芋者奮闘録 作:舞い降りるズゴック
「……キミ、中々良い反応するじゃないのサ」
「アンタほどじゃない。おかげでこっちはビビり損だ」
一夏を襲った銃弾、それを防いだのは俺のシールドブーメランではなく、いつの間にかこの場にいたアリーシャ・ジョセスターフの持つキセルだった。そんな小物で防げるとは、ブリュンヒルデは化け物しかいないらしい。
「まさか、亡国機業が……!?」
「……銃弾は、IS用じゃないな。白昼堂々暗殺狙いかよ」
ISの武装は人の手で扱うには大きすぎる。それが実弾銃ともなれば、その口径も相応のものとなる。スナイパーライフルまで持ち込んでいるとは、さすが拠点が近いだけあるということか。
「さぁて、挨拶にでも行くとするのサ」
専用機『テンペスタ』を纏い、アリーシャは下手人の元へ飛ぶ。そして、それに追走してMA形態となった芋者……いや、イモータル・ジャスティス・セイバーが空を切る。
「おや、ついてこれるとは思わなかったサ」
「色々盛ってますけどね!……アーリィさんで良いんでしたっけ?」
……今回の作戦、お互いに力を入れているはず。それならばとポテンシャルを引き出すために、俺も武装を組み合わせることにしたのだ。
セイバーシルエット装備時には、近接戦を有利に運ぶために手持ち武器としてビームサイス。両腕にはシュピーゲルブレード。そしてセイバーシルエットによる機動力の低下をカバーするために、ハルートブースターを両脚に付けている。
リーチと機動力で相手を寄せ付けず、本命のビーム武装を通しやすくする中〜遠距離特化のカスタムだ。今回は防衛ではなく、強襲戦が可能だからこそ、予めこの状態に換装していたのだ。
しかし、ここまで速度を上げても世代としては下のテンペスタに追いつくのがやっとだ。よく見れば、テンペスタから伸びているワイヤーが右腕を形成しており、右目もISによって義眼が生成されているようだ。
部位欠損によるデメリットを、ISの機能をフルに活用することで帳消しにするほど卓越した技能。これも二代目ブリュンヒルデの成せる技か。
「まー、ついてくる分には構わないんだけどサ。キミ、
「…………」
戦闘のレベルについて来れるか、という意味ではない。暗殺を目論んだ人物の姿はすでに捉えている。ソイツを手にかけることができるかという問い。
その返答を返す前に、俺はその暗殺犯へのロックオンを完了させた。
「やれますよ。例え、味方だと思ってた人が相手でも」
「チッ、あのガキだけならともかく、イタリアの代表までいたとはな」
「何……してんスか」
「見りゃわかんだろ。暗殺だよ、織斑一夏の」
呆然としているフォルテに対し、ダリルは飄々とした態度を崩さぬままスナイパーライフルを片手に握っていた。
一夏暗殺を企てた犯人は、IS学園所属でありアメリカ代表候補生のダリル・ケイシーであった。
この非常な裏切りに一番ショックを受けるのは、他でもないフォルテ・サファイア。彼女にとってダリルは、信頼している相棒であり、面倒見の良い先輩でもあり、恋人でもあるのだから。
「なんで、なんで裏切るッスか。どうして、亡国機業になんか……」
「オレのコードネームがレイン・ミューゼルだからだよ。炎の家系の呪われた運命ってヤツだ」
ダリル・ケイシー……もとい、レイン・ミューゼルは、モノクローム・アバターの首魁であるスコールと同じファミリーネームを名乗った。フォルテが想像していた以上に、レインと亡国機業との関係は密接なものだったのだ。
「さて、時間もねぇ。さっさと決めようか」
「き、決めるって、何を……」
「裏切ろうぜ、フォルテ。オレと一緒に来いよ」
レインと共に亡国機業につくか。それともIS学園に残ってレイン共々亡国機業と戦うか。フォルテに突きつけられたのは、その二択だった。
フォルテにとって、あまりにも残酷な二択。あまりのショックによろめくが、そんなフォルテをレインは抱いて支えた。
「ついてこい、フォルテ。オレと一緒に引き裂いてくれ。この腐った世の中と、呪われた運命を……ッ!?」
熱烈なアプローチと共にフォルテに釘付けようとしたレイン。しかし、一筋のビームが無粋にもその行為を中断させる。レインの手にあったスナイパーライフルは、ビームの熱で真っ二つに溶かし切られていた。
「ったく、これだから血の気の多いガキは。そんなだからモテるものもモテないんだよ」
「おや、そうなのかイ?一応キミにも女難の相は見えてたんだけどナ」
「……モテなくて結構。それに、先に仕掛けてきたのはアンタだろ。鏡でも見たらどうだよ」
アーリィさんと共にダリル先輩……いや、レイン・ミューゼルの前に立ちはだかる。MA形態から変形したばかりで空になってる手にビームサイスを展開すると、その間にレインはアメリカ本国で改修された専用機『ヘル・ハウンドver2.8』を纏っており、こちらに双刃剣『
「進藤飛鳥……それに、アリーシャ・ジョセスターフ……!?」
「……先に謝っておきます、フォルテ先輩。容赦はできませんよ」
この二人が愛し合った仲なのは承知の上だ。一緒に裏切っててもおかしくはない。というか、100%裏切る予感はしてる。
だからといって、戦う意志のない相手に牙を剥くほど、俺は人でなしではない。フォルテ先輩を視界なら外し、ダリル先輩……いや、レイン・ミューゼルに接近する。
……と同時に、ビームサイスから一瞬手を離す。そのまま両手で腰のビームブーメランを握り、即座に投擲。速射ビームブーメランが、直線起動でレインへ向かう。
「舐めてんじゃねぇ!こんな子供騙し、オレには……っ!?」
横方向に移動し、避けきれなかったものは切り払うことで二つのブーメランを対処したレイン。そして、息を吐く間もなく、眼前に切り離されたハルートブースター二基が迫っていたのだ。
ビームブーメランを防いだばかりのレインには隙が生まれており、ブースターの突撃を躱すことはできず……。
「……なぁんてな!!」
「っ!炎か……!」
ヘル・ハウンドの両肩には、犬の頭を模した二つの火炎放射ユニットがあり、そこから放たれる炎は、ブースターを誘爆させるには十分すぎるほどの火力を持っていた。
爆風がこちらにまで広がり、飲み込まれそうになる。その前に、風の槍が爆風を貫いたことで、俺へその被害が及ぶことはなくなった。
「……いや、風の槍って。エゲツないな」
「全身武器庫みたいなキミには負けるのサ」
テンペスタ。嵐の名を持つその機体は風を操るという特性を持ち、先程のように風を収束させて槍の形にすることもできる。もっとも、そんな芸当を容易く行えるのはアリーシャ・ジョセスターフ以外にはいないだろうか。
「クソッ!!あのババア、がッ!?」
爆風を突っ切ってきた風の槍をギリギリで回避したのか、呼吸が乱れていたレイン。そして、息を整える前に、俺はブースターを飛ばしたことで使用可能となったカルキトラを振るって追撃を仕掛ける。
流石と言うべきか、レインは手に持つ双刃剣でその攻撃を食い止め、鍔迫り合いに持ち込んだ。
「ったく、イラつくぜ。呪われた運命背負わされてるのは、テメェだって同じだろうに!」
「アンタと一緒にするな!」
「そうだな、一緒じゃねぇ!過去も未来も、この世の中牛耳ってるクズ共に踏み躙られて、先が無いとわかってまだ世界に味方するマヌケとはなぁ!!」
「ッ……!!」
苦い記憶が脳裏に浮かぶ。何も知らないまま消えた両親、悲しむ顔を最後に目の前で連れていかれた妹。永遠に癒えることのない心の傷が疼き始めた。
しかし、レインは別に本気で怒っているわけでもなければ、同情もしていなかった。専用機持ちの中でも格闘戦に秀でた飛鳥から隙を生み出すには、飛鳥が今までに受けた仕打ちを思い起こさせるのが効果的と判断したが故の煽りだ。
事実、バイザーから覗く飛鳥の表情には翳りが見えて、それをチャンスと捉えたレインは今もなお火花を散らす剣を後ろに引こうとする。飛鳥の蹴りを勢いそのままに空振りさせて、体制を崩そうという筋書きだ。
そうして飛鳥とレインの鍔迫り合いは、一旦幕を下ろすことになる。……飛鳥がカルキトラのビーム刃を消したことで。
「いっ!?テメッ、どういうつもりで……!」
ビーム刃が消えたスペースの分、さらに勢いに乗った蹴りがレインの剣に当たり、金属音を鳴らす。搦手をする前に押し切られては本末転倒であるため、剣を引くことはできず、レインは剣を持つ手から力を緩めることはできなかった。
「俺は、逃げない」
カルキトラが再び起動する。これでレインの双刃剣は、ジャスティスの脚部装甲とビーム刃の間に挟み込まれた。
「たとえ呪われてても、俺は運命から目は背けたりしない。何を失っても、いくら傷ついたとしても……俺は俺の『正義』を貫いてみせる!そのためにも、アンタはここで倒す!!」
「このっ、クソガキがッ……!!」
レインの誤算、それは飛鳥の正義という名の覚悟。盲信的とも言えるそれは、心の傷口を無理矢理繋ぎ止め、負の感情を抑え込んでいた。完治しているわけでもなければ、辛い記憶が薄れたわけでもない。その痛みを抱えたまま、飛鳥は気丈に振る舞い続けていた。他人から何を言われようが、曲がることはない。変えようがない。
当初のプランは崩れ去り、もはや今のレインにできるのは、飛鳥の脚部に挟まれた剣を力の限り押し込んで抵抗することだけ。しかし、どれだけ押し込もうと、実体剣であるエスコート・ブラックではVPS装甲を突破することはできない。
カルキトラは徐々に、徐々にレインの首へと近づいて……。
「うあああああッ!!」
「ガ、ハッ!?」
氷塊が、双刃剣ごと飛鳥を弾き飛ばした。VPS装甲は衝撃までは吸収できない。その特性を知ってか知らずか、フォルテ・サファイアはカルキトラの脅威からレインを救ったのだ。
「何、してんスか……!」
「フォルテ……?」
レインが正体を表した時と同じセリフ。しかし、今度は怒気が篭っていた。フォルテは怒りを抑えられぬまま、レインに心からの叫びをぶつけた。
「なんであんないいように攻められてるんスか!うちらは無敵の『イージス』ッスよ!!どっちが欠けてもダメッス!!それに、それに、アナタがいなくなったら、誰が髪の毛編んでくれるッスか……!!」
半泣きになりながらも、フォルテは叫んだ。レインと共に行くと。フォルテ・サファイアは選択したのだ。自分の生きたこの世界ではなく、たった一人の恋人との駆け落ちを。
「うぇっ、ふぐっ……!」
「おいおい、何泣いてんだよ」
「誰のせいだと思って……!」
「やれやれ、若さって怖いネェ」
「……俺にも該当します?その皮肉」
氷塊に吹っ飛ばされた俺は、素早く回り込んでいたアーリィさんにキャッチされていた。確かに裏切るかもとは思っていたが、それが攻撃を警戒しないことにはならないな。
「さて、これで2対2か。数の有利は消えたってわけだ」
「数の有利、ネェ……。このアーリィの前でそれを言うとは、良い度胸してるのサ!」
アーリィさんが両腕を広げると、左右の腕の先に風が集まり、アーリィさんを模した二つの実像が作り出された。単一仕様『
「分身って、そうやるのか……!?」
「さ、これで4対2なのサ」
アーリィの分身は、本人の動きに追従して動くタイプではあるが、それがブリュンヒルデの動きともなれば脅威度は跳ね上がる。それに、今まではフォルテ先輩がISを纏っていなかったから控えていたが、セイバーシルエットの本領である遠距離攻撃も今は使える。
一方、敵が一人増えただけではあるが、その敵はIS学園でも最強クラスの防御を可能とするコンビ。頭数で勝ってるとはいえ、厳しい戦いになるだろう。
「……非難はしませんよ、フォルテ・サファイアさん」
「上等ッスよ。……元・後輩」
お互いを見る目が敵へ向けるものへと変わる。世界か愛か、そのどちらを選択するというのは酷な話だ。だからこそ、フォルテ・サファイアがレインと共に行く道を選んでも俺は責めない。
だが、それは俺の私情であって、フォルテに手加減するということはない。向こうも覚悟の上だろう。
「まだやれるかイ、進藤飛鳥くん?」
「……もちろんです。伊達にIS操縦してるわけじゃないですから」
アーリィさんが分身と共に仕掛ける。今までは俺が前線張っていた分サポートに回っていたのだろう。俺の腕を買っていたのか、それとも見極めるためだったのかはともかく、俺は後方支援のために距離を取りながらアムフォルタスにエネルギーをチャージする。
そして、ビルの端まで後退した時、それは現れた。
「!?敵性反応二つ、いつの間に……!」
ビルの真下から姿を現した新たな敵影。咄嗟に振り返り、俺はアムフォルタスによる近距離砲撃を浴びせた。
ただでさえ威力の高いビーム砲だ。この距離で食らえばひとたまりもない。驚かされはしたが、命中したことに安堵する。
「な、なんで!?……ぐあぁッ!」
アムフォルタス及びスーパーフォルティスの砲身が、謎の敵から振り下ろされた剣によってそれぞれ切り裂かれ、爆発する。
その異常はアリーシャにも、イージスの二人にも伝わっていた。だが、お互いに目が離せる状態ではないためこちらの状況を把握するには至らなかった。
だから、この場でその機体を完全に認識できたのは俺が初めてとなる。二本角が特徴的な頭部に、真っ黒なボディと赤いビームマント。一致しないのは各部の色が緑か橙になっていることぐらい。
俺はソイツを知っていた。
……俺の前に姿を見せた謎のISは
ブラックナイトスコードルドラだった。
飛鳥くんのメンタル事情、実はものすごく危うい段階ですが、特大級の地雷が踏まれない限りはかなり安定してます。
そして、やっと出せましたよルドラ。コイツらフルに活かすってなったらどうしても序盤では出せなかったのでね。
早くもセイバーシルエット破壊されましたが、この先どうなることやら。