格納庫にて各人の武装を確保した第8部隊一行。格納庫から出る頃には夕方頃になっていた。
「……貴方達が暴れてくれたお陰で女性権利団体が居座っていた元学生寮から追い出す事が出来たわ」
夕暮れ時の8組教室にて鈴晶はそう話し始める。昨日までAIS部隊はアリーナの整備室と言った場所で避難所同然の状態で寝泊まりしており、部隊の士気にも関わっていたとの事。
「寮部屋の内訳に関してだけど、部隊事にフロア分けされる形になったわ。現状の部隊員の総数では寮部屋に余りが出来るでしょうから」
IS学園は元々3年制。その為学年毎に寮棟が存在していたが、訓練生である1組とAIS部隊員を全員合わせても1学年分の人数しか居ないからだ。
「本来、寮部屋は相部屋になるのだけど人数の都合上各人の個室で扱っても問題は無いと判断されたわ」
「しかし、追い出された側である女尊主義者も黙っては居ないのでは無いのか?」
其処に質問を投げかけたのは銀髪の髪に白衣を羽織った鋭い目付きの少女、クロエ・ロインゼーラであった。8組の中で1番、医療の知識を有しており最初は医療部隊である5組に配属される筈だったが、本性が問題大アリだった事と和奏と顔見知りだった事から第8に配属となった。
「そりゃそうだろ。今まで自分達が使ってた所を追い出されて黙ってる程、あの連中は淑やかじゃねぇ。乱闘覚悟で奪い取りに来るんじゃね?」
「其処まで愚かでは無いと信じたいがな……。いいや、不可能か。愚かな人間は自分が愚かである事には気付かないモノだからな」
クロエとレーキュが冷静に行動を分析する。女尊男卑の環境で育まれた自己中心的な性格の者には忍耐力が無い。不都合が起きれば責任転嫁やヒステリーを引き起こす。
「一応、寮棟は訓練生とAIS部隊員、そして教官以外は立ち入り禁止措置を取る事にしたわ。
部外者は許可なく立ち入った場合は、不法侵入として学園基地から退去の措置を取る事になったわ」
現在、学園基地内に滞在する司令部やAIS部隊以外の者達(ほぼ全員が女尊主義者)の状態は『一時保留』である。彼女達は普段の行いや過去の所業から元居たコミュニティから追放され行き場を失い学園基地内にシロアリの如く居座り続けている状態だった。
当然、立場上は白眼視されて然るべき人種。昨日まではライフラインや居住区、横暴に幅を効かせていたが、たった1日でその栄華は崩壊した。
「随分と重い処罰ですね、師匠」
司令部は『最後の対話の機会』の場を設ける為に日程を調整している。恐らくその時に完全追放が決まる気がするが……。
「今迄、やって来た事が事だからよ。私としてはやっと司令部が本腰をいれてくれた事ね。……私が司令官だったら、追放だなんて生温い真似はしないわ」
鈴晶は手刀で一閃の動作を見せる。つまり、殺処分すると言っているのだ。やはり彼女は過激な思考故に、その判断を下したのだ。
「話を戻すわね。8組のフロアは1号棟の最上階のフロアになるわ。相部屋相当の部屋だけど、1人で使うか2人で使うかは貴方達に任せるわ。
明日、どの部屋を使うか報告するようにね。それじゃあ、今日は色々と大変だったと思うけど今日はコレにて解散よ」
鈴晶の解散の宣言によって、今日の日程は終了となった。
「やっと、マトモな場所で寝られる」
「そういや、以前は整備室で寝ていたんだったか?」
1号寮棟へ向かう道則にて、隣を歩くリデアが感慨深そうな呟きに和奏は乗っかる。
「あの頃はマジでダンボールを敷いて寝ていたんだぜ? 毛布の1つも寄越しやしねぇ。世界を救うAIS部隊様だと言うのにひでぇ扱いだったんだぞ、舐めているとしか思えねぇ」
「拙は不自由は無かったのだが、他部隊はそうは行かなかったようだぞ。風邪を引いた者もいる」
「……その上に食糧品、医療品も女尊主義者に殆ど占有されていたからな。長引いたり、体調を崩して病死に至った者もいるな……嘆かわしい事に」
「……それ以上は聞きたかねぇな。真面目に殺意が湧いてくるから」
その当時の心境をレーキュ、雪字、クロエが語る。聞けば聞くほど業腹な事だと思い至る。一層の事、織斑司令の命令を無視して女尊主義者共を駆逐では無く駆除してしまった方が良いのでは無いかと言う考えが過ぎる。……多分、第8の殆どが同意する。
赤信号、皆で渡れば怖くないと言うのはある種の真理だなと別の意味で如何でも良い事も脳裏に浮かぶ。
そんなやり取りをしつつ、1号寮棟の建物のエントランス前に到着した。元々は1学年の学生寮棟であったらしい。学生寮と言うには外見はかなり立派なモノであり、一流ホテルに匹敵するであろう外装であった。
エントランスを潜ると内装もまたかなり綺麗なモノであり、外装もさる事ながら内装もホテル並みの豪華さであった。
エントランスフロア付近は吹き抜け階層となっており中央には螺旋階段が設けられており、この場所を起点に各階層へ向かえるようだ。
たかが学生寮に此処までの豪華さを求めるとは『無限革命』以前、女尊男卑全盛期のIS学園には相当な資本があったのであろう事が察せられるのは欲の匂いがする話だ。
「当時のIS学園は相当、彼方此方に金を掛けていたんだな」
「ま、良いじゃねえか使わせてくれるんなら使わせて貰おうぜ」
メインエントランス付近は新規入居となる他部隊員で賑わっていた。見た限り、第7と第6の部隊員だと思われる面々が屯していた。
「む、宵咲部隊長か。貴官もこの寮棟だったか。部隊番号的に予想はしていたがな」
エントランス付近で和奏に声を掛けて来たのはラウラであった。肩にタオルを掛けている事と髪が僅かに濡れている事からシャワーなり風呂上がりである事が分かる。
「ボーデヴィッヒ部隊長か。ああ、そうだな。風呂上がりか?」
「うむ。昨日まではシャワーは愚か大浴場も使い物にならん女尊主義者共の所為で使えんかったからな。殆ど水浴びで済ませざるを得なかった。
我が第6の精鋭ならば兎も角、広報を兼ねる第7や衛生面を考慮する第5からは堪ったモノでは無かったであろうな」
「……そ、そうか」
「フロア分けは聞いているな?第6は下層、第7は中層、第8は上層の階層だそうだ」
「ああ、聞いている。それよりも、追い出された女尊主義者連中が押し掛けて来るかも知れんぞ?」
「その旨は教官から既に聞いている。何、そんな馬鹿な連中が現れたら我が部隊で駆除してくれる」
ラウラ自身も女性権利団体の行動は腹に据えかねていた様である。もし、現れた場合は勢い余って殺害していても不思議では無いだろう。
「そうか。援護が必要ならば言ってくれや」
「フッ、申し出は有難いがロクに戦場を知らぬ愚者共にこの私や第6部隊が遅れを取るなどと考えていたのならば、その心配は杞憂に終わると言わせて貰おう」
ラウラは不適な笑みを浮かべて自信に溢れた宣言をした。いや、確かにそうだろうし。
「おっと、貴官らはまだ部屋割りを決めていなかったみたいだな。引き留めて悪かった。また、別の機会に話をしよう」
そう言いラウラは話を切り上げて和奏の前から立ち去って行った。その後ろ姿を見送ってからメインエントランスの中央に位置する螺旋階段を登り、最上階へと一気に向かう。
「さて……肝心の部屋割りだが、如何決める?」
「んなモン、適当に決めりゃ良いだろ。空いている所を選んで其処にすりゃ良いだろ。其処まで悩むこたぁ」
レーキュは其処で言葉が止まる。和奏がジト目で悩んでいた理由がすぐ近くにあったからだ。
数人の少女が期待を込めた視線を向けていたからだ。第8の部隊員の中には和奏に対して距離が近い者が何人かいるのだ。然も、依存気味な者も居る始末。
IS学園の寮部屋は完全個室では無く元々『相部屋』として使われていた。つまり、一部屋2人で使われていた。その寮部屋を其の儘使っている為に部屋内のベッドも2つある。更には鈴晶も2人で使うか1人で使うか各人の判断に任せると言ってしまっていたからだ。となれば揉めるのは必定だからだ。
「……モテる野郎は辛ぇな。私はさっさと寝てぇから先に決めるわ。じゃあ、明日な」
「おい、この気不味い状況を放置する気か⁉︎」
「面倒なら一緒に同衾でもしてやがれや‼︎」
「『防腐処理』の影響下でも受精するかは分からんが……避妊はしておけ」
「誰も気不味さを増幅させろとは言ってねぇよ⁉︎ さては楽しんで居ないか⁉︎」
「……一緒に寝ればベッドメイキングの手間が省けそうね。専属メイドの朝は其処から始まるしね」
「更に事態をややこしくする為に参戦してくるんじゃねぇ‼︎ と言うか専属メイドを雇った覚えは無ぇ‼︎」
「主君、夜襲……もとい夜這いされるやも知れぬから拙が」
「俺から見れば確信犯だ‼︎ 後、言い直すならば逆にしろ‼︎」
「閣下、閣下。黎華は閣下の所有物だから、懐に置くべきだよ」
「犯罪臭がマジで凄まじいわ‼︎ 君ら俺の反応を見て楽しんでいないか⁉︎ 大声でツッコむのも結構、労力使って疲れるんだよ⁉︎」
「はいはい。此の儘だと和奏さんが急性ツッコミ中毒するんでー、第8は各人、個人部屋って事にしましょう」
其処で助け舟を出したのはフィーリリアであった。取り敢えず、第8は1人一部屋と言う形式になった。
「一瞬、スルーし掛けたけど、急性ツッコミ中毒ってなんだ⁉︎ ツッコミのし過ぎて死ぬとか、真面目に笑えねぇんだけど⁉︎ そんな死に方、みっともなくて死に切れねぇんだけど⁉︎」