芋者奮闘録 作:舞い降りるズゴック
MA形態となった芋者で一夏達の後を追う。スラスターを総動員して加速を続けているが、流石は篠ノ之束お手製の第四世代IS、少しでもスピードを緩めれば引き離されそうだ。
しばらく飛行を続けていると、白式や紅椿とは別のISが捕捉される。間違いなくシルバリオ・ゴスペルだろう。
作戦では紅椿による高速飛行で接近し、白式の零落白夜で一撃必殺を狙う短期戦で
『福音の回避行動を確認。高速戦闘下での支援射撃を開始する』
ここからが俺の仕事だ。作戦の鍵は言うまでもなく零落白夜。普段イヤというほど苦しめられているエネルギー無効化攻撃は、あの軍用ISにも通用する。
よって、その手段を持たない俺や箒がすることは、全力で嫌がらせをすることである。箒はスペックにモノを言わせた速度で福音に肉薄し続け、俺は背部に搭載された二門の高エネルギービーム砲で福音を狙い続ける。
だが、流石は軍用IS。回避と同時に距離を離し、お返しと言わんばかりに大型スラスターから大量の光弾を放出してくる。当然回避に専念しなければいけないし、零落白夜の発動に必要なエネルギーも減っていくため猶予も無くなっていく。
「このままじゃマズイ……!箒、飛鳥、援護してくれ!」
もうエネルギーに余裕がないのであろう。箒の提案により、白式と紅椿での挟み撃ちを仕掛けることになったため、俺は回避ルートを制限するための威嚇射撃に徹した。
逃げ場を無くした福音に紅椿の連撃が決まり、体制が崩れた。千載一遇のチャンスであったが、一夏はなんと福音とは逆の方向へと向かっていた。
「一夏!?何をしている!」
「船だ!密漁船が近くにいる!」
福音から放たれた光弾を捌く一夏の後方には、封鎖されているはずの海域に浮かぶ一隻の船の姿が。
「馬鹿者!なぜそんなヤツらを庇う必要がある!」
一夏に対してか、はたまた密漁という罪を犯した者に対してか、箒は激昂する。
「箒……そんな寂しいこと、言うなよ」
はっきりと船を切り捨てる発言をした箒に、一夏は悲しむ顔を見せる。正義感の人一倍強い一夏に取って、信頼している幼馴染の答えは受け入れがたかったのだろう。
実際難しい問題ではある。もちろん危険を孕んだ暴走ISを止めるのが今回のメインであるが、一方で近くにはその暴走ISにやられる危険の高い船。想定外の要素とはいえ、高校生に人命に関わる決断をさせるのは酷というものだ。もちろん前者の行動を取っても間違いはない。実害の出る前に終わらせれば万事解決なのだから。
どちらも正しいが故に起こった意見の衝突であるが、箒には余程ショックだったらしく、動きを止めてしまう。先程まで暴走ISと戦っていたこの場で。
『しまった……!一夏、箒!逃げろ、今すぐ!!』
一夏と箒が離脱している間、俺は全力でビーム砲による妨害を続けていた。だが、福音には隙を突かれて抜かれてしまう。
福音のヘイトはただ遠くから射撃するだけの芋者ではなく、直接斬り合いを行ってきた白式と赤椿に向けられていた。
「箒ぃぃッ!!」
福音からの光弾の雨から箒を庇う一夏。操縦者への致命的なダメージをカットする絶対防御があっても吐血するほどの攻撃を受けた一夏は、力無く落下していく。
「危ねぇ……!海に落ちるのは流石にマズイだろ……。箒、急げ!!一旦退くぞ!」
MA形態による高速飛行で回り込み、変形して一夏をキャッチした。そのまま箒に声をかけ、作戦領域からの離脱を試みる。
「い、一夏は……!一夏はどうなんだ!」
「落ち着け、まだ助かる!ただ俺のスピードだと追いつかれてそれどころじゃなくなる!」
先程まではMA形態だから張り合えていたものの、芋者の素のスピードでは簡単に追いつかれる。しかも怪我人を抱え込んだ状態では下手な回避もできない。
「箒、一夏を!安全に届けられるのはお前だけだ!」
「ま、待て、私は……!」
自責の念に駆られる箒だが、強引に一夏を引き渡す。これで手ぶらになったため、再度MA形態へ移行する。
『確かに託したからな。
「し、進藤!?何をしている!」
綺麗なUターンを描き、福音の元へと再突撃する。三機がかりですら押しきれなかった福音を倒すには、芋者単体では厳しい。だが、今回は退却が優先されるため、時間を稼ぐことが勝利条件である。
つまり、飛鳥は殿として福音に正面から戦いを挑むのである。
『こういう事態も想定済みだ。さっさと行け!いつまで持つかはわからないからな!』
「ッ……すまない、すまない……!!」
頭を覆い隠してる都合上、通信回線越しでの対話であるが、なんとか伝わったようだ。
さて、福音の狙いは芋者に切り替わってはいるが、ここで離脱して追われたら元も子もない。一定時間の交戦が必要である。
背部のビーム砲に加え、シールドにマウントされた高エネルギービームライフルによる弾幕で応戦する。手数では圧倒的に負けるが、一方的に攻められるよりはマシである。
『まずい、この調子だと帰りのエネルギーまで無くなる……!』
なんとか撃ち合えているのは良いものの、ここで問題が発生する。芋者の射撃兵装はどちらも高エネルギーというだけあり、高威力ではあるが燃費が良いわけではない。それを何度も打ち込んでいれば消費量はバカにならない。
そこで俺は、一つ賭けに出ることにした。
福音が再度光弾による弾幕を展開する。それをビーム砲で最低限相殺しながら福音へと急接近する。福音の近くを高速で飛び去ると、福音の左腕部に一筋のキズができていた。
福音が芋者を再度補足すると、そこには先程までなかった
『お、思ったよりキツいぞ……腕の負担がハンパじゃねぇ……』
福音の側を通り過ぎる際、飛鳥は腰に付いたビームブーメランを取り出し、すれ違いざまに切りつけたのだ。ただし高速化であったり姿勢の問題などもあり、エネルギー面の燃費は良くても飛鳥自身の腕には相当な負荷がかかっていた。
『……両腕合わせてあと3回は行けるか?』
しかし、手札が増えたことに変わりはない。上手く行けば攻撃を加えながら離脱に移れる。
そう思ったところで、福音が何度目かの光弾の雨を降らせる。先程と同じようにビーム砲で相殺しようとするが、なんと福音は自分から近づいてきた。暴走しているとはいえ自己学習しないわけではないのだが、対応の早さには驚かされた。
だが、向こうから来るのであれば好都合。先程とは逆の手にビームブーメランを握り、福音へ向かって斬撃を放つ。しかし、その刃は空を切り、福音を捉えることはなかった。
そして肝心の福音は芋者の背中、ウイングに手をかけ、取り憑くことに成功していたのだ。
『マジかよコイツ……!!』
咄嗟の判断、先入観による慢心、有効な手段の獲得による油断が致命的となった。必死に振り落とそうとするも福音はしぶとく留まり、あと少しというところで福音のスラスターから光が放たれる。
爆発が起こり、飛行手段を失った俺は海へと墜落してしまうのであった。
飛行中の茶番や回想後の話まで入れたかったけど、戦闘描写だけでもかなり文字数多かったので泣く泣くカットしました。次話でその辺り書いていこうと思います(後編とは)