い髪にトレードマークのバンダナ、俺たちの共通の友人である五反田弾がそこにいた。話を聞くと、京都でバイトをしていたら、顔を覚えられていたセシリアとラウラに捕まって、ここまで人力車を引っ張る羽目になったとか。
……間の悪さに呆れていると、弾が怪訝そうな顔つきで俺を見つめてきた。
「ってか、飛鳥。お前なにかあったのか?」
「……なにかって、なんだよ」
「いや、なんか不機嫌そうに見えたんだけどよ。気のせいか?」
こいつ、こんなとこまで来てバイトするほど恋に熱入ってるっていうのに……。俺がわかりやすいのか。それとも周りが鋭いヤツらばかりなのか。
「……お前に言われちゃおしまいだな」
「はぁ!?それどういう意味だ……!」
適当に弾をあしらっている間に、一夏はセシリアとラウラと一緒に写真を撮っていた。セシリア達は弾に賄賂まで渡して一夏と馬車に乗ろうとも画策していたようだが、流石に定員オーバーの危険運転なので未然に防いだ。人力車を押す弾を真正面から止めるという力技で。
「よしよし、だいぶ撮れたな」
また俺と二人になったことで、一夏はこれまでに撮った写真を確認している。その間の暇つぶしとして、俺は近くの露店で小物を物色していた。
どれも中学時代の修学旅行で見たことがあるものばかり。その時にお土産にしたのは食品系ばかりだったので何も買わなかったのだが、記念に一つ選んでもいいのかもしれない。
(とはいったものの、何にするか。自分用といっても、特に欲しいものも……)
「飛鳥!」
「ん?」
カシャ、とシャッター音が鳴る。
「どういうつもりだ?」
「いや、お前の写真だけなかったからさ。……ていうか、お前それ買うのか?」
「は?何言って……」
一夏に言われて初めて気づいた。俺の手には、無意識のうちに塗り櫛が握られていた。……自分が必要ともしていなければ、誰に上げる予定があるわけでもないのに。
そんなものを手に取ってしまっている自分がひどく情けなく思えた。
「こんなものあったって、今更……」
「誰かへの贈り物じゃないのか?だったら持ってても損はないと思うぞ」
「……使いもしないものをか?」
「別に使うだけが全てじゃないだろ。そこにあるだけでも意味が生まれるものだってあるさ」
「…………」
渡しもしないものを持ち続けても、未練がましいだけだと思うが……。でも、今こうやって過去のことばっか振り返るぐらいなら、こういう意味のなさそうなもの抱えて気を紛れさせるのもありかもしれないな。
「そうだな。まぁ、買ってみてもいい……ッ!?」
咄嗟にシールドブーメランを展開して、左腕を伸ばしながら一夏の元へ向かう。何か不審な動きや音が聞こえたわけではない。第六感でも働いたのだろう。
ISのハイパーセンサーが捉えたのは、一夏を狙って放たれた凶弾だった。
ちょっと詰め込み過ぎだとは思いますが、2話かけてやるのもアレなのでサクッと進めることにしました。わざわざオリ主と他キャラの描写書き切る必要があるかと言われれば、別にカットしても良いかなと思ってたりはしました。ですが、この後の展開考えると、書いておいた方が良いかなと思ったので文章量偉いことになっても添削はしなかったです。
それと、前回それらしい描写があったのですが、一つだけ補足させていただきます。まだ割れてません。