青空DAYS外伝:『Phantom Period/AD』   作:Ziz555

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Singularity1 『General』

「ふっ!」

 

 一息に振り抜かれたパルスブレードは、ユウカの眼前に立ちはだかるアンドロイド兵を斬り伏せ、その意識を刈り取った。

 

「クソッ……!何なんだ、あんなのがいるなんて聞いてないぞ!?」

「何としても止めろ!格納庫に近づかせるわけには……!ぐぁっ!!」

 

 進撃を続ける侵入者を阻むため、シャーレビルに巣くうグループのメンバーが次々と武器を手に現れるが、その全ては彼女の敵ではない。

 巨大な鉄の塊でもある【Nuill】は、しかしそのばの誰よりも俊敏な動きで剣をふるい、弾丸を放ち、所狭しとシャーレビルの内部を暴れまわっていた。

 様々な姿をしたアンドロイド達は、さほど統制の取れた様子はなく、元々は別々の組織や団体に所属していた事が見て取れた。

 そこからは、この組織は長たる存在が居ることでどうにか統制が取れているだけの烏合の衆である事が見て取れた。

 

『ユウカ、ビル内部のスキャンが完了した』

「結果は?」

『やはり奴らの言葉通りだな。格納庫区画のセキュリティシステムだけが後付けで機能している……恐らく、叩くべきはそこだ』

 

 微かに残る、シャーレのセキュリティシステムを駆使し、シャーレビル内部の全容をスキャンしたセンジョウがその結果をユウカへ伝えると、ユウカは視線を上へと向けた。

 

「それじゃ、さっさと向かいましょうか」

『どうするつもりだ?エレベーターは当然動いてない。となれば当然唯一の通路である階段は警備が多くなる』

「唯一?……それはどうかしら」

『…………?』

 

 センジョウの言葉とは裏腹に、ユウカは迷うこと無くシャーレのエレベーター区画へと進んでいく。そんな彼女にセンジョウは戸惑いながら言葉をかけた。

 

『おい、だからエレベーターは動かな────』

「それ、重要?」

『…………まさか』

 

 固く閉ざされたエレベーターの扉をマニピュレータでこじ開けたユウカは、そのままその内側へと入り込む。

 動力を失い、ただの動かぬ鉄の箱となったカゴの天板をブレードで迷わず切り開き。その辺でようやくセンジョウはユウカの意図に気づいた。

 

『お前……』

「曲がりくねった階段を登るよりこっちの方が余程効率的でしょう?」

『……はぁ。いや、その通りだな』

 

 ユウカのどこか自慢げな様子に対し、センジョウは呆れたような声をだしつつ、しかし彼女の意見を肯定した。

 

 ユウカは、本来の役割を失いながらも、ピンと張られたワイヤーをマニピュレータで軽くつかみ、Nuillのスラスターの出力を調整する。

 

「────いくわよ」

『ステータスに問題は無い。……飛ぶぞ』

 

 ジェネレーターが唸りを上げ、エネルギーを集約し────解き放つ。

 Nuillは、その機体を持ち上げる力に従い、その機体をビルの上階へ向けて上昇させた。

 ワイヤーに添えられたマニピュレータが触れるたびに摩擦で火花を散らす。

 本来の【カゴ】の上昇する速度とは比較にならない速さで上昇したNuillはすぐさま目的の階層へと到達する。

 

 

 

 突如エレベーターから響く異音に、扉の前を歩哨中のアンドロイドは首をひねった。下層の戦闘音がここまで響いたのだろうか。だが、それにしては──。

 

 疑問のままに、異音の発生源である、もう動くことは無いエレベーターへと視線を向け。

 

 目の前が爆ぜた。

 

「ぐおおおぉぉっっっ!?!?」

 

 突然の爆発に姿勢を整える余裕もなく吹き飛ばされた彼は、壁面へと叩きつけられ、その衝撃で意識を失った。

 

「クリア」

『クリアというか、消し飛ばしたというか……、いや、もういいか。どうせスニーキングミッションをするような状況でもない』

 

 きれいに片付いたエレベーター前の区画を見て、ユウカはどこか満足げな笑みを浮かべて頷き、そんな彼女の姿にセンジョウはない首を横に振っていた。

 

 ユウカは、掴んでいたワイヤーからマニピュレータを離し、目的の階層……シャーレ、オフィス区画へと降り立った。

 

 そこは、所々に綻びを見せながらも、たしかに以前の面影を残していた。

 

 目を瞑れば、昨日のようにシャーレでの毎日が蘇る。

 センジョウと共に先生の仕事を手伝い、様々な当番の生徒達に振り回される先生の姿に、二人で呆れたようにため息を付いて。時には二人で先生のいないシャーレを回す事になって、ピンからキリまであまたある厄介事を持ち込む生徒達がいて。いつも、何処かに、先生を慕う生徒が。

 

『ユウカ』

 

 センジョウの声に、ユウカは意識を現在へと引き戻された。

 

 気がつけばそこにあったはずの日常は姿を消し、あるのは廃墟と化しながらも、生活の痕が所々に見られる、現実の、今のシャーレの様子だった。

 

────あの時の日常は、もう。ここには存在しないのだ。

 

「……ごめん。少し、浸ってた」

『気持ちはわかるさ。俺だって、未だに自分が長い悪夢を観ているだけなんじゃないかと思うことだってある』

「けど、コレが現実なのよね」

 

 眼前に広がる、無慈悲で、残酷な現実に、ユウカは拳を握りしめた。

 解っていた。知っていた。覚えていた。これが、これが、私の、私達の【選択】の結果で。だから────

 

『───だから、帰ってきたんだ』

 

 まるで、ユウカの心の内のその先を続けるかのように、センジョウが言葉を続ける。

 

『俺は、俺達は。【もう一人の俺達】の姿を、世界を、選択を、未来を、戦いを。…………想いを、見て、知ったから』

 

 

 

 だから。帰ってきたんだ。

 

 この、絶望に満ちた、私達の世界へ。

 

 絶望に、抗う為に。

 

 

「……行きましょう、センジョウ」

『ああ』

 

 

 自分達のキヴォトスを、平和な明日を。

 

 【青春の日々】を。取り戻す為に。

 

 

 ユウカは、ゆっくりと歩みを進め、シャーレオフィスの格納庫区画の前に立ち、右手を扉へと添えた。

 

「セキュリティは?」

『コレぐらいなら問題ない。Nuillのスペックなら────なんだ?』

 

 ぎぃ。と錆びた様な音を立てて、大きく、重い鉄の扉がゆっくりと左右へと開き始める。

 

「解錠、随分とスムーズじゃない。ヴェリタスのみんなにでも教わってたの?」

 

 呆気なく開いてゆく扉に、ユウカは少し目を丸くしてから、冗談めかしてそんな言葉をセンジョウへと告げる。

 

 だが。

 

『いや、違う。これは……』

 

 

 

 

 

「アポイントメントも無しの来客とは、随分と久しぶりにマナーの無い子供が来たと思っていたが。……成る程、合点が行った」

 

 

 

 

 

 格納庫の奥から、一人の男の声が響く。

 

 

 

「この期に及んで、随分と活きの良い【子供】がいるのなら、久しぶりに【大人】として躾けの鞭でも取ろうと思っていたのだが。まさかこんな大物がかかるとは思わなかったな。」

 

 男は、他のアンドロイドとは異なる風貌をしていた。

 

 装甲や、内部のカメラが透けて見えるフェイスパーツには、傷こそあれど行き届いた手入れを感じさせる。

 所々に焦げと破けのついた軍服は、みすぼらしさよりは歴戦の勇士としての風貌を思わせ、その立ち居振る舞いには【将軍】然とした風格を漂わせていた。

 

「あなたは……」

「お初にお目にかかる。……大罪人、【早瀬ユウカ】殿」

 

 ピクリ、とユウカの眉が動く。

 

 自分の名前を、いや。自分を【大罪人】と呼ぶと言うことは……、少なくとも、キヴォトスが崩壊するより以前にある程度の情報を掴んでいたと言うことだ。

 

『……気をつけろ、ユウカ』

「ええ」

 

 目の前の相手にも聴こえぬような小さな声でセンジョウの声に小さく返すと、ユウカはゆっくりと歩を進める。

 

「【大罪人】が、一体【旧シャーレビル(こんなところ)】に一体何の用かな?」

「用。と聞かれたら……そうね」

 

 ぐい。と、右腕の銃口を目の前の【大人】へと向ける。

 

「シャーレの業務を再開する予定なの。悪いのだけど、不法滞在人には退去してもらうわ」

 

 その言葉に、男はセンサーをチカチカと瞬かせてから、俯くと、小さく肩を震わせ始めた。

 

「くくく……はははは…………はーっはっはっは!」

「…………」

「いや失敬。……くくっ。まさか事もあろうに貴殿からそんな戯言が出るとは思わなかった」

 

 男はひとしきり笑い声を上げてから、小さく首を横に振るう。

 

「【シャーレ】だと?全ての学校が消え去り、生徒の一人もいなくなったこのキヴォトスで、あろう事にお前が『先生』になるというのか?」

 

 嘲るように、首を傾げる。

 

「他の誰でもない、『先生』殺しの【大罪人】である、君が?」

 

 その言葉に、ユウカは、センジョウは、何を言い返すこともしない。

 

 いや、出来るはずなどなかった。

 

 『先生』を名乗る資格が無いことなど、自分達が一番良く解っていた。

 『先生』を殺す引き金を引くことは確かにしなかった。いや、出来なかった。……しかし、目の前で【色彩】に染まっていく彼女を、ただ見ていることしか、出来なかった。

 このキヴォトスが荒廃していくのを、多くの生徒達が苦しみ、嘆き、悲しむ中で。それをどうする事もできず、その原因を産み出すこととなった自分の罪を。

 

 それでも。だとしてもと。

 

「だんまりか。都合の悪いことに口を閉ざすのは、やはりまだまだ子どものようだ」

 

 何も言わぬユウカに、呆れたように男は呟くと、ゆっくりと立ち上がる。

 

「では。1つ先達として教えてあげよう───」

 

 そうして、腰にさしていたピストルに手をかけた。

 

「────この世界は、夢を語ったまま大人に成れるほど、甘くはないぞ」

『ユウカ!!』

「…………ッ!!」

 

 男が武器を取った瞬間、センジョウの声に従い、ユウカは引き金を引いた。

 

 しかし、一瞬の迷いがその反応を遅らせ、その隙に男は大きく懐へと潜り込むようにしてその弾丸を回避する。

 

「コレでも元々は【ジェネラル】と呼ばれていたんだ。……前線の感を取り戻すのには骨が折れたが。慣れれば戦の空気も悪くは無い」

 

 ガッ!と、大きく脚を振り上げ、Nuillのマシンガンの銃口を蹴り上げると、ジェネラルは右手のマグナムの引き金を引いた。

 

「くっ……!」

 

 当然。ユウカの肉体を守るパルスフィールドはその弾丸の威力を受け止め、攻撃が直撃することは無い。

 

 だが。

 

『エネルギーの消耗が、大きい……!?』

 

 ただの、何の変哲もない弾丸。だというのに直撃を受けたNuillのパルスフィールドが大きく消耗を起こす。

 

『ユウカ!直撃は避けるんだ!何かある!』

「だったら……!」

 

 コレまでの敵とは違い、消耗を起こすと言うのであれば。取る対策はいくつかの選択肢がある。

 ユウカはそのうちの一つ───速攻による撃破を即座に選んだ。

 

「センジョウ!」

『加速するぞ!』

 

 左腕のパルスブレードを構えたユウカは、眼前のジェネラルを一撃の元で斬り伏せる為にセンジョウへと声をかけ、【速度】を書き換える。

 

 瞬間的に、時空すら超越した速度に到達したNuillに、ジェネラルは成すすべもなくすれ違いざまに切り裂かれる。

 同時に、センジョウは彼の意識を刈り取るための介入を行い────

 

 

 

「…………遊んでいるのか?」

『────書き換え、られない……!?』

 

 

 

 

────傷一つ無いジェネラルが、ゆっくりと振り返る。

 

「……まさか。この期に及んで【殺さない】とでも言うつもりか?」

 

 ジェネラルは肩を落とし、大きく首をふる。

 

「まさか、【大罪人】が、今更殺し程度に怯える小娘だったとは。正直に言えば、落胆したよ」

「…………」

 

 何をしたのか、されたのかを理解した様子はジェネラルには無い。だが、事実としてセンジョウの、【Nuill-Vana Perfect】の介入は阻まれ、彼の意識を刈り取る事どころか、干渉することさえ叶わなかった。

 

『……ダメだ、ユウカ!コイツには干渉が出来ない!理由はわからないが、今の俺たちにはヤツを書き換えることはできない!』

「分からないようだから、ちゃんと言葉にしてあげよう。私をここから排除したければ────」

 

 

 

「殺すしかないぞ、小娘」

 

 

 

 言葉と共に、再び数発の銃弾がユウカへと放たれた。

 今度は、攻撃の姿も捉えていたし、攻撃を受けてはならないということも理解している。故に、ユウカは冷静にその攻撃をパルスブレードで切り裂き、退ける。

 

 しかし、それだけだ。

 

「そら、さっきまでの威勢はどうした?怯えたか?竦んだか?」

 

 放たれる弾丸を防ぐばかりで、ユウカは一切攻撃の姿勢を取ろうとはしなかった。

 そんな彼女を煽るかのように、ジェネラルはマグナムの引き金を引きながら、彼女へと距離を詰める。

 

『ユウカ!ここは一旦引くしかない……!原因がわからない以上、このままじゃ────』

「…………センジョウ」

 

 センジョウの言葉を遮るように、ユウカは静かに口を開く。

 

「悔しいけど、ジェネラルの言う通りね」

『ユウカ……?』

「ほう?」

 

 銃弾を刃でいなし、繰り出される格闘をアームで受け止めながら、ユウカは言葉を続ける。

 

「私達は、『先生』じゃない。それに、甘えたままの【子供】では、もういられない」

 

 その声は、静かに。けれど、少しの震えもなく。

 

「【世界】は、こんなにも残酷で。絶望に満ちている。……誰も死なせない。なんて、そんな夢は、とうの昔に潰えているもの」

 

 そんな、優しかった。暖かかった。美しかった世界は。

 

 もう。

 

 

 

「だけどね」

 

 

 

 彼女の瞳は、前だけを、見ていた。

 

「私達は、そんな世界に。【絶望】に抗う為に、ここに来たのよ」

「今更、何を────」

 

 

 

 

「だから」

 

 

 

 

 刃が────閃く。

 

 

 

 

 

「【覚悟】なんて、等に出来ている、でしょう?」

 

 

 

 

 振り抜かれた刃は、寸分違わず【ジェネラル】の身体を切り裂き、真っ二つに両断した。

 

「が……はっ……!!」

 

 ひび割れたスピーカーから、ノイズ混じりの声が響く。

 

「……そう、か……!その、マシン、貴様は、『トリニティの英雄』の力を……!」

 

 ジェネラルは、その刃を持って、ようやく理解へ至る。

 

「『先生』のなり損ないが……!そうか、その為に貴様は……!」

 

 その声は、死に際において、苦痛とともに歪んだ喜悦を混じらせる。

 

「くく……ははは!【殺し】の業を背負い、尚理想を掲げ、『先生』には程遠いお前が……何処まで行けるか、精々地獄で楽しませてもらおう……!!」

 

 ショートした回線が、彼の動力部に備えたエネルギーを暴走させ────爆破を、引き起こす。

 

 怨嗟とも、負け惜しみとも取れるジェネラルの言葉を残し、爆発の光と音が空間を包んだ。

 

 光の中で、ユウカは。……ただ、静かに佇んでいた。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

『…………敵性反応、消滅。ミッション、クリア……』

 

 

 爆風の光が収まり、静まり返ったシャーレの格納庫の中で、センジョウは静かに目的の達成を告げる。

 

『…………すまない。ユウカ』

「いいのよ。もう、今更だから」

 

 力なく言葉を告げるセンジョウに対し、ユウカはバイザーを外しながら、辺りに散らばる【ジェネラルだったもの】を見下ろした。

 

「センジョウだって解ってたんでしょ。……もう、あの頃には戻れないんだって」

『…………』

「気を使ってくれてありがとうね」

 

 ユウカは、今、確かに誰かを【殺した】自覚を持ちながら──しかし、微塵も揺らがない自分の心に、一抹の後悔と、寂しさを覚えながら。けれど、自分の事を想ってくれていた最愛の人に慰めと感謝を伝えた。

 

「……ねえ、センジョウ。ここってセキュリティ、ある程度しっかりしてるのよね」

『あ、あ……。多分、少し時間をもらえれば、シャーレの機能の一部の復旧も難しくはないと思う』

「そしたら、安全の確保、お願いしてもいい?……少しだけ、眠りたいの」

 

 ユウカのささやかな願いに、センジョウは。

 

『……ああ、分かった。ちゃんと見守っておくから、今はゆっくり眠っててくれ』

 

 優しく、温かい声で、そう語りかけた。

 

「ありがとう。……おやすみ、センジョウ」

 

 そうして、少女は瞳を閉じて、微睡みの中へと落ちてゆく。

 

 

 機械のゆりかごに包まれたまま。静かに。

 

 

 今はただ、何も考えない時間が……欲しかった。






 解ってたけど話おっっっもい……()
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