うぅ、姫は石化世界だって引きこもってたいのにぃ   作:えみ(piplup)

1 / 1



序章
Z=1 「ふーん、やんじゃん。」


 

ソレは、きっと人類の誰もが予想していなかった。

 

──────────────────────

ピピピピピピ!

 

ある一軒家に目覚ましのアラームが響く。

 

ピピピ!

ピピピピピピ!

 

…どうやらアラームをセットしたはずの張本人は、んん〜と唸るばかりで起きる気配が無いようだ。

 

 

暫くして、トントントンと階段を登る音がした後、バタンッと荒々しくドアが開く。

そして当たり前のように部屋に入り、容赦なくばさりと部屋の主を包んでいた温もりを剥がす人物。

 

「おい、姫子。何回やってると思ってる。いい加減起きろ。そんなんでまた文句垂れるつもりか、テメー。」

 

はぁ、とため息を零すその人間は顔どころか声までしっかりと蔑みの感情が溢れていた。

 

「うぅっ、くぅちゃん、お慈悲を〜!あとごふん…ピピピピピピ!

 

情けない主の声へ被せるようにアラームの無機質な音が鳴る。

 

「そのクソみてーな要求は却下だ。せめてアラームくらいは自分で止めろこのバカ。」

「ふぎゅ!バカは酷いよくぅちゃん〜 」

 

部屋の主こと(わたし)をベッドから投げ落とし、強制的に起こされた。

このちょっと口が悪くて、白菜みたいな特徴的な髪型をしている青年は、くぅちゃん*1、正式には石神 千空(いしがみ せんくう)と言い。(わたし)の幼なじみのひとりだ。

 

彼との出会いはくぅちゃんが2歳、(わたし)が4歳の時で、もう十年以上の付き合いになる。

もともとは石神 白夜(いしがみ びゃくや)さん家のお隣さんだったのだが、家族と成人男性のため、関わりはそんなになかった。*2

…突然幼児を抱えた白夜さんが家を訪ねるまでは。

 

白夜さんは平然と「子供の育て方が分からないから教えてくれないか?」なんて宣うものだから、驚いた両親が慌てて事の経緯を聞いた。

苦しそうな顔をして言った答えは親友の子供を引き取ったと、だけ。

 

一般成人男性が育児の常識を知る訳もなく、抱えられたくぅちゃんは割とギリギリを生きていた。

そんな姿を見たら4歳児の(わたし)だってこれはヤバいってことは解る。白夜さんにドン引きしたし、くぅちゃんが心配だった。

そんな様子を見た両親が、引きごもりがちな(わたし)のお友達にもなるだろうしと、(わたし)を連れて毎日のように顔を見に行くようになったのがきっかけ。

 

それからは姉弟のように隣りで過ごすようになった。

それでたしか…くぅちゃんがよちよち歩きをしているくらいの時は、(わたし)の方がちゃんとお姉さんとしてお世話をする側だった筈なのに、小学校に入る頃にはいつの間にか、(わたし)の方がお世話される側*3になっていた。…こんなはずじゃなかったのに!

 

コホン。まぁ、何が言いたいのかというと、毎朝くぅちゃんに起こしてもらう生活が日常になっているのだ。

 

っと、画面の前の視聴者ちゃんたちにはまだ自己紹介して無かったよね。

(わたし)刑部 姫子(おさかべ ひめこ)。花のJKにして、あの姫路城の現人神であり*4、護り巫女*5なのだ!特別に姫ちゃん♪って呼んでも良いよ?

 

 

「おい姫子、また変な事考えてるのか?さっさと支度しろ、もう置いて行くぞ。」

「わーん!待ってよくぅちゃん。もう回想も終わったからさ!」

 

(わたし)は急いで玄関前に立っていたくぅちゃんの横に並ぶ。

口ではグチグチ言うけれど、なんだかんだ(わたし)のことを待っててくれる優しい子なんだ。へへ、姫の幼なじみ可愛いでしょ?

 

「はぁ?…そういや、今週はまだやってなかったな。どの回想だ*6よ。」

「もち!くぅちゃんとの"運命の出逢い"*7を思い出してたんだよ?」

 

律儀に問いかけてくれたくぅちゃんの目を覗き込んで答える。

ふふふ、くぅちゃんは171.4cm、対する姫は158cm…!約13cm差により繰り出される自然な上目遣いの攻撃力は53万!どうだ!

 

「うぐ、そうかよ。」

 

残念!ぷいっと顔をそらされてしまった。

 

ちえ〜と呟きながら、彼のほんのり赤く染まった横顔を眺める。

くぅちゃんはよく自身を"純情少年"と称しているが、(わたし)から見てもそれは正しいと言える。

まぁ?姫みたいな?とっても可愛くて?自分にだけ無防備な姿を晒してるお姉さん相手にドギマギしない人なんて居ませんけど??

 

それはそれとして、こんなにアタックしてるのに姫に落ちないなんて、くぅちゃんはどうかしてると思うなー!

 

そんなこんな、今日もヤキモキしてるうちに学校に着いてしまった。

1年生と3年生では教室が違うため、ここで別れなければならない。こういう時同い年じゃないのってツラいよねー。

 

「あ゛ー、今日も実験で遅くなる。姫子は?」

「何時ものじゃーん。…でも今日は姫、待てるから一緒に帰ろ?」

「…おう。」

「じゃあ、放課後部室に行くねー!」

 

…おお!今のは姫にしては自然な流れで約束出来たんじゃないの!?

うふふ♪まぁ?今日の姫は昨日と違うからね!イベントが終了した姫に、枷などない!

 

──────────────────────

 

かったるい授業はカットカット!

 

──────────────────────

 

放課後になればお待ちかねの、楽しそうに実験をしてはしゃいでるくぅちゃんを眺める時間だ!

ケケケと悪人面で実験を行うくぅちゃんもかわいー!

 

「今日はおっきーも居るんだな。」

「な。おっきーは科学部じゃないのに。」

「おっきー、部長目当てなのがあからさま過ぎる。」

 

「そこ、コソコソとうるさーい!」

「いや、姫子の方がうるせーだろ。」

 

くぅちゃんが入学してから直ぐに、(わたし)がコツコツ築き上げた優等生の猫被りは学校全体が知るところになってしまった。くっ!どおして…。*8

 

和気藹々とした空気の科学部室をかき消すようなダダダダダッ!と大きな足音が近づいてくる。これは…

 

ドォン!

 

「聞いてくれ千空!!俺は決めた!」

 

「今日こそ今から!!この5年ごしの想いを杠に伝える!!」

 

このビリビリと響く声の大きい人は、(わたし)たちの幼なじみのひとりで大木 大樹(おおき たいじゅ)、たーくん*9だ。

たーくんとはくぅちゃんの実験繋がりで知り合った。そこでも中々良い運命的な回想があるが、今回は省略する。

 

先程ご本人が申告していた通り、たーくんは小川 杠(おがわ ゆずりは)*10、通称:ゆずゆず*11のことが好きだ。たーちゃんが惚れたことなど5年前から、姫もくぅちゃんも知っている。

というか、たーくんのモロバレな言動で好意などあからさまなのに、どうしてゆずゆずが気づかないのかは謎*12だが、それはそれとして両者から仄かに香る戸惑いの感情とかの葛藤はエモエモで良いと思う。

 

「ほーん、そりゃすげぇ。興味深い、深い。」

「ねぇくぅちゃん、それすごく棒読みだよ?」

うるせえ姫子。…声帯がブチ切れるほど、応援してるわ。この科学部室から。」

「おおそうか!ありがとう千空!」

 

棒読みとしかめっ面で答えているくぅちゃんだが、内心"やっとコクるのかよ。待ちくたびれたわ。"とか思ってるのだろう!

まぁ、たーくんがゆずゆずに告白出来ずにモジモジしてるのを見てきたからね。…正直待ちくたびれた姫は2人をネタにして、こっそりナマモノ創作した。

 

「おお!今日は姫子も居たのか!姫子も応援してくれるだろうか!」

「うぅぇ!?そりゃもちろん!」

「おお!ありがとう!姫子!」

「ほんとうるせえな、このデカブツ。バカはどんだけ非合理的なんだ。」

 

そう言いながらくぅちゃんは、カチャカチャと今日の実験により精製した液体をたーちゃんに渡した。

 

「死ぬほど合理的な方法をくれてやるよ。」

 

「これはフェロモン放出を極度に活性化する、いわゆる惚れさせ薬。こいつ飲んできゃ100億%だ!」

「……。」

 

たーちゃんは少しその液体を見つめが、直ぐにその液体を流し台に 全 て 捨 て た … !

 

「ありがとう!千空。だがすまん。こんなインチキには頼れん!」

 

そしてうおー!と言いながら、たーちゃんは科学部室を去っていった。

うふふ、やっぱりたーくんは良い子だよねー。それにくぅちゃんが渡したあの液体は…

 

「てかこれマジか?千空、惚れさせ薬って…」

 

部員のひとりがそう言うか否や、くぅちゃんは液体が捨てられた流し台に火をつけ…ボォン!と爆発を起こした。

 

「んなもん、あるわけねぇだろ。ペットボトルのキャップから精製した、ただのガソリンだ。見りゃわかんだろ。」

「いや、わからん。」

「わからんだろ。」

「飲んでたら、大樹くん死んでるんじゃないか!」

 

うん、あの液体の正体は、今日のペットボトルのキャップからガソリンを精製する実験で作られたガソリンだったのだ。

石油製品であるペットボトルを石油に戻すことは科学的に可能だからね…。

 

でも、くぅちゃんにはたーちゃんが絶対惚れさせ薬を飲まないという確信があった。

 

事実、たーちゃんはくぅちゃんのことを信じてる。さっきの惚れさせ薬の話も全く疑っていないだろう。

そんな信じてるくぅちゃんからの薬でも、ゆずゆずの意思を身勝手に変えることを良しとしない。そんな真っ直ぐにゆずゆずを愛してる人なのだ。

 

「ククク、100億%飲みやしねぇよ。あの真面目バカはよ。」

「…くぅちゃんも良くやるよねぇ。」

 

信頼ゆえの行動をこうも堂々とされると、流石の姫もじぇらしーしちゃうなー?

 

 

たーくんが校舎裏に出たのが見えたのか、部員たちもぞくぞくと部室を出て野次馬しに廊下へ向かう。

くぅちゃんも自販機を買うついでだ、とか言いながら見守るようだ。

 

(わたし)?もちろん!こんな幼なじみの一大イベントを見逃す訳には行かないよね!スマホを構えて録画開始!

…ふーん、クスノキの下で告白なんて、たーくんもやんじゃん。*13

次のイベントのネタはコレに決まりだ!

 

「大木が小川に告白?そんなのフルパワーで振られるに100円。」

「俺もフラれるに500円。」

「そんなのフラれるに1000円。」

 

まだ1ヶ月くらいしか過ごしていない人間なら、2人の関係性を知らないのも仕方ないだろう。でもコレは賭けにすらならない。

 

「意外と「フラれないに1万円、だよね?くぅちゃん。」…あぁ。」

「マジか!?」

 

(わたし)たちは知っているのだ。誰よりも真っ直ぐなたーくんのことを、誰よりも好きなのは……

 

「なんだ、あの光───」

 

たーくんの声で空を見たら、グリーンバックか?ってくらい鮮やかな緑色の光線が近づいていた。

幼なじみの告白の背景にはセンスが最悪!…なんて思った時には既に(わたし)たちはその光に包まれていた。

*1
姫子が千空に対して付けたあだ名。姫子しか呼んでいない。

*2
白夜は会う度に気さくに挨拶していたが、刑部姫の家系なので陽気なおじさんにビビっていた。

*3
小学校に通うようになって、姫子のダメ人間さが露呈しただけ。

*4
分かりやすく言えば諏訪大社でいう大祝(おおほうり)─神の依代ともいわれる最高神職─と一緒。もちろん創作(この小説内だけの)設定。

*5
姫子は大祝としての事務業務をしない代わりに巫女として宣伝業務をさせられている。腐っても巫女であるので年に数回神楽と祝詞─といってもアサシン刑部姫の宝具のアレ─を奉納している。なんだかんだ城はとても長持ちする。

*6
姫子曰く、過去の回想は定番だよね!と週1のペースでやってる。内容はその時によりさまざま。

*7
回想率No.1。2人の慣れ始め編は恋愛脳に大人気。

*8
もともと美術部に所属している姫子がポンコツオタクなのはうっすら知られていたが、千空が入学し、実は年下の男子にお世話させているのが明らかになった為、おっきーと親しまれるようになった。

*9
姫子が大樹に対して付けたあだ名。ただし、姫子しか呼んでいない。

*10
杠も幼なじみのひとりである。姫子もオタ活のため、彼女にお世話になっており仲が良い。

*11
姫子が杠に対して付けたあだ名。案の定、姫子しか呼んでいない。

*12
ゆずゆずは鈍感系ヒロインなのでは?と姫は思うワケ。

*13
クスの木は御神木に使われるような縁起のいい木であり、永く大きく成長する。姫路城内にも存在する。オタクはそういうの詳しい。




現在のプロフィール
刑部 姫子(おさかべ ひめこ)
"姫路城の護り巫女"

生年月日:2001年4月11日
石化回数:1
身長/体重:158cm/51kg
血液型:O型
出身地:兵庫県
好物:(わたし)の為に作られたご飯
好きなタイプ:姫()マスターちゃんになって(養って)くれる人
宝物:くぅちゃんがくれた髪飾り
イメージカラー:赤紫
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(必須:10文字~500文字)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。