青空DAYS外伝:『Phantom Period/AD』   作:Ziz555

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時計の針は、壊れたまま。


Re:ターン

 

『掃射開始』

 

 機械的な音声が【Com-Saver】から放たれると同時に、両腕部の大口径機関銃がユウカへ向けられる。

 

『ユ……マスター!回避を!!』

「わかってる……っ!」

 

 被ロックオンを知らせるアラートに、ユウカはNuillのバーニアを吹かせる。瞬間、全身に通常の何倍ものGがかかり、Nuillはその機体を中へと飛び上がらせた。

 

 Com-Saverの機関銃が火を噴いた。

 

 ドガガガガガッ!!と激しい破砕音を響かせて、ユウカが直前までいたアスファルトの地面は瞬く間にズタズタに粉砕される。

 

『あんな大口径の実弾火器……!いくらNuillでも直撃すればパルスフィールドのエネルギーは5秒と持ちません!センカ先生!』

「せ……Null!!」

『言われるまでもない!【炉】に火を入れる!気合を入れろよ、マスター!!』

 

 センジョウは宣言とともに、Nuillのメインジェネレーターの出力を引き上げるべく、【ユウカの魂】にアクセスする。

 

『Nuill-VanaPerfect……出力、80%!』

 

 自分と、ユウカの意思を、想いを力に変えて、Nuill-Vanaはその輝きを増してゆく。

 

「エネルギーライン正常……、【全身展開(フルカウル)】!!」

 

 コアから生み出された【心の輝き】は、Nuill-Vanaのエネルギーラインを通じてその機体全身を包み込んでゆく。

 人智を超越した力は、Nuill-Vanaの出力を引き上げ、『実現可能な現実』を書き換える──

 

『敵エネルギー反応、上昇。……これは』

「Null!」

『ウェポンリミット、アンロック!』

 

 センジョウの操作により、Nuill-Vanaの背部ウェポンラックに分離格納されていた武装が射出され、ユウカは【ソレ】をマニピュレーターで掴み取る。

 

「ビームマグナム、オンライン!!」

 

 超高出力の単射型エネルギーライフル、【ビームマグナム】。この世界の『早瀬ユウカ』が、最も得意とする武装だ。

 

「火力も速さも────」

『危険度の高い武装を確認。優先対処します』

 

 【ビームマグナム】の弾倉に圧縮された高密度のエネルギーを感知したのか、Com-Saverは即座に迎撃の為のマイクロミサイルを背部より放出した。

 

 だが。

 

「────こっちが上よ!」

 

 【全身展開(フルカウル)】により、空気抵抗や、重力の縛りから解き放たれたNuill-VanaPerfectは、数値以上の速度でもって無数のミサイルを振り切った。

 

『ターゲットロスト……』

「その程度の追従で、私に直撃する可能性はッ!!」

『……!?』

 

 観測不能な速度での移動、瞬間移動に等しい程の移動を見せたNuillに、Com-Saverは一瞬の挙動不全を起こす。当然、その【一瞬】を見逃すユウカではない。

 展開されたサブグリップをマニピュレータでもって掴み、マグナムの照準をCom-Saverへと合わせ────

 

「完全に、ゼロよッ!!」

 

 バギュゥーン!!

 

 高密度に圧縮されたエネルギーがマグナムの銃口から解き放たれるとともに、その余波は空気をビリビリと震わせた。赤と紫の混じる凄まじい熱量を持った光条が、Com-Saverを襲う。

 

 回避をする間もなく、マグナムの直撃を受けたCom-Saverは、大きな爆発を起こした。

 

 

 

 しかし。

 

 

 

『外部装甲……損傷率、55%。内部衝撃緩衝機構、残量、15%……』

 

 

 

 Com-Saverは、全身から煙を上げながらも、その機能を停止することなく、ユウカの姿を捉えていた。

 

『リアクティブアーマー……!センカ先生!まだです!』

 

 Nuillのセンサーが捕らえている情報を確認したシュウコが、ユウカへ注意を促す。マグナムの直撃を受けてなお、Com-Saverは健在だった。

 

『それが【ビームマグナム】、……いえ、【Nuill-Vana】の性能のようね』

 

 Com-Saverのスピーカーから、リオの声が響く。

 

『ミレニアムの廃墟で発見された、詳細不明のオーパーツ……。【名もなき神々の信奉者】たちの技術が使われているとされる、強化外骨格装備(パワードスーツ)。さすがの性能といったところね』

「……」

『そのパイロットは、神秘を持たない少年、【蒼井センジョウ】。そして、それ以外の生徒では起動すら不可能だった。いったいどういう経緯で貴方がそれを乗りこなしているのか。私にも見当はついていない』

 

 冷静に状況を説明するリオに、ユウカは不敵に笑う。

 

「説明したら、この場を引いてくれる?」

『まさか』

 

 分かりきった問いに、リオは当然の答えを返した。

 

『そもそも、【Nuill-Vana】の解析不能領域はあくまでもコアユニットの話。ジェネレーターや、そのエネルギー源や変換方法が不明なだけ。貴方が武器として使っている装備の殆どは私の作り上げた【アビ・エシュフ】の運用データをもとに製造された物。……つまり、私の知っている範囲に収まっている』

「だから、同じく会長の作り上げた【Com-Saver】と性能は変わらない筈、とでも言いたいの?」

『いいえ。少し違うわ』

 

 全身から煙を上げていた、【Com-Saver】のあらゆる装甲から、蒸気が噴出する。

 

『コード確認。システムアンロック。……追加装甲をパージします』

 

 マシーンは唸りを上げて、全身にまとっていた装甲と装備を次々に分離させてゆく。重厚に見えていた全身の装甲は、その中に収めていた【ソレ】の姿を露にする。

 

 それは、ユウカにも見覚えのある姿をしていた。

 

 白い脚部に、深い藍に染められた装甲と、掠れたミレニアムの校章。背部に備えられた大型の主砲は機体の全長にも迫る砲身をしていた。

 

 ユウカの知るソレと異なる点は、1つ。

 

 

 

「アビ・エシュフ……!?」

 

 

 

 そこに、【飛鳥馬トキ】の姿は、ない。

 

『Com-Saver、システムE.R.D.、起動』

『今、貴方の前にいるのは、【アビ・エシュフ】を超えた機体。【虚妄のサンクトゥム(人知を超えた力)】を組み込んだ、貴方の敵よ』

 

 欠けている操縦者を補うようにして新たに備えられたコアユニットからつながる、センサーユニットが輝きを放つ。

 

「来る──ッ!」

 

 Com-Saverの両腕部トライポッドから、一斉に弾丸が放たれる。パージされた装甲に備えられていた大口径機関銃と比べれば、それは明らかに威力は低く、直撃でもそう簡単にNuillのパルスフィールドを削りきることはないだろう。

 

 だが、【アビ・エシュフ】の脅威はそこではない。

 

『これは────ッ!』

 

 放たれた弾丸をそのまま受けるわけもなく、当然ユウカは回避行動に出る。すべての縛りから解き放たれたNuillの速度は、現存するセンサー機器でとらえられるものではない。だが、それだけだ。

 

 回避をしたはずのユウカに、弾丸の雨が降り注ぐ。

 

「ッ!Null!!」

 

 攻撃の回避に失敗をしたことを理解したユウカは、防御へと意識を向ける。しかし、肉体の反応で間に合わないことは明白だった。

 ユウカの声にセンジョウは即座にジェネレーターの出力をあげ、防壁を展開する。

 

 放たれた弾丸はすべて防壁に阻まれ、直撃することは無い。だが、エネルギーは消費されてゆく。

 降り注ぐ弾丸の雨からその身を逃そうと、防御をセンジョウへ委ねたユウカは再び回避のための軌道を描く。だが、アビ・エシュフの追従を振り払う事はできない。

 

『コレは……!動きが読まれて!?』

 

 悲鳴にも似た声をシュウコが上げる。彼女の言うように、今のアビ・エシュフはNuillの、ユウカの動きを完全に予測し、その先へと攻撃を放っていた。

 それこそが、【アビ・エシュフ】の持つ最大の能力。短期的な未来予知すら実現する超高速演算。

 

 だが、それは本来『要塞都市エリドゥ』のリソースを前提とした限定的な運用法であった。ユウカ自身もそう記憶している。

 このキヴォトスにおけるエリドゥ、ネオ・ミレニアムのリソースを代替に使用しているのかとも考えたが、その考えを即座にユウカは改めるのだった。

 

「私達の敵は、【人智を超えた(そういう)】ものだったわね……!」

『ええ、そうよ。これが、王女から私が賜った力。エリドゥの計算機能すら必要としない完璧な守護神。【Com-Saver】の力よ』

 

 王女。それは、ネオ・ミレニアムに君臨する、【名もなき神々】の残した脅威。【忘れられし神々】を打ち取るための存在と成り果てた─────。

 

『マスター!!』

「……ッ!!」

 

 迷いが、判断を鈍らせた。

 

『────照準、固定』

 

 Com-Saverの背中に備えられたビームキャノンが、ユウカを捉える。

 

『照射開始』

 

 

 

 蒼白の閃光が、放たれる。

 

 

 

『う、お、おぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッッッッッ!!!!』

 

 

 センジョウが吼える。

 

 己の存在を、魂を、信念を、覚悟を。

 

 燃やす。

 

 

 

 

『パルスフィールド……全ッ開ッッ!!』

 

 

 

 ジェネレーターが唸りを上げて、Nuillの全身がひときわ大きく、蒼く、輝きを放つ。

 

『やらせるかよォォォォォォッ!!』

 

 もう二度と、愛するものを手放さないと決めたから。身体を失い、魂が己の全てと成り果てて尚、その『魂』を削ることすら厭わずに。

 

 蒼白の閃光と、蒼の輝きが衝突する。

 

「センジョウ!!!!」

 

 ユウカが、名前を呼ぶ。

 

 心が、触れ合った。

 

 

 蒼の輝きに、色が混ざる。

 

 

 心が、重なり、一つと変わる。

 

 

『「─────Nuill-Vana、【最大稼働】ッ!!」』

 

 

 心の光が、溢れ出した。

 

 

 虹色に光る優しい光は、Nuillを中心に広がり、Com-Saverのレーザーを押し返し、霧散させる。

 

『何が完璧な守護神だ!!』

「人の心を置き去りにして、こんな地獄を守る事に、なんの意味があると言うの!?」

『────っ』

 

 虹色の輝きに気圧されてか、それとも、二人の言葉にか、リオは言葉をつまらせる。

 

『それでも……、それでも!私は【ミレニアム】を守る……!一人でも多く、少しでも多くの命を守り、救う!それが、ビッグシスターである私の役割!』

「みんなのあんな顔を見ても、まだそんな事を言うの!?」

 

 Com-Saverの光線を弾き飛ばしたNuillを駆り、ユウカは戦場を翔ける。

 主砲による攻撃をいなされたCom-Saverは、戦闘のレンジを変え、新たに増設されたらしいヒートサーベルを展開し、Nuillへの距離を詰め、ユウカも左腕パルスブレードでそれを迎え撃った。

 

「あんなもの、生きているとは言わない!言いなりになって、何も言えずに!なにも感じずに!ただ呼吸を繰り返しているだけの生き方なんて!」

『────ミレニアムを捨てた貴女に、何がわかるの!!』

「わからない!解りたくもない!わかる必要なんて、無い!!」

 

 刃が、交差する。

 

「たしかに私は、すべてを捨てて、諦めて、逃げ出した!その罪は消えない、ミレニアムがこうなったのだって、私の責任!私の罪!」

『なら!』

「それでも!!」

 

 ユウカは、Com-Saverのブレードを受け止め、左脚を振り上げた。

 虹の輝きを放つ一撃が、Com-Saverの腕部を破壊する。

 

「私は戦うと決めた!もう逃げないと決めた!取り戻す!護り抜く!世界を!みんなを!明日を!────この手が届く、全てを!!」

『……ッ!?Co────トキッ!!』

「だから……!」

 

 抑える盾を失ったCom-Saverに、Nuillのパルスブレードが襲い掛かる。Com-Saverは、その一手先の未来を予測し、そして。回避が間に合わない事を、理解した。

 

 瞬く間に、その四肢が斬り飛ばされる。

 

 

『────損傷、80%……、戦闘継続……困、難』

 

 

 

 ノイズ混じりの音声が、どこか弱々しく響く。

 

 

 

『力になれず……申し訳ありません…………、リオ、会長…………』

『トキ……!トキ……!?また、私は────ッ!!』

 

 飛行機能を失い、地面へと墜ちてゆくCom-Saver。四肢失い、姿勢の制御も不可能な状況で地面へと衝突すれば、破壊は免れない。

 

 だが。

 

『…………?』

 

 ふわりと、暖かい光が、Com-Saverを包み込んだ。

 

「……言ったでしょう。私は、【全て】を、護るって」

 

 虹色の光を伸ばし、Com-Saverを──【彼女】を、包み込んだユウカは、どこか寂しそうな顔を浮かべていた。

 

「ごめんなさい、リオ会長。……それと、ありがとう、ございます」

『…………無駄よ。もう、無駄なのよ』

 

 ユウカの言葉に、力なくリオは言葉を返す。

 

『どれだけ抗おうと、どれだけ戦おうと、どれだけ、願おうと。もう、何も変わらない。私達には、もう、【明日】は。……だから、せめて、安らかな終わりを……』

 

 

 

 

 

「──────期待外れですね。調月リオ」

 

 

 

 

 

 声が。響いた。

 

『……ッ!?王女!?』

「この、声──ッ!」

 

 

 コツ。コツ。コツ。

 

 

 無機質な足音が響く。

 

「私と貴方の契約は、世界の管理の補助、私を邪魔する障害の排除。その対価としての【忘れられし神々】の保護。些末な手間が減るのであればと、その嘆願を受け入れましたが。残念です」

『まっ……待ってください!王女!!』

「口を閉じなさい。これは決定事項です」

『っ……!』

 

 小柄な少女は、堂々たる佇まいで、鉄の街を歩く。

 

「理解に苦しみます。一度世界を壊した貴方が、再び彼女達の命を奪うような真似をするとは。実に愚かです」

「……随分言ってくれるじゃない。貴女こそ、似合ってないわよ」

 

 ユウカは、見覚えのあるその少女の名を口にする。

 

「アリスちゃん。……いえ────」

 

 

 

 

 それは、鉄のような冷たい眼で、ユウカを見つめる。

 

 

 

「────ケイ」

 

 

 

「私をその名で呼ぶ許可など、していませんよ。早瀬ユウカ」

 

 

 

────ミレニアムのSingularity(特異点)が。立ちはだかる。






 更新が遅れてしまい申し訳ありません。思いの外盛り上がってしまったことで微調整に時間がかかったのと、リアルが忙しくなかなか時間が取れなかった結果こんなタイミングに……()

 今回の件を受けまして、皆様には当作の更新ペースに関しての変更をお伝えしようと思います。
 これまでは二週間に一度、とさせていただいておりましたが、これを変更し、『1月に2回』の更新とさせて頂きます。

 同時連載中の空白diaryもいよいよ大詰めと言ったところもあり、1つあたりの更新ペースも大分落ちていますが、諸々やりたい事も多く、勝手ながら変更させていただこうと思います。

 『青空DAYS』から始まった、蒼井センジョウを取り巻くお話にお付き合いいただいている皆様には感謝が付きません。今後も、まだしばらくは彼と彼にまつわるお話をしていく所存ですので、良ければお付き合いいただければ光栄です。


 11月19日を持ちまして、『青空DAYS』も一周年となります。
 記念の特別更新を本編でも予定しておりますので、良ければそちらも合わせてお楽しみください。
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