芋者奮闘録 作:舞い降りるズゴック
「私の素性から話そう。今この場にいる戸高村雨は、40年程前にデュランダルの手によって作られたヒトクローン……定義としては人造人間ともいえる」
最初に語られたのは、戸高村雨という人間について。彼は純粋な人間ではなく、デュランダルの手によって生まれたクローン人間であった。ISが浸透した世であっても、クローン技術による人の複製はタブー。それを躊躇う事なく実行できるのは裏の組織であるが故か。
「つまり、アナタは最初からデュランダルの一員であったと」
「関わりを絶っていた時期もあったが、その認識で構わない。飛鳥くんのデータを元にした新たなデスティニーの開発にも関与していたのだからね」
過程はどうあれ、戸高はデュランダルに組した。その事実は変わらない。だというのに、戸高はこのIS学園に姿を現した。
その真意を探るべく、楯無は尋問を続ける。
「目的は達成されたも同然。にも関わらず、なぜ私たちの元へ?」
「……確かに、私は君たちにとって忌むべき敵だ。だが、デュランダルの計画に賛同しきっていたわけでもない。
「……どういうことです」
「あのデスティニーは操縦者の意識を奪ってその力のみを振るう。囚えた者をただの生態パーツとして扱い、兵器と化す。そこに飛鳥くんの意思はない……私には、それが許せなかった。飛鳥くんが自分から協力するならばいざ知らず、ただ自らの手駒とするなどということは……」
良心の呵責とでもいうのか、戸高にはデュランダルに疑念を抱いていた。自分たちのようなクローンならいざ知らず、飛鳥は真っ当に生きていた人間。運命に翻弄されただけの彼が、今度は自分たちの手によって利用されてしまうことに、感じるものがあったのだろう。
「もし飛鳥くんがデュランダルの誘いを跳ね除け、我々の掲げた理想とは違う新たな可能性を見出すことができるのなら。私はその選択を尊重したい。だからこそ、私はデスティニーを停止させるための『
「……『鍵』、ですって?」
「それがあれば飛鳥くんがデスティニーに取り込まれることはなかった。そもそも、私がデスティニーの制作に手を貸したのはその隙を作るためだった」
戸高の語る鍵。それが本当であれば、戸高はデュランダルを裏切ったことになる。では、その『鍵』が何故発動しなかったのか。現にデスティニーは完成し、デュランダルの最高戦力と化している。
飛鳥がデュランダルの計画に乗ったならば話は別だが、少なくとも楯無が最後に見た飛鳥はそれを望んでいなかった。
「一つ、想定外だったのは…………進藤真由の執念。それを理解しきれなかったのが私の過ちだった。ISへの行き過ぎた憎悪は、彼が運命に対抗するための『鍵』すらも奪ってしまった」
ここに来て、初めて気を沈めた様子を見せる戸高。彼は確かに対抗する術を用意していた。もしも飛鳥が敗れてしまった時、その最後の砦として用意したものが、人知れず無力化されていた。
「その『鍵』というのは、一体なんのことです?それがあればデュランダルの目論見を……飛鳥くんを、助けることができるんですか!?」
「……それさえあれば、彼の心一つでこの状況は一変するだろう。だが、確証はない。デュランダルの計画、それは彼にとっても悪い話ではないのだ」
「…………では、話していただけますか。デュランダルが、一体何をしようとしているのか」
一瞬だけ、暗部以外の面を出してしまったものの、楯無は遂にデュランダルの企みを聞くことに踏み切った。ここまでの問答で戸高がウソをついた様子はない。
楯無個人としても飛鳥を助けたいという思いは確かにある。だが、その延長でデュランダルとの衝突は避けられそうにない。デュランダルの目的がなんであるのか。まずはそれを知る必要がある。しかし、それは戸高の口から語られることはなかった。
「更織、一度切り上げろ。デュランダルに動きがあった」
扉が開き、千冬が尋問の中断を告げる。まだ聞きたいことは山程ある。だが、それ以上にデュランダルの動向を探ることは重要だ。
「……わかりました。では、続きはまた」
「…………戻ってきたら、一つだけ聞かせてほしい」
退室しようとする二人を軽く引き止める。確かに戸高はデュランダルから離反した身。ただ、求める理想に差異はない。
「デュランダルの思い描く理想、それは本当に切って捨てるべき可能性なのかを」
『……繰り返す。我が名はデュランダル。ISによって歪んだこの世を正すものである』
数分程前、世界各国に向けて発せられているデュランダルの声。大々的な犯行声明はまるで己が正義と信じて疑わないかのよう。いや、その是非を問うための演説なのだろうか。
『私は長い間、人類の発展を見届けてきた。革新を続ける中での犠牲もあった。それは仕方のないことだ。だが……ISの登場以降、その犠牲の重さが変わったのではないだろうか』
ISというあまりにも逸脱した力。白騎士事件によってその強大さを目の当たりにした人類は、開発者によって提唱されていた宇宙進出のためではなく、兵器としてその発展に舵を切った。
その発展の影に追いやられた犠牲に目を背けながら。
『兵器の差、性別の差、たったこれだけで人は他者を軽んじるようになった。それが全てではないことも重々承知だ。しかし、その邪な考えが決して無視できぬ程の問題であることも確かではないだろうか!』
兵器としてのISの発展に伴う女尊男卑の思想の増長。制度すらも味方につけた女性はより非力な立場にある男性を蔑ろにし始めた。ISという兵器の絶対性はこのような形でも影響を及ぼした。
『断言しよう。ISに固執した人類は、その歪みの果てに滅びゆく!!その過程で幾千もの悲劇が繰り返され、人の歴史は苦痛と怨嗟の中でその幕を下ろすことになる!そのような結末を避けるため、私は今一度
ただISが強大な力を持っていたからではない。ISの力に人間が振り回されるしかなかったのだ。その遺恨はやがて決定的なものとなって、人類を破滅へと導いていく。
デュランダルはその未来を見据え、明確に世界の敵となる道を選んだのだ。
『私の行動目的は至ってシンプルだ。全世界に散らばるISコア、その全ての回収である。無論、大人しく渡せとは言わない。私はすでにIS委員会、並びに女性権利団体に襲撃を仕掛け、ISコアを奪取している。このようなテロリストの要求に屈するようでは国のメンツが潰れるだろう。故に、私は如何なる抵抗も容認する。必要以上の犠牲を出さないことも誓おう。その上で、私にはISコア全てを収集できる用意があることを伝える』
全てのISコアを手中に収める以上、各国の代表IS操縦者との対決は避けられない。それだけではなく、軍用ISを始め条約を無視した機体すら出てくる可能性は高いだろう。
もっとも、それら全てを打破する
『私はここに宣言する。ISという呪縛をISの力によって抹消し、人類の未来を修正する偉大な計画……
「…………何がデスティニー・プランだ。そんなもののために飛鳥を利用するとは……!」
「このような形で飛鳥さんを敵に回すとは思いもしませんでしたわ……」
「しかし、あのデスティニーはVTシステムに準ずるものだ。飛鳥自身の意思は関係ない」
「でも性能は確かよね。飛鳥の動きをトレースしてるなら、そう簡単には倒せないわよ」
「それに各国に襲撃するつもりなら、何処に現れるかも絞れない。IS学園を直接狙ってくるか、コアを集められて次の狙いが限定されないと僕たちも手の打ちようがないよ」
IS学園の管制室に集い、デュランダルの演説を聞いたIS学園の面々。友人を利用していることへの憤慨もありながら、その胸中はデュランダルの野望の阻止で一貫している。
そんな中で、一夏は弱々しく声を絞り出した。
「…………ただ、倒すだけでいいのか」
「なによ一夏、弱気なんてらしくないわよ。確かに相手は飛鳥よ。でも、アンタには零落白夜が……」
「わかってる、アイツだってこんなこと望んでないはずだ。でも、ダメなんだ……。アイツを助けても、
デュランダルの打倒、それは簡単な話ではない。だが、それ以上に重要な問題があった。進藤飛鳥だ。二人目の男性操縦者としても、ISの発展の裏にある闇の生き証人としても、その立場は危うい。
助けたところで、これまで飛鳥が内包してきた問題は何一つ解決しない。いや、これを機に飛鳥の排除に踏み切られる可能性だってある。
「さっきの話じゃ、飛鳥がデスティニーに乗ってるとは言ってない。でもそれを知ってるヤツらが飛鳥を野放しにするとは思えない。一度助けても、アイツはこの先何度も狙われる」
「だから、デュランダルはまずIS委員会と女性権利団体を手にかけたのね。下手に騒がれると面倒だから、その権威を強引にでも弱めるために」
「……もし、ISのない世界が実現したら、ISのために存在していた制度は意味を失う。デュランダルの真意はまだわからないけど、飛鳥みたいにISのせいで苦しむ人にとっては、それが良いのかもしれない」
飛鳥を助けたいという気持ちに変わりはない。だが、それを実現できる方法は今の一夏たちには浮かばなかった。
ISによって人生を狂わされ、苦しみの中で生き続けてきた飛鳥にとっては、仮初の平穏で生きる方が幸せなのかもしれない。
「私の立場では、何も言えん。進藤……いや、進藤兄妹が失ったものはあまりにも多い。償えと言われて償い切れるものではないだろう」
かつて白騎士が世界にISの力を誇示し、巡り巡って今がある。その白騎士の操縦者であった織斑千冬には、飛鳥に対して罪悪感を抱いていた。
白騎士事件はただのきっかけに過ぎない。それでも、今目の前でISの被害を受けた人間を見て何も感じないわけがなかった。
だが、そんな飛鳥を見てきたからこそ、千冬には確信があった。
「だが、それはデュランダルも同じことだ。たとえISのない世界を作ったとしても、それが進藤のためになるわけではない」
「……そうだ、飛鳥はいつだって自分から前に進もうとしてた。俺たちに隠して大きなもの背負ったままでも、それでもずっと前を向いてた。どんな絶望的な状況でも、アイツは……アイツ自身の未来を掴み取ろうとしてた!」
千冬の言葉によって、記憶の中にあるこれまでの飛鳥の姿が思い起こされる。
確かに飛鳥は不幸な経験をした。自暴自棄になっていた時期も確かにあった。だから飛鳥は戦い続けてきたのだ。この理不尽に抗おうとして、今を生きるために。
「俺は、俺は今まで飛鳥がやってきたことをなかったことにしたくない。アイツの頑張りも、苦しみも、全部アイツだけのものだ。だから、それがある内は俺たちはアイツを助けられる!この先一生残るものなら、それを支え続けてやるぐらいは俺たちにだってできるはずだ!」
今の一夏達に、飛鳥を救うことはできない。それは飛鳥自身の手で解決しなければならない、あまりにも不平等で、不条理な問題。だが、運命に抗うとはそういうことだ。
それでも、その運命に立ち向かう者に手を貸してやれないことはない。一緒に立ち向かうことは最善だ。それが叶わなくても側にいる、居場所になるというだけで、それはなんと心強いことか。
そんな飛鳥に自分たちがまずできること。それはもはや明白だった。デュランダルの野望を打ち砕き、デスティニーから飛鳥を助ける。そして、IS学園に一緒に帰ることだ。
「どうやら、決意は固まったようですわね」
『!』
管制室の入り口から凛とした女性の声が聞こえた。ピンク色の髪をポニーテールで束ねたその姿は、普段メディアにも出ている彼女の姿からは想像のつかぬものだった。
「ねぇ、アレって歌手の……って、後ろにいるの……!?」
「
「どうやらデュランダルは、僕たちが徹底抗戦することも読んでいたらしくてね。ただルドラやシヴァ……あの黒い無人ISが出てきた時点で最悪の状況は想定していたからね。行動を制限される前に抜け出してきたんだ」
飛鳥がデュランダルによって攫われたことで、コンパスには亡国機業との共謀の疑いがかけられていた。戸高の一件もあって否定しきれなかったコンパスは、本社から離脱して行方を眩ませていたのだ。
それを語った吉良は隠してはいるものの疲弊しているようだった。ここまで休む間もなかったのだろう。
「私達も事態は把握しております。そして、飛鳥さんを助けるという一点でも、志を同じくしています」
世間の目からしても信用ならないであろうことは皆自覚している。だが、それでも彼女らには責任があった。それを果たすために、飛鳥を助けるという思いを確実に抱くであろうIS学園の元に足を運んだのだ。
「どうか、ご助力させていただけないでしょうか。コンパス代表、ラクス・クラインの名において」
元ネタとは違いますが、本作における『デスティニー・プラン』は人類滅亡を防ぐことが第一で、その発端となるISを全て手中に収めるという計画となっています。
その過程でIS委員会と女性権利団体に矛先が向いたわけですが、デュランダル視点の時系列としては、IS委員会襲撃→『方舟』防衛→女性権利団体襲撃→世界中に宣戦布告(今ここ)、という流れです。
次回はサラッと描写カットされた『方舟』防衛の件についても触れようと思います。多分二、三行程で終わりますが。戸高さんの言い出した『鍵』についてはもうちょっとだけ引っ張ると思います。