ベル君がシド君にマークされる話   作:orangena

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 ベル君視点

 この世界線のベル君が学園に来る前の話。


第01話 初めての友達

 アレからベルと僕は騎士団に暗殺者のことを伝えに行った。

 事情聴取が結構長かったんだけど、やっぱり貴族の暗殺未遂事件ともなれば、捜査にも力が入るんだなと考えていると、夜中の三時になってようやく解放された。

 びっくりしたのが、ベルも同じ時間に終わったことだ。

 どうやら彼は、自分が暗殺者を撃退したことを伝えてないようだ。

 まあ聞いた話だと、自分たちを助けてくれた人がいて、ローブで身を包んでいた為、顔は分からなかったと伝えたらしい。

 

 絶対信じられてないな。

 

 だって、もうすでに騎士団の人がヒソヒソとこちらを見ながら話しているのが見えるし。

 

 そもそも、ベルの顔が『嘘です』って語ってる。

 もう見るからに目を泳がせているし、あわあわしててもう純粋さが露わになってる。

 

 この感じだとアレだな。

 純粋なベルが嘘をつける性格ではないのは明白。

 持ち前の主人公っぷりが仇となったパターン。

 さすが主人公。

 

 これはしばらくベルは騎士団の監視対象になるだろうなあ。

 

「……すみません。付き合ってもらって。しかもこんなに時間が……」

 

 くぅ〜、モブのこともこんなに気にかけるなんて、さすが主人公!

 

「いやいや、僕がついて行きたいって言ったんだし、気にしないでよ」

 

「そうですか? ありがとう、ございます」

 

 さてさて、どうしたものか。

 ベルの監視はイコールで一緒に報告に行った僕も監視対象になるということかな。

 

 まあちょうどいいか。

 僕もこれからの展開を考える時間が欲しいし。

 

 きっと、これからはベルを中心に物語が進むと考えられる。

 これは僕の妄想ではなく、ベルの性格故だ。

 

 

 ベルは良くも悪くも主人公だ。

 

 厄介ごとに首を突っ込むだけではない。

 それだけなら第一発見者Aとか、死者Bみたいなモブでもできる。

 主人公なら、もっとすごいことをする。

 

 芋づる式にさらに壮大な事件に巻き込まれるのは、想像に固くない。

 

 僕の勘がそう告げている!

 

 それに対応して、僕は『陰の実力者』として振る舞えるように、主人公より先に事件に介入しないとね。

 

 陰の実力者は、いつだって主人公の前に立ち、謎を残していく者なのだ。

 

 僕は、ベルがするであろう行動に適した『陰の実力者』プレイの脳内シミュレーションを徹底しなければついていけない。

 

 そのためには——

 

「じゃあ、また学校で」

 

「え?」

 

「ん? せっかく知り合ったんだし、また話すでしょ」

 

「……ッ! は、はい! また明日!」

 

 よし、これでいい。 

 今急に『俺らとっくに友達だろ』宣言なんてしたら、モブではなくメインキャラみたいになる。

  

 これから僕は、モブとして、ベルと接触し、彼の情報を集めることにする。

 大体一ヶ月かければ、ベルの対処パターンを完璧にできるとともに、僕の陰の実力者プレイのクオリティも爆上がりするだろう。

 

 くくく、これからが楽しみだ!!

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 僕が学園に来る前、いろいろとあったと思う。

 

 田舎で生まれ育った僕は、いつもナイフばかり振っていた。

 と言うか、これ以外に鍛錬の仕方が分からなかった。

 

 昔、僕を助けてくれたあの人(・・・)が組んでくれたトレーニングメニューを、僕はずっと繰り返している。

 

 ここは近くの領土にも剣術道場がないほどの辺境だし、武器を使う時なんて、猟で動物を仕留める時か、スライムを倒すときしかない。

 だから僕は、せめて早くナイフが振れるように、体づくりや素振りをしていた。

 

 まあ、そんなんだから、村のみんなからは馬鹿にされてるんだけど……。

 

 それでも、僕を嘲笑う人ばかりじゃない。

 僕を応援してくれている人がいる。

 

「べ〜ル〜く〜ん!」

 

「ぐはっ!!」

 

 いきなり僕の背中に飛びかかってきたのは、一緒に暮らしているシスターのヘスティアさんだ。

 

 おじいちゃんが亡くなって、他に行く宛が無くなってしまった僕を、優しく、暖かく教会に迎え入れてくれたのがこの人だ。

 その時、僕にはヘスティアさんが女神に見えたので、神様と呼ぶ時もある。

 黒髪ツインテールで、あまり高いとは言えない身長のヘスティアさんだが、教会に来る人とお悩み相談会なるものをするとき、本物の神様のように寄り添う姿は、まさしく女神と言える。

 

「か、神様!?」

 

「違うだろう? ボクを呼ぶ時はヘスティア、またはマイシスター、お姉ちゃん、ハニーだろ?」

 

「後半なんか変でしたよね!?」

 

「い〜だろう別に、同じベットで寝た仲じゃないか〜」

 

「それはヘスティアさんが僕が寝てる時に勝手に入ってきたんじゃないですか!」

 

 こんな会話はしょっちゅうで、きっと僕が孤立しないようにしてくれてるんだと思うけど、少し控えて欲しいなあ。

 

 それからは、僕が素振りをしているところをヘスティアさんが暇つぶしになるのか分からないけど、見学すると言って聞かないので、そのまま彼女に見られながら行った。

 その後は僕たちのホームに帰り、僕は食卓の準備をしていた。

 

「ねえベル君」

 

 後ろからヘスティアさんの声が聞こえたので、振り返ると何か神妙な様子でそこにいた。

 いつになく真剣そうな顔つきで、僕は気になってしまった。

 

「はい、どうしましたか?」

 

「……本格的に、剣を学んでみる気はないかい?」

 

「……え?」

 

 突然のことに、僕は現実についていけなかった。

 

「ここで素振りするだけだと、君の夢には辿り着けないと思うんだ。ならいっそ、王都の魔剣士学園に行って、修行したほうがいい」

 

「そ、それは……」

 

「ボクだって、君が一生懸命素振りをしているところを見るのは好きだぜ。でも、君が自分の鍛錬に限界を感じているのも、分かっちゃうんだ」

 

 僕はこの人が言うことを否定しようだなんて思えなかった。

 だって、この人が今僕に言ってくれる言葉は、正論で、現実的で、建設的で、思いやり深いものしかなかったから。

 もし、僕が言い返せることがあるとすれば——

 

「……そうしたら、ヘスティアさんはどうするんですか?」

 

 僕が遠くへ行けば、この人はひとりぼっちになってしまう。

 もちろん、この村にはたくさんの住民がいて、神様を慕っている人間はいくらでもいるから、神様が困っている時は助けてくれるかもしれない。

 

 ここからは、僕のエゴになってしまうけど。

 僕は、ヘスティアさんが寂しそうにしている時、寄り添えるのは僕でありたい。

 僕はこの人にたくさんのものをもらった。

 けど、もらってばかりで、何も返せている気がしない。

 

「僕は、まだ、貴方に何もできていない……」

 

 神様が助けてくれたから——

 

「確かに、自分の夢を叶えたいのは本当です」

 

 ヘスティアさんが一緒にいてくれたから——

 

「でも、それと同じくらい、僕は貴方を助けたい」

 

 僕は救われたんだ!

 

「僕は、まだ何も返せていない! だから、だから……」

 

 僕は自分のエゴをありったけだした。

 すると、ヘスティアさんは僕をそっと、正面から抱きしめてきた。

 

「……ボクはね、もう、君に十分助けられてるんだ」

 

「……かみ、さま……」

 

「ボクのためにそこまで想ってくれてたなんて。嬉しいよ、ベル君。ボクと一緒にいたいってのは、ものすごく伝わったよ」

 

 気づいたら、僕はこの人に頭を撫でられていた。

 どうやら、いつの間にか膝をついていたらしい。

 

「だけどね、ベル君。ボクは君にも幸せになってほしいんだぜ?」

 

「どう……して……?」

 

 ボクが聞き返すと、ヘスティアさんは、紅潮させた顔と、潤んでるとも輝いているとも言える眼差しで、僕の顔を両手で優しく触れながら言った。

 

「ボクは、君のことが大好きだからね」

 

 僕はきっと、その後泣いたんだと思う。

 それは、ヘスティアさんが僕の頭に手を回して、胸元に抱き寄せてくれたからでもなく。

 床に水滴の跡が何個もあったのを確認したからでもなく。

 

 ただ、僕と言う存在が。

 ベル・クラネルという存在が、肯定されたような気がしたからだ。

 

 

 

 その後、僕は晩御飯の用意も忘れ、ヘスティアさんと話すために、机越しに向き合いながら椅子に座った。

 

「……僕、行きます。もっと強くなります」

 

 やっと決心した僕は、ヘスティアさんにそう告げる。

 

「そっか、君ならできるよ。君ならなれる。きっとね!」

 

 今まで見た中でもとびきりの笑顔でそう言ってくれた。

 

「そういえば、ミドガル魔剣士学園は貴族しか入れないと聞いたんですが、僕みたいな孤児でも入れるんですか?」

 

「ああ、それなら特待生制度があるから、大丈夫大丈夫」

 

 ヘスティアさんがサムズアップしながら白い歯をきらりと輝かせている。

 こういう時、逆に何かありそうで心配だけど、今ならなんとかなりそうな気がするので、何も言わない。

 

「いや〜、ボクも早く支度しないとだね! 何持っていこうかなあ」

 

「……へ?」

 

 何かヘスティアさんがおかしなことを言った気がしたんだけど、気のせいかな?

 

「あの、神s……ヘスティアさん? 今なんて?」

 

「ん〜? だから、ボクの荷造りだよ。留守中は村長に任せればいいしね。あとは王都でたくさん美味しいもの食べたいんだよね〜。今のうちにバイトするのもありだなあ」

 

 ??????

 

 理解不能、思考停止、なんだコレ??

 

「え、ヘスティアさん。つ、ついて来てくれるんですか?」

 

「……え?」

 

 今度は逆にヘスティアさんが驚いているようだ。

 空いた口からずっと『え?』と言っている。

 

「……ボク、一言も、一緒に、行かない、なん、て、言って、な、い…………」

 

 ………………ええ

 

 先ほどまでの空気が嘘のように、まるで喜劇のようになっていくのを肌で感じた。

 

 

 

 それから数日後、王都に来てから激安の宿に二人で泊まり、特別入学試験を終えてからは二人でバイトなんかをして、合格発表の日を待った。

 

 後から知った話だが、この特待生制度は、普通の試験よりハードで、貴族だから入れる彼らとは違い、何年も前からこの試験に向けて対策している人がかなりいるそうだ。

 そんな中で僕が選ばれるなんて、とても自信がなかった。

 そもそも、学園で習うのはグレートソードのような長剣をメインとした剣術だ。

 もちろん、試験でも長剣を使った。

 僕は学園で、あの技(・・・)に耐えられる長剣や大剣などの武器を使った剣術を学ぼうとしていたが、それは入れることが前提。

 入った後のことを気にするより、入るための準備をもっとするべきだった……

 

 そのことをヘスティアさんに言ったら『大丈夫だって、君はどうせ合格だろうしさ』なんて軽く流されてしまった。

 本当に大丈夫なのだろうか?

 

 そして合格発表当日

 

 本当に合格していた!!!

 

 人徳に恵まれているヘスティアさんなら裏で学園の偉い人と繋がっているんじゃないかとも考えたが、本人に聞いたらそんなわけないと言われた。

 

 それからは、特待生の権利として、僕は寮に住み、ヘスティアさんは高級住宅街にあるマンションの一室を宛てがわれた。 

 学園の授業がない日は、ヘスティアさんのところに行ってもいいそうだ。

 

 ヘスティアさんはとにかく広すぎる寝室やリビング、お風呂にキッチンなんかを見て、『ここがボクとベル君の愛の巣だ!』なんて言っていたのを覚えている。

 僕も家族のように慕っている人が近くにいると思うだけで嬉しい。

 

 

 

 学園生活は、初日は不安だったけど、入学式を無事に終えることができた。

 

 僕が帰ろうとした時、ちょうど目の前で明らかに剣を振れないだろうとわかる体型の人のズボンから、ハンカチが落ちるのを見た。

 

 僕はハンカチが床に落ちる前にを拾い上げ、落とした人に渡そうとした。

 

 しかし、彼は僕のことをいかにもドブネズミを見るような目で見てくる。

 僕に何か言う暇も与えずに、僕を手の甲で殴った。

 

「貴様のような下賤な身分のものが近づくな!」

 

 結局、その後もハンカチのことを伝えても盗人扱いされ、生徒会の人たちが来るまでずっと殴られた。

 

 

 

 

 夜になって、僕は魔力を使い、自然治癒能力を上げることで傷を治していた。

 このままでは友達が一人もできないんじゃないかと不安になるが、そもそもここは貴族ばかりの学園なので、平民の僕に仲良くしてくれる人がいるのかどうか怪しい。

 さらに不安になってきた。

 

 おじいちゃんが昔、『制服着た美女ってめちゃ良くね?』とか『ツンツンしたロングツインテールのお嬢様がデレるのがたまらんのじゃ』とか、ちょっと意味が分からないことを言っていた記憶があるけど、本当にそんな展開あるのかな?

 

 そんなことを考えていると、僕は外から妙な気配を感じた。

 変に音を殺した走りをする顔を隠した変質者が三人、誰かを追っている。

 

 確認すると、夕方、僕を殴ったあの貴族が追いかけられていた。

 

 男たちは彼を追い詰め、手に持っているナイフを彼に向ける。

 ピンチなのは明白。

 僕は彼を助けようか少し考えてしまった。

 

 しかし、つい先ほど亡くなったおじいちゃんを思い出したからなのか、気づいたら体が勝手に動いていた。

 

 僕は一気に暗殺者の方へ駆けつけた。

 

「ま、なんだこいつ!?」

「いや、目撃者は排除する決まり」

「運が悪かったな。学生なんぞ雑魚同然!」

 

 そう言って暗殺者は僕に飛びかかってくる。

 だけど、なんだろう。

 

 遅い。

 

 決着はすぐに着いた。

 

 僕は後ろにいる貴族に立ち上がるよう手を貸すが、彼は逃げるように去っていった。

 

 騎士団に報告しようと、僕は職員室に向かう。

 

 その時だった。

 

「ちょっと! ちょっと!」

 

 僕に向かって聞こえてくるその声が聞こえる方に、僕は振り返る。

 声の聞こえた方を見ると、黒髪の少年がいた。

 彼は何か聞きたそうにこちらを見ている。

 

「いや、あの……。なんであんなやつにあそこまでしたの?」

 

 少しキョロキョロした後、その黒髪の子は僕に聞いてきた。

 

「あんなやつ放っておいてもよかったじゃん」

 

 なんか結構辛辣だなあ。

 

 でも、なんて答えよう。

 僕は少し返答に困ったが、さっきからおじいちゃんのことを思い出していたからか、正直に答えたくなってしまった。

 

 

 

「……助けたいって、思ったから……」

 

 

 

「——ここで見捨てたら、英雄になれないと思ったから」

 

 

 

 僕は今日会ったばかりの子に、僕の本音を言った。

 村にいた同い年ぐらいの子は、僕のこの夢を馬鹿にしてきたが、彼はどうだろう?

 

 短い会話の中で、言葉の節々に冷たさを感じるけど、悪い人にも見えない。

 と言うよりも、少し目が輝いて見えるのは気のせいかな?

 なんだかボソボソ言ってたような気もするけど……

 

「……そっか——」

 

 そう思っていると、彼は真っ直ぐ僕のことを見て、こう言った。

 

 

 

「——きっと君ならなれるよ」

 

 

 

 僕は少し呆気に取られてしまった。

 まだ友達にもなっていない、と言うより知り合ったばかりの人の言葉なのに。

 僕は嬉しくてたまらなくなった。

 それは、ヘスティアさん以外で初めて『君ならなれる』と言ってくれたからだと思う。

 

「あ! そういえば名前、名前聞いてませんでした」

 

 僕は、彼と友達になれるかもしれないと思い、名前を尋ねてみた。

 

「ああ、言ってなかったね。僕はシド・カゲノー。貧乏男爵家の冴えない学生だよ」

 

「それ、自分で言っちゃうんですか……」

 

「君は?」

 

「あ、そうだ。僕の名前はベル・クラネルです。ど、同級生ですよね?」

 

 僕たちは少しの間、暗殺者のことを忘れて談笑に耽った。

 なぜだか分からないけど、彼から何か予感を感じる。

 ここから、僕の学園生活は変わるのかもしれない。

 そんな予感がした。

 

 

 

 

 




 読んで頂きありがとうございました!

 ヘスティア様の告白が、当然のように躱わされた。
 やはりベル君は鈍感系の主人公ですね。

 
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