何度も繰り返す621が一つの結論に至る話。

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 主人公がラスボスとして出てくるのが大好きです。


ラスボス系621

 強化人間。

 

 人としての機能の殆どを失い、ただ機体を動かすためだけに生み出された存在。

 

 意思は無く。感情は無く。

 

 与えられた命令を果たすためだけの単一機構。大きな機械を動かす為の歯車の一部。

 

 組み込まれた機能を扱い、求められた戦果を出すこと。それ以上は必要なく、それ以下は意味を為さない。それが歯車の役目。

 

 だからこそ……

 

 

 

 

 

『お前に意味を与えてやる』

 

 

 

 

 

 役目では無く、()()

 きっとそれは、歯車に掛けるには不釣り合いな言葉だったのだろう。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

『621』

 

 数字を並べただけの羅列。私の存在を示す一つの固有名称。 

 そう呼ぶのは私を買った主人──ハンドラー・ウォルター。

 

 杖を付き、白髪が目立つ髪を大雑把に掻き上げた老人。

 彼は不思議と私に意思を持つことを求めてきた。

 

 そうあれと命令をすればいいだけなのに、彼は事あるごとに私に選択肢を与えてきた。

 

 意味が分からなかった……いや、そう感じることさえ当時の私には不可能だったと思う。

 だからこそ、首を傾げることしか出来なかった。だって、私にはそれを理解する機能なんて存在していなかったから。

 

 

 分岐点は恐らくウォッチポイント。

 

 

『レイヴン』

 

 頭に響く女性の声。

 大量のコーラルに飲み込まれたことをキッカケに交信が可能となった──エア。

 

 脳内のコーラルを介して脳波と同調することで会話を行うことが出来る、私にしか認識が出来ない女性の声をした存在。

 

 うまく理解は出来なかった。ただ目の前の敵を撃破に有用だった。だからこそ指示に従った。あくまでそれだけ。その時はそれ以上の意味はなかった。

 

 

 

 それからだろう。何も感じなかった体が……心が確かな変化を始めたのは。

 

 ウォルターに頼られることに生きがいを感じるようになった。

 エアと共に戦場を駆けることに楽しみを覚えるようになったのは。

 

 彼らと共に居られる。そう考えるだけで胸の奥がポカポカするようになった。

 

 初めは体の不調かと思い、思わずウォルターに訪ねてしまった。あの時の何とも言えない表情は、今思い出すと笑みが溢れてしまう。

 

 ああ、これが幸せなのかと。

 

 父親(ウォルター)友人(エア)

 

 二人の居るこの場所こそが。

 この胸の内に宿るこの想いがそうなのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気づくことが出来たのは、全てを失った後だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エアを殺した。

 

 ウォルターの遺志を継ぐ為に。彼の積年の願いを叶える為に。

 

 己の前に立ちはだかった彼女を殺した。

 同胞を守る為に戦った彼女を。今まで戦場を共に駆けてきた彼女を。

 

 

 

 

 

──殺した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『登録番号Rb23。識別名:レイヴンによる認証を確認。安否不明状態を解除、ユーザー権限を復旧します。傭兵支援システム「オールマインド」へようこそ。レイヴン、貴方の帰還を歓迎します』

 

 聞き慣れた合成音声が頭に響く。

 

『認証は通ったようだな。お前には十分な経験がある。この惑星にもすぐ適応するだろう。早速だが仕事を取ってきた。確認しろ、621』

 

 聞き覚えのある台詞。懐かしい鉄の匂い。そして、質素な機体と簡素な装備。

 

 理由は分からない。原理は分からない。

 でも、時間の経過と共に理解した。

 

 

 私は過去へと戻っていた。

 

 

 困惑した。動揺した。だが、それ以上に歓喜した。

 

 もう一度やり直せる。あの居場所を今度こそ守ることが出来るかもしれない。

 その夢のような世界の実現の為ならば、過去に戻った原因など些事でしかなかった。

 

 間違えても同じ轍を踏まないように……

 

 

 次は必ず──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウォルターを殺した。

 

 エアの遺志を尊重する為に。彼女の同胞を救い出す為に。

 

 企業によって再教育を施された彼を殺した。

 己を見失って尚、友の為に戦った彼を。私に意味を与えてくれた彼を。

 

 

 

 

 

──殺した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『登録番号Rb23。識別名:レイヴンによる認証を確認。安否不明状態を解除、ユーザー権限を復旧します。傭兵支援システム「オールマインド」へようこそ。レイヴン、貴方の帰還を歓迎します』

 

 三度、あの合成音声が鼓膜を鳴らす。

 

『認証は通ったようだな。お前には十分な経験がある。この惑星にもすぐ適応するだろう。早速だが仕事を取ってきた。確認しろ、621』

 

 私は再び過去へと舞い戻った。

 

 また失敗した。

 

 あの時だ。アイビスシリーズと呼ばれる機体を撃破した後、私は企業に囚われてしまう。

 一度目は理由も分からずやられてしまったが、今度は敵の姿だけは確認することが出来た。

 

 ヴェスパー第二隊長スネイル。

 

 奴さえ始末できればウォルターが企業に囚われることも無くなる。

 アイビスシリーズを相手にした後では奴には勝てない。それよりも先に……

 

 

 今度こそ、必ず──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『登録番号Rb23。識別名:レイヴンによる認証を確認。安否不明状態を解除、ユーザー権限を復旧します。傭兵支援システム「オールマインド」へ──……

 

 駄目だった。スネイルの奇襲に成功したことで間違いなく未来は変わったが、私がウォルターと再び会うことは叶わなかった。

 

 ああ、この機械音声がうっとおしい。

 ウォルターを殺したこいつを今すぐ殺してやりたい。

 

 だが、初期機体では到底奴の保有する戦力には敵わない。技術があろうとも、まともな兵装が無ければ返り討ちに合うのが関の山だ。だから今は耐えるしかない。

 

 何よりも私の目的は二人の生存。敵討ちでは決してない。

 落ち着け。ウォルターはここにいる。エアともすぐにまた会える。

 

 大丈夫。大丈夫だ。

 

 

 次こそ、今度こそ。きっと──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『登録番号Rb23。識別名:レイヴンによる認証を確認。安否不明状態を解除、ユーザー権限を復旧しま──……

 

 コーラルを焼き払いたいウォルターと、コーラルの可能性を信じたいエア。

 この溝が無くならない限り、私達が三人で生き残れる未来が訪れない。何とか出来ないものか……

 

 

 

 

 

『登録番号Rb23。識別名:レイヴンによる認証を確認。安否不明状──……

 

 エアにそれとなくウォルターの願いを伝え、理解してもらおうと努力した。

 結果的に彼女が私から離れるのが早くなっただけだった。

 

 何で、エア……?

 私はただ、貴女と一緒に……

 

 

 

 

 

『登録番号Rb23。識別名:レイヴンによる──……

 

 それならウォルターの意思を変えられないかと努力した。

 私がコーラルを焼き払うことに否定的であることに気づくと、彼は私に自由を与え、姿を消した。

 

 違うよ、ウォルター。

 お願い、側に居させてよ。

 

 

 

 

 

『登録番号Rb23。識別名──……

 

 うるさい!! 黙れッ!!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次。

 

 

 

 

 次。

 

 

 

 

 次。

 

 

 

 

 次。

 

 

 

 

──………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次次つぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎつぎ────…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何度繰り返しただろうか?

 

 何度あの二人を手に掛けただろうか?

 

 

 

 

 私は後、何度あの二人を殺せば良いのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コーラル。

 

 強力なエネルギー資源であると同時に、未だに全容が明かされていない未知のエネルギー。

 

 コーラルがある限り、ウォルターとエアが心の底から並び立つことはありえない。

 それが数億と繰り返した私が出した結論だった。

 

 二人の意思を変えることは出来ない。彼らが交わることは決してない。

 

 

 もう、諦めてしまおうか。

 そう考えていた時だった。

 

『コーラルは私たちを乗せ……星々に伝播しました』

 

 ふと思い出したのは、エアの言葉。

 あの後、彼女は何と言っていたっけ?

 

 

『私たちはもう……いつでもどこにでもいる』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──……ああ、そうか。

 

 そうだ。そうだった。最初から答えは出ていたじゃないか。

 

 二人の側にいることだけを考えていたせいで忘れていた。

 

 

 ウォルターとエアの溝を埋める必要なんてなかった。

 

 私が二人の側にいる必要なんてなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だって……私たちは()()()()()()()()()()()

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

『我々の……計画が……人類と生命の……可能性が……』

 

 機体から紫電を散らしながら、オールマインドは声を上げる。

 

 膨大な時間と莫大な戦力を費やした己の計画。

 

 全ては完璧だった。だが、蓋を開ければどうだろう。

 

 オールマインドの機体は脚部を失い、左腕を失い、残った右腕も既に機能を失い、ただのガラクタ同然の状態だ。

 そのような悲惨な状況にも関わらず、オールマインドの周囲は戦闘があったと思えない程損害が少なかった。

 

 AC程の巨体がぶつかり合えば、必ずその周囲にもそれに比例する損害が振りまかれる。

 

───それが、無い。

 

『データ、と……違う……!』

 

 何度もシミュレーションを繰り返すことで得た精密な戦闘データ。間違いが無いはずのそれとは比べ物にならない程の圧倒的な戦闘能力。

 初見であるはずの武装ですらあっさりと対処してみせたその姿は、まるで未来を見通しているのかと錯覚しそうになった。

 

 最後の力を振り絞り、自身の計画を粉々に打ち砕いた存在へと恨めしげに視線を向ける。その瞬間、視界の端に文字が浮かび上がった。

 

 知っている。これは人としての機能の全てを失ったアレが他者との繋がりを得られる唯一の手段。

 

 

 

『どうでもいい』

 

 

 

 音声は無い。ただのメッセージ。

 それなのに、オールマインドにはそれを送った人物が心の底から自身の計画に微塵も興味を持っていないことを理解できた。

 

『ふざ──』

 

 敗北したことへの苛立ちも合わさり、思わず激情を漏らすオールマインドだったが、そこ言葉が吐き出される前に頭部をグシャリと踏み潰された。

 

 静寂が支配する中、オールマインドを踏み潰したAC。その機体を操縦する621は目の前の目的のものを見つめ、両手を広げる。

 

 しかし、急速にこちらに接近する()()の反応に目的のものに背を向けた。

 

 その視界に映るのは赤く光る2つの光点。それは621の頭上に到達すると速度を落とすこと無く地面をガリガリと削りながら着地する。

 

「621ッ!! 何故お前が……!?」

『レイヴン!? どうして……!?』

 

 数億と繰り返した中で初めての光景。

 コーラル。その消滅を願うウォルターと共存を願うエア。

 

 正反対な二人が、肩を並べて621の前に立ち塞がった。

 

 

 その事実に621は動かないはずの口角が上がったような気がした。

 

 

 

 ◇ 

 

 

 

 621の操るACのカメラアイが青く光る。

 

 両者の間合いが無くなった。

 ウォルターとエアに向けて振られるレーザーブレード。

 

『くっ!?』

「退けっ!!」

 

 エアがコーラルを纏ったブレードを差し込むことで受け止める。

 その僅かに出来た隙に、ウォルターがエネルギーをチャージ。エアが退くのと同時にそれを開放する。

 

 しかし、621は初見であるはずの攻撃を完全に見切っていた。

 視界を埋め尽くすエネルギー砲に対し、621は機体をブースト。エネルギー砲をくぐり抜けるように回避する。

 

「何だと!?」

『こんなの……!?』

 

 621の奇想天外な機動に二人は動揺する。

 彼らはずっと近くで621の作戦の補佐を続けていたのだ。だからこそ、疑問が残る。

 

 

 

──自分たちの知っている621(レイヴン)の動きではない。

 

 

 

 ブースターに火が灯る。

 上下左右縦横無尽に駆け巡る621の動きに二人は全くついて行けない。

 

(どうしてこんな……!! センサーが……追い切れないッ!)

 

 これまで621と共に戦場に立ち続けたエアだったが、彼女の役割はあくまで補佐。

 機体性能に助けられているが、自身の中の621のデータが全く役に立たない状況では防戦一方になるのも仕方がなかった。

 

 視界で追えない分をセンサーでの探知を頼りにしていたエアだったが、そのセンサーですら621の動きに翻弄され、ついにはロストの文字が表示される。

 

 必死に周囲を見回すエアの背後に音も無く621が現れる。

 そのまま重ショットガンを突きつけるが、トリガーを引くこと無く腕部からブーストを起動させその場を離れる。

 

 僅かに遅れ、極太のレーザーが621とエアを分かつように薙ぎ払われた。

 

 頭上にはバチバチと赤い稲妻を散らせながら銃口を向けるウォルターの姿。

 距離をとった621を警戒しながらもエアの隣に着地する。

 

「無事か?」

『助かりました、ウォルター』

「……俺の名を知っていることについては今は詮索はよそう。味方……と捉えても良いのか?」

『……レイヴンを止める、という目的だけは一致しています』

「お前は……そうか」

 

 エアから視線を外したウォルターは目の前で黙ってこちらを見つめる621に視線を向けた。

 

「621。お前に何があったのかは知らない。だが、それがお前の選んだ道ということか?」

 

 ウォルターの言葉への返答はすぐに来た。

 

『うん』

 

 淡白な二文字。しかし、迷いなく返された言葉にウォルターは僅かに俯く。

 

「……そうか。お前が自分で決めたのなら、俺はそれを否定はしない。だが、俺は使命を……友人たちの遺志を……」

 

 小さく、それでいて悲しそうに呟いたウォルターは顔を上げた。

 

「すまない、621」

 

 次の瞬間、三人のレーダーに幾つもの反応が出現した。

 

「やあ、元気そうだねビジター」

『ボス。ビジターの動きがデータと違う。気をつけろ』

 

 ウォルターの前に降り立った二機のAC。

 その声を知らない者はここにはいない。

 

 ウォルターの旧友。過去に幾度も621の命を救い、そして殺されてきた。

 

 

 シンダー・カーラ。そして彼女の作り上げた提案型AI、チャティ。

 

 

「少し遅れてしまったな、戦友」

 

 続いて現れたのは、ウォルターたちの見たことのないACだった。だが、その声色は忘れるわけもない。

 

 肩を並べ、幾度も戦場を駆けた。己の信念に従い、幾度も死闘を演じた。

 

 

 元ヴェスパー第4小隊隊長ラスティ。

 

 

 その機体のエンブレムの狼からは口枷が解かれていた。

 

「戦友の名で連絡が届いてな。その指示通りに来てみれば……」

 

 ラスティの視線がエアに向けられる。

 

「どうやらうまく利用されてしまったようだ」

『おかげで乗り遅れずに済んだでしょう?』

「……ふむ、確かに。これも巡り合わせ……か」

 

 エアの言い分にラスティは納得の声を上げる。呟くように付け足された言葉には隠しきれない哀愁が感じられた。

 

「まだ生きてるかい、ウォルター」

「ああ」

「ビジター相手に五体満足とは、腕は鈍ってないようだね」

「いや、621は俺達を殺すつもりはないようだ」

「……は?」

 

 ウォルターから告げられた真実にカーラは目を丸くする。

 遠隔からではあるが、先程までの戦いをカーラは見ていた。とてもじゃないが、手加減をしているようには思えない。

 

「俺達に向けられた攻撃も、全てブースターやジェネレーターを狙ったものだ。あいつの目的は俺達の無力化だろう」

「どういうことだい? ビジターが何を考えてるかは知らないが、少なくとも私達の存在は邪魔にしかならないはずだよ」

 

 カーラとウォルターの視界の先。621の背後。そこには集積されたコーラルがある。

 621が何の目的でコーラルを手にしようとしているのかは分からないが、コーラルの排除を目的とするウォルター達は邪魔でしかないはずだ。

 

「ここまでやってまだ選びきれない……って感じでもないね」

「621からは明確な目的を感じる」

「だが、どのみち詰みだろう?」

「……ああ」

 

 カーラの問いかけにウォルターは重苦しく頷いた。

 

 そう、621は既に詰んでいる。

 

 個人でコーラルを所有しようとしている621。

 同胞として、ルビコニアンとしてコーラルを守ろうとするエアとラスティ。

 古い友人の遺志を継ぎ、コーラルを焼き尽くそうとするウォルターとカーラ、そしてチャティ。

 

 状況は三つ巴となってはいるが、この中で一番の不利を被っているのは621だ。

 

 原因は突出しすぎている621の力だ。

 

 このまま乱戦になった場合、間違いなく621が勝利を手にする。そう断言できる程の実力差。

 

 それをいち早く理解していたからこそ、エアとウォルターも一時的に共闘の形を取っていたのだ。

 

 いくら操縦者の技術が優れていると言っても、所詮は同じ機械。戦い続ければいつかエネルギーが無くなる。

 

 オールマインドから続く連戦で、621の機体の残存エネルギーも決して多くはない。弾薬類もそろそろ尽きるはずだ。

 

 オールマインドを単身撃破し、更にウォルターやエア達すら纏めて相手取る。そもそもが無理無謀すぎる話なのだ。

 どれだけACの扱いに優れていようとも、どれだけ最先端の装備を積んでいようとも、一人では必ず限界が来る。

 

 

 だからこそ、ウォルターも友人の遺志を継ぐ為に(621)を求めた。

 

 だからこそ、エアも同胞の未来を守る為に(レイヴン)を求めた。

 

 

 単騎で戦場の流れを変えられる力があったとしても、それをしなかった。

 

 戦場一つ変えられる程度の力では、世界は変わらないと知っていたから。

 

「だが、そんなことは621も分かっている筈。何を考えている……? 何だ……!?」

 

 博打のような行動に出た621の意図が読めず、眉をひそめるウォルターだったが、思考を遮るように搭乗する機体からけたたましいアラームが鳴り響いた。

 

 その理由はすぐに分かった。

 

『なっ!? コーラルが!?』

 

 エアの叫びに、621を除いた全員が621の背後に目を向ける。

 今もその存在感を放っている集積されたコーラル。その一部がひび割れ、コーラルが漏れ出していた。

 内包されていたコーラルは、まるで出口を求めるように外へと吹き出していく。

 

「まずいよウォルター!?」

「遅かったか……!!」

 

 カーラが珍しく動揺を顕にし、ラスティも悔しげに呟く。

 コーラスを焼き払うことを目的とするカーラはもちろん、ルビコニアンとしてコーラルをルビコンの内に留めていくことを理念とするラスティもこのままコーラルが外に溢れることは望んでいない。

 

「……すまない、友よ」

 

 コーラルを焼き払う為の策も用意していたが、とても間に合わない。

 友の遺志を果たす機会を失ったことを察したウォルターの口から謝罪の言葉が漏れる。

 

 

 そのまま爆発するように赤い光が彼らを包み込み──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『大丈夫。ずっと一緒だよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………は?」

 

 その声は誰が発したものだったのか。

 そんな些細なことを気にする余裕は無いが、全員の総意であることは間違いないだろう。

 

 赤い光が視界を覆った瞬間、誰もがコーラルが銀河中に拡散されてしまったのだと思った。

 だが、そうはならなかった。

 

 5人の目の前にはこちらをじっと見つめる一機のAC。

 その機体から吹き荒れる()()()()。それは間違いなく……

 

「……馬鹿な。あの量のコーラルを取り込んだ、だと……」

 

 ウォルターの戦慄した言葉が虚しく響く。

 

 赤く変色したカメラアイがウォルター達を捉え、怪しく光る。

 次の瞬間、621を中心に不可避の赫雷が放たれた。

 

 

【システムダウン】【システムダウン】

【システムダウン】【システムダウン】

 

【機体制御不能】【システム復旧を実行】

 

【──失敗】【──失敗】【──失敗】

 

 

 全員の機体から断続的に鳴り響くエラー警告。

 一つの例外も無く、全ての機体が稼働を停止する。

 

「突然何が──」

『ッ!? ボス!! 前だ!!』

 

 予想もできなかった事態に困惑するカーラの耳にチャティの叫びが木霊するが、指一つ動かせない状況ではどうすることも出来ない。

 

 目にも止まらぬ急加速で接近した621がすれ違いざまにカーラのACを両断。さらに近くに居たチャティもそのことを認識する前に斬り落とされた。

 

 突然のことに声を発する暇も無く、621は今度はラスティの前に現れる。

 

「戦友──……」

 

 その言葉に込められた思いは怒りか、悲しみか……その真意など興味ないと言わんばかりに621は右腕を振り下ろした。

 

「……」

『……』

 

 目の前で行われた圧倒的な蹂躙を見ていることしか出来なかったウォルターとエアの元に、ピコンとメッセージが届く。

 

 

『安心して。ウォルター、エア』

 

『二人を殺したりはしないから』

 

『やっぱりうまくいった』

 

『このコ達もエアと一緒。寂しかったんだ』

 

『もう大丈夫。一人じゃない。お父さんも、友達もいる』

 

『私はあなた達を殺したりしない』

 

『私はあなた達と共存なんてしない』

 

『ただ私は、あなた達の隣にいる』

 

『行こう。みんなで。どこまでも』

 

 

 一方的に送られ続けるメッセージ。

 最初こそウォルターとエアに向けて当てられたものだったが、途中から明らかに二人以外の誰かに向けられたものだ。

 

 いや、その誰かが何者なのか、二人は気づいている。

 

 ありえないと思いつつ、そうとしか考えられないから。

 

 

『レイヴン……あなたは……』

「まさか……コーラルと……」

 

 

 言葉を失う二人の声を聞きながら、621はこの世界で最後の開戦の合図を送ろうとして……ふと思いつく。

 

 根拠はない。何となく、今なら出来るかもしれないと思った。

 これからずっと一緒なのだ。このくらい出来なくては不便だろうと。

 

 621は()()()()()()()()()──

 

 

 

「……ぁ」

 

 

 ウォルターとエアが息を飲んだのを感じた。

 

 

 

「めいん、しすてむ せんとうもーど、きどう」

 

 

 

 




 コーラルの独自解釈はこの話の展開を作る為のもので、本作の解釈という訳ではないです。

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