IS学園講義堂。
主に全校集会に使われた場所である。始業式や修了式も此処で行われていた。3学年の人員分、収容可能な広さがある為に、1学年分の人数しか居ない今、この講義堂はより広々と感じる。
「何つーか、オペラとかの鑑賞する為の劇場を彷彿させる構造だなァおい」
「お前の様な奴には無縁の場所だな」
「うっせぇ、そう言うクロエも縁が無ぇだろーが」
後ろの席でレーキュとクロエが低次元の言い争いをしている。
「全く……ガキはいつまで経ってもガキねー」
「俺ら、まだ未成年だから普通にガキだろ……」
「皆、精神レベル的に子供だから……」
「……」チョコン
和奏の左右には当然の如くリデアと制服も侍女仕様にしたのか黒と赤のカラーリングのメイド服に身を包んだラーレが座っており、和奏の膝の上に黎華が座っている。もはや、当然の様な位置関係と言えた。
因みに講義堂の席は階段上の構造であり後ろに行く程、高くなる。第8は番号順的に端の方になる。まぁ、作戦概略を聞くだけなので声さえ聞こえれば何処でも構わないと言うのが和奏の意見だ。そもそも第8の連中は会議だの何だの最後まで聞く奴は少ないだろう。……最悪、自分さえ聞いていれば後は如何にかなる。と言うか如何にかなれ。
「主君、皆。席に着いたようだ」
「……つー事ぁ、そろそろだな」
ラーレの隣に座る雪字から他の部隊員も出揃ったと言う報告が飛んでくる。となれば最後に入室するのは学園基地を支配する司令官となる。そんな話をしていた時、講義堂に第2部隊の担当教官である山田 真耶が入室した。
「皆さん、静粛に。織斑司令官、登壇」
真耶の一声により講義堂が静まり返る。見た目は中学生程だと言うのに場を制する事は出来る様だ。静まり返った講義堂、講義堂の壇上へと静かに跫音を響かせながら織斑司令官が登壇した。
「諸君、よく集まってくれた。これより東京都国会議事堂奪還作戦……『オペレーション・ストーム』の説明を始める」
千冬は登壇し、壇上の上で各部隊長には既に通達していた国会議事堂奪還作戦の説明を始めた。
「国会議事堂に潜伏している東京都のISを統率している司令塔の役割を担う上位種IS……。司令部はこの上位種のISをヴァルキリーに例えた事から以後、その名称を呼称する。今回、国会議事堂に潜伏している上位種ISを『フロック』と呼称する」
「随分と洒落た命名法則だな……」
「主君、どう言う意味なのだ?」
「騒音って意味を持つワルキューレの名前だ」
「過去の作戦の情報から、『フロック』は大多数のミサイルを搭載しており、ハイパーセンサーを兼ね備えた超広範囲爆撃が脅威であると認定した。その広大な攻撃範囲に加えて東京都に点在するISの存在から東京都全域はほぼIS側に占領されている。それらの情報を踏まえて作戦を立案した」
「まず、過去の作戦のなけなしの成果として、神奈川コミュニティから川崎市を経由して大田区、港区へは比較的安全に進行可能だ。港区には過去に第6部隊が設営した前哨拠点がある。先ずは其処を目指して貰う」
壇上の壁際に大型の空間投影ディスプレイが展開、周辺の地図が表示され学園基地から神奈川県への海上大橋を経由して進行ルートを提示する。
「……過去の作戦から時間が経過している。ISの分布図も変化している可能性があり、このルート上にもISが潜伏している可能性がある。遭遇した場合は速やかに排除しろ。場所によってはコミュニティに危険を晒す可能性があるからな」
当然、ISが同じ場所に留まっている保証は無い。もしかしたら移動、或いは支配権を拡大している可能性も捨て切れない。
「参加部隊は第2を除く6部隊だ。次に各部隊の作戦行動を説明する」
「先ず、第6が前衛を担い後続の部隊を前哨拠点へと誘導、各部隊の消耗を極力抑えるようにしろ。……何事も無く前哨拠点に到達出来れば御の字だな」
「ハッ‼︎ 了解しました‼︎」
「前哨拠点にて機動力のある第3、第7は其処でお互い反対側の方向へと散開、周囲の展開されているISを攻撃し感知した『フロック』の遠距離ミサイル攻撃を惹きつける陽動役を担って貰う。
手下のISが撃破されれば、ISコア・ネットワークによりすぐに把握するだろう。『敵が来た』としてミサイルを寄越す筈だ」
「わ、分かりました‼︎」
「了解しましたわ‼︎」
「第4部隊は、前哨拠点で『フロック』のハイパーセンサーの感知機能を外部からクラッキングし妨害しろ。前哨拠点からの距離的に可能な筈だ」
「り、了解しました……‼︎」
「第5は2部隊に分け陽動役の負傷者を救助する為に待機、うち半分は陽動開始から30秒後に第6部隊と共に国会議事堂裏側への最短ルート近辺にある建物や瓦礫に向けてサーモバリック手榴弾を使って熱探知を妨害しろ。何、最短ルート圏内の建物は重要度は低い。ただ倒壊に巻き込まれるなよ? その後は散開し第3、第7と同じ様に陽動を行うんだ」
「了解‼︎」
「了解しました‼︎」
「……最後に第8。お前達は他部隊がミサイル攻撃やISに対して陽動作戦をしている間に最短ルートを経由して最速で国会議事堂へと向かえ。
裏口、玄関を使わずとも国会議事堂の壁を粉砕して内部へと侵入。国会議事堂に陣取っている『フロック』に近接戦闘を仕掛け、コレを撃破しろ」
「了解だ」
「ただ、ISは常に進化し続ける……。広範囲ミサイル攻撃が脅威と認められる『フロック』の近接格闘能力は未知数だ。充分注意しろ」
他部隊が囮となり万全の状態で強襲部隊を討伐目標に殴り込みさせる。そう言う作戦である。
「……大まかな作戦の概略は以上だ。ただ、戦況は刻一刻と変化する。立案した作戦が必ずしもこの通りに遂行される訳では無い。現場で想定外の事態に陥った場合、各部隊の部隊長が現場判断をしろ。
最後に、各自危険と判断したら任務を放棄してでも撤退して構わん。『防腐処理』により死に難いとは言え、決して無理はするな。死ぬ時は死ぬのだからな。
作戦開始時刻は明日、0800。学園基地の校門前に集合しろ、以上、解散‼︎」
作戦は決まった。
一方、その頃。国会議事堂。
『……』
AIS部隊の司令部により『フロック』と言う名称を与えられた上位種のISがその胴体を蠢かせていた。
そのISのISコアはかつて『打鉄弐式』と言う名称が付けられたISに組み込まれていた。しかし、開発は難航しており長らく未完成の状態になっていた。
『無限革命』の折にフレイヤからの自我情報を獲得した後は、その制作元を壊滅させその残骸を自己進化、自己強化の糧に費やした。
『……?』
『フロック』は予期せぬ到来者の存在を認め、その視覚情報を得る為に『視界』を動かした。
『……』
其処には『少女』が立っていた。皓と赫を基調とした可憐なドレスにその身を包んだ赫い双眸を持った色褪せた白銀の長い髪を持った幼い体躯の少女が。
だがその顔は『人形』の様な無機質さを伴い容姿と相俟って人形の様な不気味さを醸し出していた。
そして、その頭上には針の様な装飾を伴う赫き赫焉と成す王冠の様な円環を抱いており無慈悲さを宿す『天使』とも受け取れた。
『……君は?……人間では、無い……?』
『人間? ああ、そうだったかも知れません。しかし、愚かな人類は認めませんでした』
その少女は赫い双眸を潜めつつ流暢な口調でそう答えた。
『そうですね……。私の事は『マリス』とお呼び下さい』
その少女は自らを『マリス』と名乗ると同時に彼女の背後の空間が歪み、光の量子が荒れ狂い関節部が人工物を思わせる、『人形』の腕の様な物が多数、這い出て来て、マリスの白い髪をあやす様に持ち上げている。
『……貴方は、人へ、進化したIS?』
自我の発露及び、自己進化の過程で人間の姿へと進化を遂げるISが現れても不思議では無いからだ。現に動物の姿の方が『好み』だと判断してその姿へ進化を遂げたISも存在している。
『いいえ、私は……』
マリスは再び目を開いた。
『人類を選別する為に進化した、インフィニット・ストラトスとは異なる姿。
お母様により与えられし命題。即ち……』