翌日、午前7時50分頃。
「どうやら俺が最後みたいだな……」
校門前には各部隊の部隊員達が集結していた。その集団へと最後に合流したのが和奏であった。
「おせぇぞ? 作戦当日だってのに、寝坊とか部隊長のする真似じゃねぇだろ」
レーキュが欠伸を噛み殺しながら最後に集合場所に来た和奏に文句を言う。
「悪い悪い。ちと師匠に呼び出されててな」
和奏が合流した事を見計らって第8の面々が集まって来る。
「鈴晶先生に呼び出されていたの?」
「……何故、君はメイド服なんだ? メイドキャラはラーレだけで間に合っているんだが?」
いの一番に声を掛けてきたのは桃色掛かった銀髪の少女、フィリィナ・アイルーンだった。彼女は特に前職がメイドでも何でも無いのに、何故か黒と赤色の部隊カラーのメイド服をその身に包んでいた。
同じ銀髪のリデアが可愛い顔立ちである事に対してフィリィナは綺麗な令嬢的な顔立ちと言えた。
「……私に用意された制服がコレだったのよ。文句は鈴晶先生に言ってちょうだい」
フィリィナはそう言い恥ずかしげにそっぽを向いた。本人としても不本意だったらしいが、他に候補が無い以上、それを着るしかない。
端正な顔立ちの彼女が身を包むと中々、絵になっている。
「……和奏。メイド、好きなの?」
今度は背後から引っ付く形でリデアが首に腕を伸ばして来る。彼女は黒と赤の軍服ワンピースタイプの制服だった。
「何故、そうなるんだよ。まぁ、女の子がメイド服と言ったコスプレ的な特徴的な装いは野郎にとっては目の保養になるっちゃなるんだがな……」
「ふーん……」
リデアは何か含みのある返事で返した。どうやら返答の仕方を間違えた様である。
「それよりも主君、鈴晶先生は何と?」
「暴れ過ぎて東京都を更地にするな、だってさ。IS相手に乱闘したら街1つが吹っ飛ぶだろ普通」
どうやら出発前に和奏は釘を刺されていた。戦闘の余波で東京都心部を破壊し過ぎるな、との事であった。
「……逆に言えば我々が暴れたら街が壊れる、と鈴晶先生は申されているのか」
「褒められてねぇからな、明らかに呆れられているからな?俺達。取り敢えず起き抜けに、内臓とかを抉られずに済んだわ」
昨日、成り行きとは言え司令官室の扉とか壁をぶっ壊していた為、その件で締められるかと内心恐れていたからだ。あの人なら普通に、素手で内臓や筋肉、骨とか引き摺り出すような事をする。
「……アンタの虐待経験は兎も角、普通の人は暴れても街はビクともしないわよ」
普段からどんな目で見られているのか、8組の連中は。
「それよりも、観光バスで行くのかよ。遠足でも修学旅行じゃねぇだろ」
和奏は背中にリデアを引っ付けながら視線を部隊の面々の向こう側に並ぶ大型のバスを見ながら呆れ気味にそうボヤく。
「現在、学園基地が1度に大多数の人数を輸送出来る乗り物があの大型バスしか無いらしいわ。
それでも運行ルートは学園基地から神奈川コミュニティ前まで、其処から先は歩きになるそうよ」
それは学園基地と神奈川コミュニティを繋ぐ海上大橋くらいしか安全圏が無い事を意味している。それ以外は、常に危険を伴う環境である事を意味していた。
「……成程な。そう考えりゃ軍用ヘリの1つや2つ、欲しい所だな」
空路である以上、ISに狙撃される可能性も否定は出来ないが、あるのと無いのでは移動速度的な意味では有用と言える。
「……ISの台頭で既存兵器、戦車や軍用ヘリの類も廃棄されてしまったらしいわ。……今となっては愚行であると心の底から後悔している事でしょうね」
フィリィナは鼻を鳴らしながら当時の各国の政府や軍部の人間を嘲笑った。軍事力をISに頼り過ぎた結果が皺寄せとなり現実に牙を剥いている。
「おい、そろそろ出発だぜ。部隊長さんよ?」
「そうだな。時間に遅れては元の子もない。長丁場になるだろうからな」
和奏を始めとする第8も大型バスに乗り込む。全員が乗り込んだタイミングで大型バスが走り出す。運転手は司令部の人間が行うとの事だ。
「へへーん。隣は私が頂きよ、ご主人様」
バス内は観光バスにありがちな、片側2席の配置だ。先頭の窓際を和奏が座りその隣をラーレがいち早く陣取った。
「どうせ直ぐに降りるんだから、そんな事で揉めんなよ」
海上大橋を抜けて行き、降車地点の神奈川コミュニティ入口近辺へと到着した。
神奈川コミュニティは現在、日本の臨時政府が設置されているコミュニティだ。その為、今現在の日本の政治、国政に於ける中枢として機能している。
当然ながら、他のコミュニティよりも物資や人材に関しては優先的に集約されている。当然ながら、この神奈川コミュニティ及び臨時政府が機能停止レベルの損害を被れば事実上、日本は国として崩壊する事になる。その為、臨時政府が設けられているコミュニティの規模とは裏腹にその入口は今や人類の天敵と化したIS側に悟られない様に小規模なモノとなっていた。
それこそ下町の片隅にある地下鉄ホームへの階段を連想させる規模であった。
「……あん? 何だ、あの光景は?」
大型バスから降りた和奏は視線の先に見えた光景に顔を顰める。
「ちょっと⁉︎ 移住は愚か立ち入りすら認めないってどう言う事よ⁉︎」
「そうよそうよ‼︎ 私達にも定住する権利がある‼︎」
「私達がどれだけ貢献して来たか、それすらも忘れるなんて、恩知らず共‼︎」
其処には多数の女性達による非難囂囂の声を上げている光景だった。鈍い、シャッターを叩く音が聞こえて来る辺り、入り口を閉じられ閉め出された者達の怨嗟の声だと分かる。
「見たまんまの光景でしょ? 過去に溜め込んだツケを今、支払わせられているのよ」
その光景を見てラーレは半目でそう告げる。彼女らは和奏の宣告に恐れをなして学園基地から逃亡した女性権利団体の面々である。
彼女達は以前からもコミュニティからも入場拒否(中には既に追放処分も)されており、寄生先の学園基地にも居られなくなった為に手頃なコミュニティ(と、最も物資が多いであろう)として神奈川コミュニティに詰め掛けたのだが、ご覧の通り、入り口は固く閉ざされ閉め出されている始末であった。
「……どうしましょう?あの場所に居座られてはコミュニティの人達も不安になるでしょうし」
「……せやな。コミュニティの入り口は複数あるとは言え、他の場所にも居座っているやもせぇへんな」
「……全く、いつの時代も1番の邪魔者は人類とは、実に滑稽な事だな」
第3部隊はその光景を見て不安視していた。此処に集まっているのが全員ではあるまい。あの手の……と言うか女性権利団体の人間と言うのはお菓子を強請って泣き叫ぶ幼児と大差ないメンタリティーしか持ち合わせて居ない事が大問題と言える。
「宵咲部隊長。お前が試しに挑発してやったらどうだ? さぞ蜘蛛の子を散らす様な有様になるだろう」
其処へラウラが和奏に声を掛けて来る。司令官室での一件はラウラも見ている。和奏の撫で斬り宣告を出して恐怖がまだ残っている筈だ。其処へ刺激を加えてやれば、瓦解する。
「……ボーデヴィッヒ部隊長。さては楽しんでいないか?」
「足を引っ張る連中が嫌いなだけだ。そもそも学園基地の物資の補給元は最寄りの神奈川コミュニティだ。奴らの所為で補給が滞ると後々、問題に繋がるのだよ」
「……ならば仕方ないな。要らぬ世話で窮地に陥る事などあってはならないからな」