芋者奮闘録   作:舞い降りるズゴック

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 ここまで長いこと引っ張ってきましたが、ついにフリーダムのパイロット。その正体が明らかになります。マンネリ化しないように情報を小出しにし続けていたので、途中で勘づく方も多かった気はしないでもない。

 


正義は決して動かない

「爆発!?今度は何が起こったんだ……!」

 

 

「私が探ってみる。一夏は戦闘に集中して!」

 

 

「頼んだ……!」

 

 

 フリーダムの分断により飛鳥が包囲された一方で、一夏、簪、シャルロット、ラウラの4人はマドカとの戦いを続けていた。

 とはいえ、一夏以外の面々はこれまでのダメージが蓄積して正面切っての戦闘は行えそうにない。一夏を主軸に3人が適切な援護をするといった形で、優勢も劣勢もなく五分五分の状態で停滞していた。

 

 

「飛鳥とフリーダムは……いない。でも、無人機は五体とも倒されてる!箒たちも無事みたい」

 

 

 まずわかったのは、フェムテク機と箒たちの状態。ルドラとシヴァは共通して頭部が壊されており、地面に伏したまま動いていなかった。

 飛鳥の救援に向かった箒たちは機体のダメージが大きいが、なんとか助かったようだ。

 では、やはり先程の爆発は飛鳥とフリーダム。その両名の戦闘の中で起こったものなのだろう。探知がその範囲まで届く。拾えた反応は……一つだけだった。

 

 

「え……そ、そんな、なんで……?」

 

 

「簪、どうした!飛鳥はどうなっている!?」

 

 

「あ、飛鳥が……ジャスティスのIS反応が、ないッ……!」

 

 

「な、なんだとッ!?バカな……!」

 

 

 爆発の起きた場所。そこで捉えられたISの反応は、ライジング・フリーダムのものであり、飛鳥の専用機『イモータル・ジャスティス』の反応は完全に消失していた。

 その報告を聞いたラウラがプライベートチャンネルから通信を行おうとしても、繋がることはなかった。通信先となるISそのものがなくなっているのだから。

 

 

「ま、待ってよ。ISを破壊するほどの威力なんて、飛鳥は……!」

 

 

 ISには絶対防御というシステムが存在し、どんな攻撃であろうと操縦者の生命はそれによって守られる。

 しかし、絶対防御も完璧ではない。そもそもその能力の行使にはシールドエネルギーが大量に必要なのだ。そして、頑丈なISを木っ端微塵にするほどの威力。果たして、どれほどのエネルギーが必要であるのか。それだけの余裕が、この戦いの中で残っているのだろうか。

 

 シャルロットの思い描く最悪の展開、それが現実となっている可能性も0ではない。生け捕りといっても、五体満足でなくとも良い場合だってあるのだから。

 

 

「フン、ヤツが心配か?ならば会わせてやろう……あの世でな!」

 

 

「くっ……飛鳥……!!」

 

 

 ランサービットの取手を握り、片手に構えて突貫するマドカ。その対象はもちろん一夏だ。迎撃の構えを取るも、頭に飛鳥の安否がチラつく。

 突き刺さらんと迫り来る槍、それを防いだのは割って入った簪の薙刀だった。

 

 

「簪!?」

 

 

「一夏、行って!」

 

 

 片足をやられた状態でなお戦闘を続ける簪。そんな彼女から発されたあまりにも短い言葉に、一夏は小さく頷いてその場から離れていく。

 

 

「邪魔を……するな!」

 

 

「きゃああ!?」

 

 

 打鉄弐式は高機動の遠距離型IS。近接戦に特化した黒騎士相手では、一撃は止めれても二撃、三撃と続けば性能差で押されてしまう。

 簪を退けたマドカは一夏の後を追おうとするが、それもまたラウラのワイヤーブレードやシャルロットのアサルトカノンによって阻まれてしまう。

 

 

「まだ僕たちが残ってるよ!」

 

 

「容易く行けるとは思わぬことだ!」

 

 

「……いいだろう。ならば、貴様らから潰すまで!」

 

 

 

 

「…………ゲフッ……ガハッ、ゴホッ……!」

 

 

 意識が朦朧としている。咳き込んだのは爆発の衝撃によるものか、肺に煙が流れたからか。その両方だってあるかもしれない。

 手足の感覚もないが、それでも力を振り絞って立とうとする。ぼやけたままの視界が揺れた。身体はまだ動くようだ。手のひらが地面から離れ、足裏が地面を踏み締めて直立の姿勢になる。だが、その状態も長くは続かず、不意に足から力が抜けて身体が前に倒れてしまう。

 

 そんな俺を誰かが支えた。機械のような硬さはなく、人肌の柔らかさのあるもの。懐かしさすら覚えるような優しい感触。意識がハッキリしたのは、耳元で囁かれた声によるものだった。

 

 

「お兄ちゃんったら、そんな身体で無茶しちゃダメだって。今は休んでて」

 

 

「……………………お前、なのか?」

 

 

 あれから何年も経っている。昔とは声も顔も体つきも違う。でも、どうしようもなくわかってしまった。こいつは、フリーダムのパイロットの正体は……。

 

 

「ピンポーン!お兄ちゃんの妹の、進藤真由(・・・・)でーす!……久しぶりだね、お兄ちゃん」

 

 

 肩を掴まれ、視線を合わせられた。やはり夢でも幻でもない。あの日、女性権利団体に連れていかれてから二度と会うことはなかった、俺に残されたただ一人の家族。進藤真由が無邪気な笑顔を俺に向けていた。

 

 俺は呆然としたまま声を絞り出して、妹と六年ぶりに会話した。

 

 

「なんで……なんで、教えてくれなかった。なんで、亡国機業なんかに……」

 

 

 いなくなったのなら、訳を知りたかった。生きていたのなら、会いに行きたかった。それに、亡国機業に加担するくらいなら、止めに行きたかった。

 何か言いなりにならざるを得ないような弱みでも握られたのか。そこまで口にしようとして、真由は自らの口に人差し指を立てながら語り出した。

 

 

「ごめん、それはどうしてもできなかったの。もし私が生きてるって世間に知られたら、お兄ちゃんどうなってたと思う?」

 

 

「…………色々(・・)、だな」

 

 

 女性権利団体にいながら、なぜか行方不明扱いとなった真由。その真相はまだわからないが、女性権利団体からしてみれば不都合な事実だ。俺を人質に取って真由に何かしら要求するか。あるいは俺も真由も葬ろうと先走って、手が出しやすい俺の命から狙ってくるかもしれない。IS委員会もそれに便乗して俺を消しにかかる可能性も考えると、どう足掻いても無駄なのかもしれない。

 ……今まで庇ってきてくれた千冬さんや楯無さんも、身内にテロリストがいるとなると立場上かにもできないだろうしな。

 

 

「そーいうこと!……お兄ちゃんを狙うクズは沢山いるのに、お兄ちゃんは誰からも守ってもらえない。だから、計画(プラン)を立てたの!」

 

 

「計画、だって?」

 

 

 まだ疲労もダメージも抜け切らない身体に鞭を打って、自力で立とうとする。……ダメだ、まだ平衡感覚が狂ってる。今は大人しく真由に身体を預けるしかない。

 

 

「そ、お兄ちゃんをISから解放する計画(・・・・・・・・・・・・・・・)!ビックリしたんだからね、お兄ちゃんがISを動かしたって聞いた時は」

 

 

 ISから……解放?真由の言ったことがいまいちピンと来ていない。いや、まさか自爆システムを仕込んでまで芋者を破壊に追い込んだのはそれが関係しているのか?

 真由の言葉の真意を探ろうと思考を巡らせていると、真由は声色を変えてある質問を投げかけた。

 

 

「……ねぇ、お兄ちゃん。ISのこと、どう思ってるの?」

 

 

「…………なんでそんなことを聞く」

 

 

 俺の様子を見て、真由の表情から笑顔がなくなる。その冷たい目つきから感じる怨みは、俺ではない別のものに向けられていた。

 

 

「だってパパとママが死んだのも、お兄ちゃんをずっと苦しめてるのも、全部ISのせいなんだよ!?ISなんて無ければ、私たちきっと平穏に暮らせてたのに!!」

 

 

「真由……」

 

 

「ISの被害にあった人間なんて見向きもされない。むしろあんなものを大事にして、無かったことにしようなんてする。わかるでしょ?私たちの敵はISと、ISを受け入れてるこの世界そのものだよ(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 篠ノ之束の生み出したオーバーテクノロジーの塊、それを中心に変わった世界。その変化の唸りに巻き込まれなかったものが、果たしてどれだけあることか。時には永遠に失われ、時代の闇に消えたものも少なくはないだろう。

 たった今吐露された真由の怨嗟も、その中に埋もれた一つでしかない。

 

 

「だからね、お兄ちゃん。私についてきてよ。昔はお兄ちゃんに頼ってばかりだったけど、今度は私がお兄ちゃんを助ける番!ISなんて存在しない世界(・・・・・・・・・・・)で、昔みたいに暮らそうよ!」

 

 

 死んだと思っていたはずの最愛の妹が今目の前のいる。それだけでも十分なのに、亡国機業として活動したことまでもが全て俺のことを思っていたからだとは。

 ……この後に及んで、まだ信じられてない。妹が生きていたことが。IS憎しでその手を汚したことが。なにより……あの時見捨てた形になったのに、俺のことを微塵も恨んでいなかったことが(・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

「う、ぐぅっ……!ハァ……ハァ……!」

 

 

 真由のおかげで少しは休めた。まだぐらつく頭や痛みが走る身体に鞭を打ち、ふらつきながらも真由から離れて立ち上がる。

 

 

「ちょ、ちょっと!?お兄ちゃん、無茶しちゃダメだって言ったでしょ!ほら、こっちに」

 

 

 真由がこちらに寄ると同時に、こちらも半歩下がる。手を伸ばしかけた真由の手も止まった。

 視線が合わさる。驚きの混ざった真由の顔をまっすぐ見つめて、俺は首をゆっくりと横に振った。

 

 

「……真由。俺は、お前に謝らなくちゃいけないこと、山程あるんだ……」

 

 

「……なーんだ、そんなこと?そんなの私だって同じだし、別に後ろめたいなんて思わなくていいのに」

 

 

 これまで真由がどんな思いで生きてきたのか。考えただけでも胸がひどく締め付けられる。

 

 

「でも……これだけは今謝らせてくれ」

 

 

 だからこそ、言わなくてはならない。例えそれが、真由を傷つけることになろうとも。

 

 

「ごめん、真由……!俺は、お前とは…………行けない」

 

 

 その謝罪は、どれだけ残酷な一言だっただろうか。真由の差し伸べた救いの手。ここまで苦労して俺の前に姿を現してくれた妹の好意を、俺は踏み躙った。

 

 

「…………なんで?」

 

 

 意識しなければ聞こえぬほどの小さく掠れた声。その次には、真由は震えながら、縋るような態度で俺に詰め寄っていた。

 

 

「なんでそんなこと、いうの?も、もしかして、お兄ちゃん……私のこと、嫌いだったの?ねぇ、そうなんでしょ……?わ、私、もう昔の私じゃないの、もうお兄ちゃんに迷惑も負担もかけないから……!」

 

 

「真由……わかってるだろ、俺の言いたいことぐらい」

 

 

 俺が着いてこない理由。それがわかれば、真由もここまで動揺することはなかっただろう。……多分、真由もあの時、女性権利団体に連れて行かれた時の俺の顔が脳裏にこびりついたのだろう。悲しみながらも、このまま不遇な環境で真由を暮らさせるべきなのか、迷いの色があったかもしれない俺の表情が。

 だが少なくとも、俺が真由を嫌いになったことは一度たりともない。それが逆に、真由の怒りに火をつけてしまう。

 

 

「……じゃあなんでよ!?お兄ちゃんこそ、私と来なかったらどうなるかわかってるでしょ!?周りからどんどん追い詰められて、孤立していって、どこにも居場所がないまま野垂れ死ぬかもしれないのに!」

 

 

「確かにお前が何もしなかったら、俺はきっと、ISで甘い蜜吸えてるヤツらの思い通りに消えるだろうな」

 

 

 両親の事故、妹に関する不祥事。その二つに関連のある男がISを動かしてしまったのだ。下手に力をつけようものなら、自分達の立場も危うくなると考えても不自然じゃない。

 もしIS学園から放れたのならば、俺は適当な理由で世界の敵に仕立てあげられ、各国の刺客から追われる身にもなっていただろう。真由が言っていたように、世界そのものが敵だというのも強ち間違いではない。

 

 

「そうだよ、絶対にそうなる!ISなんかがある限り、お兄ちゃんは……」

 

 

「俺は、ISはあってもいいと思ってる」

 

 

 ISを嫌悪する真由とは正反対の意見を口にする。

 

 

「なに……言ってるの?今まで私たちがどんな目にあってきたと思って……!」

 

 

「真由、俺もな。お前がいなくなったって聞いた時、すごい後悔したんだ。いつしか、お前みたいに憎悪を抱いたこともあった」

 

 

 最愛の妹が姿を眩ました時、俺の微かな希望も砕け散った。それが原因でやさぐれて、もしそのままISに触れて今この瞬間に立ち会っていたなら、俺は真由の提案にすぐにでも応じただろう。

 

 

「ISは俺から何もかも奪っていった。それは間違いないし、今でも許しきれてない。でも、与えてくれたものもあったんだ。IS学園で出会った友達、腕を高めあう仲間……そして」

 

 

 立つことすら限界に近い脚で歩き出す。近づいたら、今度は指先一つ動かすだけでも激痛の走る腕を持ち上げて、真由の肩に手を置いた。

 

 

「お前と、こうしてまた会えた。消えたものは戻らないけど、ISのおかげで得たものだって沢山ある。だから俺は、ISのある世界を肯定するよ」

 

 

 もしものことなんて考えれば、いくらだって思いつく。でも現実は残酷だ。理不尽が沢山あって、何度でも挫けそうになる。それでも、どうしようもない現実だとしても、俺にとっての奇跡は起こった。

 この先に待つ運命を受け入れるのでも、全てのしがらみから解き放たれて自由になるのでもない。どんな悪意が立ちはだかろうとも、自らの正義を信じてそれを乗り越えていく。それが俺の選択だ。

 

 

「違う……そんなのに意味なんてない!友達?仲間?そんなヤツら、もしお兄ちゃんが危ない立場になっても日和見するに決まってる!!それに私に会えたって、ISがなければそもそも……!」

 

 

「飛鳥……飛鳥ッ!!まだ生きてるだろ、どこにいるんだ!?今助けにいくからな!」

 

 

「ッ……!」

 

 

「……長く、話しすぎたみたいだな」

 

 

 どれだけの間気を失っていたのかは知らない。だが、少なくとも京都から出てないのは確かなようだ。周囲の状況を把握するほどの余裕はなかったのだが、ここは廃工場のようだ。上空からはこちらの様子は伺いにくい。だが、見つかるのも時間の問題だろう。

 真由は無言で俺から離れて、ライジング・フリーダムを再び纏った。

 

 

「っ、真由!待ってくれ……ッ!?な、なんだ!?」

 

 

 五機のドラグーンが俺の四方と頭上を囲んだかと思うと、ピラミッド状のバリアが形成され、俺はその中に閉じ込められてしまった。

 

 

「お兄ちゃんはそこで待ってて。私は……あの害虫を潰しにいくから」

 

 

「真由ッ……!頼む、もうやめてくれ!俺も、お前には……!」

 

 

 俺が伝えたいことはまだあったのに、真由は……フリーダムは空へと飛び去っていってしまった。

 その背中を見つめながら俺は、ドラグーンの作り出した檻の中で膝から崩れ落ちた。

 

 

「俺も、お前には……戦ってほしくない。苦しい思いなんて、してほしくないのに…………!」

 

 

 真由の中にある負の感情。それはISの存在そのものへの敵意が根底にある。それを抱き続ける限り、彼女の戦いは終わらない。力尽きるか、あるいは世界からISが消え去る日まで。もちろん……後者は現実的ではない。

 バリアで形成された床に拳を振り下ろす。割れるはずがない。なんと無力なことか。

 ……今この手にISがあれば、あるいは突破できたのだろう。だが、それも空想に過ぎない。俺の専用機は、真由の手によって失われたばかりなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イモータル・ジャスティスは……もう動かない。




 飛鳥の決意は真由の頼みであっても揺るがないものですが、ISの方は完全に大破してどうあっても起動することはない。同じ動かないでも、ここまで虚しさを感じるのは早々ないと思います。

 さて、こっから完全に芋者不在になるわけですが……こういう時は改修されて復活するか、別機体への乗り換えがガンダムシリーズの定番の流れかと。どのような形になるかは、今後をお楽しみに。
 まぁ、タイトルがタイトルなので、芋者の復活"は"確定事項ですが。
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