ガールズ&パンツァー 7人の戦車長   作:俳吟

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グデーリアンと査問委員会(後)

「普段は集まることなんてないんだけど、ちょうど明日のイベントのことで話し合うことになっててね。他のメンバーに会う絶好のチャンスだよ!」

 

 楽しそうに誘い文句を並べる部長とは裏腹に、優花里の心は焦りと不安で一杯になりつつあった。

 

(ばれちゃった、絶対ばれてますよね、これ!)

 

 戦車長が集まる打ち合わせに一緒に参加しようなんて、見ず知らずの見学者相手に言うことではないだろう。あまりに直球過ぎて逆に疑ってしまうが、ほぼ確実に優花里のことに感づいていると見ていい。

 

(ここで捕まったら、尋問……まではいかなくても、出場停止は受けてしまう……)

 

 戦車道の規則では事前の偵察行為は認められている。しかしそれにはデメリットもあり、偵察中の選手が捕まった場合は使用したカメラなどが没収され、さらに次の試合が終わるまでその選手は原則出場及び偵察行為はできなくなる。

 相手の準決勝の行動からすると、こちらの戦力を削ぐために捕まえようとするのは間違いなさそうだった。人員も不足がちの大洗女子にとっては非常な痛手となり、いくら尋問や身柄の拘束が禁止されているからといって、そう簡単に捕まるわけにはいかない。

 

「ご好意は嬉しいのですが、さすがにそこまでしていただくわけには」

「気にしなくていいよー。みんな根は悪くない連中だし、私の口添えがあれば大丈夫! 大船に乗るつもりで任せて!」

 

 やんわりとお断りするが、部長はそんなの関係ないといわんばかりに胸を叩いて言う。

 

「部長? いつも無理強いはしないようにって言ってるじゃないですか。また後日案内されればどうでしょうか」

「うん、そうしたいのはやまやまだけど。今日しか時間がないよ」

 

 こうなったら逃げるしかないと優花里が思っているところへ、傍らの部員から助け船がでた。やはり部員からみても部長の言動はおかしいようで、困惑した様子で部長を見ている。しかし部長はなおも諦めずに、今度は真剣な顔で優花里に向き直った。

 

「できれば、私達のことを知っておいてもらいたいの。こんな機会はもうないと思うから。……だめかな?」

 

 その切実な訴えに優花里は悩んだ。演技でこんなことを言う人とは思えず、もしかして本当にただ話したいだけなのかと思ってしまう。

 

(悪い人ではなさそうですし。捕まえたいなら練習風景なんて見せないですよね。……こうなったら、とことんまで行ってみましょう!)

 

 一息つくと、優花里は決心した。

 

「それでは……一緒に行ってもいいですか?」

「ありがとう! よーし、それじゃあ行くよー!」

 

 部長は安堵の表情を浮かべると、元の快活な笑顔に戻って元気よく声をだした。

 

 

 

 

 

 二人は連絡船に乗ると港に降り立ち、ファミレスへ向かった。

 そこまで遠くないと言うのは嘘ではなく、歩いて10分もしないうちに目的の店にたどり着き、ウェイトレスに一言二言交わすと奥の方に案内された。

 既に飲み物が置かれている、テーブルが二つ並べられている席には、6人の人物が座っている。そのいずれの顔も優花里は雑誌の記事で見たことがあった。

 

「おっ待たせー。皆揃ってる?」

「遅いわよ。どこで道草食って……」

 

 全国選抜の戦車長の面々に挨拶する部長に、いち早く気付いたツリ目がちの少女ーーシャーマン戦車の車長ーーが声をあげる。が、優花里がいることに気付くと訝しげな表情に変わった。

 

「その人は?」

「可愛いでしょ? うちに見学に来てた子で、私達に興味があるらしいから連れて来ちゃった」

「お、お邪魔します」

 

 ツリ目の少女は部長と優花里の顔を数度見比べたあと無言で立ち上がり、部長の肩をガシッと掴む。

 

「ちょっとこの馬鹿と話があるから。貴方は、ええと」

「そういえば名前を聞くの忘れてたね。って、痛い痛い!」

 

 その言葉に、部長を掴む手に力が入ったのか、部長は悲鳴をあげた。

 名前を尋ねられてなんと答えるか優花里は迷ったが、今本名を言うのも躊躇われたので、チームメイトに名付けられたソウルネームを名乗ることにした。

 

「ええと、グデーリアンとお呼びください」

「そう。グデーリアンさんはここで待ってて」

「すみません、座ってお待ちいただけますか。私も行きます」

 

 そう言って立ち上がったのは四式中戦車の車長だった。穏和な顔つきをしていて、丁寧な言葉遣いで席を進めたあとに部長とシャーマンの車長の後を追って店の外へ出て行った。

 

「今の人って……」

「うちらの隊長やよ。まあ座って座って」

「ここが空いてる」

 

 想像していた人柄とは違っている選抜隊の隊長の姿に半ば呆然としていた優花里に、P40の車長が座るよう促し、JS-3の車長がその隣の空いている椅子をぽんぽんと叩いた。

 遠慮がちに椅子を引いて座ると、JSー3の車長はメニューを開いて優花里の目の前に広げた。

 

「何か飲む? 事情は分からないけど奢らせて」

「大方、あいつが無理言って連れてきたんやろうしなぁ」

「そうね。ここは紅茶を頼みましょう」

「ちょお待てや」

 

 斜め向かいに座っていた金髪の少女が同意も得ずにコールボタンを押した。流暢な日本語だが、この人がファイアフライの車長で噂のイギリス代表選手だろうと優花里は推察した。

 何だかんだと軽口を叩き合いながら、結局紅茶の注文を店員に伝えたあと、見覚えのあるヤークトパンターの車長が不意に口を開いた。

 

「違っていたら失礼だが、大洗の人じゃないか? その格好はどうしたんだ?」

「へ?! あ、あの」

 

 ずばり言い当てられて優花里は動揺した。逃げだそうにも、店の外には他の3人がいる。淡い期待を持っていたが世の中そう上手くはならないと、優花里は観念した。

 

「やっぱり、私を捕まえるのでしょうか」

「何でそうなるんか教えてくれへん?」

 

 P40の車長がわけがわからないという顔をして即座に返した。

 

 

 

 

 

「とりあえず、うちらの印象が悪いことはわかったわ」

「ね? 連れてきて良かったでしょ。また険悪な空気で挨拶するのは嫌だったし」

「それならちゃんと素直に伝えなさいよ。怯えさせてどうすんの」

「あはは、黙っててごめんね。何かすぐ逃げ出しそうだったから言いづらくて」

「はあ……」

 

 部長たちが戻り、優花里が簡単に事情を白状すると、全国選抜の車長たちは一様にそんな危険な人物ではないと主張した。

 

「準決勝の皆さんの作戦からして、てっきり手段を選ばない人たちだと思ってました」

「基本的に作戦面で暴走するのはそこの隊長と参謀だからな。私達はいたって常識人だ」

「ルールはちゃんと守ってます。それに、試合まで日にちがあるのに見境なく捕虜にするなんてことはしません」

「yes.大体あの試合で一番乗り気だったのは貴方じゃなかったかしら。偽装通信は作戦になかったわよ」

 

 優花里の率直な感想にヤークトパンターの車長は責任の所在を明らかにし、それに対し名指しされた二人は反論し始めた。そのままARLー44の車長とシャーマンの車長まで巻き込んで話し合いが続いていく。まるで子供じみた言い合いに優花里は目を丸くするが、JS-3の車長は「いつものことだから」とそっと耳打ちした。

 

「ちなみに、何ですぐにわかったんですか?」

「準決勝の映像を見てるから」

「あんこう踊りやったっけ? カメラの前で踊り出したときに顔が出てたし」

「あれを見られているんですか……」

 

 プラウダ高との準決勝で志気向上のために踊ったあんこう踊りをしっかり見られていることを知って、顔を赤くする。ネットに上げられて晒し者になるという、仲間内で話していたことが現実になりつつあるらしい。これから偵察するときはわからないように眼鏡でもかけようかと、優花里は心に決めた。

 

「……揃いましたし、ミーティングを始めましょう」

 

 言い合いが終わったらしく、選抜隊の隊長が改めて話を切りだした。

 

「あの、このまま聞いていてもいいのでしょうか」

「ええ。よろしければ一緒にいてください。今日は親睦会のようなものですから、質問があったら遠慮なくどうぞ。……まず報告事項ですが、先日島田流の本家の方に呼び出しを受けました。分家とその門下生といえど、恥ずかしい試合はするなと厳命されまして。ですので、決勝戦では島田流の正道たる戦い方をお見せします。これは月刊戦車道のインタビューでもそう答えるつもりです」

「邪道だって認識はあったんだ」

「まあ……師匠は新しい流派を開いた方がいいと思ってるくらいには」

 

 ARL-44の車長からの突っ込みに、隊長は歯切れ悪く答える。

 

「ちなみに、どうもルール改定の動きがあるらしくて偽装戦車も禁止になりそうなんですよ。我が流派の奥義だったんですが」

「即刻封印しておけ」

「……次にいきましょう。大洗の情報については何か分かりましたか」

「OK.大体調べ終わったわよ。これが資料」

 

 強引に話題が切り替えられ、今度はファイアフライの車長がA4サイズ一枚の資料を配り始めた。さすがに優花里にはあたらず、JS-3の車長と一緒に見始めたが、その内容に思わず目を見開いた。

 

「大洗女子学園が戦車道を復活させたのは20年振り。戦車も最初は見つからなくて、学園艦の中を探し回ってようやく6輛が集まったようね。乗組員も生徒会が特典までつけて募集しているけど、経験者が殆どいないわ。そうよね、グデーリアンさん」

「は、はい。その通りです……」

 

 表面には大洗女子学園の戦車道の来歴、大会と親善試合の編成とその成績、保有車輌と施設について事細かに記載されている。ごく最近2輌が加わったことは書かれていないが、それを置いてもよく調べられている。

 

「ここまでこれたのは運もあるけど、一番の要因は隊長かしら。この学校のほぼ唯一の経験者で、しかも西住流よ。あの西住まほの妹ね。裏面を見て」

「もしかしてこの人って、昨年の決勝戦での……」

「そうね。去年までは黒森峰にいて、転校してきたらしいわ」

 

 裏面には優花里がよく見知った西住みほの写真とこれまでの戦績が書かれている。それを見た車長の面々は半分以上が眉を寄せた。その反応に優花里は思い切って質問をぶつけることにした。

 

「選抜隊の皆さんは、あの試合の西住殿の行動をどう思いますか?」

 

 選抜隊のメンバーは言いづらそうにしていたが、やがて口を開いた。

 

「正直に言うと、私は何故救助に向かったのか分からないな。水没しつつあるとはいえ、ハッチと点検口から脱出すればいいんじゃないかと思っていた」

「そこなのよね。必要がないのに救助に向かったような気がして、何か釈然としないのよ」

「助けたくなるのは分かるけど、フラッグ車がそのままそこに居たのはよく分からない」

「推測ですが、あの戦車のハッチと点検口は開かなかったんだと思いますよ」

 

 否定的な意見が述べられる中で、隊長は静かに言った。

 

「西住流は戦車の窓を塞ぐんです」

 

 その言葉の意味を理解するためか、少しの静寂が流れた。

 

「……何で? そんなことしたら緊急時に避難できないじゃない」

「実戦を想定してとのことらしいですね。まあⅢ号戦車にそんなことをするかは疑問ですが、これが一番説明がつきます。フラッグ車がそこにいたのも、何かあったときの増員や連絡要員としてではないでしょうか」

「じゃあ、あれって本当に危なかったん? そん時は普通試合中止になるんじゃないやろか」

「救護が必要だと判断されても試合は中止にならないわよ。運営本部の救護隊が動くだけ。国際試合でも事例があるわ」

「6年前の日本とドイツの試合ですか。あの時は西住流側が救護側を撃ちましたね」

「Yes.それも味方を助けようとした敵戦車をね。あんなことしてもMVPだもの、準決勝の私達の作戦なんて可愛いものよ」

 

 ファイアフライの車長が毒づくように言う。その国際大会には参加していたのか、なにか思うところがあるらしい。

 

「でも、連盟がそれを公表しないのは何故なのでしょうか。西住殿は正しいことをしたのに」

「戦車道は安全な競技と再三言っている連盟がそんなこと言えませんよ」

「そんな……」

「あくまでも推測なので、真相は分かりません。ただ、そうした現実的な判断ができる隊長だと見積もっていたほうがいいと思います」

 

 隊長はそう締めくくる。

 暗い話題となり口数が少ない時間が少し続いたが、隊長が話題を変えようとしてか明日のイベントの資料を机の上に広げた。

 

「あとは明日のゲームのことについて話しましょう。そちらの整備は終わってますか」

 

 話を振られたARL-44の車長が固くなっていた顔を綻ばせる。

 

「30輛分の整備はほぼ完了しているよ。あとは移動するだけ。他は集まってるの?」

「ええ。時間内にはすべて集まる予定だそうです」

「シナリオは結局何になったんだ?」

「シナリオは158街道をベースとした殲滅戦です。私たちはドイツ軍と連合軍に別れます。搭乗車は希望通りにしてもらいました」

「じゃあ私達チャーチルだね! 今日は念入りに整備しよっと」

 

 その後にシナリオの詳細な内容や陣容、地形などの説明が続くのを優花里は興味身心という面持ちで聞いていたが、やがて隊長がふと思いついたように優花里の方を向いた。

 

「よろしければグデーリアンさんも参加しませんか? 一人欠員が出ていまして」

「いいんですか?!」

「ええ。大洗の皆さんからお許しをいただければですが」

 

 思ってもみない申し出に優花里は飛び上がるように喜んだ。

 

「でも、本当にいいんですか? 私はいわば皆さんの敵ですし、練習の邪魔をするわけには」

「気にしなくていいよー。練習なんてものじゃないから」

 

 公開練習という話があったため一応確認をするが、ARL-44の車長を始め、この場の面々はそんな大層なものではないと首を振る。

 

「明日はただ皆でふざけて遊ぶだけですよ」

 

 選抜隊の隊長はそういって微笑んだ。

 






○後半については後日修正する予定です。
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