「部長、変速機の直し終わりました」
「おつかれー」
大洗シーサイドホテルの入り口付近の道路から鳥居を見ながら、レジスタンスはのんびりとおやつを食べていた。
今は戦闘で撃破された黒森峰の7輌の回収作業が進められている。偵察班からの情報によると敵の指揮官は残っている車輌の戦車長を集めて念入りに打ち合わせしているそうで、おそらく回収作業が終わるまでは戦闘が起こらないだろう。
ちなみに傍受用無線機はもう切られている。さすがに相手にばれており、これ以上は役に立たないと判断された。
「今直さなくてもよかったんじゃないですか? まだ試合中ですし」
「無理なことを続けるとエンジンがダメになるよ。むしろここまで何もなかったことが僥倖なんだから」
整備を担当していた操縦手に諭すように言う。
今日の試合では速やかに市街へ移動するため、エンジンの変速機をいじり本来以上の速度を出せるよう改造していた。ただ、こうした行為はエンジンを過度に疲労させ途中で動かなくなる危険性もある。できるなら他の車輌も直しに行きたいところだが、あいにくそこまでの時間はない。
「それにしても、偽装は上手くいったようですね! 何かこう、達成感があります!」
「ふふ、まだ試合は終わってないよー。まあ写真を貰ったかいがあったってことだね」
「どうやってあれだけのものを手に入れたんでしょうね……」
「過去の試合の資料を探し出したと思いたいけど……」
ヤークトパンターに施した偽装を担当したのはレジスタンス含む広島代表校だ。とはいえ、正確に塗装するには黒森峰の車輌についての資料が必要で、それは二枚舌から提供があった。元々参加校についての情報を仕入れていたという話だが、どう考えてもつい最近黒森峰の車庫で撮られたような写真が混ざっていたのは気のせいだろうか。
いや、私は何も見なかったと頭を振ると、ちょうど無線に通信が入る。
『パスタより隊長へ、移動完了や』
『了解です、指示を出すまで待機してください』
次の戦闘に備えての配置が終わったようだ。いい機会なので隊長に言いたかったことを陳情する。
「レジスタンスより隊長へ、こっちに1輌よこせない? このままだとよくて相打ちになるんだけど」
『気持ちはわかるんですが、2輌で一緒に突撃されると待ち伏せしてもやられてしまいます。それにあまり固めてしまうと、かえって攻めてこないかもしれません』
「むぅ」
先ほどから右手の斜面から視線を感じており、あからさまに狙われているので待ち伏せ車輌を増やしてほしかったが、すげなく断られた。市街へ合流できればいいのだが、まだ鳥居下にある黒森峰の車輌は回収されておらず、更にティーガーⅡが坂道に陣取っている。
『結局戦力が足りないのよね。これでマウスが出てきたらどうなっていたか』
「見てみたかった気もするけどね。何で今日出さなかったんだろう」
『おそらくスタート地点まで登れなかったのでしょう。そういう意味でも今回の会場は最適でした』
『ティーガーⅡでさえ手を焼いてるのにそんなの相手にできない』
『あー、残念なお知らせやけどあと1輌残ってます』
『弾があと1発しか残ってない』
共産主義者から悲壮感ただよう報告があがる。JS-3は元々多くを積めない車輌だが、今回は徹甲榴弾8発しか装備していなかった。機銃も取り外しているので、全弾を撃ち尽くせばその時点で競技続行不能判定が出される。
とはいえ他の車輌も似たようなものだった。少しでも軽くして速度を出そうと弾数を節約している。特に顕著なのはP40と四式中戦車で、通信傍受機や道路封鎖用の鋼材を積み込むため最初から5発もない状況だ。
『このまま時間切れになるのだけは避けたいわね』
『全くです。今のままなら大丈夫だとは思いますが』
「そこが疑問なんだけど、相手は本当に攻めてきてくれるの? 」
チーム戦に馴染みのないレジスタンスにとってはそこが心配だった。冷静に考えれば、黒森峰は無理に攻める必要はない。こちらも腕に覚えはあるが、一騎打ちになってティーガーⅡを相手にするのはさすがにきつすぎる。
まだ戦力は五分に近いとはいえ、わざわざリスクが高いほうを選ぶとは思えなかったが、
『引くことができないのが西住流の弱点ですよ』
無線から聞こえてくる隊長の声はどこか楽しげにそう言った。
「勝つためには手段は選ばない、ということでしょうけど」
「形振り構わずですね……」
ダージリンとみほはこれまでの試合内容をそう評した。
偽装戦車に通信傍受、おそらくは偽装通信まで使用している。いずれも戦車道精神からはかけ離れており、ただ勝つことのみを目的としているようにしか見えない。
「まさか、あの黒森峰が6対7にまで追い詰められるなんて」
オレンジペコが意外そうに言う。
「でも、全国選抜からは動けないわ。相手の動きを待つしかない」
「エレファントとティーガーⅡがいる限り、あの坂道を登ることはできない」
「そう。このまま時間切れにする権利を持っている。そして一騎打ちにティーガーⅡを出せば高い勝率を見込めるわ」
「でも、お姉ちゃんは」
「ええ。まほさんなら……西住流ならここで攻めないということはないでしょうね」
前進あるのみを掲げる西住流ならばここで引く手はない。
そうでなくても最初は2倍ほどの戦力を持ちながら攻めきれずに1対1に持ち込まれるのは、悪く見れば指揮に問題があると言われかねない。しかも日本戦車道で最大といわれる西住流の、後継者になるだろう人の指揮が。例えそれで勝てたとしても、世間からは何と言われるだろうか。
「いやらしいわ。最初からこうなることを見越して準備してるわね」
「島田流なら偵察用の人員を配置して待ちかまえていると思います。それに、あの戦車」
「上手く攻めれたとしても、あれに気づかないと……」
2人はスクリーンの一点に注目する。戦術画面でなら分かる、ある位置に移動した車輌。その意図するものを察して、無意識に黒森峰の隊長を案じる。
「黒森峰が動きます!」
映像が変わり、鳥居下交差点へティーガーⅡとエレファントが前進を開始する様が映し出される。
雌雄を決する戦いが始まろうとしていた。
『敵ティーガーⅡ、前進しました!』
「射撃準備」
偵察班からの報告を受け、レジスタンスは車内に入ってハッチを閉める。
こちらの位置はばれており、相手は躍進射撃でこちらを狙うはずだ。そのときに車体下部側面を撃ち抜くことができればいい。ティーガーⅡと相打ちになれば、こちらの勝利はかなり近くなる。
レジスタンスはそう予想していたが、そんな期待はあっさりと裏切られた。
「は!?」
ティーガーⅡはこちらに正面を向けながら横滑りをして現れた。勢いを殺しきれずに歩道にまで突っ込んだが、その砲塔はARL-44を狙っている。
「う、撃て!」
慌てて指示を出すが相手の照準の方が早かった。直後に大きな揺れと釣鐘の中にいるような轟音が襲う。
車体前面に直撃弾を受け、ARL-44は白旗を上げた。
「これで、6対6ですか」
「さすがに楽には勝たせてくれませんね」
指揮車の中で通信手と話しながら、紙装甲は嘆息した。
既に相手は鳥居下交差点から市街へ再び展開を始めている。しかし、先ほどとは様子が異なるようだ。
『こちら偵察A班、敵の動きなんですが……先ほどから道を行ったり来たりしています。一応、ティーガーⅡとエレファントはマリンタワーへ向かっているようですが』
『偵察B班より、こちらでもティーガーⅡとエレファントが見えました。ただし速度は遅いです。あと、その後ろのラングが2号線から市街へ入って戻るというのを繰り返しています。』
「偵察A班へ、フラッグ車は?」
『まだ坂道にいます』
地図を見ながら紙装甲は小考する。
市街へ槍を突いたり抜いたりするような敵の動きの意図はこちらの継続的な排除。先ほどのようにばらばらに動かず、より組織的に制圧をしていく方針だ。こうなると側面や背面を狙うのは難しい。
こういう真綿で首を絞めるような作戦が一番困りますね、と思いつつ、こちらの作戦を成就すべく思考を巡らす。
「ファシストは300地点付近へ、ラングを正面から撃破。物量主義は役場付近の交差点で出てきたところを撃ってください。深追いは避けるように」
『了解だ』
『わかったわ』
「共産主義はその場で待機、但し発砲は厳禁です。二枚舌はいつでも撃てるようにしてください」
『OK. ノルマは1輌でいいわよね』
「そういうことです。偵察A班へ、今後はフラッグ車だけを追尾してください。くれぐれも気をつけて」
『了解しました!』
冷静に考えれば最後の指示はかなり無茶ぶりだが、この場合は仕方がない。そんなに急な移動はしないだろうし、あとは忍道履修者の隠密性に期待したい。
「しかし、国際強化選手はシリアに研修にでも行くのでしょうか」
「なら私たちはさしずめ反政府軍ですね」
「そこの2人、ブラックジョークはやめなさい。不謹慎よ」
「すみません」
出すべき指示も出し終わり相手の戦術について話していると、操縦手から怒られたので素直に謝る。
今の相手の作戦は既存の西住流にはないものだ。まだ日本には浸透していない最新の戦術を模したもので、西住流でもまだ受け入れられてはないだろう。それでも時間切れにするよりは攻めて勝つことを選んだようだ。
「西住流といいあんたたちといい、ここまでして勝ちにいくのはなんでなの?」
ため息交じりで出された操縦手の疑問に首をかしげる。
確かに一騎打ちを狙ったり、偽装戦車を使ったりというのは傍から見ればなぜそこまでと思われても仕方がないのかもしれない。ルールでは禁止されていないからといって、普通のスポーツを基準に考えればありえないことだ。
とはいえ、それに対する島田流の答えは決まっている。
「指揮官になった以上、指揮の稚拙さから無益に損害を出すようなことがあってはならない。それが島田流の教えだよ」
分家の師匠から叩き込まれた言葉であり、島田流の本家でも変わらぬ教えだろう。
たとえ戦力に差があろうとも、出来る限りで最善を尽くし部下に報いるのは隊長の責務なのだから。
東光台前交差点から南西方向の道路を睨みながら二枚舌はその時を待っていた。
小学校までの500mほどの直線道路を射界に収めるこの地点がフラッグ車を守る防衛線であり、撃破されてもここで立ち往生となって時間を稼ぐ役割があった。
『黒森峰女学園ラング、全国選抜隊シャーマン走行不能』
「5対5ね」
無線からは撃破アナウンスが流れる。
こちらの手の内はあらかた晒しているのに加え、相手は強行突破から徐々に制圧していく戦術に切り替えており、先ほどの戦闘のように一方的には倒せそうにない。
前進と後退を繰り返して戦況を把握し、拠点を潰していく。これで煙幕を使われたりパンターが生き残っていたりすれば非常に厄介であったが、幸いまだ隙はある。
『黒森峰女学園ラング走行不能』
「あと1輌」
勝利するにはこの局面で3輌の撃破が必要だと二枚舌は見ていた。ここでヤークトパンターがもう1輌撃破すれば攻勢に移ることも夢ではない。だがそこまでは上手くいかなかった。
『偵察B班より、エレファントが背面を狙う位置にいます』
『了解、残りのラングを追撃する』
『待ってください、敵フラッグ車2号線に!』
包囲されそうになっていたヤークトパンターが正面のラングを追撃したようだが、それは誘いだ。しかし、手助けしようにもこちらは動くわけにはいかず、こうなっては手遅れだった。
『全国選抜隊、ヤークトパンター走行不能』
不用意に2号線へ飛び出してしまったのだろう、駆逐戦車では躍進射撃などできない。待ち構えていたティーガーⅠに撃破されてしまったようだ。
『こちら偵察班、エレファントが2号線を猛スピードで戻ってきます』
『共産主義より、ティーガーⅡと交戦中。長くは持たない』
駅方面に侵攻していたティーガーⅡとエレファントが遂に防衛線を捉えた。まもなくエレファントがファイアフライを処理すべくこちらに来るだろう。
「そこの道路を見張って。エレファントが来たら連絡すること」
APDSの装填を終えていた装填手に偵察任務を指示する。チェコの針鼠により2号線が封鎖されているため、ファイアフライを狙うとすれば小学校のほうから1輌、住宅街から目の前の道路に続く道路から1輌、合わせて2輌が同時に進む必要がある。そうでなければ各個撃破される。
『来ました!』
「前方注意! 来るわよ!」
目の前の道路の先からラングが見えた。距離500。
「FIRE!」
発射により煙が立ちこめ視界が遮られる。手ごたえはあった。
急いで車内に戻りハッチを閉める。続けて装填作業をしようとしたところで直撃弾を受け、轟音と振動に襲われた。
『黒森峰女学園ラング、全国選抜隊ファイアフライ走行不能』
キューポラから確認すると、道路から飛び出したエレファントがその砲塔をこちらに向けていた。
どちらか1輌が囮となり、装填される前にもう1輌が止めをさす。それが相手の作戦だった。
『全国選抜隊、JSー3走行不能』
もうひとつの防衛線も破れて、2対3。これで完全に味方のフラッグ車が包囲される形になった。
「やられてしまいましたね」
「Don't worry! やれるだけのことはやったわ」
残念そうな砲手を励ますように言う。
最低限の仕事は遂行できた。後は相手がこちらの作戦に引っかかっていることを祈るだけだった。
「P40がいない?」
西住まほは上がってきた報告を整理していくうちにそれに気づき、思わず口に出した。
状況は3対2でリードを取り返し、更に敵フラッグ車を包囲するかのように配置を終えている。あとは回収車が来て2号線に擱坐する車輌をどければそれまでだ。
だが、この段階になってもP40の目撃情報すらないのは明らかに不自然であった。
「フラッグ車に追随しているだけなのでは?」
「そう考えるしかないが……らしくないな」
犠牲を払いつつも、市街の道路を手分けしてくまなく把握するように指示している。いるとしたらフラッグ車と同じく、現在包囲している2号線上と住宅街の中だけのはずだ。
しかしここまでの敵の手腕をみる限り、せっかくの戦力を無駄にするとはあまりにらしくなかった。
(油断させておいてフラッグ車を狙う。正面からでも路面に跳弾させれば可能性はあるか)
相手ならどうするかを考える。残りの2輌はそこまで火力が高いとはいえず、ティーガーⅠなら十分に勝てる相手だが、側面や底面を狙われれば撃破される。P40なら小回りも利くのでこちらに一気に近づくこともできるだろう。
「まだ安心するのは早いな。いつでも動けるようにしてくれ」
まほはそう指示する。勝ちが見えていても油断はなかったが、惜しいことに相手の作戦を完全には読み切れていなかった。
敵はまだ市街に残っていたのだ。
大洗町にある立体駐車場の操作室。
携帯用の無線機で試合の状況を把握しながら、パスタは操作パネルの前にある椅子に座っていた。
『パスタへ、出番です。敵フラッグ車へ向かってください』
「待ちくたびれたわ。まあ任せとき」
昇降ボタンを押して外へ出る。
駐車場の入り口が開き、エレベーターが動いてP40が降りてきた。
「どんな感じですか」
「700地点付近にティーガーⅠ。今なら邪魔もなく背面を狙えそうや」
乗組員に報告しながらさっさと乗り込む。
ここで敵をやり過ごし、隙を突いてフラッグ車を狙う。これが今日の作戦の最終段階だ。
数ヶ月前にここで行われた聖グロリアーナ女学院と大洗女子学園の親善試合の映像を二枚舌が入手し、それを見た隊長が詰めの一手としてこの作戦を採用した。
映像では立体駐車場で敵をおびき寄せて、背後の地下式駐車場に隠れていた八九式中戦車により背面からの撃破を狙っていたが、今回はそれを応用したものだ。
選抜隊の車両の中で入れそうなのはP40だけであったが、さすがに今までのP43仕様の90mm砲を搭載したままでは駐車場の中に入れないので、会場が決まってから急遽75mm砲に換装している。とはいえ、背面を狙うなら十分な火力である。
「服部ちゃん、相手に動きがあったら伝えてな」
『了解です!』
フラッグ車を見張っている通信手に連絡すると、今いる会場の左下、アウトレットの近くから若見屋交差点へ移動する。
ここから大洗小学校の方へ向かうように行くとあるT字路を左に行けば、その先の交差点に敵フラッグ車がいるはずだ。
「全速前進!」
P40は急加速し市街を駆け抜ける。けたたましい走行音が響き渡り、これで相手にも位置がばれるだろうが、どちらにしろ今なら背面を取れているようなものだ。あとはいち早く相手までたどり着くだけだ。
『気づかれました! 敵旋回中です!』
「構わへん、突っ込め!」
T字路に差し掛かり、急激な方向転換により目まぐるしく変わる視界の中で目標を確認した途端、叫ぶ。
「撃て!」
ティーガーⅠは車体を旋回しつつこちらに砲塔を向けつつあった。
無我夢中でハッチを閉め、なんとか車内に入ることに成功する。
ちょうど相手が側面をさらしているときにT字路を曲がり終え、砲撃。
減速は間に合わず、そのままティーガーⅠに衝突した。
『黒森峰フラッグ車走行不能。選抜隊の勝利!』
そのアナウンスが流れたのは間もなくのことだった。
戦車道は礼にはじまり礼に終わる。
試合が終われば車長が集まり挨拶を交わす、わけだが。
選抜隊の面々は思わず逃げたくなっていた。
(もの凄く睨まれている……)
黒森峰側は14人が整列しているが、そのほとんどが全国選抜を睨みつけている。特に隊長である紙装甲には胃を貫く勢いで鋭い視線が飛んでいた。
西住隊長からはそこまで敵意は感じないが、やはり厳しい目つきでこちらを見ている。
(怯んではだめ、怯んではだめ……)
隊長としてここで舐められるわけにはいかないと傍目には平然とした様子であったが、紙装甲は内心びくびくと怯えていた。
「一同、礼!」
『ありがとうございました!』
審判の号令に頭を下げ、礼をする。
その後、聞きたいことがあったので近づこうとしたが、変わらずの厳しい視線に心が折られ、他のメンバーと一緒に回れ右。
「さあ反省会だな」
「ねえねえ、それより今回の整備は私達に一任してくれない?」
「出立は明日の予定だからあたしは頼むわね」
「今日は時間あるから観光するのもどうやろか」
勿論小声である。何か話さないと皆不安なのだろう。逃げ出したい気持ちになりながら車に向かう。
「少しいいだろうか」
背筋がぴんと伸びる。振り返ると相手の隊長が近くまで来ていた。相変わらず目つきは険しい。こうなれば先手必勝、反射的に身体が動く。
「今日はすみませんでした、そちらの副隊長さんは大丈夫でしょうか」
そう言って腰を90度折り曲げる。試合後に相手の副隊長が負傷していたと聞いて気が気でなかった。戦車道にそうした事故はつきものだが、やはり後腐れなく試合を終えたかった。
「いや、頭を上げてくれ。この後見舞いにいくが、そこまで重傷じゃないそうだ。気にしなくていい」
その言葉にほっとして頭を上げる。
「隊長は貴方だな」
「はい」
背後からは遠ざかる気配を感じ取れる。誰も助けてはくれないらしい。
もしかすると試合内容に文句があるのだろうか、ルールに抵触はしていないので何ら悔いはないが願わくば暴力沙汰はやめてほしい、とどこか気が遠くなりながら考えていると、次にかけられた言葉は思いもよらぬものだった。
「名前を聞いても?」
言われるままに告げると、相手は幾分驚いた表情を見せた。
「……もしかして、島田流の方だろうか」
「いえ、門下生ではありますが名字が同じだけの縁です」
「成る程な。どうりで奇策が多いわけだ。……また試合をしよう。次は今回のようにはいかないぞ」
そういって西住隊長は去っていった。緊張がとけて長く息を吐く
「ああ、びっくりしたわぁ」
「ごめん隊長、私が言わないといけなかったのに」
「いえ、私が言いたかったことなので良いですよ。……それより後ずさりましたよね。全員出席で反省会です」
恨みをこめて言うと、皆びくっと身体を震わせる。
その後は誰ともなく責任転嫁が始まり、どこまでも賑やかにチームメイトが待つ学園艦の方へ戻っていった。
全国選抜隊にとって長かった準決勝は、ようやく終わりを告げた。