芋者奮闘録 作:舞い降りるズゴック
米国上空、雲一つない青空に銀色が疾る。戦闘機はおろか、現行のISですら追いつけぬほどのスピードを備えたそのISの名は、『
暴走を起こし厳重に管理されることになった軍用ISだが、修繕は行われており、特例として使用の許可が降りたのだ。そして、そんな機体が駆り出されることになったのは……。
「っ、もう追いついてくるなんてね。世界を敵に回すだけはあるということ……!」
軍属のナターシャ・ファイルスを乗り手に最高速で空を行く福音だが、それにいとも容易く追いつく赤い光があった。デュランダルの刺客であるデスティニーだ。光の翼を用いた超加速は軍用ISすら凌駕し、その脅威をナターシャは改めて認識した。
すでに様々な国がデスティニーに強襲された。最初に襲われたのはイギリスだった。BT兵器による包囲網すらものともせず、瞬く間に国中のISを撃破し、コアを奪い去っていった。……国家機密であるため公表されてはいない『エクスカリバー』と呼ばれる奥の手もあったようだが、それは使われなかったようだ。いや、あるいは
このように中国、ドイツ、フランスと次々にISコアが強奪されていき、試作段階の第三世代機すら投入する苦肉の策を行う国もあった。無論、その悉くをデスティニーは打ち倒したのだが。
そうしてカナダのコアまで回収したデスティニーは、次なる標的であるアメリカに向かってきたのだ。
そして、ここまでの被害を出しておきながらまだ一日……いや、半日も経っていない。デスティニーの圧倒的な飛行能力と殲滅速度の前に各国は効果的な対策を練ることすらできず、ISという兵器を頼りに迎撃する他ない状態であった。
「皮肉なものね、今度はそちらが暴走マシンだなんて……ッ!」
デスティニーの操縦者が飛鳥であることは、ある筋からの情報で知っていた。以前の戦闘とは真逆の状況に、ナターシャは心を傷めていた。かつて自分を助けた少年が、母国に仇なす敵として現れようとは。
ナターシャにとって、飛鳥は暴走した愛機を止めるために戦ってくれた恩人の一人。その恩を返すには絶好の機会だった。
「行くわよ福音、『
ウイングスラスターが光を放ち、次の瞬間には無数のビーム弾が宙にばら撒かれた。完全な修繕ではないため火力は衰えているが、それでも高速飛行下で放たれる広範囲射撃が強力であることに変わりはない。
しかし、デスティニーはその弾幕に迷いなく突っ込み、回避やシールドによる防御を駆使して速度を緩めずに距離を詰めてきた。
最後の一発をアロンダイトで切り払いながら、その勢いのままに剣を振りかぶって福音に大きな一撃を与える。
「くぅっ、こうも簡単に……アァッ!?」
すれ違いざまに攻撃したデスティニーはその速度のまま福音から一度距離を離すことになった。だがそれも次の瞬間には縮まり、更なる斬撃が福音の装甲を切り裂いた。
攻撃に晒されながらも銀の鐘による射撃と飛行を続けるナターシャであったが、デスティニーには有効打も与えられず、一方的に追い立てられる。一度は複数の専用機を相手に猛威を振るったISが、たった一機に手も足も出ないとは誰が想像できただろうか。
かろうじてダメージコントロールを行ってはいたものの、それも長く続かずに致命的な…………福音のウイングスラスターがアロンダイトの一振りで双翼を諸共に切り飛ばされてしまった。
「……ここまで、力の差があるなんてね」
メインスラスターを失い、喰らった衝撃のまま落下していく福音。それでも、ナターシャにはまだ諦めの文字は浮かんでいなかった。
その思いは専用機である銀の福音、そのコアに宿る人格にも伝わっていた。福音が輝きを放ち始める。それはかつて暴走した時と同じ現象。だが、今は操縦者の願いのためにその力を再び取り戻した。
『
かろうじて直撃は避けたデスティニーだが、無数の光弾は光の翼を掠っただけで絡めとるように巻き込み、一瞬であるがその軌道を混乱させた。
「まだよ、私と福音の力は!!」
再び翼を羽ばたかせ、今度は二つに分けて光弾の束を飛ばす。曲線を描くように、まるで二つの竜巻のような光の奔流がデスティニーを追いかける。
ほんの僅かな間に、デスティニーは正常に飛行ができるまでに回復しており、即座に横に回避する。当然、二つの内一方の光弾が正面から迫り来ることになるが、移動しながらもデスティニーは折りたたみ式の高エネルギービーム砲を展開して発射の準備を終えていた。
二つに分散されたということは威力も相応に下がっている。いくら強力な光弾の束といえど、高エネルギー長射程ビーム砲の火力を上回るには至らず、相殺の後に爆発を起こす。
爆風に紛れて姿を眩ましたデスティニーだが、ナターシャにはおおよその位置が掴めていた。なんせ、爆発の起こった付近には自身が放った無数の光弾が通過しているのだ。そちらに逃げ込もうものなら致命的なダメージは免れない。ならば、逃走した方向かつ最短ルートで自分を攻撃できるのは……。
「ッ!流石の速さね……!でも、これなら!!」
ナターシャが次に取ったのは、光の羽を盾に見立てた防御行動。一見不可解な行動だが、それが正解であるとわかるのはそう間を置かなかった。構えた直後に、右手を光らせたデスティニーが現れたのだ。射撃による迎撃から反撃に移るまでがあまりにも早い。デスティニーと、それに順応しつつある飛鳥の技量が可能としたのか。
しかし、ナターシャも並みのIS操縦者ではない。このあまりにも理不尽な一手を見事に防いでみせたのだから。二次移行した福音の翼は、パルマフィオキーナのエネルギーと共に霧散してしまったが、まだ片翼が残っている。この至近距離でデスティニーを捕縛できたなら、一瞬で多大なエネルギーを消費したであろうデスティニーに翼によるダメージが加わる。そうなれば、脱出する前にシールドエネルギーを全て削り取り、安全に飛鳥を救出することができる。
自分の考えうる最高にして最善の一手を、あまりにも劣勢だった戦況の中でナターシャは見事に通せたのだ。
もっとも、
「な……」
その行動に移る前に、デスティニーの左手が自身に押し付けられ、光と共に意識を奪われてしまった以上は水の泡となってしまったが。
「ナタル!おい、ナタル!!応答しろ、クソッ!!」
最高速でスラスターを噴かし、福音の墜落した地点へ急行するイーリス・コーリング。アメリカ代表として当然デスティニーとの戦いに駆り出されていた彼女であったが、デスティニー相手に見事に部隊は分断され、たった今撃破された福音と同じように、各個撃破されてしまう始末であった。
座標は今も避難しきれていない大都会の真っ只中、混乱に怯える人も少なくはないが、それ以上にその光景に釘付けで動けぬ人が大半であった。
「ハッ、人の命まで気にかける余裕があるとはな。とりあえずナタル離せテメェ」
市街地の中心には福音の残骸、そしてそのすぐ側には福音のコアとナターシャを両手に抱えたデスティニーの姿があった。避難の遅れた民衆は、それを取り囲むように離れた位置でデスティニーの姿を捉えており、その場にイーリスが降り立つと周りからは歓声が上がった。我らが代表のIS操縦者ならば、きっと勝てるはずだと信じて。
『…………』
デスティニーは無言でナターシャを離れた場所へと降ろし、イーリスに向けて武器を抜く。ただし、今回はアロンダイトではない。肩のビームブーメランを両手に持っていた。
「まさかオマエ、このアタシに格闘戦で挑むってか?ハッハッハッ!」
と鉄に覆われた両手を叩きながら笑い……その目に怒りと殺意を宿す。
「どこまでコケにすれば気が済むんだ?テロリスト風情がよ」
ナイフを両手に構え、完全に戦闘体制となったイーリス。互いに見合ったまま、ジリジリと円を描きながら距離を詰めていく。
そうして動き出したのは、互いにほぼ同時だった。
「ッラァ!!」
ビームと実体の刃が火花を散らす。一度だけではない。二手、三手と仕掛け、読み、防ぎの応酬。飛鳥のセンスとオーバースペックレベルのデスティニーを相手に引けを取らないのは、伊達に国家代表ではないということだ。
幾度目の競り合いの後に、デスティニーがビームブーメランによる刺突を行ったタイミングで、イーリスの姿が消えた。
「今日はツイてるな。ファーストアタックは貰った!」
イーリスの専用機『ファング・クエイク』、安定性と稼働効率に特化したその機体は操縦者の技量に大きく依存した設計であり、それ故にある高等技能の行使も可能であった。
スラスター四基による『個別連続瞬時加速』は、イーリスでも成功率は五割を切るほどの難度を誇る。だが、それに見合った加速力は破格であり、デスティニーの背後をいとも容易く取っていた。
そして前に進む突きの攻撃を取ってしまった以上、逆方向である背後に動くのは難しい。激しいやり取りの中でデスティニーがその攻撃をしてくるのか、そもそも瞬時加速が成功するのかと不確定要素が多い中で決行に移せたのは、ひとえにIS操縦者としてのイーリスの強さが為せる技だろう。
「……まぁそう上手く行くなら苦労しねぇよなぁッ!クソッタレが!!」
背後からのナイフによる薙ぎでも、デスティニーの装甲に傷をつけることはできなかった。ビームブーメランは間に合わないようがない。防いだのは……デスティニーの手甲から発生したビームシールドだ。
元を辿れば、飛鳥の戦闘スタイルは二刀流と足技がベース。光の翼とアロンダイトによる強襲戦法もデスティニー最大の強みであるが、こうした格闘戦においても飛鳥本人の技量の高さによって隙がない。
シールドによる防御行動から間髪入れずに、デスティニーの脚部が空を切り裂く。ビーム重斬脚こそないものの、その蹴りの鋭さは以前のまま。そんな攻撃を受けるわけにもいかず、イーリスは紙一重で躱した。
「こ、のっ、チート野郎がァ!!」
それからもデスティニーとファング・クエイクの激しい攻防戦は続いた。だが、戦いが進むにつれて流れはデスティニーへと傾き続け、果てには光の翼を駆使した三次元機動によるブーメランとパルマの連撃が行われた。イーリスにできたのは、トドメの一撃の瞬間を狙ったクロスカウンターで、ブレードアンテナをへし折ることのみだった。
「たった今デスティニーがアメリカのコアを回収したらしい。これで約七割のISコアがデュランダルの手の中だ」
デスティニーによる絶え間ない連続襲撃。各地の報道機関も混乱する中、コンパスは明日葉の働きによって限りなく正確な被害状況を把握することができていた。
「やはりデスティニーのエネルギーはほぼ無尽蔵に供給されていると考えていいでしょう。そして、その総量も桁外れなもの」
「燃費の悪さを度外視すりゃあ、どんな強力な武装も使いたい放題だからな。虫唾の走る解決法だぜ」
吉良とマックは各機体の調整を主導で行いながら、デスティニーの分析にも参加していた。知れば知るほど敵いようのないスペックの高さに頭を抱える。それでも、ほんの僅かな勝ち筋を掴むために、彼らは攻略法を模索し続けていた。
「…………どうやら、このプランで行くしかないようですね」
「しかし、吉良副社長よ。『アレ』の進捗は正直芳しくない。工程をいくつかすっ飛ばしても間に合わねぇぞ」
「承知の上です。それでも、これ以上に確実な方法もありません。藁にも縋る思いですが、すでに手は打ってあります」
「……ハァ、そういうことか。さっき
「心配はいらないよ、明日葉。あの人の考えはコンパスの方に近い。それに、最初からずっと味方のままだったんだよ。少なくとも、飛鳥くんにとっては」
「なるほど、君たちはそういう道を選んだか。……こうして会うのは初めてだね、進藤真由くん」
地下の独房に囚われている戸高。その特殊な強化ガラスで出来た壁を一枚隔てた先には、楯無と真由の姿があった。
「……コンパスからの要請です。アナタにも働いてもらいます」
「…………いいのかい?私はデュランダルの一員だぞ」
デュランダルのクローン。それが戸高であり、これまで飛鳥とそれに親しい人間を騙し続けてきた男の正体。そんな人間を好きにさせるのは如何なものかと問いかける。
だが、事ここに至ってはまさに愚問である。
「それなら、アナタはお兄ちゃんの……進藤飛鳥の敵なんですか?」
「……確かに、私が協力するには充分すぎる理由だな。君とは同じ穴の狢のようだ」
そもそも、飛鳥をデュランダルに引き込むのであれば、もっと早くに出来たはずなのだ。だが、戸高はあくまで裏工作に徹して自ら勧誘することはなかった。それこそ、飛鳥自身の意志を尊重していたという何よりの証拠ではないだろうか。
楯無が鍵を開けようとする。しかし、戸高は無言のまま手で制止する。
「真由くん、尋ねたいことがある。もし私の考えが合っていれば、それは飛鳥くんを助ける切札となる」
戸高はずっと探していた。自らの用意したデュランダルへの最大の対抗策、その『鍵』となるモノを。しかし、カタチあるはずのそれは跡形もなく姿を消し、行方を眩ませたままだった。
一人でに動くこともない、見つからない理由はただ一つ。誰かが持ち去ったからだ。そして、それを誰よりも早く回収できた人物は一人しかいない。
「今は君が持っているのだろう?デスティニーに対抗する『鍵』……
『イモータル・ジャスティス』のISコアを」
オリ主の影響で実は光の翼とアロンダイトによる強襲戦法より近接格闘の方が得意なデスティニー。足サーベルの差で手数こそ芋者に劣りますが、ビームシールドとパルマによる対応力はピカイチ。その観点では飛鳥とデスティニーの相性はかなり良いのかもしれません。
そして10話以上の時を得て、ようやく再登場を果たしましたイモータル・ジャスティス(コアのみ)。機体を破壊されてからは真由が隠し持っていたので、そういう意味では毎回登場していたとも言えるでしょう(屁理屈)
何はともあれ、これで打倒デスティニーに向けての下準備は全て済みました。いよいよ決戦の幕が開きます。