芋者奮闘録 作:舞い降りるズゴック
「ハァッ、ハ……ッ!息を整える暇もないか……!」
ルドラが本当にやられたのかすら確認もできぬまま、シヴァがこちらへと飛びかかる。すかさずクローアームを前に出し、初撃を受け止める。続け様に脚部のビームソードを振るうシヴァだったが、後ろにスライドするように避けたことで不発に終わった。
シヴァの前に出した二つのクローアームとはまた別に、残りのクローアームは後方に射出されていた。フリーダムの物とは違って有線式なのが役に立った。本来は回収に使うためのワイヤーの巻取りを、この状況では移動に転用した。スラスターを失った俺には、文字通りの命綱となる移動手段だ。
「ぐあっ!?そう、くるよな……!」
ワイヤーで移動した先に、橙のルドラがシールドによる突進攻撃を繰り出す。咄嗟にクローアームを構えるも、面の攻撃はいなしきれず弾き飛ばされてしまう。
そのままでは地面に転がるのだが、俺はクローアームをまるで第二の脚部かのように動かし、地面との接触する度に跳ねることで、勢いを和らげながら青と紫のルドラのビームの射線から逃れていた。
「そこ、だッ!!」
地面を蹴り上げ、ビームを避けながらクローアームの一つを射出。紫のルドラに腕に巻き付いたことを確認し、勢いよく引っ張り上げる。紫のルドラが抵抗したことでこちらが向かう形となり、突き出された剣の側面を滑らせながら蹴りを入れる。
そのままルドラの腕に右脚を絡ませ、擬似的な十字固めを決めた。
「千切れろ……!!」
ルドラの右腕は絡みついた脚から放出されたスラスターに熱され、腕で引っ張られ、脚で捻られながらギシギシと音を立て、肩の付け根から取れてしまった。
取れた腕に握られていた対艦刀からはビーム刃が消えていたが、それでも十分な切れ味はある。
「コイツは、お前に返してやるよ!」
後方から近づいてきた青のルドラに、紫のルドラから奪った腕を振り回し、そこに握られたままの剣を当てる。切断されて力なく握られていたこともあり、振り終わった頃には剣は明後日の方向へと飛んでいく。しかし、剣先は上手く命中したようでルドラの指が落とされた。握れなくなった剣も手からすり抜けて、指と共に地面に転がる。
そうして武装のなくなった右半身の側から、頭部へと全力の蹴りを入れる。カルキトラ抜きの鉄塊による蹴りでは、ビームだけでなく物理にも堅いフェムテク装甲相手に頭部の半分程を凹ませるのが限界だった。だが、それで動かなくなったということは、やはり頭が急所なのだろうか。
青のルドラが地面へと引っ張られる中、右腕を無くした紫のルドラが左手に剣を握り、橙のルドラと連携してこちらを落としにかかる。
「……そこッ!!」
敵が剣を振るうのを待ち構え、蹴りを合わせて軌道を逸らすことでもう片方の攻撃を妨害する……という手段はすでに見せているため、脚の振り上げはフェイントに使う。
本命は待ちではなく、接近からの拳による打撃。フェイントにかかったルドラにそれを防ぐ術はなく、橙のルドラの剣は呆気なく弾かれ、何もできないまま渾身のアッパーカットをくらう。
右腕のマニュピレーターがひしゃげる程の威力は破壊音と電子音をかき鳴らさせ、橙のルドラはそのまま地面へと仰向けに倒れ込む。
残る紫のルドラは、橙のルドラの剣で行動を一瞬封じられて別の行動へと移る……その前に高エネルギービームライフルで頭部を殴りつけた。どうせ射撃が効かないのであれば、こういう使い方でもすればいいだろう。怯んだルドラのボディを蹴り倒し、更に頭目掛けて全体重を乗せ踏みつける。地面とサンドイッチになった紫のルドラは、そのまま動きを停止した。
「あとは……お前だ……!」
シヴァとの一騎打ち。こちらは心身共にボロボロだが、向こうは傷一つすらついていない。これでは勝負になるかすら怪しい。
……だが、蓋を開けてみればその事前情報がウソかのように、飛鳥の優勢だった。シヴァの攻撃はことごとくクローアームで防ぎ、飛鳥本人は内部部品を散らしながら殴る蹴るで一方的にシヴァへのダメージを蓄積させていた。
もちろん、このような事態になった要因は存在する。それは、無人機に仕込まれたプログラムが関係している。確かに無人機は飛鳥の膨大な戦闘データをインストール、自身の動きに反映することで今までの無人機以上の戦闘技能を披露した。
だが、そのデータは『コンパスでの研修〜ゴーレムⅢ襲撃』までのもの。それ以前とそれ以後の飛鳥を、この無人機は知らないのだ。よって、中学時代の飛鳥が素手をメインにした戦闘をISでは行っていなかったことと、ゴーレムⅢ戦後に発覚した反応速度が徐々に向上しているという二つの要素が細い勝ち筋を生み出している。
そして、今の飛鳥には一夏に勝った時と同じ、己の中で何かが割れかけ、周囲がスローに見えて思考がクリアになったような謎の現象が起きている。これによってドラグーンの操作精度も上がっており、今まで防戦一方だったシヴァに格闘戦で圧倒していた。
「ハアァァァッ!!」
攻撃し続ける中でやっとできた一瞬の隙に、右腕とクローアームの一つを接続、ビームサーベルを展開して突き出す。その突きは見事にシヴァの胸部へと一つの風穴を作り出し、そのままビームサーベルを上へと振り上げ、頭部を二つに裂いた。シヴァは両手を垂れ下げて膝をついた。
無人機と化したブラックナイトスコード相手に、数的不利の中戦い抜いた飛鳥はアンバランスな脚部を動かしながらその場を離れる。
「まだだ、まだ……敵がいる。でも、このザマじゃ、どうしようも……」
今まで確認できているだけでも、敵は五人残っている。レイン、フォルテ、スコール、マドカ、そして未だに名の知れぬフリーダムのパイロット。PICが生きているため空には行けるが、スラスターがなければただ浮いているのが関の山。飛び道具も乏しい以上、的になれはすれども敵の脅威にはならない。
息も絶え絶えになりながら、どうしたものかと歩を進める。すると、視界の端にあるものが移り、その物体の全体像を見て目を見開く。
「コイツは……!そうか、これならまだ……戦える!!」
「これでも、くらいなさい!!」
連結させた双天牙月がフリーダムに投擲される。IS学園側の三人はかなりの消耗を見せる中で放たれたその一撃を避けることは、フリーダムにとって難しいことではない。
「今よ、『龍咆』!!」
鈴が放った衝撃砲は、双天牙月と同じルートを辿ってフリーダムへと向かう。しかし、弾速が速すぎてフリーダムへ到達するより先に、双天牙月へ命中してしまう。
だが、それによって双天牙月は軌道を真正面から左へと軌道を変え、機体には当たらずともフリーダムの手に握られていたビームライフルは弾かれてしまう。これでフリーダム本体から放たれる射撃武装は全て潰された。
「トドメだ!行け、『穿千』!!」
紅椿の両腕がクロスボウの形へと変化し、高出力のブラスターライフルとなって光を放つ。回避をするには速度も距離も足りず、防御にしてもシールドブーメラン一つでは防ぎ切れない。
だが、どういうつもりか。フリーダムが取った行動は、新たに二丁のビームライフルを取り出すことだった。まるで、自らに迫る光弾が脅威ではないかのように悠々と構えて。
「なっ、なんだ、アレは……!バリアだと!?」
シールドブーメランで一発防がれたのはまだいい。だが、もう一方はは、ドラグーン三基が正三角状のバリアを作り出したことで遮断されてしまったのだ。
その直後、すでに攻撃体制に入っていたフリーダムのビームが、箒と鈴を撃ち抜いた。
「箒さん、鈴さん!?……ハッ!」
撃墜された箒と鈴を目で追った。その僅かな間に、フリーダムは二丁のビームライフルを連結させて一つの長大なライフルとし、セシリアにロックオンをかけた。セシリアが気づいた頃にはすでに先程よりも強力なビームが放たれて、箒たちと同じ末路を辿った。
「……?……!?」
三人を仕留めたフリーダムが、地上を見渡す。標的がいない。ルドラやシヴァが全機退けられたのは想定外だが、それでも戦闘継続できる状態では……いや、移動することすらまともにできないはず。
戦闘が行われていた区間に目を凝らす。その判断の誤りが、進藤飛鳥に最後の反撃のチャンスを与えた。後方から凄まじいブースト音が聞こえる。
「よぉ、探し物は見つかったか?」
「っ!?」
咄嗟に振り返ったフリーダムの目に移ったのは、全身ボロボロの、イージスシルエットを左腕に装着したイモータル・ジャスティス。
なぜここまで近づかれた?足となるスラスターはほぼ全てが破壊された。飛べたとしても、ここまでの速度が出せるとは考えられない。
その答えは、背部から覗く
「初めてだよ、パージしたものを再利用なんてな!」
ブラックナイトスコードへ対抗するためにイージスシルエットへと換装した際、背部ユニットの交換のために取り外した『ファトゥム零式』。翼の片側が欠けた状態で捨て置かれたそれはブラックナイトスコードの攻撃対象にはならなかったのか、スラスターが無事なまま戦闘領域に放置されていたのだ。
不幸中の幸いというべきか、ボロボロの機体とは裏腹にエネルギー残量にはまだ猶予がある。地上からの瞬時加速で、箒たちと交戦したことで当初より高度が下がっていたフリーダムの元へと距離を詰めることができたのだ。
「捕……まえたッ!!」
「……ッ!」
イージスのクローアームが、フリーダムを掴み込んだ。
「ッ……ッ!!」
「っ……!逃すかぁッ!!」
身を捩って拘束から抜け出そうとするフリーダム。このままでは、ビームライフルやサーベルが飛んできてもおかしくはない。
そうなる前に、イージスを装着している左腕を地面に向けるように力の限り振り下ろし、スラスターに溜め込んだエネルギーを放出して瞬時加速を行う。
ただの瞬時加速ではない。スラスターを個別に稼働させることで行える瞬時加速の連続技、『
「おおおぉぉぉぉぉッ!!」
「……カ、ハッ!!」
墜突の衝撃により、フリーダムの口から息が吐き出され、バイザーが割れる。
だが、まだ動けているということは、フリーダムのシールドエネルギーは尽きていない。
「トドメだ……フリーダムッ!!」
フリーダムを拘束したまま、イージスシルエットの砲門……スキュラにエネルギーが収束していく。あとはトリガーを引くだけ、それでデュランダルの野望は阻止される。
その時だった。フリーダムのバイザーが崩れ、素顔が曝け出したのは。
「…………は?」
スキュラから光が四散する。イモータル・ジャスティスも、それに伴い沈黙した。
頭の中が疑問で埋め尽くされる。どうして、お前がここにいるのか。なぜ、フリーダムに乗っていたのか。なんで、亡国機業の手先になっているのか。
思考が次々に溢れていき、その疑問に関わること以外は考えられなくなっていた。指先一つ動かすことすら放棄した飛鳥の意識を呼び戻したのは、フリーダムが取り出したスイッチのようなもの。それが押されたことで起動した、とあるシステムの警告音だ。
『自爆システム作動。5秒前』
「…………ッ!?」
『4』
フェイス社との連携によって開発されたイージスシルエット。その裏で、秘密裏に自爆システムが組み込まれていた。IS委員会からの命令ということもあって取り付けられたものだが、キィノ・レバードの手によって起動スイッチの存在しない、形骸的なものとなっていた。そのことは、コンパスの『お偉いさん』を通じて聞いていたため、あまり気に留めてはいなかった。
そんな本来起動するはずがないその起動音によって、意識が現実に引き戻される。呆けている内にフリーダムは拘束からすでに抜け出し、カウントは淡々と刻まれる。
『3』
「くっ……!」
イージスシルエットをその場に捨て置き、スラスターを噴かして空に飛ぶ。
『2』
「これなら、逃げれ……!?な、なんだッ!?」
逃げる飛鳥に向かって、クローアームが一人でに射出される。ワイヤーの一つ一つが両手両足に巻きついて、イージスシルエットそのものに引っ張られた。
『1』
「ガッ!?う、うおぉぉぉ放せぇぇぇぇぇッ!!」
地面へと逆戻り、まるで磔にされるようにイージスシルエットに囚われる。必死に足掻くが、これまでの戦いで機体も身体も満身創痍。抜け出せるはずがなかった。
最後の抵抗も虚しく……
『0』
辺り一面に爆煙が広がった。
「フ、フフフ……遂に、遂にやったんだ!」
立ち上る煙、それを上空から見下ろすフリーダム。その操縦者である少女は、自らの作戦の完遂に歓喜の感情を抑えきれずにいた。
「それにしても、私を見てあーんな顔するなんて。連れて帰ってからの楽しみにしたかったんだけどなぁ……」
バイザーという仮面の下でも無口無表情を貫いていた面影はどこにもなく、感情豊かに顔を綻ばせている。
「まぁ、いっか。これからはずっと一緒にいれるんだし♪」
少女は地面へと降り立つ。周辺には色を失い、焦げついた破片が幾つも散らばっている。その中心には一人の男がうつ伏せに倒れていた。
その姿を愛おしく見つめながら、少女は呟く。
「……もう、二度とISなんかに奪わされたりなんかしないからね。
激戦の果てに敗北を喫した飛鳥。砕け散ったイモータル・ジャスティス。そして、飛鳥を兄と呼ぶ人物。専用機を失った彼に待ち受けるのは果たして……。
イージスシルエットの自爆システムについてですが、これはイージスシルエットを初めて使った飛鳥が阿須澤にスパルタ特訓された回でその存在をチラつかせていました。フリーダムが起爆スイッチを持っていたのに出し渋っていたのは、芋者を完全に壊すための最高の機会を伺っていたからということになります。下手に攻撃を加えてしまえば自爆すらできない可能性もあるため、ブラックナイトスコードの破壊対象からも外されていました。
それと前後編に分けてややこしくなったと思うので、芋者とライフリ、ブラックナイトスコード各機の状態をまとめておきます(手持ち武器は除く)
ルドラ緑:右足破損、頭部損傷
橙:頭部損傷
青:右腕損傷、頭部損傷
紫:右腕破損、頭部損傷
シヴァ:胸部〜頭部損傷
ライフリ:レールガン、ビームシールド、光の翼損傷
芋者:全ロス