カケラあつめ~癖の強い三人、異世界で無双す~   作:みけさんわーきゃっと

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その6

 

 

 

 

 Fragment徹

 

「やめろおおおおおおおおっ!!!」

 

俺の声にはっとするゴブリン、だが刃は止まらず……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

驚愕の顔の母ゴブリンを殺害した。

一瞬目が合った母ゴブリンは視線で俺に何かを託して……わが子を抱きしめながら崩れ落ちた

 

「ちっ……誰だ!?」

 

俺の叫びで驚いたのだろうか、的が小さかったのもあるのかもしれない。

いや、それとも母の執念か……わが身を盾に子を守ろうと最後に腕を引きかばったのは俺も見えていた。

子は無事だった。

 

「外道に名乗る名なんぞねえ!!」

 

この世界のしきたりはまだわからねえ、ゴブリンは駆除するのが一般的なのだろう。

だが、これは無え。命をもてあそぶような行為。それは許せねえ。

仮に粛々と殺してたんなら俺も『ああ、まだ小さいのに可哀想だな』ぐらいで済ませたかもしれねえ。

だがこいつらは笑って――嘲笑っていた。だまして裏切ることに愉悦を覚えた、汚ねえツラでだ。

 

「なんだ……? 薄気味の悪い、魔物の仲間か!?」

「だったらどうするよ? 殺したんだ、殺される覚悟は……あるよな!!」 

 

俺の心のリミッター解除ぉっ!!

まあいわゆるブチキレ状態だ。

 

一気に間合いを詰めつつ、相手をうかがう。

相手は二人、二人とも小剣(ショートソード)と金属っぽい胸当て付きの軽鎧で武装している、明らかに戦士(ファイター)、あるいは斥候(スカウト)盗賊(ローグ)系の武装だ。やや右側の方が技量は上か……?

小盾(スモールシールド)も持っているようだが、不意打ちするためにか手放しているのは幸運だ。

 

左側の男にボーラを叩きつけるようにして投げる、多数の石が付いたこのタイプは回転させなくても多少の足止めと、直撃による打撃効果が期待できる。

 

「うわっ!? なんだこの武器!?」

 

「ナッチョス!? このやろう!」

 

「遅せぇ!」

 

ナッチョスとやらを一瞬気にしたせいで、初動がほんのわずか遅れている。

合気を十分に修めた俺ならこの距離は射程距離だと理解できる。

爺ありがとな。

 

「ふっ!」

 

全力で踏み切ってのドロップキック、面から点に俺の被弾面積が減る、剣での迎撃は間に合わないし、盾の準備もされてない今なら――

 

「ぐうっ!?」

 

どむっ! といい音がして炸裂する、ただこれでは単なる打撃だ、倒すために有効な攻撃じゃない。

そのまま腕立てをするかのように手をついて衝撃を殺し受け身を取りつつ、手を軸に掃腿、相手のかかとを刈る。

ドロップキックで重心が後ろに行っている相手はこれでさらにバランスを崩す、そこに回転の勢いを殺さぬように立ち上がりながら……

 

「だらっしゃぁ!!」

 

喉元に叩きつける打ち下ろしの右。

 

「ぐふぉっ!?」

 

たまらずもんどりうって後方に倒れる男。

これで完全にダウンを奪い――一瞬、ほんの一瞬だけ躊躇したが……

 

とどめを叩き込む。

難しい技ではない。

ただ、爺に絶招――奥義とでもいえばいいのか、俺が俺の体に合わせて最適化したという……認定をされた、俺がとことん時間を費やした移動術。

それの応用。

 

足は高く上げない、必要最小限度の高さで滑らせるように目標の上に置く。

と同時に爆発的な体重移動により――

 

「ごばぁ!!」

 

踏み抜く。

 

「絶招歩法――地穿(ちうがち)

 

肋骨を完全に踏み砕き、心臓まで潰した感覚があった。

動揺は――不思議と無い。さっきの刹那の躊躇が動揺だったのだろうか――ならばすでにその領域は踏み越えた。

爺の言う童貞卒票ってやつだな……こっちが先かぁ……

 

すこし残念な気持ちになりつつも鍛えた体は動く。

 

「なっ!? おいジョージ! くそっ! 修道士(モンク)武術家(グラップラー)か!?」

 

「気にしてる暇あるのか?」

 

ようやくボーラから抜け出たナッチョスに牽制のジャブを打つ、当てるつもりもないし、当たる間合いでもないが、顔面に攻撃が来るのを防御しないという選択をとれる人間はそう多くない。

 

一瞬早めにジャブを引き戻し三日月蹴り。この蹴りはいい間合いで打つと丁度つま先が相手の肝臓にめり込む。安全長靴の鉄芯入りのつま先が。

 

「うぐっ!」

 

肝臓への打撃は一瞬動きを完全に封じてしまう。――もう、逃げられない。

足を下ろす勢いを踏み込みに変え崩拳、突くのではなく体重移動で拳を持っていく感じで打ち抜く、衝撃を体の内部に残すようなイメージだ。

そして吹っ飛んだナッチョスに待っていたのは――

 

「お前もくたばれ!地穿!!」

 

縮地からの、今度は首を踏み抜く必殺の一撃だった。

 

「ふう……ちょっとやり過ぎちまったな」

 

人を殺した。ファンタジーな世界なら必ずいつか通る道だと思ってたが、まさか初日に魔物よりも先に人間殺すとは思わなかったぜ。

やっちまった感はすごくあるが、不思議と嫌悪感はない。

こいつらが外道だったのも大きいかもしれない。

さて、それよりもだ……

 

「かーちゃん!かーちゃーん!!」

 

この泣きわめいてる推定子ゴブリンを何とかしなくちゃならねえんだが、どうするかな。

放置していってもいいんだろう、そこまでの義理はねえ。

 

でも、あの瞬間目が合っちまったんだ。俺が人間で見ず知らずの奴だったとしても、すがるしかなかったんだろうが……

命の火が消えるその瞬間まで、目で懇願された気がしてるんだ。

 

『子供を頼みます』

 

と。

 

どうしようかと考えようとして答えが出ていたことに気付いた。

助けようと走り出した時点で、もう決まってたことじゃねーかと。

 

「かーちゃん!かーちゃん……」

 

ただ、俺はこういう時に気の利いた言葉をかけることができねえ。

……大地なら、一郎なら、もっといい言葉を紡ぐんだろう。

でも、俺には無理だ。だから俺は俺のやり方で、こいつの面倒を見ようと思ったんだ。

 

「おい、お前のかーちゃんは死んだんだ。泣いていてもどうにもならないぞ」

 

「うるさい! この人間め! でも助けてくれてありがとう! 近寄るな!」

 

なかなかに面白い性格の奴のようだ、生意気で、それでいて優しくて、臆病だ。

……今大地の声で『とーる君そっくりなんだよ?』って聞こえた気がしたが空耳だと思いたい。

 

「いいから、かーちゃんはもう休ませてやれ。お前がそんなんじゃ、死んでも死にきれねえぞ。ゾンビとかになったら可哀想だろうがよ」

 

「でも……かーちゃんがいなくなったら、おいら一人……」

 

「俺がいる」

 

「えっ!?」

 

「俺が一緒にいるぞ? そうだな……お前の兄ちゃんになってやろう」

 

何かをしてやれるような頭は俺にはねえ。

俺にできるのは一緒になってどうしたらいいか考えてやることだ。

まあ家が女だらけだったし弟が欲しいってのもずっとあったしな。

 

「人間……お前、ちょっと変。ありがとう」

 

「徹だ、お前の兄ちゃんの名前だ」

 

「とる……」

 

「徹だ」

 

「トール……」

 

微妙に巻き舌だな、まあせっかくだからこれからはトールでいいか。

ファンタジーな名前だしな!

 

「お前が望むんなら強くなれるようにもしてやるぞ」

 

やっぱり男は強くなくちゃな!

 

「おいら強くなりたい! なれるかにんげ……トール兄ちゃん?」

 

「なれるかとかじゃない、自分で決めるんだ。強く『なる』のか『ならない』のかを」

 

これは爺もよく言っていた『強くなりたい』じゃあ全然届かない。

『強くなる』そう確固たる意志を持って鍛えるのが上達の道だと。

そして俺は体でそれを理解している。

 

「おいら……強くなる! 絶対に強くなるぞ! トール兄ちゃん!!」

 

「ああ、その気持ちがあれば強くなれる。……そういえば俺の弟の名前は何と言うんだ?」

 

「おいら、ギ・グー!」

 

「母ちゃんの名前は?」

 

 

えっとギ・ジャ!」

 

つまりギが家名にあたるわけか?

 

「グーでいいか?」

 

「いいぞ! トール兄ちゃん!」

 

「よし、グー、まずはかーちゃんの墓を作ろうか?」

 

「墓? 墓ってなんだ?」

 

そうか、墓って宗教であり文化だったな。

正直この世界のゴブリンのことはわからんがぼこぼこ生まれてサクサク死ぬなら墓とかの文化無いかもな。

 

「かーちゃんが生きていたことを忘れないようにするためのものだ」

 

結局のところ生きてる人間の慰みみたいなところはあるよな、墓。

 

「それいい! おいら頭悪いから忘れるかも! 墓あったら忘れないか?」

 

「ああ、それにかーちゃんも寂しくない」

 

「それいい! おいら墓作る!……でも、トール兄ちゃんはかーちゃん関係ないのに作るのか?」

 

「何言ってんだグー?」

 

「?」

 

「俺はお前の兄貴なんだから、かーちゃんは俺のかーちゃんでもあるんだぞ?」

 

少なくとも俺は家族としてグーを育てようと思う。

 

「……そうか! そうだな! じゃあおいらと一緒に作る!……でもよくわからないから教えて!」

 

「もちろんだ」

 

そして俺は新しい家族とともに新しい家族の墓を作り始めた。

 

 

 

 

 

  

Fragment エース

 

 

 

 

 

 

 

「なるほどー、魔法を使わない魔法のようなものが発達してるんですねー? 千数百年前に結界を張って姿を消した島、幻のエグ・ソレイユ王国でしょうかねー?」

 

「国の名前まではご勘弁を、ただ、少なくとも帰る方法がわからない程度には遠く飛ばされてしまったようです」

 

進み過ぎた科学は魔法と見分けがつかない、うん、嘘は言ってない。

マルクさんもだいぶん打ち解けてきてくれたようだ。うちの国にある花のマルク・シャガールはマルクさんの名前のようなきれいな薔薇というフレーズが気に入ってくれたようだ。

……お世辞のようだが本気でエルフは奇麗なのだ。

 

会話をしながら食事を勧める。

ちなみに献立は謎肉(ウサギっぽい)と野菜の煮込み(薄い塩味)にライ麦のパンと飲み物……ファンタジーでおなじみのエールか? がついている。

 

想像よりもちゃんとした味で美味しかった。想像がよっぽど低レベルだったせいだが。

正直言うと男子高校生からすれば味が薄いし、野菜はえぐいし、肉は血の味がする。それでもお茶の国の料理より(母と行ったことがある)ちゃんとした味はついていた。

まあ、あの国の料理は卓上調味料で味付けするのが前提のものなので一概にまずいとは言えないのだが。

 

ライ麦パンは重い。

日本の柔らかいパンに慣れてると違和感しか感じないが、おにぎりみたいに中がみっちりとしているというか、とにかく詰まってる感がすごい。

味はやや酸味があるが許容範囲だ、むしろ麦っぽい味と酸味が薄味の食事ではいいアクセントになっている。

 

そしてエール? を飲む。未成年がどうとかは気にしない、水が貴重な地域なのかもしれないし、そもそも家業故酒の味も知ってる。

 

薄っ!? なんだこれ? 酸味があって麦っぽい、意外に後味がいいのが……!

 

「あっ、これクワスか」

 

「えっ!? ああ、黒パン汁のことですか」

 

「私のいたところではクワスというんですよ」

 

黒パン汁……身も蓋もない呼び方だが間違ってない。ライ麦パンを湯でふやかして発酵させてつくる低アルコール飲料だ。

特徴として、これでライ麦パン生地を発酵させることができる。つまりは酵母を飲んでるわけだ。健康にもいい。

ちなみに本来はサワー種とよばれるパン種を使う。

 

「エースさんはまだまだ何か出てくる気がするんですよー」

 

腸詰(別料金の追加注文)をかじりながら、マルクさんが半眼(ジト目)でこちらを見てくる。

そんな目をしていても美人で可愛いのは卑怯だと思う。

 

で、なんでこのようなことを言われているかというと、ムクロジが洗い物に使えることと、カリンが喉の薬になることを教えたのだ。

 

そうしたら『なんでエルフが知らない植物の使い方知ってるんですかぁ!?』と驚かれた。

むしろなんでエルフが知らないんだと聞いたら『ムクロジは食べられませんし、カリンは美味しくないですから……』と目をそらされた。エルフは食いしん坊か!

 

さておき……

 

「お代次第でしょうかね?」

 

にっこりとほほ笑んでみる。徹に言わせれば『絶対何か企んでる笑顔』らしいが、甘い。そんなことは思っても気取らせないのが客商売である。

 

ちなみに蜂蜜カリンのど飴を7つ全部とその作り方にムクロジとカリンの情報で金貨5枚(50万円相当)をせしめた。

思ったより大金だったのでおまけで目薬を貸してあげたら『視界がクリアです!?』と驚いていた。

さもありなん。中世時代埃で失明とかする人も多かったみたいだし目を洗うとかレアだったのかもしれない。

 

樹木関係の知識はこれからも切り売りしていこうと思う。

森の権利がどうなってるかは知らないがエルフがいるような森で適当に収穫とか怖くてできない。

マルクさんと別れることになってもよほど情報を得るまでは自力採取はあきらめておくとする。

ムクロジと目薬……そういえば……

 

「目薬の木とかもあったっけな……」

 

「エースさんそこのところもっと詳しく!!」

 

メグスリノキは日本にしかないムクロジ科の植物で、けっこう高地に生えるので多分この辺りにはないと思うのだが……

 

「高地にしか生えないんで、付近にはないと思いますよ」

 

「山エルフ族にツテがあります」

 

山エルフってなんだ!?

 

「こっちもそこのところ詳しく。山エルフって何ですか?」

 

「山エルフは山エルフですけど……、山地に住み、鍛冶が得意で肉体的にも強靭です」

 

「それドワーフって言いませんか?」

 

「ドワーフと一緒にしたら鉄拳制裁されますよ? 格闘家とか多いですし」

 

ええ……なんかエルフのイメージと全然違うんだが……

 

「聞けば聞くほど違和感しかない……!」

 

「グランパスのあたりには結構いるんですけどね」

 

「なるほど」

 

グランパスってどこだよ!?と言いたいが常識レベルの話だと困るのでスルー。

 

「それで、メグスリノキってどんなのでしょうか?」

 

「ミツバハナとかいう名前に心当たりないかその人に聞いてみてください。それと」

 

「なんですか?」

 

「お代、高いですよ? 薬なので」

 

にっこり。

 

「お、お手柔らかにお願いします」

 

「その耳触らせてくれたら少しおまけしますよ?」

 

ピコピコうごくエルフ耳には無性に食指が動いてしまう。

 

「えっ……そのっ……あのっ……ごめんなさい、まだ結婚する気ないのでっ!」

 

いきなりお断りされたっ!? いや、まて……これはもしや……やらかした……?

即座に平謝りの体制に移行する。

 

「ごめんなさいマルクさん、耳触るのってエルフ的に何か特別な意味があるのでしょうか?」

 

「えっと、そのですね、基本的には家族にしか触らせないんです……異性だと兄弟にも触らせません、親か……配偶者だけですね」

 

……くっそぅ!? こういうのは徹の担当だろう!?(暴言)

まさか私がやらかすとは……!

 

「知らなかったんです、許してください」

 

平謝りするしかない。

 

「え、ま、まあ、そんな気はしてましたが。正直焦りました」

 

はふーと安堵の息を突くマルクさん。ちょっと可愛い。

 

「申し訳ない」

 

「いや、私がもう少し年行ってたらOKしてしまってたかもしれませんね」

 

「えっ?」

 

なんだこれは……まさかこの短期間にそこまで好感度が上がってたのか?

それとも転生特典でなぜか女性の好感度がものすごい勢いで上がっていく能力でも手に入ったとでもいうのか……?

 

「マルクさん……それはどういう……?」

 

「それはもうたんまりお金稼いでくれそうですしね! エースさんが死んだあとそのお金で気楽に過ごすのもいいかなって、でも私さすがにまだ若いので余生長すぎますよ」

 

「打算100%なのにすがすがしく言い切った!?」

 

満面の笑みというかにこにことマルクさんが語るのに思わず突っ込んでしまう。

 

「いろいろ教わったのでお返しにエースさんが悪いエルフに騙されないように教えておきますが、エルフは基本的に人間と結婚するときは打算か同情がほとんどです。寿命の差はいかんともしがたいですよ」

 

「愛情はない……?」

 

「いえ、もちろん最初はあるとは思いますが、結局よぼよぼのおじいちゃんになって死ぬところ看取ることになるのでそのあたりまで情熱的な愛情は持続しませんよ、なんというか……義務?」

 

「うわあ、さすがにそういうのは聞きたくなかったなあ……」

 

この世界厳しすぎないか? すこしはファンタジーに夢を見させてほしい……

 

「ところでマルクさんはこの後どちらへ?」

 

「適当に交易品摘んでヌムルスまで行商しながら移動ですね、で、ヌムルスで塩買えるだけ買って森に戻ります」

 

「やっぱり塩貴重品ですか?」

 

「うちの周辺塩湖も岩塩もないんですよね……少しでも多く買うとなるとやはり港町ですよね」

 

ふむ……ならば……

 

「ご一緒してよろしいですか? 武器も買ったのでいざというときは時間稼ぐので逃げてください」

 

「倒すのでとは言わないんですね?」

 

「倒せる敵だけ出るならそう言いますけど、無理なものは無理ですし」

 

私は割と慎重なので安請け合いはしないし豪語もしない。

 

「成功報酬は出しますよ? 頑張ってくださいね」

 

「命あっての物種という言葉がうちの国にはありましてね……」

 

「素晴らしい言葉だと思いますよ?」

 

たまにはこういう食事も悪くない。そう思いつつマルクさんの話に付き合うのだった。

 

 

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