らいぶ・ざ・ろっく   作:後藤のアトリエ

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♯5 配信「転生したら犬だった件」

「ひとり〜、ごは…………」

 

 びくん…………びくん…………

 

 白目を剥いて口から泡を噴きながら痙攣するピンク色のナニカが居た。

 

「おねーちゃーん!」

 

 母親の横からひょこりと現れた小さい女の子がピンク色のナニカにダイブする。

 

「げふぅっ!?」

 

 その瞬間、後藤ひとりを衝撃が襲うっ!

 1ダメージ!

 効果は絶大だ!

 

「おねーちゃん起きて」

 

 ぺしぺしと小さな両手で頬を叩く。

 

「う、うぅ…………ふたり?」

 

「ひとり、やっと起きたのね。ごはんよ〜」

 

「あっ、うん」

 

 頬をむにむにといじられながらも女の子、妹である後藤ふたりを引き剥がす。

 畳から起き上がって、妹に手を引かれる。

 

 階段を降りてリビングへ行くと父親がお皿を並べていた。

 

「おっ、起きたかひとり」

 

「お、お父さんこれは…………?」

 

 いつもと違う食卓の様子。

 明らかに何かのお祝い事のような雰囲気。

 

「ははは、これはひとりが動画投稿してるチャンネルの活動2周年期記念だよ」

 

「え"っ!?」

 

 思わず声に濁点が付く。

 

「そうよ、ひとりがやっと打ち込めるモノを見つけたんだもの。それがすごく嬉しくて何かできないかなって」

 

「母さんと相談したら、やっぱりウチらしい祝い方がいいよねえってね」

 

 両親の言葉が心に染み渡っていく。

 配信でバッ!キッ!ボッ!とヒビだらけになったハートが癒されるのを感じる。

 

(これが、家族愛…………!)

 

 

「おねーちゃんなんで泡ふいてたの?」

 

「んぐっ!」

 

 思わぬところから急所を貫かれる。

 

 そっと妹に近寄り、優しく肩を掴む。

 

「お姉ちゃんは泡なんて吹いてないしビクンビクン痙攣もしてないから」

 

「うそだ「嘘じゃないよ、仮に事実でも言ってあげないのが優しさなんだよ、あなたも人の痛みが分かる優しい子になりなさい」…………ひぇ」

 

 歳の離れた妹を瞬きひとつせずに見つめて諭す姉。

 これは大人気ない。

 両親は苦笑いであった。

 

 

 

 

 

 

 ******……

 

 

 

 

 

 

 ーーーー配信開始

 

 ーーーーin 押入れ

 

「おねーちゃ「ちょっ! 今は下でジミヘンと遊んでて」やあーっ!「ほら、お姉ちゃんのアイスと棚の下に隠してるとっておきの食べていいから」ん、わかった…………いくよジミヘン!」

 

「わうっ!」

 

【どうm…………おや?】

【騒がしいな】

【事故か?】

【妹ちゃんか】

【じ、ジミヘン?】

【ジミヘン「転生したら犬だった件」】

【草】

 

 見事な対応で妹を丸めこんだと思い込んでいる後藤ひとり中学3年生。

 今度一緒に遊んであげようと心の中で思いつつ、先程の行動を誤魔化すようにギターをレンズに向けて構えた。

 

 ピックが弦に触れる。

 

【誤魔化したな】

【誤魔化したわね】

【誤魔化しましたね】

【もう(切り抜きから)逃げられないゾ】

【もう遅い】

【家族にジミヘンいるってマ?】

【わふぅ!】

 

 コメントには目もくれず、一心不乱に掻き鳴らす。

 その表情はーーーー

 

 

 真っ青であった。

 

 

(身バレ怖いしんじゃうぅぅゔゔゔっ!)

 

 会話は音声しかリスナーには届いておらず、特に個人を特定できるものはなかったが、後藤ひとりは妄想の世界へトリップし始める。

 

 

 ーーーーえーっ? 後藤さんってそうだったの?

 

 ーーーーパリピヒーローやばぁ

 

 ーーーー後藤さんって変人だったのねぇ〜

 

 ーーーーhahaッ! トンデモねぇcrazyガールDAZEッ!

 

 

「あぁうぅ〜」

 

 彼女は気が動転していた。

 

 それでも身体に染み込んだ技術はキッチリと演奏を続けてくれている。

 

「…………私は世界最強」

 

「…………あっ、調子乗ってすみません」

 

「ま、任せくださいよぉ〜、そんなのちょちょいのチョイですよぉ」

 

 

【こわっ】

【ついにきちまったな】

【高みに】

【て、天国ッ!?】

【支離滅裂な言動】

【思考】

【行動】

【これが、ギターヒーロー…………ッ!!】

【まーた現実逃避や】

【まあ数回に一回はこんな感じだし】

【ヒーローちゃんはいつも可愛いですね】

 

「…………ひとの夢は終わらねぇ…………ッ!」

 

【草】

【なんかいいこと言ってるけど時と場所が】

【某海賊漫画やんけ】

【財宝探し初めてらぁ】

 

「〜♪ 夢は醒めない〜♪ 私は人間国宝〜♪ 登録者日本人口ォ〜♪ でへへぇ〜♪ ギターヒーローォ〜♪」

 

 売れ線楽曲から急にどこにもないオリジナルの即興が始まる。

 無駄にレベルの高い演奏がリスナーの耳に届く。

 

【なんか始まった】

【うまっ!】

【即興かよ…………うん? メロディはいいな】

【歌詞がひでぇw】

【おーい、帰ってこーい】

【その先は地獄だぞ】

 

「…………ハッ!」

 

 後藤ひとりは正気に戻った。

 

 今が配信中であることを思い出し、コメントを追っていく。

 

「えと、あの、すみましぇぇんっ!」

 

 がたがたと肩を震わせながら謝罪する。

 

「これがセトリ…………あっ、さっき弾ききっちゃった…………」

 

「うぅ〜」

 

【ええんやで】

【ええんやで】

【まあ茶でも飲めよ】

【ごきゅん】

【俺らとお前の仲だろ?】

【お前もう曲作れ】

【実際作曲の才能あるかも〜】

 

「作曲…………」

 

 ごきゅりと水筒のお茶を飲み、目に入った作曲という言葉を脳内で復唱する。

 

(今までカバーばかりで真面目に考えたことなかったけど、作曲かあ…………ちょっと、考えてみようかな)

 

「…………でも、暗い曲になりそうだなぁ」

 

【むしろ好物】

【お前に青春は似合わない】

【それが持ち味だろ?】

【活かせっ!】

【まあ気負わんでいいよ】

【そそ、やるもやらないも自由】

 

【ここはギターヒーローが主役の場所なんだから】

 

「あっ」

 

(そうだ、ここは、この場所だけは、私が自由にできるんだ。誰の為でもないんだ)

 

 ふっ、と思わず笑みが溢れる。

 

 気持ちのままに、感情を流し込むようにピックを弦に触れさせる。

 暗い自分、卑屈な自分、鈍臭い自分、どこかズレてる自分。

 いつものひとりぼっち。

 

 ここにいるのはそんな自分を見て楽しんでくれている人たち。

 

 独りよがりな動画サイトのチャンネルだけれども、誰かに認めてもらえると嬉しいし、家族に褒められるともっと嬉しい。

 

 そんな相反する光と闇が溶け合う感情が、音の繋がりが、メロディとして画面の向こう側へ伝わる。

 

【…………ほう】

【心地いい】

【今度実家に帰るか】

【感情が入り乱れる感じもする】

【これは刺さるなぁ】

【ヒーローちゃん、立派になって…………】

【保護者かな?】

【似たようなもんだろ】

【〜♪】

【〜♪〜♪】

 

 演奏が終わり、数秒間の静寂に包まれる。

 リスナーたちは【いいじゃん】、【こういうの求めてた】、【時代の始まり見ちゃったかな】、【お前が人間国宝ォ!】、【よっ! ギターヒーローッ!】など、口々に褒めちぎった。

 

 

 この配信が終わった後、アーカイブ化する際に見直した後藤ひとりは気恥ずかしさのあまり海老反り&地響き声で悶絶した。

 

 

 

 視聴者数:1814人

 スペシャルチャット:66,300円

 登録者数:79,800人 → 81,700人

 

 

 

 

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