AIS-アンチ・インフィニット・ストラトス   作:夢現図書館

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血に飢える

 

 

 

「全く……朝から盛んな事ね」

 

「好きでこうなった訳じゃないんですけど、師匠」

 

 その後、和奏は一足先に8組の教室に来ていた。昨日聞かされていたAIS部隊制服の件である。

 

「……ただでさえ学園基地のみならず人類は物資不足で喘いでいるのに、痴話喧嘩で備品を破壊しないでくれるかしら?」

 

 その前に寮部屋の扉の破壊の件について怒られる羽目になった。主犯は黎華であるのだが、怒られるのは和奏である。

 

「ぐっ……」

 

「言い訳は認めないわ。元を正せば貴方があの子達を御し切れていないのが根本的な原因。

 放置なんて真似は部隊長のやる事では無いから適度に発散させなさい。そうじゃないと、後が大変な事になるわよ?

 ただでさえ第8は貴方を基盤としている部隊だから貴方が何かしらの形で喪われると部隊組織としては瓦解してしまい、部隊として機能不全に陥るでしょうね」

 

 鈴晶は和奏の言い訳を問答無用で封殺して要因は和奏自身にあると告げ、更に第8部隊の脆弱性を説いた。だからこそ、鈴晶は和奏を部隊長に置いたのだ。第8の面々は、元々協調性が無いロクデナシばかり。和奏を介さなかった場合、言う事を聞かない可能性が常に起こり得るからだ。

 

「まぁ、初回だから今回は大目に見るけれど……。次、やったらタダじゃ置かないわよ?」

 

「……師匠。一応、聞きますが具体的には?」

 

「硫酸を頭から被って貰うわ。全身の皮膚が焼け爛れ、髪の毛の全損は愚か頭蓋骨が溶けるレベルの奴を、ね?」

 

 それは死刑宣告に等しい内容であった。

 

「半ば死ねと言っているようなモンでは⁉︎」

 

「『防腐処理』があるから、死にはしないわ。まぁ、髪の毛は全取っ替えは覚悟した方が良いわね」

 

 くすくすと鈴晶は咲う。冗談には聞こえないし、彼女は冗談でこんな事は言わない事は和奏自身、1番理解している。つまり、やる時は本気でやる。寧ろ、コレでもまだ控えめな方であった。

 

「……善処します」

 

 どうやら寮部屋の扉の鍵は開けっ放しにせざるを得ない様である。セキリュティもクソも無くなる。

 

「さてと、お説教はこの位にして置きましょう。当初の予定であったAIS部隊の制服を渡すわ。各人の机の上に置いてあるわ」

 

 和奏の席。その机の上にきちんと折り畳む形で置かれた黒と赤を基調とした部隊の制服が置かれていた。見渡せば当人達の趣味嗜好に合わせた形状の服が用意された様である。

 

「部隊ごとに部隊カラーがあるの。第8は黒と赤よ」

 

「何つーか、第8のメンツと相俟って黒と赤色だと悪の組織っぽいですね……」

 

 和奏は制服の上着を腰結びにしながら、鈴晶にそう答える。和奏は元々、機動性を考慮し軽装を好み上着の類は極端な冬場を除いて殆ど脱いでいる事が多い。

 しかしながら『秩序』のある学園基地では一応、身に纏う必要がある為に妥協案として腰結びにする事にした(肩掛けは落とす可能性があるから止めた)。

 

「何を今更、そんな事を言っているのかしら? 貴方達、自身が善人だなんて露ほど思っていないでしょう?」

 

 第8にはマッドサイエンティストを始め、殺し屋や殺人鬼、暗殺者と言った悪の組織に居ても可笑しく無さそうな面々ばかり揃っている。其処にダークカラーが備わればもう完全に悪役だ。

 

「まぁ、否定はしませんね」

 

 鈴晶の揶揄いに対して和奏は軽く返した。否定する部分は何処にも無かった。第8の誰もが自分が『正常な人間』とは思ってはいないだろう。

 

「……呼び出されていたのでしょう? 時間が迫っているのだから、早めに行きなさい」

 

 鈴晶に送り出され、和奏はその足で司令官室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「諸君、揃ったな。早朝早々に集まって貰ったのは他でもない」

 

 司令官室。司令官である千冬は口を開いた。その傍には副官でもある真耶が控えていた。

 千冬の視界の先には基地内放送にて招集命令が出された各部隊の部隊長が全員、集まっていた。今朝方、漸く支給されたAIS部隊の制服に着替え集合した。

 

 第2は臙脂色、第3は黄緑色、第4は水色、第5は白色、第6は黒、第7は青色、そして第8は黒と赤色を其々、基調としたカラーを含む制服を身に包む事になっていた。

 

「教官。我々を集めた理由をお聞かせください」

 

 ラウラが先陣を切る様に質問を千冬に投げ掛ける。

 

「うむ。第8の部隊長には既に話したが、今日……この島に巣食う女性権利団体及び女尊男卑主義者を人道的に一掃する」

 

 その言葉に部隊長各位は息を呑んだ。第8の和奏が各部隊の部隊長の意見を集めてその結果を千冬に報告した。その報告を元に千冬は下した決断。

 

「……具体的にはどのように?」

 

 セシリアが疑問を投げ掛ける。

 

「問答無用で追放処分にすると、何かしら禍根が生まれかねん。正直な所、今更な気もするが最後に対話の機会を設ける。

 諸君らにはその場の見届け人となってもらいたい」

 

「……見届け人、ね」

 

「うむ。やはり現場(・・)の当事者がいる方が真実味があるだろう……。恐らく、私の想定通りに事が進むとは限らない為に予期せぬ展開になるかも知れん」

 

 甘い汁を啜り続けた者達にとって、突然『自由』な空間に放り出されては生きてはいけない事だろう。当然ながら、決死の抵抗をする事は予想は出来る。

 

「教官。お言葉ですか、その様な機会は不要かと存じます。現状において、我々は元より人類は火急かつ窮地に至っている状態です。斯様な者共に時間を割く余裕は無いかと思われます」

 

「千冬さん。私もラウラと同意見です。必要ない連中はさっさと追放処分した方が良いですよ。あの手の連中はダダを捏ねて時間稼ぎをする事が簡単に想像できるわ」

 

「……織斑司令官。私も、鈴部隊長とラウラ部隊長と同じ意見、です。……私達にそんな時間は無い筈です。皆への説明は……事後報告でも充分かと……。あの人達が消えて困る部隊員は、居ません」

 

 ラウラを始めとして鈴音、簪がそんな事に時間を使ってまでやる必要は無く、さっさと処分した方が良いと、申し出る。

 

「織斑司令官殿。第2、第4、第6の部隊長の意見に俺も賛同する。……と言うか、さっさと消えてくれないと第8が率先として狩り始めてしまうぞ?」

 

「お前ら……しかしな」

 

 千冬はラウラ達をどうやって説得するか頭を捻った時、司令官室の扉が乱暴に開かれて次々と多数の女性達が詰め掛けて来た。

 その先頭に立っていた毳毳しいまでの化粧を塗りたくった山姥みたいな女性が眦を釣り上げながら前進して来た。

 

「ちょっと⁉︎ 織斑千冬‼︎ コレは一体、どう言う事よ⁉︎」

 

 その女性は部隊長の間に割って入り手にした紙用紙を千冬に突き付けた。

 

「其処に書かれた言葉通りの内容だ。本日付で貴方方はこの学園基地から出て行って貰う。乱暴に言えば追放処分だ」

 

 千冬は彼女達がこの場に押し掛けて来た以上、此処で行うしか無いと判断してその代表格の女性に対して毅然とした態度でそう答えた。

 

「追放っ……て。私達がどれだけこの学園基地に貢献して来たのか分かって言っているの⁉︎」

 

 その女性は『自分達が学園基地に貢献して来た』と主張する。

 

「貢献、か。私から見れば貴様らは貢献では無く、損害を与え続けて来たとしか思えないがな? 挙げればキリが無いから詳細は省くが様々な意味で司令部及びAIS部隊に多大なダメージを与えた」

 

「ダメージ⁉︎ そんなの、そいつらが全く役に立たなかっただけじゃない‼︎ 作戦失敗もあの連中の責任じゃない‼︎ それを私達に責任転嫁しよ」

 

 その言葉の続きは言われる事は無かった。何故ならば、その女性の首が刎ねられていたからだ。その首は宙を舞い司令官の執務机の上に落下し転がった。同時に首を失った胴体の断面図から噴水の如く血飛沫が噴き上がる。

 

 大量の血が吹き荒れる光景を見て、間近で『死』を直面した者達は心臓が握られたかの様に硬直した。

 

「……宵咲。手を出すなと言った筈だが?」

 

 生首を前にしても千冬は動じず、手を下した者に叱責交じりに言う。その女性を殺したのは和奏であった。その左手には片割れの日本刀が握られていた。

 

「聞くに堪えん。意味の無い論争を続けて何になる」

 

 和奏はもう片方の日本刀を量子展開して右手に掴み、司令官室へと押し入って来た女性達の方へと一歩歩いて行く。

 

「……己が有益であるとするならば、その価値を示せ。出来なくば今すぐ学園基地(ここ)から去ね」

 

 首を斬った刃を血振りしながら、和奏はそう宣告する。一切合切、感情を凍らせた声音で。

 今までは自分達は社会的上位の存在であった。女尊男卑の風潮により男性は忌避され唾棄された。そして女性である自分達は何から何まで優位になる環境だった。それが必然、それが当然であった。だが、『無限革命』を機にその栄光は急速に陰り、今では生存している人類から見てもはや厄介者へと成り下がった。それでも尚も過去の栄光に縋り女尊男卑の有用性を主張、体現を続けていた。

 だが、たった今……それらの概念は幻、或いは幻想に過ぎない事を理解させられた。

 

 

「己に何が出来る? 第2部隊の様に己が身、生存せし者達の盾となれるか?」

 

 

 一歩、進む。

 女性達の先頭列は後退る。己の身体を犠牲にしてでも守ると言う意地を問う。

 

 

「第3部隊の様に戦場を駆け回る胆力はあるか?」

 

 

 一歩、進む。

 列から溢れた者共は冷や汗を流す。遊撃故にやるべき事が多くその応用性を問う。

 

 

「第4部隊の様に正確に戦場を俯瞰する体力はあるか?」

 

 

 一歩、進む。

 列の半ばに居た者は前列の後退に押されて体勢を崩し掛ける。後方支援が主であるが前線に出てその頭脳を発揮する知略を問う。

 

 

「第5部隊の様に死に行く命を救う為の責務に耐え得る意志はあるか?」

 

 

 一歩、進む。

 刃の鋒が司令官室の床を摩り、その音を聞きたく無い者は耳を塞ぐ。誰よりも命を目撃する事になる覚悟を問う。

 

 

「第6部隊の様に誰よりも危険を承知で死地と踊る度胸はあるか?」

 

 

 一歩進む。

 闃寂となりつつある空間に青褪める者共。未知であるが故に危険と共に過ごす事になる気力を問う。

 

 

「第7部隊の様に確実に物事を遂行し、生き残った人類に希望を齎す事は出来るか?」

 

 

 一歩進む。

 虚無を纏う視線を前に直視したくない者は目を逸らす。無限革命を機にIS業界の関係者の信頼は完全に破綻した。広報担当の彼女達の努力により少しずつ理解を得られているが、それでも白眼視されている。その視線に耐えられる根性を問う。

 

 

「……第8部隊の様に、いいや。お前らは第8のばかもの(・・・・)共にはなれんな」

 

 

 一歩、進んだ。

 和奏が彼女達の眼前に迫っていた。一寸、刃を振るえば骸の山となるだろう。最後、和奏は目の前の連中が第8の様にはなれないと断言した。それは、その先に進む事が出来ない半端者を意味していた。

 

 

「さあ、答えろ。己らに何が出来る?此処はAIS部隊の基地だ。故にこの島に居るのは司令部、研究員以外は皆、戦闘員(・・・)だ‼︎ 民間人なぞ、1人とて存在しない‼︎ ならばお前らは何だ⁉︎ お前らは何の為にこの場に居る⁉︎」

 

 和奏は言い切った。

 基地に民間人の住む場所は無い。救助者はコミュニティへと移送されるのが規則である。

 ならば女尊主義者の彼女達は何だ? AIS部隊の隊員でも無いのに、居座り続けている彼女達の『役割』は何だ?

 

「……」

「……ねぇ、誰か言ってよ」

「こ、殺されるわよ」

 

 統率を失った女尊主義者の集まりは路傍の石でしか無かった。

 第8の部隊員による凶行は既に浸透している。

なら、その部隊長と言う事はその者達を抑えれる人間だ。当然、あの様な暴力集団を纏めるには『暴力』が伴わなければならない。現にたった今、衒いも無く斬首した。その刃が次に喰らうのは誰になるかは分からない。ただ、口答えした瞬間に答えが出る。だからこそ、誰も目も合わせようとせず、言葉を交わそうとしない。

 

「そうか。それがお前らの答えか。

 ならば撫で斬りよ‼︎」

 

 撫で斬り。

 即ち、和奏は目の前に佇む女尊主義者共を鏖殺すると宣言したのだ。

 言葉の意味は分からずとも容赦無い殺意を燻らせる同時に司令官室の壁と嵌まる扉共々、重い衝撃波を伴う斬撃が女尊主義者らに襲い掛かる。

 

「「「キャァァァァァァァァアアア‼︎‼︎」」」

 

 最前列に居た者達は乱雑に身体をぶった斬られ、その後ろにいた者達は押し倒された。それより後ろに居た者達は恐怖の余りか大声をあげて逃げ出した。

 

「あ、ああ……た、助け」

 

 死に損ね、逃げ遅れた者は首元に刃を突きつけられ絶命させられる。司令官室には死体が合計、9つ転がった。

 

「……気が済んだか? 宵咲部隊長」

 

 事の成り行きを見守っていた千冬が重々しく口を開いた。和奏の当然の暴走、止める暇も無く彼女達は恐慌状態に陥っている。

 

「さぁな。コレで連中が自分から出て行ってくれりゃあ、言う事は無しだろ? 織斑司令官殿」

 

 死体が出たのは、まぁコラテラル・ダメージと言う事で。寧ろ、この程度で済んだのが救いと言えるだろう。

 

「……随分と物騒な快刀乱麻だな」

 

 過程は兎も角結果的に言えば千冬及び司令部の目的は達成される。学園基地は広いと言えど情報は瞬く間に広まる。これ以上学園基地に留まれば和奏に惨殺される。真偽は兎も角、その情報は女尊主義者達に拡散されるだろう。

 その恐怖に浸りながら死ぬか、行く宛の無い外へと逃げ出すか。その選択肢を彼女達に突き付けた。

 

「金か暴力。この世に存在する問題事は、概ねその2種類によって解決出来る。誰もが知る概念だ」

 

 大概は『金』で解決されてきた。『暴力』もまた少ないが行われて来た解決法の一種だ。

 

「……ソレを否定出来ないのが悔しい所よねー。アンタ、真面目に悪人じゃん」

 

 鈴音は強くは否定出来ないと言った。本人も思う所はあったのかも知れない。

 

「まぁ、否定はしねぇよ。……」

 

 

 

 

 

 

 

その時、和奏は何かを閃いた。何を思いついた?

  • ボートを用意しろ
  • 根切りだ
  • 使い捨て装甲板作戦
  • ……気の所為だった
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