死を視る少年   作:全智一皆

1 / 1
序章「直死邂逅」

 

■  ■

 ―――小鳥の囀りが聞こえて、目を覚ます。

 熱い陽の光に肌を焼かれながら、重たい頭を上げて前を見る。

 視界の半分が紅い。

 半分は正常に現実を見ているのに、青い空を見ているのに、何故だか片方の視界だけが紅に染まっている。

 真っ赤だ。とにかく、真っ赤に染め上げられている。

 

「―――ぁ」

 

 声を出そうと喉が震え、小さな何かが零れ落ちる。

 言葉が出ない。口は開いても、喉に何かが詰まった様に、引っ張り出すそれを遮っている。

 ぽたっ…と、口の端を何かが伝って手の甲に落ちる。

 目を動かして、手の甲へと視線を移すと―――其処にも、小さな赤が溢れていた。

 

 ―――遠くから、何かが近付いてくる。

 赤い光を放つ白い何かが走っている。

 それを見て、少年はようやく理解した。

 あぁ―――自分は今、死の淵に立っているのだ……と。

 

「――――――ぁ、」

 

 鮮明に思い出される記憶の大群が、少年の脳裏に強く殴られたかの様な衝撃を走らせる。

 自分が何故こうなったのか。

 誰にそうされたのか。

 それらが次々と矢継ぎ早に起き上がり、頭の中を駆け抜けていく。

 少年は跳ねられたのだ。青になった信号を渡っていた所を、暴走した軽自動車に勢いよく跳ねられて、吹き飛ばされたのだ。

 文字通り宙を舞った少年の体は、日に照らされて熱された道路に落ちた。

 肌が焼け、衝撃で幾つか骨が折れた体にさらなる熱と激痛が込み上げ、少年は気を失ってしまったのだ。

 

 今は公園に生えた木の影に寝そべっている。おそらく、誰かが此処まで運んでくれたのだろう。

 だが―――少年の肉体は、既に限界を迎えつつあった。

 全身とまではいかないが、殆どの骨は折れている。腕や脚だけに限らず、肋骨も悉(ことごと)く砕けている。

 それに畳み掛ける様に、猛暑による脱水症状と罅(ひび)入った頭からの出血が積み重なっている。

 もはや、死んでいないのが奇跡と断言出来る瀕死の重症だ。

 

 死の要因が幾つも重なり合って、死神と化して少年の首元に鎌の刃先を当てている姿を幻視する。

 だが、抗う術(すべ)はない。

 少年には、もうどうしようもない。どうにかする力が無い。

 逃げ出そうにも、足は使い物にならない。

 振り払おうにも、腕は使い物にならない。

 助けを呼ぼうにも、血が詰まって声が出ない。

 

「――――――――――――」

 

 死(・)だ。

 目の前には、死が在る。

 普段から視る事の叶わないモノが、其処に立っていた。

 少年は今―――死と直面している。

 

 パキッ―――と、頭の中で何かが割れた。

 

「ぁ、ぃ――――――――――――――――――」

 

 酷い激痛が迸る。

 まるで稲妻にでも打たれたかの様な錯覚に陥ってしまう程の、凄まじい激痛だ。

 視界が揺らぐ。景色が崩れていく。

 

 死との直面。人生でたった一度だけ遭遇する絶対のソレを、真正面から凝視した。

 何かが割れた頭の中で、形容し難い渦を幻視する。

 宇宙ですらない暗闇の中で、何もかもが織り交ぜられたかの様な、朝と夜の境界線の様な大きな渦が、小さな星を落とす。

 まるで、凶(まが)つ星の様だ。

 そんな星が、まるで雫の様に落ちていって――――――

 少年に、死というものを理解させる。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。