芋者奮闘録 作:舞い降りるズゴック
「「はあぁぁぁぁぁッ!!」」
渾身の一振りがぶつかり合う。強化されたマドカのIS・黒騎士を相手にしても、一夏は互角以上に戦えていた。
「チッ、この黒騎士を相手にここまでくらいつくとは……。ならばッ!!」
ランサービットがビームを撃ちながら一夏へと突撃を仕掛ける。遠近一体の攻撃を前に、一夏は防御……ではなく、雪羅をクローモードにしてランサービットへと向かった。
「お、おぉぉッ!!」
「バカめ、ガラ空きだ!」
ビームを掻き消しながらランサービットを叩き落とした一夏だったが、マドカに抜かりはなく追撃が迫っていた。
クローを振ったばかりの一夏に、スピードを乗せたマドカの蹴りが迫る。
「ぐっ……!」
「ハハハッ!もらったぞ……ッ!?な、なんだ貴様、
蹴りは確かに一夏の身体を捉えている。シールドエネルギーの減りも少なくはない。それでも、一夏の表情には薄っすらと笑みが浮かんでいた。
「……へっ。こんな蹴り、飛鳥に比べたらなんてことはないぜ!」
「!進藤、飛鳥ッ……!!」
マドカの脳裏に、飛鳥との戦いの記憶が蘇る。複数の専用機を相手にしても優位を保てるほどの実力を持つ彼女が、一対一の状況ですら押し切れなかった……それどころか有効打さえ入れられる始末。強さを至上とするマドカにとって、これ以上の屈辱はない。
その上、一夏にまで遠回しに飛鳥以下だと揶揄されたことで、その負の感情は益々膨れ上がっていく。
「ッ!?な、なんだ?何か近づいてくる……!!」
マドカの攻撃が止むと同時に、何本ものビームが二人の間を通った。その出所を探してみると、遠くから光の翼を広げたライジング・フリーダムらしきISと……それを相手取るイモータル・ジャスティスの姿がそこにあった。
「くそっ、楯無さん相手でもここまでジリ貧にはならなかったってのに……!」
スーパードラグーンによる集中砲火を武装を駆使することで防いではいるが、防ぎながらでは当然機動力は落ちる。加えて、向こうは光の翼によって機動力が普段よりも向上している。今の装備ではまず突破は難しい。ビームカリヴァの一つを右手に握り、僅かばかりの遠距離攻撃で対抗するのがやっとだ。
「飛鳥ッ!!お前、なんで来た……!」
「っ!一夏……」
フリーダムとやりあっているうちに空港の倉庫まで来てしまったようで、一夏と鉢合わせてしまう。怒っている様子からして、恐らくは一夏や他の専用機持ちも千冬さんたちとグルだったのだろう。
お互い言いたいことはあった。だが、その暇を与えてくれるほど、亡国機業に温情はない。
「ッ!な、なんだ、槍のビット……!?」
「フッ、フハハ、まさかそちらからお出ましとはな!」
「お前は!?確か、マドカとか言ったな……!」
ISが以前までのサイレント・ゼフィルスではないようだが、声は同じなため誰が乗っているかはすぐわかった。そのマドカからとてつもない殺意を向けられているのも、だ。
「ちょうどいい。織斑一夏共々、この手で葬り去ってくれる!!」
「厄介なヤツが増えたな……!」
振り下ろされる大型バスター・ソード『フェンリル・ブロウ』を、トリケロスのビームサーベルで受け止める。
マドカとの交戦も想定はしていたが、フリーダム然り機体性能が変化していることを考えるとかなり厳しいものがある。ドラグーンとフリーダムの狙撃だけでもようやく防ぎ切れるといったところなのだ。
「飛鳥!……うっ、なんだこれ!?またビットか!?」
「違う、ドラグーンだ!迂闊に対応するなよ……!」
ドラグーン、という単語を聞いて一夏の表情がさらに険しくなる。セシリアのブルー・ティアーズを始めとしたBT兵器は、適正がなければまともに動かせず、A適正のセシリアですら操作中は移動できない程だ。
一方で、フリーダムの操るドラグーンは、たとえ自身が動いていようと構わず砲撃を続けられている。ドラグーンとの同時攻撃なら、簡易システムであるとはいえ俺もシールドブーメランで行えるが、スーパードラグーンはまず数からして異常。……にも関わらず使いこなせているからには、何かカラクリがあるはずだ。
「余所見とは、コケにしてくれるッ!!」
「うっ!?このパワー、機体が変わっただけはあるか……!」
BT機ということもあって、元の性能が射撃よりだったサイレント・ゼフィルスとは出力が違う。マドカの得意分野に合わせて性能を変化させたのか。その証拠にトリケロスのビームサーベルでは徐々に押されており、打開するために左腕にもう一丁のビームカリヴァを展開する。
至近距離での射撃ではあったが、それにいち早く気づいたマドカは身を引きながら大剣を盾代わりにして防ぎ、即座にまた攻撃を仕掛けてくる。
「くっ、仕方ないか……!」
トリケロスのランサーダートを3本同時射出、後にトリケロスそのものを右腕からパージして投げつける。
「フン、そんなものが通用するとでも?」
ランサーダートを半身を捻ることで避け、トリケロスは大剣の柄頭に当たる部分で器用に弾かれる。マドカの勢いは止まらず、そのまま大剣の振り上げが行われる。妨害したことで剣の軌道は絞れたので、大剣とは逆に上から下へと振り下ろすように、オーバーヘッドキックの要領でカルキトラを大剣へぶつけて相殺を試みた。
「なるほどな。だが、この距離では防げまい!」
大剣から片腕を離し、腕部に搭載されたガトリングガンの銃口が向けられる。マドカの言う通り、この体制と距離での射撃は対処しようがない。
「……
「っ!?この武器は……!」
マドカの胸部装甲に銃口が押し当てられる。先程まで握られていたビームカリヴァでは届かない位置にも関わらず。
ビームカリヴァはただの二丁銃ではない。連結機構を活用することで、『ビームマスケット』というライフル形態へ変わるのだ。
至近距離で二つの射撃武器が放たれる。数秒も経たずに離れたため、こちらは一発しか撃てなかったが、こちらの受けたガトリング弾以上のダメージが入ったのは確かなようだ。黒騎士の胸部装甲がビームの熱で一部融解していた。
「〜ッ!!何故だ、何故勝てない……!この私が、
「…………」
マドカの叫びに耳を貸すことなく、俺はビームマスケットの砲身にエネルギーを充填し始める。
エネルギーが溜まり、照準が合う。その次の瞬間だった。別方向からの敵性反応を示すアラートが鳴ったのは。
「!新手……真下かッ!?」
真下から黒い機影が接近してくる。即座にビームマスケットを向けるが、引き金を引く前にビームマスケットは両断され、爆発を起こしてしまう。
「ぐあっ……!ま、まさかとは思っていたけど、やっぱりいたか……!」
闇夜に溶け込むような黒い走行に、その暗闇を妖しく照らす赤いマント。最初に出会ったルドラたちとは違い、アクセントカラーは青と紫。新たに二機のルドラが、その存在をあらわにした。
「こ、こいつは……!フェムテク機か?」
マドカが飛鳥に狙いを定めたことで、フリーダムと相対することとなった一夏だが、その間にまた新たなフェムテク機が現れる。一夏が疑問に思ったのは、そのシルエット。事前に見たものとは姿も武装も違うのだ。
右手にあるカタールのようなヒートソードの切先が、一夏を切り裂こうと振り上げられる。
「!な、なんだ、動きが……早いッ!?」
ヒートソードとクロー付きのシールドの連撃。これだけならまだ対応は楽だが、問題は攻撃の頻度と箇所。一度受けたと思ったら、小刻みに移動して即座に追撃、これを何度も繰り返してくるのである。
ルドラ含め、今までの無人機からは想像もできないほどの動きである。それでも押し負けることなく、一夏は必死に応戦していた。
「よ、よし、これならやられはしない……!手持ちの武器だけなら
その名を口に出した途端、一夏の目にはフェムテク機の動きが飛鳥と重なって見えた。そうだ、この攻め方は両手の武装に敢えて対応させることで、意識をその攻撃へと集中させるもの。
こういう時に飛鳥がよく狙うのは、攻撃のリズムの虚を突いた脚部ブレードによる蹴りだ。今まさに、この無人機がやってくるような……。
「ッ……!?」
フェムテク機の足先から伸びる赤いビームソード。頭部を狙って突き出されたそれを、一夏は回避した。
並みのIS操縦者であれば、まず反応することはできない不意打ち。一夏がそれを避けれたのは、経験から来る直感によるもの。なんせ、その無人機の攻撃は、己の好敵手ともいうべき者の動きとあまりにも酷似していたのだから。
フェムテク機が更なる追撃を行おうとする。が、攻撃に移るより早く放たれたレールカノンの一撃を避けたため、一夏との距離が開いた。
「一夏ッ!」
「ラウラ!シャルロットに簪も!」
「状況は把握してるよ!」
「フリーダムに無人機が3体……やっぱり飛鳥を狙ってた」
離れたところで、ルドラ二機とマドカの黒騎士と戦う飛鳥が見える。数的不利もあるようだが、特にルドラ相手に攻めあぐねているようだ。その理由も、一夏には察しがついていた。
「フェムテク機は
「……そうなると、この無人機全部に飛鳥のデータが使われているってことだね」
「それが本当なら厄介だな。私たちとの模擬戦の記録まであるのなら、こちらの行動も読まれるとみていいだろう」
実際に箒たちと戦っていたルドラも、まるで相手の性能を把握しているかのように立ち回り、ダメージらしいダメージは一切受けていない。
飛鳥並みの強さを持った高性能ISというだけでなく、IS学園への
「でも、飛鳥の情報がなんで亡国機業に……?それもISに動きを反映させるレベルなら、一般的に公開されているものとは比べものにならないほど膨大なデータが必要なのに……」
男性操縦者のデータは世界全体で見ても貴重なもの。ISを男が動かせるというイレギュラーが発生した以上、そのメカニズムを解明しようと各国の研究者が喉から手が出るほど欲しがる代物なのだ。
もちろん、飛鳥とその専用機の情報を預かっているのはコンパスであり、ISの稼働データなども多くの国に共有しているのだが、それでもほんの一部でしかない。
そうなると、無人機に流用できるだけのデータを入手するには、コンパスに関連する人物しかありえない。世界的な企業である以上、スパイの一人や二人はいてもおかしくはないが、そんな重要な情報を持ち出せるほどの人間が果たして何人いるか。
しかし、今はそれを追求する時ではない。まずやるべきは、飛鳥の援護だ。そのためには……両手両足に刃を構えるフェムテク機をどうにかしなければ。
「みんな、飛鳥のこと頼めるか?アイツは俺が引き受ける」
「一夏……わかったよ。でも無茶はしないでよ?」
「あぁ、アレが飛鳥と同じ動きをするっていうなら、なおさら負けられない……!」
一夏が先陣を切ると、それに呼応するようにフェムテク機も一夏目掛けて襲いくる。
激しい攻防を他所に、シャルロット、ラウラの二人が飛鳥の元へ直行する。……が、その道半ばで上空から降り注ぐビームの雨に行手を遮られた。フリーダムの操るスーパードラグーンがシャルロットたちへと向けられていた。
「それは想定済み……!行って、『山嵐』!!」
飛鳥の元へ戦力を集めさせまいと、フリーダムが妨害してくるのは当然のこと。だからこそ、簪は後方から狙いを定めてフリーダムにミサイル群をぶつけようと画策した。
その数、四十八発。今までのライジング・フリーダムであれば、これを対処しきるには相当な労力を払わなければならなかっただろう。そう、今までと同じなら。今のフリーダムには、ビーム砲『シュトゥルムスヴァーハー』は存在しないが、代わりに八基ものドラグーンを搭載している。
『ドラグーン・フルバースト』とでもいうべきその弾幕であれば、己へと向けられたミサイル全てを落としきるのも容易いことだった。
「そ、そんなっ!?山嵐が……きゃあッ!?」
脚部スラスターの一つがビームに撃ち抜かれた。ミサイル全てを迎撃しながらも、敵を狙い撃てるだけの余裕があるとは。
そして、ドラグーン・フルバーストの餌食となったのは簪だけではなかった。
「うぅっ……まだ、だよッ!」
「ここまで分散できたなら、突破はできる!」
簪の妨害を退けたフリーダムの矛先が、シャルロットとラウラに向けられる。再びの弾幕に被弾を許してしまうところもあったが、咄嗟の対応だったためか先程よりも狙いが甘い。
これなら行ける。そう思ったのも束の間、先程のミサイル迎撃に参戦しなかった武装の一つが、シャルロットを襲った。
「が、はッ……!?」
「シャルロット!?ちぃっ、シールドブーメランか……!」
九つ目のドラグーンとも言えるシールドブーメランの攻撃によって、シャルロットは空中落下してしまう。
残るはラウラのみ。フリーダムはドラグーンを追従させながらビームサーベル二本を抜いて、一つを投擲しながらラウラへと近づいてくる。
「この私に接近戦を挑むとは、手を誤ったか!」
投げられたビームサーベルを避けながら、ラウラは手をかざす。その方向にいたフリーダムの動きは、AICの発動によって完全に静止。手に握られたビームサーベルはラウラには届かなかった。
AICに囚われたフリーダム。しかし、どういうわけか。動きを止めた次の瞬間、シュバルツェア・レーゲンの装甲にはビームサーベルが深々と突き刺さったのだ。
「ば、バカな!?ブーメランでもあるまいに……ッ!」
先程避けたはずのビームサーベル。それがどういうわけか戻ってきたのだ。ビームサーベルの通った軌道を確認すると、そこにはドラグーンが設置されていた。このドラグーンによって、ラウラが回避したビームサーベルは打ち返されたことで、集中力を要するAICを使ったラウラはそのビームサーベルに気づくことなくまともに受けてしまったのだ。
そして、意識外からの攻撃に気を取られたことで集中が乱れ、フリーダムはAICから解放されてしまう。咄嗟にプラズマ手刀で応戦しようとするラウラだったが、すでにフリーダムはビームサーベルを持つ手を振り抜いたあと。前後に大きなダメージを受けたラウラの機体では、もはや援護に向かうことは叶わない。
「そ、そんな、一瞬で……ぐぅ!?」
フリーダムに次々と落とされる仲間の姿に驚愕する一夏だが、その間にもフェムテクは苛烈に攻め立てており、武装越しにシールドバッシュが炸裂。吹き飛ばされてしまう。
いくら飛鳥と同じ戦法とはいえ、武装構成が違う以上は完全に対応することはできない。なにより、このフェムテク機は分身を多様する。一夏の視点では、常に無人機が二人以上見える状態となっており、その咄嗟の判断も強いられては苦戦もする。
「っ!アイツ、どこに行って!?……まさか!!」
咄嗟に飛鳥がいるであろう方角を振り向くと、先程まで刃を交えていたフェムテク機が、夜空に赤いラインを描きながら飛鳥の元へと向かっていた。
「行かせるかぁぁぁぁぁッ!!」
雪羅から荷電粒子砲を放ちながら、必死にフェムテク機の後を追う一夏。
その一方で、フリーダムに新たな動きがあった。更に上空へと浮かび上がり、再度ドラグーン・フルバーストを放ったのだ。
「うっ、ぐわぁッ!?……クッソォォォッ!!」
咄嗟に雪羅によるバリアを展開しようとするも、すでに一夏の前方からはシールドブーメランが迫っていた。上からのスーパードラグーンによるビーム砲撃との両方に対応することはできず、一夏はフェムテク機の合流を許してしまった。
フリーダムの攻撃は続く。次は別の標的目掛けて。
「チッ、フリーダムめ……!ただでさえ無人機が煩わしいというのにッ!!」
「味方もお構いなしか……!!」
飛鳥とマドカ、その両名にもフリーダムの範囲攻撃にさらされていた。当然、ルドラにもその攻撃は命中するが、ドラグーン程度のビームであればフェムテク装甲を貫くことはできず、今もドラグーンからの攻撃を防いでいる飛鳥目掛けて、二機同時の蹴りをお見舞いした。
「ぐうぅぅッ!?……っ!こ、これは!?」
後方から敵性反応が二つ。視線をやると、ホテルにいたはずの緑と橙のルドラがこちらへと近づいてきていた。加えて、青と紫のルドラも追撃と言わんばかりに距離を詰め、更にそれを追い越すようにルドラとは違う機体が瞬時加速によるとてつもないスピードで肉薄する。
「こ、コイツは……!?」
その機体の姿も見覚えがある。ブラックナイトスコード、その搭乗者の中でも近衛騎士団の団長を務める者が乗っていた近接特化の専用機体。その名もブラックナイトスコードシヴァ。芋者と同様に両手両足に刃を備えたMSが、無人ISとなって立ちはだかった。
「し、しまった!?囲まれて!?」
シヴァの攻撃をビームブーメランでなんとか押し留める。だが、そうしている内に四機のルドラが、ドラグーンを率いるフリーダムが、飛鳥の四方八方を取り囲んでいた。
無数のビームが、シヴァを諸共にイモータル・ジャスティスへと放たれた。
お、おかしい、ドラグーン一つ加えただけでフリーダムが滅茶苦茶に暴れたぞ……。ちょっとドラグーンの弾幕の中にシールドブーメラン突っ込んでくるだけなのに。
ルドラとシヴァに関しては、デスティニーやジャスティスを模している節があるため、飛鳥の芋者やアロンダイト(返却済み)の使用データを元に動くようプラグラムされた設定となっております。
芋者の稼働データが『どこからどこまで』を参照されているのかは、次回明らかにしたいと思います。