推しへの愛がアクセルシンクロ   作:いちごの入った大福

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巻込

 

 

 

我が学校には【天馬(てんま) 王司(おうじ)】という生徒がいる。

彼を一言で表すならば『我らの光』だ。

 

 

 

 類稀なる整った容姿

 周囲を引き込むカリスマ

 公式戦無敗というデュエルの強さ

 生徒会長を務めている

 凄まじいイケメン

 親が大手企業の社長という家柄

 後継が内定という高い能力

 顔がいい

 顔が好み

 顔が大好き

 顔がめちゃんこ良い

 

 エトセトラエトセトラ……

 

 

とにかく挙げればキリがないほどのとんでもない人物である。そんな人がいれば推したくなるのも当然の心理なのである。

 

 

 

 

 ◆

 

 

「何度も聞いたわ」

 

 

バッサリと話を切る声で我に返ってしまう。そんな殺生な。

 

正面を見ると、私の友人【椎名(しいな) 京子(きょうこ)】が呆れた視線を向けてきていた。ツインテールがキュートな友人である。彼女は自分の弁当をつつきながらぼやいていた。

 

 

「待ってよこれからが本番なのに!」

「全部聞いたら昼休み終わってしまうわ」

「あっ!? ご飯食べないと!」

 

 

そういえば話に夢中になって、ご飯を食べ損ねていた。急いでお弁当をかき込む。弁当の内容は王司君をイメージ♡したカラーで揃えている。

 

 

「もぐもぐ……で、何が言いたかったのかというと」

「あんたが面食いなのは伝わったわ」

「違うそうじゃない!」

 

 

確かに王司君は容姿が整っている。凄まじいイケメンだ。正直なところ、顔がド直球に大好きなのは間違いない。今日も推しの顔がいい。

 

 

「でもそれだけじゃなくて!」

「箸が止まってる」

「ハイ」

 

 

食事を優先して、今日の布教は諦める。何せ午後からもファンクラブとしての活動があるからだ。ここでちゃんと体力をつけておかないと! 

 

 

「あんたはその悪癖さえなければねえ……」

 

 

既に完食した京子が呆れて呟く。でもそういうことを京子には言われたくない。

 

 

「心外。京子こそまだ幼馴染とくっつかないの?」

「バッッッ!?!? 今それ関係ないでしょ!?!?」

 

 

京子が顔を真っ赤にして肩を揺らしてくる。目がまわるからやめてほしい。

 

我が友人である京子は、幼馴染である【武東(むとう) 遊太(ゆうた)】に想いを寄せている。外から見るとめっっっちゃ分かりやすいのだが、残念ながら当の幼馴染はデュエル馬鹿であり、想いが伝わる様子が全くない。その様子に周囲がやきもきしている。

 

京子は京子で奥手すぎるのだ。少しはファンクラブのアプローチを見習ってほしいものである。

 

 

「それはそれで嫌よ……」

 

 

その考えが伝わったのか、京子はゲンナリしていた。解せぬ。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

午後の授業はクラス合同体育であった。

私を含めたファンクラブの生徒が総勢で一角に集まっていた。

 

 

 ダァンッ

 

 

固唾を飲む皆の視線の中、王司君が鮮やかに飛び上がった。

 

 

「ろ……6mオーバー! 新記録です!」

 

「「「キャアアアアアア!!」」」

 

 

記録係の一言にファンクラブの大歓声が挙がる。王司君が走り幅跳びで高校生とは思えない記録を叩き出したのだ。凄まじいデュエルマッスルをしている。素敵♡

 

当の本人はタオルで汗を拭い、応援していた集団に手を振る。

 

 

「キャアアアア!! 王司君が! こ、こちらに御手をお振りあそばされましたわ!」

「私よ! 私に振ったのよ!」

「ああっ煌めく汗の王司君の爽やかな笑顔っ……!」

「失神者が出たわ! 早く日陰に運んで!」

 

 

手を振るだけで失神者が出る。流石は王司君だ。気持ちはわかる。今の王司君は汗と日光で数割増し輝いて見えるからだ。

 

残念ながら私は王司君とは別クラスである。こうした応援は合同授業じゃないと出来ないのは寂しい。なので今回のような機会は気合を入れて応援するのだ。

 

 

「あ、あんた何持ってんの」

 

 

京子がこちらを見てドン引きしているように見える。でも許してほしい。これは私の熱情の証。

 

 

クソデカサイズの王司君応援うちわである。

 

 

 

「王司君がんばれ──!!」

「やめなさい恥ずかしいから!」

 

 

隣の京子に必死に止められてしまった。解せぬ。

 

 

「うおでっか……」

「あいつ相変わらずだよ」

「どうやって作ってんだあれ?」

 

「ほら目立ってるじゃないの! 没収!」

 

 

うちわも没収されてしまった。無念。

 

 

 

 

 ◆

 

 

その夜、私は1人で帰宅していた。

 

 

学校の友人たちはみんな今日忙しく、一番の友人の京子は最近付き合いが悪い。最近、幼馴染の遊太君と何やらコソコソしている。一体何をして……ハッ!? 

 

 

もしかしてこれは逢引きではなかろうか!? (クソデカ動詞)

 

 

という事があり、最近は生暖かく見守っている。

 

京子のことだ。外野が突っ込むと、恥ずかしがって逢引きをやめるかもしれない。ここはそっとしておくのが吉だ。

 

ファンクラブの中でも仲良しの子達も決闘塾に行ったりと忙しいらしい。なのでこうして1人で帰っているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『力を求めよ』

 

 

「え……?」

 

 

唐突に低い声が聞こえた。声が聞こえた方を見ると、地面にデュエルモンスターズのカードが落ちていた。捨てられたのだろうか? ひどいことをするものだ。カードは魂と同義と宣うデュエリストも多く存在する。それほどに大事にしなければならない相棒なのに……

 

 

『力を求めよ』

 

「力? あるに越したことはないけど……」

 

 

この不思議な声、落ちているカード達から聞こえる気がする。ちょっと不気味に思いつつも、捨て置くわけにはいかず、そっと拾い集めてみる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間

 

 

 

 昏い感情が私の頭を埋め尽くした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王司君……王司君、王司君王司君王司君王司君!! 私の光、私達の唯一無二の一等星!! 私の未来を照らしてくれた大好きな光!! あの光が欲しい。あの光の全てが欲しい! あの光が全部欲しい!! ああ、でも星に手が届かない。私にとって王司君は唯一無二の星だけど、王司君にとっての私はただのミジンコに過ぎない。人間の手は決して空の上には届かない、それは決まっていること。織姫と彦星のように決して交わることがない。そう、私の手では決して届かない。そんなの辛くて辛くて仕方がない。力が欲しい。王司君を手に入れられるだけの力が欲しい。かつて人間が空への羨望を技術に変えて飛び立ったように。そうだ力だ。力さえあれば王司君に手が届く。王司君を手に入れたい。王司君の全てが欲しい。王司君、王司君王司君王司君王司君王司君!!!! そうだこの力だ!! 力が今ここにある!! 闇のカード、使い方がよくわかる!! この力があれば王司君を手に入れられる!! 王司君の頬をそっと撫でることも、髪に指を絡めることも、鍛えられた身体を思う存分感情のままに鑑賞することも、果てにはちょっと手を繋いだりして!! キャー!! そんなことも自由自在!! 待ってて王司君!! 私いまから迎えに行くよ! 王司君ためなら何でもするから!! 王司君のために全部捧げるよ!! だから動かないでね!! 私が全部手に入れた暁には足をもいで腕を結んだら何処にも行かないよね! 大丈夫、私は王司君のことが大好き♡だから何でもしてあげる! 心臓さえ動かしてくれればそれでいいから! それ以外は私が全部全部ぜーんぶしてあげる! 周りのことが少し煩わしく思ってるのも知ってるよ! 邪魔なものは排除してあげる! だって私には力があるんだから何でもできる力があるんだから力があればあなたの事だって

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でもそれって王司君の迷惑ですよね? 

 

 

 

 

 

 

「ハッ!?」

 

 

おれは しょうきに もどった! 

 

 

な、何ですか今の。なんか頭の中にあっちゃいけない色々なチョメチョメが浮かんだような……

 

 

『ち、力を求めよ……』

 

 

うわコイツまだ言ってる! 

 

どうやらこのカード達が私を誑かそうとしていたようだ。うーんギルティ! 王司君への愛が悪魔の囁きに負けるわけないだろ! 

 

えっと、カード名は……【クシャトリラ】? 聞いたことないテーマだ。

 

 

「はいはい力は回収しましょーねー」

 

カード達を丁寧に拾い集めてカードケースに入れてしまうと、声は全く聞こえなくなった。結局何だったんだろう? 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

「愚か者めが」

 

「ゑ?」

 

 

 

気が付いたらまったく別の場所に立っていた。

 

 

辺り一面に広がる荒野。草一本生えていない死の大地。空を見上げれば真っ赤な空が広がっている。

 

 

「ようこそ六世壊へ」

 

 

対峙しているのは、腕に禍々しいデュエルディスクを身につけて、赤い豪勢な装束に身を包んだ男であった。

 

 

「貴様は我自ら闇に落としてやろう」

 

 

 

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