らいぶ・ざ・ろっく   作:後藤のアトリエ

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♯1 配信「青春真っ盛りのイケイケパリピダンスバブル」

 ――――配信開始

 

 ――――in 押入れ

 

【暗いな】

【クライナ】

【Cry】

【暗いな】

【バナナ】

 

 のそ、のそ

 

【出たな】

【出たわね】

【妖怪ピンクジャージ】

【桃太郎】

【女の子やぞ】

【桃子】

【妖怪だぞ】

 

 暗所にぽつんと置かれた座布団の上で桃色の物体が蠢く。

 

「ど、どうも~」

 

【どうも】

【はい】

【こんばんは】

【今日もピンクいね】

【実家のような声の低さ】

 

「んしょ……あっ、チューニング忘れてた」

 

 重そうに抱えたギターのチューニングを配信冒頭にし始めた少女は慣れた手付きで作業を始める。

 

 作業中にもコメントは流れており、読み上げられた音声に答えていく。

 

【配信前に準備してないんか】

【まあたまによくある】

【↑どっちなんだい】

【パワー!】

【待ち時間で筋トレやれ】

【今日は何弾くの?】

 

「あっ、今日は最近流行りのせ……青春ソングのカバー……です」

 

 少女は青春という言葉に敏感であった。

 

【何故それをチョイスしたのか】

【まだ弾いてないのに】

【おいたわしや】

【おい、タワシ屋】

【ダメージ受けてて草】

【ついこの間「青春なんて、へっ」って】

【「と、友達……?」】

 

「と、友達はいますし青春真っ盛りのイケイケパリピダンスバブルな

 ナイスHey! ロッキューガールなんですから~」

 

 少女は極度の虚言癖であった。

 

【逆に怖いわw】

【そんな怪物みたいな女子いねえって!】

【最近の女子ってこんななんか?】

【少なくとも女子校では見たことないですね……】

【掌編小説と化した概要欄】

【ムリスンナ】

 

「ほ、ほら、チューニング終わりましたし今日も張りきって弾いちゃいますよ~」

 

 話題をそらし、ギターをレンズに近づけてチューニングが終わったことを必死にアピールする。

 

 座布団横から新品の赤いピックを手に取り、弾く態勢に入る。

 手元を見る目は先程とはうって変わり、真剣なものに。

 

 

 

 さて、一般的に部活は17時頃、学校外のクラブでもせいぜいが長くても21時前だろう。

 活動そのものがお休みの日もある。

 

 1年は365日、1日は24時間。

 少女の1日の練習時間

 

 

 ――――6時間

 

 

 いや、今までの……ではない。1日あたりのだ。

 

 少女がギターを始めたのは中学1年生

 現在、彼女は中学3年生の始業式直後。

 

 丸2年、毎日6時間練習をすれば積み重なった時間は4380時間。

 土日は更に長い時間練習している可能性を考慮すればもっとだろう。

 

 

 

 

【うめぇ】

【良い音ダァ】

【淀みねえな(運指)】

【手ぇ白っ!】

【手ちっちゃ!】

【手ばっかり見てねえ聴け】

【私の演奏を聴けぇ!】

【いやガチでうまいわ】

 

「ふう……えっと、コメントコメント」

 

 少しかがんでノートPCのトラックパッドを操作し、演奏中含め今までのコメント流し見する。

 

「えへへ、ありがとうございます。へっ、うまい? でへ~」

 

【承認欲求が満たされる声】

【満たされたかい?】

【わいは空腹】

【もっと満たしていけ】

【もっと弾け】

【次は?】

 

「次は売れ線のちょっとネガティヴな曲です」

 

 これです、と動画を開く。

 

【ほーん】

【いいセンスだ】

【まさに売れ線】

【わりと好きなやつ】

【青春は眩しすぎた】

【うぉっ!? まぶ……しくない、ちょうどいい】

【でもこれ難しくない?】

 

「ちょっと難しかったですけど、弾けますよ」

 

【すげー】

【普段どんくらい練習してるの?】

【ほう、新人リスナーですか】

【良い質問ですね】

【いつからギターやってんだっけ】

【更に良い質問ですねえ!】

【ヒャッハー! 新鮮なリスナーだぜぇ!】

【さっそくとり囲んでて草】

 

 チャンネルのアップロード動画から最も古い日付ものを探し出し、

 そこから事前練習期間を逆算した。

 

「えっと……あっ、ギター始めたのはちょうど2年前ですね。

 練習は毎日6時間くらいやってます」

 

 少女は何気なく、なにを誇ることもなく、当たり前のように答えた。

 

【ふぁ!?】

【うっそだろお前!?】

【えと、ニートの方?】

 

【なんかこの反応懐かしいな】

【わりと1ヶ月おきくらいで発生しとるな】

【なんか古参感あっていい】

【ヒーローちゃんの功績語るの気持ち良すぎだろ!】

【自分のことにように欲求が満たされる】

【いやおめえらの功績でもなんでもねえから】

 

「……」

 

 コメントを他所にのっそりと準備する。

 

「んしょ、っと」

 

「次、弾きますね」

 

【マイペース】

【そこがいい】

【コメント準備しとけよー】

【らじゃ】

 

 

「――――!」

 

 ゆったりとしたイントロから徐々に音圧が上がっていき、

 それに比例するようにBPMが早くなっていく。

 

 ボーカルはないものの、現代社会の苦労などを風刺する曲であるためか、

 音だけでも雰囲気を読み取ることができる。

 

 演奏は佳境に迫る。

 

「――――スゥ」

 

 マイクに入らない程度にひと呼吸入れ、一気に弾ききった。

 

【染みるぜ】

【いいねえ……】

【歌うような弾き方だねえ】

【いやあ~好きですねえ~】

【ギタ男さんどうです?】

【誰や】

【なんだ見えんのか】

【そこにいるのにね】

【霊感ある人には見えるらしいっすね】

【草】

 

「ふっ……あっ、汗が」

 

 予め用意していたミニタオルで額を拭う。

 

【結構アップテンポだったからねえ】

【いや押入れの中だからだろ】

【湿度高そう】

【防虫剤の臭いしそう】

 

「一応、反対側の襖は少しだけ開けてるんですけどね」

 

 あっ、と思い出したようにリスナーへ重要事項を伝える。

 

「今日はあと3曲です」

 

【[朗報]あと3曲]】

【[悲報]あと3曲]】

【どっちなんだい!】

【どっちもだよ】

【そうなんだい!?】

 

 

【ちなみにボーカルはやらないんです?】

 

 

 

「え”っ」

 

 

 

 少女は本日一番の汚声を発した。

 

 

【おいおいおい】

【ヒーローちゃんに痛恨の一撃】

【1ダメージ】

【ヒーローちゃんはちからつきてしまった】

 

 

「む、む、む……」

 

 

【む?】

【むん?】

【えいえい?】

【むんっ!】

 

「むむむむむむむむむむむむむりですぅ!」

 

 首を勢いよく左右に振って振って振りまくる。

 明らかに首の骨やら周りの部分に悪影響だが、それはこの際どうでもいい。良くはないが。

 

【顔出しNGだけど今の表情は想像できますな】

【ボーカルコンプレックス刺激しちゃったかな】

【人前で歌えないだけだぞ】

【俺たちは人なのか?】

【いつから自分が人間じゃないと錯覚していた?】

【ピンクい髪とジャージが化け物みたいになってて草】

【襖に映った影がホラー】

【ホラーヒーロー】

 

「ぜぇ……はぁ……はぁ、んく、はあ」

 

 青鬼さんも真っ青の顔色と息切れに陥った少女、後藤ひとりは水筒を蓋を回す。

 

「えふっ、えふっ……あ”っ、ちょっと麦茶飲みます」

 

【助かる】

【ごきゅっ! ごきゅぅうう!】

【音すげえなw】

【ごきゅんっっっ!】

【おま、人間か……?】

【助かりましたか?】

 

「あ”い”……あっ、じゃあ続きやりますね」

 

【あっはい】

【あっはい】

【アッハイ】

【急に落ち着いたな】

 

 残りの3曲は過去に配信で弾いたことのある無難なセットリスト。

 様々なアクシデントはあったものの、週1回の配信は無事終了した。

 

 顔出しNGの女性ギタリスト。

 アカウント名ギターヒーロー。

 本名、後藤ひとり。

 

 友達無し、リアル対人コミュニケーション能力無し、家族仲良し。

 趣味はギターと演奏動画投稿……と、生演奏配信。

 




転職後メンタル安定したので再投稿&不定期更新
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