カケラあつめ~癖の強い三人、異世界で無双す~   作:みけさんわーきゃっと

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その3

 

 

 

 

 

Fragment一郎

 

 

 

 

「うおっ!?」

 

一瞬の浮遊感のあと地上数十センチ(おそらく荷台の高さ)に投げ出された。

 

「別れたのか……まずいな」

 

大地と徹は正直どんな状況でも生き延びるだろうが、私はそうじゃない。

道具と知識がそろって初めて十全にスペックを発揮できるタイプなので、実は一番あっさり死にかねない。

 

「とりあえず、現状の把握だ」

 

一リットルステンレス水筒(麦茶が半分ほど)、味噌大匙二杯ほど、収穫はさみ、マイクロファイバータオル、スマートフォン(残念ながら圏外だ、電源を切っておく)、ウエストポーチ、中身は目薬、冷感スプレー、財布、眼鏡クリーナー三枚、柘植櫛、下痢止め、鎮痛剤、ばんそうこう、湿布、のど飴七つ、キャラメル二個、作業用ツナギ、長靴、眼鏡(乱視用)……

武具的なものはないが水筒はありがたいな、水としてもだが後で売れそうなものでもあるだろうし。

 

持ち物を確認して、そしてあたりを確認する。

 

「街道……か?」

 

轍の残る道、馬車か何かはあるぐらいの文明レベルか? 道幅は割と大きめ……いや馬車がすれ違うのは難しいか?

道はほぼ平坦でどちらかが山とかはわからない、治安の良さも不明……街道歩いていていいのかと悩む。

 

「まあ、立ち止まっていては飢えて死ぬだけだしなあ」

 

長靴で長距離はあまり歩きたくはないんだがしかたない。文明レベルがわからないので眼鏡はしまっておく。

私は手ごろな石を数個拾って街道を歩きだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「それはエルフの使う木々の架け橋に巻き込まれたとかでしょうか、エースさんの先祖にエルフとかいたのかもしれませんね。何にせよ災難でしたね」

 

「おかげで、こんないい出会いがあったことだけは幸運でしたが」

 

「私こそ、このような珍しいものを売っていただいて幸運ですよ」

 

三時間後、私は荷馬車に乗って話をしていた。

この人――道の脇の広場で休憩していた行商人のマルクさんに私は保護を求めたのだ。最初はかなり警戒されていたが手持ちの道具で気を引いてなんとか会話に持ち込めた。

会話しながらこの世界に何があって何がないのか。そういうのを探っていってとりあえずのプロフィールをでっち上げた。

 

名前はエース、まあ一郎だからエースという安直な偽名だが悪くないと思う。

 

とりあえず、冒険者兼薬師としてある程度の勉強はしてきたが錬金術にあこがれているということ。

採取して森を抜けたら見たこともない場所に出てきたこと。自分の住んでいたところの貨幣が使えずに困っていること。

 

試作品の道具や薬をわずかながら持っているので換金したいこと。

それらのことをしっかりとした『言葉』で告げ、取引を持ち掛けた。

 

そう、言葉は通じた。共通語というらしいが、これはちょっと面白かった。

最初私はマルクさんの外見から『英語』を選択して英語で話しかけた。

そうしたら『英語』で答えが返ってきた。

 

通じたことにやや驚いたが、そのまま会話をしていて、マルクさんに年を聞いたら想像よりも大分年配で、驚いてちょっと考えをまとめたかったので思わず『日本語』で『ちょっと待ってください』と言ったら『日本語』で返事が返ってきた。

うちの故郷の言葉しゃべれるんですか? と問うとそれはどんな言語だ? 聞いた事がないが魔物言語なのか? 人間相手だし共通語しかしゃべっていないという。その共通語が魔法的なものなのか私たちがチート貰ったのかは定かではないが、意思の疎通には困ってないというわけである。

 

「試作品ですので不都合はあるかもしれませんよ?」

 

「ええ、もちろんそれはわかっていますよ」

 

ちなみに売ったのは長靴とステンレス水筒で、引き換えに皮ひもと、水袋と、替えのサンダルと百円玉やや小の銀貨45枚になった。銀貨1枚で銅貨10枚とのこと。大きい方では金貨1枚で銀貨100枚、小金貨という小指の爪ぐらいの小さい金貨もあるとのこと、これは銀貨10枚相当だけど無くしやすいので不人気な反面、下着や服の裏に縫い込めるので用心深い人間は必ずいくつか持ってるそうだ。

 

飯付きの安全な宿で銀貨三~五枚とのことでこれでおおよそ10日は生き延びれる計算になる。

銀貨一枚が大体1000円ぐらいだと思えばいいようだ。

 

マルクさんはよい商人だった。ぼったくることもできたろうに、真剣に価値を考えて値段をつけてくれた。

内訳は長靴が銀貨10枚で水筒が35枚だそうだ。ただし、さっき入れたお湯が町まで暖かかった場合という条件付きだが。

水筒はともかく靴が高いのは意外だったが、貰ったサンダルの出来を見たらなんとなく納得できた。激しく動いたら半月ぐらいしか持たないんじゃないだろうか。

 

「町まではまだかかりますか?」

 

「そうですねえ、日が沈む前にはつけると思いますが」

 

ちなみに荷馬車は歩くのとさほど変わらない速度でのんびりしたものである。

雨が降ったりすると間違いなく歩いた方が早いそうだ。

 

「この辺りはゴブリンとかは?」

 

「たまーにでるぐらいですね。街道は人通りが多いし、はぐれぐらいしか近づきません、むしろ怖いのは縄張り争いに負けた獣でしょうか」

 

適当に聞いてみたがやっぱりいるのか、ゴブリン

たまにしか出ないということは逆を言えばたまに出るってことだが……

 

「大丈夫なんですか? そんな恰好で」

 

商人というよりも猟師に近い格好ではあるが、明らかに防御力が足りていないような気がする。

自分のことを全力で棚に上げている気もするが。(夏用の薄手のつなぎである)

 

「そのための馬ですよ、目と耳はいいので先に発見して荷台は切り離して逃げればいいんです、人生は長いんです、生きてればまた再起できますから」

 

運が良ければ回収できますしねとマルクさんは笑って言う。

驚いた、そして尊敬にも似た感心をした。この世界の住人の性なのか、マルクさんの考えなのかはまだわからないが、死が身近にある世界ならではの感覚だと思う。

 

「先に発見して、弓か何か持っていれば追い払うぐらいはできるんじゃないでしょうか?」

 

マルクさんの耳を見ながらそう問いかけると、マルクさんは困ったように頭をかいた。

 

「この見た目でおはずかしいんですが、下手糞で当たらないんですよね、矢も消耗品ですし……いちおう手槍は荷台の横に括り付けてありますよ」

 

もっぱらぬかるみにはまった時の梃子用ですがとマルクさんは笑いながら言う。

……どうも腑に落ちない。遠距離攻撃手段はあればあるほど――仮に当たらなくても、有効な使い道はあるはずだ。

でたらめにはなっても射たれた方は嫌なはず……マルクさんの顔を見てふと理解できた。

 

「そうか、魔法か」

 

納得したようにひとりごちるとマルクさんが目を鋭くしてこちらを見た、ん? 気を悪くしたのだろうか、雰囲気がやや硬い。

隠しだねという奴だろうか? でも恰好を見れば魔法使うとみんな思うだろうに。

 

「何故そう思ったのでしょうか?」

 

「魔法使いは重装備は嫌うと聞いた事がある、身に寸鉄すら帯びてないのはいくら逃げるといってもおかしいと思う」

 

「……精霊は鉄を嫌いますので」

 

「精霊使いか、すごいな」

 

称賛するとマルクさんの目が和らいだ。

見せてもらいたいがMP的なものを消費するとしたらそれは切り札なんだろうし、軽々しく使えとは言えないな。

 

「せいぜいが足止めに使える程度ですよ、冒険者の皆様のようにそれだけで食べていけるほどじゃありません」

 

「商人は戦うのが仕事じゃないと思う。無事に目的地について商いをするのが仕事だから、足止めでも十分に食べる役に立つと思います、やはりすごいことだ」

 

「あまり褒めないでください、調子に乗ると大けがしますから」

 

「それをわかってる人間は絶対大けがなんかしないものだと思いますよ」

 

 マルクさんとのつなぎをこのまま消すのが惜しくなってきた、なにか方法は…… 

 ウェストポーチからキャラメルを取り出して……どうしよう、この世界にあるのだろうか……まあいいか。

 

 「マルクさん、キャラメルって知っていますか?」

 

 「キャラメル? いや、聞いた事はないですね」

 

 「疲労回復、滋養強壮の薬なんですが」

 

と、キャラメルをマルクさんに見せる。気になるのか顔が近い。

回復に関しては嘘は言っていない。糖分は急速にエネルギーを回復する。

 

「勉強不足で申し訳ない、やはり聞いた事がないです」

 

「困ったことにこの薬とてもおいしいのですよ」

 

「ほほう、健康な時に食べてもいいのですか?」

 

「問題ありませんよ、もうこれしかないですが、お好きな方を一つ取ってください。残った方は私が先に食べますので、安全を確認してからマルクさんも食べるといいですよ、あ、外側のは包み紙ですので食べないようにしてください」

 

私がそう提案すると、マルクさんは『それには及びませんよあなたを信用しますよ』と言って私の手のひらからキャラメルを一つ取ると包み紙をはがして、口に放り込んで、もごもごとしたあと目を見開いて叫んだ。

 

「やだ、なにこれ!? すっごく甘くておいしい!!」

 

ほう、エルフ耳って興奮すると動くんだな。

たぶん初めてのキャラメルに商人の仮面を木っ端みじんに粉砕されたかわいらしい女の子(ただし御年166歳)がそこに爆誕していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Fragment エース

 

 

 

 

 

 

 

 

食べ終わって(すごい勢いで咀嚼していた)もう一つのキャラメルもちらちらとみていたので渡してあげると、一瞬動きを止めて、そして遠慮してきた。

 

「いえ、さすがに貰うわけには……」

 

「マルクさんが私を信用しなければこれはもう私の口の中です。信用したからこそここに残ったのです。つまり受け取る権利はありますよ」

 

「しかし、薬というからにはお高いのでは……?」

 

「では一つ二つ質問に答えていただければ、それは差し上げますよ」

 

「答えれることならいいのですが……」

 

とさすがに逡巡するマルクさん。

だか今の私にとっては情報こそが宝、まさに値千金である。

 

「砂糖、この辺りで手に入りますか?」

 

「すごく高いですが……、まさかこれ……!?」

 

「ええ、主原料の一つに砂糖が」

 

「ますます受け取れませんよこんなもの!? やださっき食べたぶんどうしよう……」

 

また、仮面がはがれてきている、つまりはそういうレベルの高級品というわけか。

 

「仮にこれに値段をつけるとしたらいくらになります?」

「銀貨2……いや、3枚……薬としてなら下手すれば10枚ぐらいは……」

 

高級チョコレートレベルか……薬換算ならあやしい健康食品レベルか……

これは大地が作ったもので砂糖、水あめ、牛乳だけで作られている。水あめは麦があれば作れるし、牛乳に近いものも探せばあるだろう。つまり砂糖さえ手に入れば。

 

「ぼろ儲けできるな……!」

「えっ!?」

 

思わず出た本音にマルクさんがビクッっとする、いや、マルクさんからお金取るわけじゃないですから。

 

「砂糖がなるべく安く手に入る場所、あるいは人、教えていただければもう一つも差し上げますよ」

 

「……! あ、えっと……コホン、それは現実的な話でですね?」

 

「いちおう理想も聞かせていただければもっとありがたいですが」

 

見た目が少女エルフとはいえやはりいっぱしの商人だ。女性に失礼かもしれないが年の功という奴だろうか、裏の意味「非合法」も頭にあるのだろう。

 

「現実的な方だとこの街道の西側の終端の港町ヌムルスですね。ほかの町の半値ぐらいで――交渉次第ですが、買えます」

 

「やはり船で南から?」

 

「そうですね、砂糖は南方の産物ですから……詳しいんですね?」

 

「薬学は材料をそろえるところから仕事ですので」

 

さらりと嘘をつく。薬品など作ったことは……あ、結構あった。

 

「理想の方は自分で船を仕立てるか、現地に行って生産して、もって来るかですね、あとは海賊から買うという手もありますが安定しませんし、つてもいります」

 

「流石に非合法のは避けたいですね……」

 

「多分現地で作っても運搬出ますよね?」

 

キャラメル、かなり長持ちしますよね? と目で問いかけてくるのでうなづきで返す。

飯の種だが秘密にすることもないだろうし、マルクさんなら販売の方でも協力できそうだからな。

カカオがあるかまではわからないが同じ油脂分+糖分なのでチョコじゃなくても非常食としてはかなり効率がよいのだ、キャラメルという奴は。

 

「商ってみますか? 生産のめどがついたらと、マルクさんがお嫌でなければ」

 

「是非! あ、でも仕入れ値次第ですが」

 

飛びつかずちゃんと利益を考えれるのは流石だな。

 

「正直、砂糖の値段次第だと思いますけど、先ほど砂糖を使ってると聞いた後の値段が銀貨2、3枚とのことでしたので、薬ではない『質の落としたもの』を銀貨一枚でどうですか?」

 

「……どういう風な落とし方でしょうか?」

 

「たとえば日持ちがしない、たとえば甘みが薄いなどでしょうか」

 

「現物を見てからでいいでしょうか?」

 

「もちろんです、それにもしかしたらもっと安価に砂糖が手に入るかもしれませんしね」

 

大地ならサトウキビを温室で育てるとか甜菜みつけるとかしてくれるに違いない。

 

「もしそうだったらうれしいですね」

 

「期待しておいてください」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで今から向かう町はどのような感じですか?」

 

「メリムの町と言って、大きめの宿場町です、宿泊施設を中心に発展した町ですので特産品などはないです、あ、いや、あるのかな?」

 

「ん? どういうことでしょうか?」

 

マルクさんがちょっと困ったように……エルフ耳がへにゃんとするのか、徹がいたら絶対騒いでいたな――教えてくれた。

 

「エルフ六王の一人、枝の王の細工物が手に入るのはメリムだけ……とのことです」

 

と、後ろの籠に目をやってくる

 

「ええと、つまり、それですか?」

 

無造作に積んである籠から覗く大量の置物らしきもの……正直よい出来とは思えない。買ったらあとで困るタイプのものに見える。

 

「王の魔力がこもってるせいで、いちおうこれ畑とかに置いておくと作物の出来がちょっと良くなるんですよ……困ったことに……」

 

これが!? とおもうし、マルクさんの説明も嫌そうでぞんざいな気がする。

 

「そこそこの値段で売れるし、需要もあるんですけど……美意識的にちょっと……」

 

微妙にデッサンが狂っている、というか見ていてそこはかとなく不安を感じる造形だ……日本で絵に起こしたら間違いなく『画伯』認定されるはずだ。

 

「……王様が手ずから?」

 

「……ええ」

 

沈痛な表情でマルクさんがうなづく。特殊能力があるせいで売れるのはよいのだろうが……

 

「失礼ですがエルフに関するイメージが崩れますね」

 

「ですよね……でも貴重な収入源なんです、うちの里の」

 

エルフの王様がせっせと、?きみょうなぶったい(不確定名)を生産する姿……ちょっとカオスだ。

マルクさんと目が合う、お互いに深くうなづいてこの話は終わることにした。

もう、この話をすることは(意図的に)ないと思われる。

 

……というかしたくない。

 

 

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