青空DAYS外伝:『Phantom Period/AD』   作:Ziz555

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投稿が遅れてしまい申し訳ありません……

引き続き隔週更新のペースを守れるように精進します……


Intermission 01

 

 ジェネラルからシャーレを取り戻し、数日の時が過ぎた。

 

 シャーレビルという拠点と、頭であったジェネラルを失ったアンドロイド達は統率を失い、その力を急速に衰退させた。中には、ジェネラルを倒したユウカを打倒し、シャーレビルの実権を握らんとする無謀な男もいた。しかし、そんな荒くれ者共も、ユウカとセンジョウ──【Nuill】に敵わないことを悟ると、次第にシャーレ近辺からその姿を消していった。

 

 

 

 シャーレ近辺の治安状況を回復させたユウカとセンジョウが最初に行ったのは【クラフトチェンバー】の復旧だった。

 原理は不明だが、万物を創造する事のできる装置【クラフトチェンバー】。その機能を用いれば、現時点におけるひとまずの食糧難──突如として廃墟と化したD.U.地区において、食料の確保は深刻な問題であった──を解決することができると考えた二人は、その修繕を開始した。

 といっても、【クラフトチェンバー】は元々、『先生』の持っていた【シッテムの箱】のアクセス権限を持つものにしか起動することはできない、ともすればガラクタだ。懸念することがあるとすれば、ソレそのものの物理的な破壊がされている事だったが、幸いな事に、その機能は万全な状態で残されていた。

 その本体が破壊さえされていなければ【クラフトチェンバー】を意のままに動かす事は、今の【Nuill-Vana Perfect(蒼井センジョウ)】にとって造作もなかった。

 この世界には、【シッテムの箱】も、そのメインOSである【A.R.O.N.A.】も存在していない。【シッテムの箱】は、『先生』と共に失われてしまったし、その中に存在していた【A.R.O.N.A.】も、あちらの世界の先生のもとに残っている。故に、【クラフトチェンバー】本来の所有者は完全に失われている。

 

 だが、その役割が、機能が【万物の創造】であると言う事実を認識しているのであれば。それを【役割通り】に起動させ、運用させることはそう難しい事ではなかった。

 

 合わせて、出力が不安定であった欠点に関しても、その役割を【食料の生産】にのみ絞ることで、【クラフトチェンバー】の抱える可能性を剪定する事を済ませた。

 これにより、シャーレは飢えた元生徒たちへの配給機能を獲得し。

 

 そして。

 

 

 

────ユウカと、センジョウの。二人だけの【新生シャーレ】の、活動が始まった。

 

 

 

 その最初の活動は当然、この状況に苦しむ生徒達への配給行為だ。

 クラフトチェンバーにより生成された保存食の量はそう多くはない。だが、【シャーレ】復活の知らせは、瞬く間に旧D.U.外郭地区へと広がった。

 力を持たず、身寄りのない【元生徒】は、この知らせを聞き、疑いの心を持ちながらも、拠り所を求めてシャーレへと訪れた。

 そんな彼女達に対し、ユウカは献身的に援助の姿勢を示した。……配給の噂を聞き、その資源を狙った【大人】が襲撃をかけることも少なくはなかったが、それでも。ユウカはセンジョウの力を使い、そんな彼らの魔の手から【元生徒】達を必死に守り抜いていた。

 

 そうして、少しずつ、【シャーレビル跡地】を中心として、廃墟と化した旧D.U.外郭地区に、【元生徒】たちが身を寄せ合い生活を営む集落が形をなしていった。

 

 そんなある日の夜。

 

『ユウカ』

 

 センジョウは、片付けを済ませ、どうにか仕事のできる環境を整えた事務室で書類を作成するユウカへと声をかけた。

 

「なに?今、太陽光発電の効率の改善案の調整に忙しいんだけど」

『働きすぎだ。少し休め』

 

 シャーレを奪還し、安全を確保したユウカは、そこから丸1日の間、長い長い睡眠を取った後。それ以降、今に至るまで一度たりとも睡眠を取ることはしていなかった。

 当然、【Nuill】の影響を受けているユウカは現在、睡眠どころか、食事も、水分補給でさえ必要のない身体となっている。どれだけの時間連続で稼働し続けようと、その肉体が健康を失うことは無い。

 

 だが、その代償として、ユウカは【Nuill】を脱ぐことはできない。

 

 今はその戦闘用の装甲を外してはいるが、【Nuill】へアクセスするためのヘッドギアを兼ねたゴーグルを装着している。ユウカはそれを「都合がいい」と言っていたが、センジョウにはそれが健全であるとは到底思えなかった。

 

「そうも言っていられないでしょう。今はようやく私達【新生シャーレ】がみんなに受け入れられ始めて、この近辺の生徒達がやっと少しでも安心できる環境が形成され始めたのよ。今がいちばん大事な時って、わかるでしょ?」

 

 【Nuill】のゴーグルの補助を受け、カリカリと書類にペンを走らせながらユウカはセンジョウの提案を一蹴する。

 

「それに。『先生』だって同じくらい仕事してたじゃない。……あの人と違って、まだまだ未熟な私たちが、『先生』抜きで【シャーレ】を運営するなら、これぐらいは当然でしょう」

『そうかも知れないが、だけどこれは』

「バイタルコントロールに問題はない。それがあなたに見えている計算結果の筈よ」

 

 ユウカの言葉は、全て正論だった。

 

 だが、それでもセンジョウは、取り憑かれたように仕事へ打ち込むユウカの姿に────いつかの日の母の姿を重ねていた。

 

『…………もう少し俺を頼ってくれ。肉体のない俺は、生徒の皆とのコミュニケーションは出来ないとしても、頭を使うのはできる』

「でも────」

 

 

『もう』

 

 

 ユウカが否定の言葉を口にするより先に。その言葉を遮るようにして。

 

 

『見ているだけは────嫌なんだ』

 

 

 何もできない無力な思いは。したくないから。

 

 

 そう、ユウカへと伝えた。

 

「……………そう、ね。ごめんなさい」

『いや。俺の方こそすまない。……一刻も早く、俺たちの日常を取り戻したいだけなのは、解ってるんだ』

 

 二人は、静かに謝罪を交わし。互いの事を思いやる。

 

 この世界で、たった2人。……抗う事ができるのは、自分達だけだから。

 

「一緒に頑張りましょう。センジョウ」

『ああ』

 

 触れ合うことが、二度と叶わぬ、2人の手は。冷たい鉄のその先に、記憶に残る温もりを感じていた。

 

 

 


 

 

 

 

  翌朝。定期配給の時間が来た頃、ユウカ達は作業を切り上げて生徒達の待つシャーレビルの前へと向かった。

 

 

 

 そして、目の前に広がる光景に。己の目を疑った。

 

「はーい。皆さん、定刻の時間までもう少しですので、このまま列を崩さないで待っていてくださいねー!順番に、順番にです!配給以外のご要件のある方は手を挙げてくださーい!私が順番にお伺いしますのでー!列は崩さないでくださーい!スムーズに配給を行う為のご協力をお願いしまーす!」

 

 一人の生徒が、誰に言われるでもなく配給を待つ生徒達へ声をかけ、列の整理と、指示を行っていたのだ。

 

 そして、なにより。

 

「あ、あなたは……」

 

 ユウカの声に気づいたその生徒は、振り返ると、笑顔を浮かべてから頭を下げた。

 

「おはようございます。センカ先生」

「シュウコ……!?どうして此処に……、というか、なんで?」

 

 この世界で初めてであった、一人の生徒の姿にユウカは驚きの声を上げた。

 

「どうして、って……。【シャーレ】が活動を再開したと聞きまして。となれば、こんな世界でそんな事をする人を私は一人しか知りませんでしたから」

「で、でもだからといって……」

「先生」

 

 困惑した様子のままシュウコに質問を続けようとするユウカに、シュウコは少しの苦笑を浮かべた。

 

「みんな配給を待っていますから。準備をお願いしてもいいですか?私もお手伝いしますので」

『……ユウカ。今は』

「え、ええ……わかったわ……」

 

 シュウコとセンジョウに促されるままに、ユウカは困惑した頭をそのままに、とにかく目の前のお腹をすかせた生徒達のための施しを優先するのだった。

 

 

────その日の配給は、普段以上にスムーズに事が運んだ。

 

 

 支援を開始してから、シャーレ周辺へ集落ができた事で、配給の利用者が増えた現在、急激に増えた生徒達は配給の度にいくらかの混乱を引き起こしていた。

 十分な量を用意していても、この世界で生きてきたことで荒んでしまった彼女達の心は、些細な出来事であっても不満を抑えることが難しくなっていたからだ。

 そのたびに対応に追われていたユウカであったが、今日ばかりは、シュウコの手腕に助けられ、普段の半分の時間で配給を済ませることができたのだった。

 

「ふぅ……終わりましたね」

「そうね。……ありがとう。助かったわ、シュウコ」

 

 地面に腰を下ろしたシュウコは、ユウカから差し出された保存食と水の入ったボトルを受け取りながら「ありがとうございます」と礼を静かに返した。

 

「それで。次は何をしますか、先生?」

 

 ボトルに入った水を一口飲み干してから、ユウカを見上げて当然のようにそう問いかけるシュウコの姿に、ユウカは困ったように眉間にシワを寄せた。

 

「…………いろいろと言いたいことがあるのだけれど。まずはどうして此処にいるのかを聞こうかしら」

「どうしてって……。ここが【シャーレ】で、私達が【生徒】だからに決まっているじゃないですか」

「……………」

 

 きょとんとした様子で言葉を返すシュウコに、ユウカへ思わず額に手を当てる。

 

「前にも言ったけど、私は────」

「【シャーレ】を運営しているなら、それこそ【先生】以外の何物でもないじゃないですか。……たしかに、以前いた『先生』とは、違うかもしれませんけど」

 

 シュウコの言葉に、ユウカは言葉を失う。たしかに、シュウコの言う通りだった。

 何も言い返せないでいるユウカを見て、シュウコは口元に手を当ててクスリと小さく笑みをこぼした。

 

「私達も、安全に暮らせる場所を求めて来たんです。【シャーレ】が活動を再開したと聞いて、疑う子もいましたけど……私はセンカ先生の事を知っていましたから。すぐにピンときましたよ?」

 

 確かに、ユウカがシュウコと別れる時に「再会することもあるだろう」と言ったことは、彼女自身も覚えていたし、行く場所があると伝えていた事も覚えている。

 だが、だからといってこんなにも早く、それも、予想外な再会をするとは、ユウカはこれっぽっちも考えていなかった。

 

「その……、シュウコ。手伝ってくれたのは嬉しいし、助かるのだけれど……」

「ご安心ください。私、トリニティにいた頃はティーパーティーの幹部だったんですよ?きっとお役に立てます」

「いえ、そうじゃなくて……」

 

 自分の事を積極的に手伝おうとしてくれるシュウコの姿勢に対し、ユウカは困惑を隠せないまま、しどろもどろな返答を返す。感謝はしていても、ユウカにはシュウコの感覚が理解できなかった。

 

「センカ先生は、これからもっとたくさんの【生徒】達を助けるおつもりなんですよね」

 

 はっきりとしない態度のまま、ゴニョゴニョと喋るユウカに対して、シュウコは確信した様子でそう質問を……いや、確認を取る。

 

「それは、そう。だけど」

「でしたら、そのお手伝いは私がします」

「ちょ、ちょっと……別にそんな事しなくても」

「何を言っているんですか、先生。先生は【シャーレ】なんですよ?それなら────」

 

 

 

「────【当番の生徒】は、居て当然じゃないですか」

 

 

 

 満面の笑みを浮かべて自分を見上げるシュウコの姿に、ユウカは思わず言葉を詰まらせ、色々と言いかけていた言葉の全てが、喉の奥へと引っ込んでいくのを感じた。

 

 何も言い返せなかった。

 

「改めて。……今日からシャーレの当番を担当させてもらいます、柳木シュウコです。お役に立てるよう、頑張りますね」

 

 満面の笑みを浮かべて、自分の事を『先生』と慕う目の前の少女の姿に、ユウカは。

 

「…………よろしく、ね」

 

 

 

────こうして。【シャーレの先生】となったユウカとセンジョウに。初めての【生徒】が。できたのだった。

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