カケラあつめ~癖の強い三人、異世界で無双す~   作:みけさんわーきゃっと

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ちなみにこの作品の登場人物は形お変えて
れいぱんに受け継がれています
とくにつなくんは顕著


その1

 

 

 

 

Fragment 大地

 

どこにでもありそうな平凡な高校――春先には狂おしいほどの桜吹雪に見舞われるが

どこにでもいそうな平凡な僕――親友二人は苦笑いで否定するが

どこにもない話――フィクションにはあふれているが

関わってしまうことになったいきさつを思い返してみようと思うんだよ

 

一学期の終わりの日の放課後、明日から夏休みだという事もあいまって学校全体が浮かれたような空気に包まれていた。

僕――猪狩大地もいつもより足取りも軽く校内を移動していたんだ。

今日もいつものメンバーと帰るために。

 

「いちろー君、おわったかなぁ?」

 

生徒会室をのぞき込み、声をかける。

 

「ああ、丁度終わったところだよ」

 

目を細めながらいちろー君が答える。

いちろー君。

馬場一郎。眼鏡に肩ぐらいまでのやや長めの髪をオールバックに流している、長身痩躯の――100人に聞けば99人は「ザ・生徒会長」と呼ぶような僕の友達(例外の一人はヤクザの若頭と言った、ちょっと納得したのはいちろー君には言えないけど)

清く正しい怖くも優しいみんなの生徒会長――学校では

僕たちは割とゆるい所を知ってるんでもったいないなーと思うんだ。

生徒会長というフィルターで見なければとても楽しい人なのに。

 

「徹はどうした?」

 

「明日から休みだから自販機にアンバサ買いに行ったよ」

 

「好きだなあいつも!?」

 

うちの学校の自販機はコンビニやスーパーにおいてないようなラインナップが非常に多いんだよ――アンバサとかドクターペッパーとかプリンシェイクとか、梅よろしとかジョージアマックスとかルードビアとか炭酸ゼリー飲料とか 値段も70円~110円とリーズナブルで、マイナー飲料に魅せられた(一部では中毒者とも呼ばれている)人たちが長期休暇前に買占める姿がよく見られるんだ。

登校日でもないのにジュース買うためだけに学校に来る姿も結構見れるんだよね。

そしてとーる君はアンバサ中毒者……ご飯の時ぐらいお茶を飲めばいいのに……

 

「カルピスソーダでも変わらないと思うんだが……」

 

「とーる君にそれ言うと、とてもいい声で小一時間説教されるよ?」

 

僕がそういうといちろー君はアメリカ人みたいに肩をすくめるリアクションをする。

ちなみに僕たちはこのリアクションが結構好きなんだけど、いちろー君は無意識にやってるみたいで指摘すると恥ずかしがる。

 

「やつの声はよく通るからな」

 

「カンツォーネとか歌うとガラス震えるんだよ?」

 

「正直オペラ歌手とかになったら大成する気がする」

 

『帰れソレントへ』とか『サンタ・ルチア』とかすっごいんだよね、思わず拍手するレベル。

しかしなぜそんな歌を歌い始めたのかは誰もわからない、多分本人も。

ちなみにとーる君の鉄板ネタとして『鬼のパンツ』(メロディがカンツォーネの『フニクリ=フニクラ』)をカンツォーネ風に朗々と歌い上げるというのがあって、いちろー君はこれで大抵腹筋崩壊するんだよ。

 

で、体育館との連結通路の所の自販機でいいのか?」

 

あそこはアンバサが4か所に入っている、金鉱山みたいな場所(とーる君談)

アンバサ買うためにパチンコ屋やゲームセンター(なぜかその手の施設の自販機にはよく入ってるらしい)に出入りしていたため不良扱いされて、それでもなおアンバサを求めるとーる君の一言は実感がこもっていたんだよ。

 

「ううん、『裏門で会おうぜ!』っていってたし縮地使ってまで開幕ダッシュ決めてたしもう終わってると思うよ?」

 

「爺さんが草葉の陰で泣くぞ……」

 

「きっと爆笑すると思うよ?」

 

一昨年亡くなった僕のおじいちゃんは武芸全般の達人(本人はせいぜい名人といってたが違いが判らない)で若いころは相当無茶してたらしい。……訂正、中年ぐらいまで。

それをしる僕の両親はおじいちゃんより先に他界してしまっててついぞ武勇伝を聞く機会はなかったけども。

 

おじいちゃんは悪ガキっぽい性格でとーる君とは気が合ってたっぽく、何かと騒動を起こしてくれた。

ちなみに縮地といっても漫画的な奴じゃなくて、重力に身を任せて倒れながら地面をけって踏み出すことでいきなりトップスピードに乗る、一般人でも半年ほど訓練すればできるやつだよ。

おじいちゃんがやると漫画的な動きになってたけど……

 

「爺さんは徹に甘かったからなあ……」

 

「いちろー君にも甘かったと思うんだよ?」

 

むしろ僕が一番ぞんざいに扱われていた気がするんだよ。孫なのに、孫だからか……

でも僕は生き抜く方法をしっかりと教わった。家事とか大工仕事とか田畑の手入れとか。余所行きじゃない日常の部分。

そういう意味ではとても大事なことを教わった気がするんだよ。

 

「武術の指導は丁寧にしてもらった気はするが……、っと、それなら急ごうか、あまり待たせてもまたうるさいからな」

 

「そだね、待たせるとせっかく買ったアンバサ減っちゃうんだよ」

 

「職員室に鍵返してからだから10分といったところか」

 

「その時間だと二本ぐらい飲んじゃう恐れがあるんだよ?」

 

「えらく消費早いな!?いやわかってたけども!!」

 

アンバサを買うためにアルバイト始めるほどだもんね……

 

 

 

 

 

Fragment一郎

 

 

「それでは私はこれで失礼いたします、登校日に生徒会役員会議を行うのでその時にまた、鍵をお借りしますね」

 

「別に馬場が持っていてもかまわんのだがな」

 

鍵を受け取ってくれた江崎先生(29歳独身、化学教師、通称ぐり子先生)がなかなかに無責任なことを言う。

私の見立てでは、きっちり身だしなみを整えれば相当美人になるはずだが本人にその気がなくしゃべり方もぞんざいで男っぽい。

いわゆる残念な女性という奴だ。

 

私にプロデュースさせてもらえばその手のお店のNO2ぐらいにはできると思う。

果てしなく失礼だから言わないが。

 

「そういうわけにもいかないでしょう、所定の場所に返却するのはルールですし」

 

「受け取ったあたしがなくしそうで怖いんだよなあ……、まあ、ちゃんと受け取ったぞ。登校日になくなってたら多分あたしがやらかしたと思ってくれ」

 

「すぐ鍵置き場に置きましょうよ……」

 

やれやれな気分に襲われつつ職員室を出るとふわふわの愛らしい生き物が「てててっ」っと駆け寄ってきた。

まるで小動物のような様相に気分が一気に晴れやかになっていく。 ハムスターとかは心の栄養だ。

 

「いちろー君、終わったぁ?」

 

「ああ、丁度終わったところだよ」

 

この愛らしい生き物の名前は猪狩大地、私の気の置けない友人だ。

ふわふわの猫っ毛に華奢な体に低身長、極め付けが常に潤んでるような大きな目。明らかに男として間違ったパーツで構成されている。

 

100人に聞けば99人は「可愛い」と形容する私の友達だ(残りの一人のアホは男の娘と言った……言い得て妙だと思ったのは心の奥に封印しておいた)

 

「かーみーのーけーがーっ!?」

 

「む、すまない。無意識に」

 

大地の髪の毛は撫でるとものすごいからまるため基本的には撫でるのを我慢しているのだが、たまに無意識にやってしまう。

当然のごとく大地からは猛抗議が来た。

 

「絡まるからダメだって言ってるのにっ! それにいちろー君は僕撫でるとき、こけ子さんとか猫モフってるときと同じ顔してるんだよ?とーる君曰く『懲役物の笑顔』なんだよ?」

 

「どんな顔だっ!?」

 

「ぶっちゃけると子供に声をかけるロリコンおじさんみたいな」

 

「手厳しいな!?」

 

そこまでひどい顔してるとは思わない、思いたくない(やや逃避)

しかし、よく女子が大地と私を見てきゃーきゃー言っていたのはホモが嫌いな女子などいません的なことかと思ってたが……

私の顔がやばかった説が浮上するとは……

 

ちなみに可愛いものが好きなだけでホモではないと思う、時々胸が苦しくなるが大地の萌え力が高すぎるせいだと思いたい。

徹のアホは「俺普通に大地で勃つけど」とか言ってたが。そういえばアホで思い出したが……

 

「思ったよりも時間を食っているな」

 

「頭撫でなければもうちょっと早かったんだよ?」

 

「悪かったな、にしても徹を待たせ過ぎかな……」

 

柘植櫛(大地用に私達3人がそれぞれ持っている、椿油に浸したもの)で直してやりながらやるべきことを思い出す。

別に文句を言うようなアホではないが――

 

「アンバサの消費が増えちゃうんだよ」

 

「MAXまで行ってるか……?」

 

「ありえるんだよ?」

 

腹の容量があるので短時間では4本が限界のはずで、これが事実上の最大消費としている。

一日のMAXは気温にもよるが12本前後。糖尿になるぞ……

 

「血糖値がやばいな……」

 

「この前薬局で糖尿検査の紙買ってたんだよ?」

 

「気になるなら減らせよ! 飲む量を!!」

 

思わず倒置法で突っ込むぐらいにはあきれ果ててしまった。

悪党顔に渋い声の癖にやることがみみっちぃ……つくづくペースを乱してくれるアホだ。まあ、それも……

 

「悪くないんだよね?」

 

「心を読むな」

 

大地はてててっと私の前に出て、後ろ向きで歩きながら手を後ろで組んで私の顔をのぞき込んでそう言ってくる。

女子がやるあざといポーズだが大地がやってもあざとい。むしろ破壊力は大地の方が高い気がしないでもない。

あえてぶっきらぼうに突き放したがくすくす笑われてしまう。

 

「徹の血糖値のために急ぐぞ、大地」

 

「そこまで深刻じゃないと思うんだよ?」

 

頬に指をあてて小首をかしげる大地。

狙ってるとしか思えないんだが恐ろしいことにすべて天然である。

最高級国産天然素材である。セリにかけたらいくらの値段がつくことやら。

かぶりを振って馬鹿な感想を追い払いつつ足を速める私であった。

 

 

 

 Fragment徹

 

 「遅せぇ……!」

 

アンバサの三本目を飲み干して、唸るように吐き出す。

いや、決して機嫌が悪いわけじゃないんだが、生来声がでけえから抑えてしゃべる癖がついてしまっているんだ。

俺は徹、渡辺徹。友人二人を待って裏門で待機しているヤンキー――じゃなくてどこにでもいる学生だ。

 

そう、どこにでもいる学生なんだ。

だが、去年のクラスではちょっとひどい目にあった。

確かに俺は三白眼で頑固な剛毛のため気合入ったっぽい髪型に見えて、しかも緊張すると声にドスが効く。

 

こんな見かけの俺に対してファーストコンタクトを取ってくれた吉村。

『渡辺徹って俳優の名前と一緒だね』という軽いジャブに対して俺の返事は緊張のあまり『ああ゛ん?』(ドスの利いた声)

 

はい、ジャブに対して全力でカウンターのストレート(むしろ超必殺技)入れた感じになっちまいました。

それからというものクラスでの認識が「ザ・番長」。腫物を触るような感じの扱いで割と心で泣いてた。

 

『風間トオルの方がよかったなあ』とかいう返しも用意してたんだけどな。

なお、吉村とはいまではファミレスとかに飯食いに行く仲だ。

 

でも頼むから君付けとかドリンクバーとかの世話焼くのやめてくれ……なんかいたたまれないんだ。

大体においてそもそもの認識が違う、俺は不良ではなく――

 

「ただのオタクだってのに……!」

 

そう、ただの拗らせたオタクなんだ。マンガ、アニメ、特撮、ラノベ、ネットスラングに歴史に格闘。

おおよそのオタクが通るような道を一通り網羅した立派なオタクである。

 

大地とはそれがもとで友人になったし(大地は古い漫画、アニメ、特撮が大好きなのである)ズバットネタのわかる同年代は大地しかいないと思うぜ。

なお、一郎も俺と大地でこっちの世界に引っ張り込んだ。

 

最初に奴がはまったのが大地のコレクションの古い家庭用ゲームの銀嬢伝、銀河英雄ではなくユナのほうだ。

奴はギャルゲー、美少女キャラアニメオタクの素質があったのだ。

ただ淡々と鑑賞するからあんまり一緒に盛り上がれないのが残念だな。

 

んで、番長化の最大の要因は爺だ。

大地の家の庭で拗らせた男子なら必ず一度はやるだろう「技名を叫んで技になってない技を繰り出す」いわゆるごっこ遊びをしていた時に爺が『縮地?縮地ならこうだぞ』と目の前で漫画じみた動きをしたのが発端だ。

まだ純真だった俺は言っちまったんだ。『すげえ!教えてくれ爺さん!』と『わしの修行は厳しいぞ?』とか修行のテンプレみたいなこと言われたから『絶対にやり遂げる!』とうっかり宣言した。その結果――地獄を見た。

 

限界をちょっと超えたぐらい、そう、いやらしいことにちょっとだけ超えたぐらいの修行を爺はやらせやがるんだ。

でも限界を超えているから当然こなせるわけがない、そうしたらあのクソ爺はとてもとてもいい顔で言ってのけやがる。

 

『なんじゃ、期待外れだったか』とか『お前の絶対とはその程度なんじゃのー』とか『人生で辛いことがあったらこれからもそうやって諦めるんじゃなあ、負け犬だのう』とか、とにかく気に障ることを、しかも一度たりとも同じ罵倒がねえとくる。

 

気が付けば限界を一歩超えて気力で動いて何とかこなす。その繰り返しで基礎の肉体鍛錬をみっちりやった後に、歩法、受け身、合気(合気道じゃなくて合気、相手の攻撃の起こりを察知する技術)をこれまた延々と体に叩きこまれる。

いい加減飽きてきたころに、同じように爺に目を付けられて剣術習ってた一郎みたいに俺にも技とか教えてくれよと言ったら。

 

『小童の剣術は決まった武器があるから型というものがある、だがクソガキの修めようという体術というものはそれぞれの体が一品物の武器じゃよ。拳の握り方は教えれても、動かし方は教えると最終的には遠回りになる、だから自分で考えるのがよいぞ』

 

と、結局教えてはもらえなかった。

寂しそうに『当てたら死ぬ技を教わっても今の世では使い道もあるまいし……』とも言っていた。

 

なので俺の戦い方はボクシングと八極拳と空手と柔道とプロレスと色々……俺だってなんかかっこいい柔術とかムエタイとかコマンドサンボとかやってみたかったけども比較的簡単に資料が見つかるのがこのあたりだったんでしょうがなかった。

ただ、思ったよりシナジーが発揮されてて意外な技から意外な技につながる、あとプロレス技は下がコンクリだとどれも必殺。

爺じゃないけど決めたら死ぬ技を結果的にゲットしてしまった気もする。いや実戦で使ったことはねえよ?

 

実戦では(上級生に呼び出しを食らってシメられそうになった時)ひたすら転ばせて、逃げても転ばせて、逃げなくても転ばせて、仰向けになって動かなくなったら相手の胸に足載せてOHANASHIすると言う、爺直伝の『ちゃんと上下をはっきりさせる方法』で説得したところ、俺の校内での平穏は無事保たれた。

 

――先輩たちが校内であいさつしてきたり逃げ出すので番長レベルが上がってた気もしないでもないが。

 

だが今年は大地と同じクラスになったおかげで『ザ・番長』から『怒らせなければ無害な生物』に認識が改善されつつあって大分居心地がよくなった。

大地がことあるごとに俺をぶったたくんだが、そのつど最初のころは教室の時間が止まってたけど、俺が暴れだしたりしないことがわかり、今では日常の一部になって普通にクラスメイトとも(女子はいまだ慣れないらしいが……たまに怯えられる)会話や一緒に飯を食うレベルにまで緊張が緩和された。

 

「やっぱり大地は天使だな……」

 

ぽつりと思わずつぶやく、オタク特有の独り言が多いという奴だな。

大地が天使なのは俺の中では宇宙の法則に等しいのだが一郎に力説したら引かれた。さらに『うなじとか太もも見てたら普通に勃つね』と言ったらドン引きされた。

自分だってはマザコンという変態枠の中に入ってるくせに。

それにしても……

 

「遅いな……もう一本飲むべきか」

 

七月下旬なのにかなり暑い、年々暑くなってる気がする、温暖化ってやつか?

追加でアンバサを開けるべきか……と考えてると不意に声をかけられた。

 

「あれ? 渡辺君? 今日は裏門から帰るんだ?」

 

「ん、ああ、委員長か、今日は大地の所で飯。それから畑だ」

 

「もう、とっくにクラス委員長じゃないって何度言ったらわかってくれるの? ちゃんと名前で呼んで」

 

「ん、そうだったな、つい忘れる、すまない、さゆり」

 

「ひうっ!?……その声にはなれないわね、相変わらず」

 

彼女……酒井さゆり、通称委員長。一年の時のクラス委員長で俺にも普通に接してくれた、俺が『ザ・番長』なら彼女は『ザ・委員長』だ。

眼鏡みつあみタイプではなくカチューシャデコタイプの委員長といえばオタクは理解してくれると思う。あと巨乳。

清楚タイプの癖に「メロンでも入れてるの?」的な膨らみが破壊力が高い。

 

――余談だが巨乳の人物が乳に服を持っていかれておなか(orシャツ)が見えるあの部分も俺は絶対領域だと力説したい。太ももニーソも確かに破壊力はあるがあれは見せること前提である。逆にこっちは油断がエッセンスとなってさらに破壊力があると思うのだがどうであろうか?

 

話が明後日のほうにいっちまったな……それと委員長は、俺も含め誰にでも分け隔てなく相対することのできる公平な人物で、そのあたりも好感が持てる。

「俺に惚れてるんじゃねーの?」的な勘違いをしたかったが、俺の他にもみんなにさけられていた俗にいうキモオタ系の人物にも普通に話しかけていたため勘違いはできなかった……ちょっとの間ぐらい妄想したかったぜ。

 

ただ、そのキモオタ系の人物はちょっと勘違いしてしまったらしくちょっと大変なことになってしまった。

やむなく武力介入したわけだが、俺が暴れるさまを見ても委員長は態度を変えなかったのでマジ感激した。

 

余談が過ぎたが俺的には大地が天使なら委員長は女神かという感じの評価になる。

むろんそんなことを言ったらドン引きされるから言わないが。

 

「ああ、すまない。不機嫌なわけじゃないんだが……」

「ええ、それはわかっているのだけれど……」

 

 俺の声はヤバいらしい、この前うっかり聞いてしまったクラスのちょっとギャル入った子たちによると、『あいつの声ヤバくね?』『ヤバいよね、あたし近くで聞いたら立ってられないかも』『わかるー! 壁ドンとかされたら絶対気絶するっしょ』『ヤバいよねー』とのことで置き忘れた漫画を取りに教室に入るのをあきらめたこともあった。

……気絶するほどの危険物かとちょっとへこんだ。

 

「普通にしゃべると声が大きすぎてな……」

「確かに大きかったけど、あれはないわね」

 

思い出したのか委員長はくすくすと笑う。

武力介入したとき安堵した委員長が腕にしがみついてきたんだが、迸る俺のDT力が叫ばせた。

『委員長! オッパイ! 当たってる!!超デケエ!!!(裏声)』

 

普通だったら通報されてもおかしくないと思う。最低でも次あったら無視するレベル。しかし委員長は今も普通に接してくれる。女神としか言いようがない。

 

「普通動転するだろ」

 

「普通の男の人なら多分黙って堪能すると思うの」

 

「それが普通なら俺は普通じゃなくていいな」

 

「え どうしてかしら?」

 

「なんか卑怯だ」

 

 ラッキースケベはあってもいい、だが怯えた女がしがみ付いてるのにエロを考える余裕は俺にはねえ。

 

 「むしろ怯えてるいいん……さゆりに何か声をかけて落ち着かせてやるべきだった。すまん」

 

そういって深々と頭を下げて謝罪する。

 

「……」

 

「さゆり?」

 

「あ、あうん、いえ、そう、大丈夫よ、アレだって十分正気に返る効果があったのだから」

 

謝罪して頭を下げたが反応がない。しばらくぼぅっとして再度声をかけると急にわたわたしだす委員長。らしくねぇな、やっぱり思い出させたのはまずかったか。

 

特製スポーツバッグ(中に断熱シートを張ってある)からアンバサをとりだして……うん、まだ十分に冷えてる。委員長に手渡す。

 

「まあ、飲んで落ち着いてくれ」

 

ちなみに俺がアンバサを自分から渡すのは大地と委員長だけである、――一郎にはくれと言ったらしぶしぶ渡す。

 

「ありがとう、でもいいの?」

 

「さゆりは特別だ」

 

「またそういうことをサラッと……、いただきます」

 

「おう、飲め飲め」

 

そして委員長はちょっとうれしそうに――やっぱアンバサは偉大だな。アンバサを飲み始めて……

 

「あーっ!? とーる君がさゆりちゃんナンパしてるんだよっ!」

 

盛大に噴出した。

 

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