インベス村の裕也さん 作:それに比べて鎧武ッ!
青年、角居裕也はビートライダーズチーム「鎧武」のリーダーだ。
ビートライダーズとは、ここ「沢芽市」で活動しているダンスバトルを行う若者たちの通称であり、そのスタンスは様々だが、チームごとに人気争いやダンスステージの奪い合いなどの衝突もままある。
裕也はチームリーダーとしてみんなを率いてきた自負もあるし、何よりみんなで楽しく踊ることが好きだった。
世間からの風評はいいものばかりではないが、こうしてダンスを披露して楽しんでくれる人がいるのなら、と活動を続けてきたのだ。
だがしかし、最近のビートライダーズのバトルは少しおかしな方向へ進んでいる。
「……インベスゲーム、か」
「インベスゲーム」そう呼ばれているそれは、ビートライダーズ間で新しく流行っているバトルの形態の一つだ。
それぞれ植物みたいな柄のある錠前、「ロックシード」を用いて、現れるホログラム状の異形、「インベス」を戦い争うゲームだ。
錠前を開けば、空間にジッパーが現れ、そこからインベスが飛び出す。リング上で戦って、撃破すれば勝ちというシンプルなもの。
要はカブトムシ相撲や、対戦ゲームに近い扱いを受けている。
確かに、競争の幅が広がるのはいいのかも知れないけど、今ではむしろダンスの実力よりもインベスゲームの腕前のほうが重視されている節がある。
何せ、インベスゲームで勝ってしまえば、そもそものダンスステージが奪われ、酷いときにはビートライダーズの証であるプレイヤーズパスまで失いかねない。
それに加えて、この錠前だ。チーム鎧武にも持っているメンバーはいるけど、それもヒマワリの種の様なものや木の実のものばかり。
保持している数が多ければ一度に複数のインベスで戦え、よりランクの高いロックシードなら強いインベスが呼べる。
要は、持っていれば持っているほど。高いランクであればあるほどインベスゲームを有利に進められる。
現に、チーム「レッドホット」なんかはインベスゲームにばかり注力しており、そもそものダンスに対する興味は薄そうだ。
当然、そんなものだから錠前ディーラーからいいものを買おうと躍起になるし、ランクの高いロックシードなんて、100万円を超えることなんてザラだ。
ただでさえ職のない若者たちが趣味で行っている活動に、そこまでの金額は手が出せない。
つまり、今やダンスバトルというのは建前で、どれだけ金を積んでロックシードを確保するのか。それがチームの強さと人気を表しているようになっている。
今の民衆やビートライダーズにとっては、ダンスの腕前なんて二の次になっているのだろうとも痛感する。
「…紘汰がいればな」
思い返すのは、少し前にチームから離脱した一人の男。誰よりダンスが上手く、それでいて明るいムードメーカーだったが、お姉さんとの二人暮らしということもあって、楽をさせるために就職活動を始めると言ってチームを抜けた。
ふと、そんなことを考えて頭を振る。
その動機はとても立派なものだし、今までお世話になった家族のために働くのはとても偉いと思っている。何より、そんな紘汰の人柄を知っているからこそ送り出したのに、未練がましく頼るのは駄目だ。
何より、今日だってバイト中だってのに暴走したインベスから舞を助けてくれたんだ。いつまでもうじうじしてはいられない。
「っし、俺も頑張らないとな」
ここは何とか、リーダーとして今の立場を整える必要がある。ビートライダーズとして、少なくとも潰されないだけの力と立場を手に入れて、元の形に収まるようにするべきだ。
「…しっかし、どうしたもんかね」
そうは意気込んでも、実際鎧武の地位は脅かされているし、チーム内からも不満の声が出てきている。なるべく早く解決しなきゃいけないんだが……。
悩んでいると、俺に一軒のメールが送られてきた。
「…錠前ディーラーのシド?…『チーム鎧武のリーダー、角居裕也。お前にいい話がある』…だって?」
……怪しいが、今の状況を変えるには、どの道いつか錠前とも関わらなきゃいけなくなる。特にいい案も思いつかないし、話だけでも聞いてみるか。
俺は紘汰と別れたドルーパーズへと引き返し、奥の部屋に陣取る錠前ディーラーの元へと辿り着いた。
その男は胡散臭い黒尽くめの格好に、室内だってのに黒いハットのまま、ソファーに腰掛けていた。
「何だよ、話ってのは」
「アンタのチーム、ピンチだそうだな?…とっておきの秘密兵器があるんだが」
ティーカップから視線を離さず、シドが言う。
これだ。錠前ディーラーはロックシードを売っている。今じゃロックシードなんて飛ぶように売れる代物で、ピンチなら尚更。負けが続いていたりするチームに、レアな錠前をちらつかせて、高い金毟り取ろうって算段だろう。
そのことに、少しだけ辟易としつつも、錠前のことも気になってた以上は、腰を据えて話を聞く。
「また新手の錠前か…」
「いーや、違う」
想像していた内容と異なる反応をしたシドが、テーブルの上に置いたのは、何かをはめれそうな窪みと、刀みたいな装飾があるプレートだった。
「これは…」
「文字通り、秘密兵器さ。今回はタダで譲ってやるよ」
「…いや、待てよ。いきなりそんなこと言われても、一体何のために」
「…理由が必要か?それは簡単さ。今やチームバロンがほぼトップを独占中。インベスゲームに負けて解散したチームもいくつかある。……一言で言っちまうと、あんまり不動のトップってのが出来上がると、うちも商売上がったりなんでね。勝てないから諦める。そうするとゲームのための錠前は売れなくなるし、バロンだって相手がいなくなればそれ以上の錠前は買わない。……競争自体もつまらなくなるし、適度にパワーバランスがないとこういう商売は出来ないんだよ。どうだ?納得したか?」
……確かに。売り手のディーラーからすると、誰が勝ったかよりも、買い手が多くいる方が重要だ。互いに潰し合うことを煽っているけど、本当に潰されて、辞められてしまうのが一番の損失ってとこか。
今の俺にとって、一番欲しいものだ。
「……分かった。そういうことなら、有り難く使わせてもらう」
「ああ、それでいい」
「じゃあな」
それを受け取って、ドルーパーズを出る。形状からして、多分持って使うってよりは身につけてどうにかするってものだとは思うが……。
ま、錠前とは違うみたいだし、大丈夫か。
よし、紘汰や舞にも見せてやろう。
どうなるかは分からんが、初お披露目はそこでも十分な筈だ。
『面白いモノを手に入れたから見せてやる。四時に倉庫街で会おう』
紘汰と舞にメールを送って、一足先に倉庫街に行く。
あそこなら、他のビートライダーズにも邪魔されずに色々と出来るだろう。一応、どんな機能があるかも分からない秘密兵器だからな。人がいないほうがいい。
「多分、この窪みに入りそうなのって錠前だよな…」
錠前ディーラーが売ってるんだから、多分間違ってないはずだ。俺は今持って無いから分からないが、これに嵌めたら何かが起こるんだろう。
色々と見てみるが、機械っぽいことしか分からねえ。でも色々と弄って壊すのもアレだし、大人しく紘汰達が来るまで……
「って、何だ。アレ?」
倉庫街の一隅、やたらと伸びてる植物が見えた。そんなに通るような場所でもないが、それにしたっておかしい。
「おいおい、こんなの見たこともねえぞ…」
そして、その中に混ざる、明らかにこの辺じゃみない植物。もしかしたら外国とかじゃあるのかもしれないが、それにしたってこんなところに生えてるのは違和感だ。
「……これは」
そして、気がつけば、本当は壁しかない場所にジッパーみたいな穴とその先に森が見えた。
「どこかに繋がってんのか…?」
紘汰達を待つべきだとも思ったが、まだ少し時間はある。それよりも、この不思議な場所が気になって、足を踏み入れてしまった。
「何だよ、これ…」
そこは、今までの倉庫街とはかけ離れた森林だった。緑におおわれ、奇妙な植物が生えている。こんな場所は沢芽市にはなかったはずだ。まさか本当に違う場所に繋がってたのか。
「……?」
辺りを見回して、蔓に成っている果実を手に取る。見たこともない果実だが、妙に気になった。
皮は案外簡単に取れて、現れたのは瑞々しい白い果実。
ごくり。
見たこともない植物だってのに、それがとてつもなく美味しそうに見えて、目が離せなくなっていた。
(流石に、変な果物を食べるのは……。いや、確かミッチが毒があるやつの確認方法とかも言ってた筈だ。そうだ。紘汰や舞も呼んでるし、万が一毒があってもほんのちょっとなら大丈夫だろう。ヤバそうだったら、直ぐに吐くなり、病院にいけば大丈夫だろうし………)
とうとう、理性的な考えがこの果実の魅力に抗えなくなり、一気に齧り付いた。
――――……
『………!………がはっ…!あぁ…!あぅ…!』
ここは、どこだ。
俺は何をして…。
いや、そうだ。俺は確か、秘密兵器を貰って、紘汰達を待ってたら…。そう、変な森の中で変な実を食べて……。
お、思い出した。
『ぅっ…ぐっ、ぐはぁ…!』
俺は、あの実を食べて、化け物に…。
そして、気づいた。目の前の視界。化け物になった俺が、紘汰を襲っていることに。
「なっ…糞っ、止まれ!やめろ!紘汰に手を出すんじゃねえ!」
そう強く抵抗するも、俺の体のはずなのにピクリとも動かない。
「くそっ、何で言うことを聞かないんだ…!」
既に紘汰は俺のせいで口から血を出している。このままじゃ、俺が紘汰を殺しちまう…!
「待て、くそっ、止まれよ俺の体!」
必死に体の主導権を握ろうとするが、上手くいかない。どう頑張っても化け物みたいに動いて、紘汰を殺しにかかっている。
すると、目の前の光景に変化が訪れた。
「…あれは、俺の貰った秘密兵器」
紘汰が腰につけていたのは、俺がシドから貰い、化け物になった時に落としたものだ。黄色いベルトが腰に巻きつけられ、ちょうどバックルみたくなっている。
紘汰が手に持っていた錠前(多分、Aランクのロックシードだ)を掲げて、真ん中の窪みに嵌め込む。
すると、法螺貝みたいな音楽が流れて、紘汰の上空に巨大なオレンジが現れる。
そのまま、ベルトの刀で錠前を開くと、落下したオレンジが鎧となって、紘汰に装着されていった。
「ああやって、使うのか…」
やはり、予想は間違っていなかった。
鎧姿の紘汰は、ミカンみたいな模様の刀を持っていて、鎧と頭の角から、まるで戦国武者の様にも見えた。
その変身に見惚れていると、突如として俺の体が動き出した。
人間にはとても出来そうにない跳躍を見せつけて、人外の力で紘汰を殴りつける。
「…この…!」
やめさせようとするが、やっぱり体は動かない。
いや、それよりも紘汰だ。今の俺だから分かるが、この怪物の力は人間を軽く超えている。それに組み付かれて、本気で殴られているにも関わらず、紘汰は深刻なダメージを受けていない。
いや、それどころか、今の今まで抵抗すら出来なかった怪物とまともにやり合うことが出来ている。
鎧と武器は伊達じゃないってことか。
「ぐああっ…!?」
突如、胸に鋭い痛みが走る。
完全に油断していただけに、かなり痛い。前を見れば、
「体は動かせないのに、痛みは感じるのかよ……!!」
最悪だ。紘汰を傷つけるのも嫌だが、普通に痛い。何て不便な…!
そのまま、俺の体の主導権は一切握れずに、戦闘が進む。
そして、少しずつ慣れてきた紘汰が俺の体を斬り飛ばし、くっつけた剣に錠前を嵌める。
俺の出していたビームも薙刀になった武器に押し負け、そのまま俺の体に二筋の斬撃が刻まれる。
それを受けた俺の体は燃えるようなオレンジのエネルギーに包まれて、動くことすら出来ていない。
そのまま、エネルギーが込められた薙刀で俺の体を一閃しようと紘汰が構える。
「………紘汰。お前になら…。こんな化け物になって、傷つけてしまうくらいなら――殺されたって構わない」
――ああ、でも。チームのことは頼んだ。
舞も紘汰のことを口では色々と言いながらも気にかけてるし、ミッチも色々と抱えてそうだ。もちろん、他のみんなだって、お前なら大丈夫だって思ってる。
不甲斐ないリーダーで悪いが、どうか、紘汰――!
死を受け入れ、甘んじて紘汰の一撃を受け入れようと覚悟を決める。
「ぐわあっ!?」
すると、突然横合いから現れた怪物が、紘汰の不意をついて突き飛ばす。
抵抗する紘汰だが、もう一体現れて、紘汰の攻撃を防いでいく。
「おい!止めろお前ら!」
声を荒げて、気づく。
紘汰が跳ね飛ばされた時点でオレンジのエネルギーは消え、俺の体が手を伸ばして静止を訴えかけている。
「う…動く、動くぞ…!」
何が原因かは分からないが、自由に体が動くようになった。
「よし、止めろ化け物!」
体が動くならと、紘汰に襲いかかる化け物と戦おうと走り出す。
すると、今まで紘汰に攻撃を仕掛けていた化け物たちがこっちに振り向くと、一度紘汰を突き飛ばしてからこっちに向かってくる。
「くそっ、敵扱いか!」
だが、このまま放置してれば、紘汰だけじゃなくて舞まで襲われるかも知れない。今は同じ化け物だから、戦えるはずだと自分を鼓舞して迎え撃つが、俺の予想に反して、その化け物二体は俺の腕を二体で挟むと、走り出す。
「あっ、おい!待て!」
俺の方向からだと、紘汰が追いかけてくるのが見える。走りながら刀の鍔から銃撃をするが、こっちが逃げに徹してるからか、ろくに当たらない。
「クソ!何のつもりだこいつら!」
俺はバタバタと抵抗するが、無理矢理に引っ張られて、気がつけばそこは俺の入った裂け目の場所。
俺の抵抗を無視して、二体の化け物が顔を見合わせると、その中に飛び込んだ。
いきなりの浮遊感に、俺は無様に背中から地面にぶつかったが、あまり痛くない。これも怪物になったからだろうか。
その直後、紘汰が目の前まで追いついたが、俺達がくぐり終わった瞬間にその裂け目は閉じて、まるでそこには何もなかったかのように、ただの奇妙な森が広がっていた。
「何だ、今の…」
あまりの光景に呆然としていると、ガサリと音がして、怪物がいた事に気づく。
ゆっくりとこっちを見る怪物に、咄嗟に立ち上った俺は威嚇する。
「な、何だお前ら!やる気か!?」
化け物の体に頼らなきゃいけないのはあれだが、今の所一番の武器は怪物になった体だ。
だが、そこで思わぬ事態が起こった。
「…落ち着いて。我々、敵じゃない」
「君も、奇妙な果実食べて、その姿になった。でも、元の意識はある。そうだね?」
「は?え…?」
突然、言葉の通じない化け物達が、話しかけてきたのだから、俺の脳みそはパンクしそうになった。
いや、今日だけで色々とあったんだ。それなのにこんな衝撃的なことがそう立て続けにあって、冷静な方がどうかしてる。
「お、お前ら、何で日本語喋れるんだよ」
「喋れる、違う。お前が、我々の言葉話してる」
「元の世界に、行かないほうがいい。言葉通じず、化け物として倒される」
「は?何だよ、そりゃ…」
混乱する俺を置いて、二体の化け物が何かを話す。
「ひとまず、着いてこい。ここは監視されてる」
「心は化け物にならなかった。同志達がいる村に」
「おい、ちょっと待てって、説明くらいしても…」
「してやるから、今はここを離れよう。じっとしていたら、理性ない化け物が来る」
そのままずんずんと進む二体に、困惑しながらも、俺はついていくしかなかったのだった。
角居裕也のセリフはエアプです