ベル君がシド君にマークされる話   作:orangena

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 アレクシア参戦!


第02話 偏屈と純朴

 あれから二ヶ月

 

 僕はベルの研究と自身のモブ奥義習得のために、日々研鑽を重ねていた。

 

「シドー。昼休み終わったよ。確かシドのクラスは移動教室だから、早くしないと間に合わないと思うけど?」

 

「〜はぁ。今行く」

 

「今絶対寝てたよね?」

 

「ううん。イメージトレーニング」

 

「夢の中にいたんだね……」

 

 その間、なぜか僕はベルと結構仲良くなっていた。

 最初は、僕からはあまり近づこうと思ってなかった。

 一応今の僕はモブとして振る舞ってるワケだから、あまり主人公の近くにいると目立ってしまう。

 そう考えて、研究に必要な接触以外、僕からの接触は必要最低限だった。

 

 しかし、ベルが結構な頻度で話しかけてくるのだ。

 

 『あの先生の教え方が〜』とか、『学園まで一緒に行きませんか?』とか、男子高校生が自然と仲良くなる流れをバンバン創ってくる。

 まあ多分だけど、平民で特待生の彼は、王侯貴族の集まるこの学園で話し相手が少ないから、たまたま話すきっかけのあった僕と仲良くなって、ぼっち回避したいのだろう。

 これからの学園生活が、トイレの中で休憩時間を過ごすだけのものになるのが嫌なのはわかる。

 まあ、僕も昔はそういったモブになるのもありかなとは思った。

 今はヒョロとジャガというモブ友がいるから、あまり考えないけど。

 

 それはさておき、そんなベルのアプローチから、僕は考え方を変えた。

 ズバリ、『敵キャラが主人公を帯び出すために誘拐される系のモブ』だ!

 

 よくヤンキー漫画とかでも、主人公と仲のいい大人しい子が、敵キャラの舎弟に誘拐されることが多い。

 いざという時は、そのポジになれば良いのだ。

 そう開き直り、僕は彼と友達になった。

 

「じゃあ、僕は行くね」

 

 そう言って、ベルはデカい体育館のような施設に走っていった。

 

 僕と違って、ベルは王都ブシン流1部のクラスの生徒で、9部の僕とは授業も場所も違う。

 なのに僕のクラスのカリキュラムを知っているのは、僕が昼休み中によく話しているから、覚えてしまったのだろう。

 

 僕は教室に向かうが、授業のことなどどうでも良かった。

 

 そう、明日は待ちに待ったモブイベント『罰ゲームに負けて女子に告白』をするのだ!

 しかも相手はこの国の第二王女、アレクシア・ミドガル。

 どんな高位の貴族やイケメンのプロポーズも軽々とに振っていく彼女に告白するということ。

 それすなわち、モブの一人としての作法なのだ。

 

 どのようにすればモブ告白を成立させれるか、今から夜鍋して準備しなければ!

 

 ああ、明日が楽しみだ!!

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 気に入らない。

 

 この男、やっぱり気に入らない。

 

 ゼノン・グリフィ。この男、私が学園に入学してからずっと仮面のような笑顔を貼り付けている。

 本ッ当に隙がない。

 早くこの男の隙をつき、弱みを握らなければならないのに。

 一体どうしたものか。

 

「ベル君。少し型が違うよ。もっと背筋を伸ばして」

 

「は、はい……」

 

 ああ、またか。

 特待生のベル・クラネル。

 彼はあの特別入学試験で唯一、教師を倒した異質の平民だ。

 だが、何かとゼノンから型の矯正の指示を受けている。

 彼の姿勢は、まるですぐ相手の懐に入れるように前傾姿勢が強めだ。

 もしかしたら、彼は長剣より、ナイフなんかを使った方がいいのかもしれない。

 

「……」

 

 ベルは納得していないのか、でも納得しようとしている様子が窺い知れる。

 表情から全てわかる。

 分かりやすすぎる。

 

 ゼノンもだんだんと、ベルのことを諦め始めて……

 ……ん? 

 

「……そっか」

 

 隙がないなら、諦めさせればいい!

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「嘘だろ……」

「おかしい……」

「これは夢に違いない!」

 

 僕、ヒョロ、ジャガは食堂で頭を抱えていた。

 

 結果から言うと、OKをもらってしまったのだ!

 

「くそ〜! シドがイケたなら俺だって……!」

「僕のようなハンサム君ではなくなぜシド君が!?」

 

 いや、絶対無理だろ。

 

「嘘! あれが例の……」

「地味なやつだな。ほんとなのか?」

「ヒョロってやつが言うには、弱みを握ってるそうだ」

「うわ! サイテー!」

 

 うんうん、周りからの僕に聞こえる大きさの陰口が、そのままヒョロへの殺意へと変わるのを感じるー。

 

「ん? なんか寒気が……?」

 

 ヒョロが腕を組んで震えて流のはさておいて、この僕への風評被害の渦の中、一人だけ目を輝かせているのが一人。

 

「す、すごいよシド! 一体どんな告白をしたの!?」

 

 モブ告白だよー。

 まあ言わないけど。

 

「いやいや、普通だよ。みんなのより酷いやつ」

 

「ふ、普通……! そんな成功して当たり前のように言えるなんて、やっぱりシドはすごいなあ」

 

「そんな捉え方する?」

 

 だめだ。ピュアすぎる。

 純粋に僕のことを褒めてくれている。

 さすが主人公と言いたいけど、それは今じゃないんだよ〜。

 

「ちょっと失礼」

 

 そんなこんな四人で話していたうちに、僕の横隣の席に、10万ゼニーの日替わり定食とアレクシア王女がいた。

 

「あ、アレクシアさん」

 

「あらクラネルさん。ご機嫌よう」

 

 ああ、そういえば同じクラスかこの二人。

 まあどうでもいいけど。

 

「この後、少しシド・カゲノー君をお借りしても?」

 

「あ、はい! どうぞ!」

 

 ベルは隣で、緊張のあまり震えている野郎二人の世話に専念し、こちらに介入しないようにしていた。

 なんかベル的には気を使ってくれた気がするが、ちょっと違うんだよ。

 そのまま僕は彼女と食事をした後、校舎裏に連れて行かれた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「なるほど、当て馬ね」

 

「ええそうよ。あの男に私を諦めさせるためのね」

 

「やだなあ」

 

「あら、あなた私の純情を罰ゲームなんかで弄んだのに?」

 

「……さっきも言ってたけど、誰から聞いたの?」

 

「確か、ジャガ君だったかしら。私が聞いたらすぐ答えたわよ。人望ないのね」

 

 イラッ。

 やっぱりこの王女、性悪だよね。

 

「何も言い返さないと言うことは、もしかして、私の恋人役になるのが嬉しいのかしら?」

 

「そう思うなら、一度脳を診て貰えば?」

 

「なにか言ったかしら?」

 

「なんでもないよ。アレクシアおうにょ」

 

 あ、なんかイラッとしたね。

 

「とにかく、あなたはこれから私の恋人。学園で、特にあの男の前で見せつけないといけないの」

 

「ふーん」

 

「よって、あなたのクラスを1部に変更します。推薦しとくから」

 

「嫌です」

 

「王女命令です」

 

「嫌です」

 

「……なら、これでも?」

 

 彼女は、ポケットの中から10万ゼニー硬貨を取り出し、道に投げ捨てた。

 

「……金で動くとでも?」

 

 そう言って、地面に投げ捨てられた硬貨を丁寧に拾い始めた。

 陰の実力者資金は、いくらあっても足りないから、仕方ない。

 

「……ええ、そう見えるけど」

 

 そこからは話が早かった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「ん? シド? ……え!? シド!?」

 

 1部のクラスで会ったベルは、情緒が不安定で面白いな。

 

「そういえば、あなた達は知り合いなの?」

 

「はい。友達です」

 

 おお、いい笑顔でそう言ってくれるのか。

 やはり主人公は対応も主人公だな。

 

「それじゃあ、自己紹介をしたら、授業を始めよう」

 

 お、あれがゼノン先生か。

 金髪のイケメン。

 優しそう性格。

 剣術指南役という名誉。

 そんで金持ち。

 

 うん、一個も勝っているところがないな。

 

「シド、次は僕と組まない?」

 

 ベルが目を輝かせて近づいてきた。

 同じクラスになったから、テンションが上がっているのかな?

 

「ごめんなさい、彼は私と組むので」

 

 後ろからアレクシアの声が聞こえた。

 振り返ると、笑っているのに圧を感じさせる様子だった。

 

「あ、そうだよね……。二人で、頑張ってね……」

 

 ベルは顔を赤らめたあと、すぐ残念そうに肩を窄ませる。

 いや兎かよ。

 

「じゃあやりましょうか。ダーリン」

 

「そうだねハニー」

 

 恋人っぽい呼び方も、こんな性悪にしてると思うと嫌だが、これも資金稼ぎのため。

 なんだか、ベルがキラキラした目で見てくるが、多分ベルの考えているようなことはない。

 

 僕たちは実践形式の打ち合いを始めた。

 彼女の剣は、どこまでも基本に忠実な、美しい剣だった。

 デルタにも見習ってほしい。

 

 アレクシアの剣は、剣戟を重ねるたびにその鍛錬の重みが伝わってくる。

 

「あなた、綺麗な剣ね。でも嫌いな剣」

 

「……どうも」

 

 気づいたら授業は終わっていた。

 彼女も、僕との打ち合いを続けようと、構えていたのを見るに、お互い時間を忘れてのめり込んでいたのが分かる。

 こういうの、楽しいよね。

 

 そうしていると、ゼノン先生が近づいてきた。

 

「それが、君の答えか」

 

 アレクシアは僕の腕を絡めて、ゼノン先生に向き合った。

 

「ええ、彼は私の恋人よ。だから邪魔しないで」

 

「そんなことしても、無意味だよ」

 

 あ、アレクシアの腕に力が入るのを感じる。

 相当この人のこと嫌いなんだね。

 

「……行きましょう」

 

「わかったよ」

 

 僕たちは、ことらを眺めるゼノン先生とベルを置いて、出て行った。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 それから僕たちは、学園の至る所でイチャコラの演技をした。

 

「ダーリン。この問題はこの公式を使うのよ」

「おお、さすがハニー。君に教えられるとすぐ覚えられるよ」

 

 時に図書室で。

 

「あなた。はい、あーん」

「あーん。ん〜美味しい。君に食べさせてもらうだけでここまで違うなんてー」

 

 時に食堂で。

 

「一緒に帰りましょ。ダーリン」

「そうだねハニー」

 

 時に教室で。

 

 特にゼノン先生の前でだと、かなり見せつけに行く。

 でも、ゼノン先生は相変わらず何もしてこない。

 これが大人の余裕というやつか。

 

 それとは別に、僕たちの演技を見ていた生徒は——

 

「おい、やっぱあいつ殺そうぜ」

「剣で殺すか、鍋で煮て殺すか、焼いて殺すか」

「その前に、あいつの息子を切り落とすのが先だろ」

 

 男どもの怨嗟の声。

 

「アレクシア王女。なぜあのような醜男に」

「すでに純潔を散らされたのでは……?」

「あの男まじ引くわー」

 

 女子の陰口。

 

「あわわわわ……! あ、あんなことまで!?」

 

 ピュアの暴力。

 

 今までの努力は、実ることのないまま、というか僕への風当たりが強くなるだけで、時だけが過ぎていった。

 

「あぁぁァァァもう! ムカつくわね。あのにやけ面」

 

「もう本性隠す気もないね」

 

「いいのよ。ポチの前でしか見せないもの」

 

「それは光栄だ」

 

 登下校中、寄り道をしながら帰っていると、ついにアレクシアは限界を迎えていた。

 

「てか、あの人の何がいけないのさ。完璧な優良物件だよ」

 

「だからよ。私、欠点のない人間を信用できないの。上部で判断しないの」

 

「独断と偏見に満ちた考えだね。ハニー」

 

「その呼び方、学園以外でしないでくれる? ポチのくせに生意気よ」

 

「じゃあ、アレクシアおうにょ?」

 

「ぶん殴るわよ?」

 

「これは失礼」

 

 もう僕は、アレクシアと割と素で話すようになっていた。

 なんか疲れるしね。

 

「……あなた、本当は強いんじゃない?」

 

 あら、急に鋭い指摘がきた。

 まあ、王女なんて主人公格キャラなんだから……違うな。アレクシアの性格なら、勘付いてもおかしくはないかな。

 

「どうしてそう思うの?」

 

「なんとなくよ。あなたと稽古するとき、そう感じることが多いの」

 

「なるほどね。多分、僕がアレクシアの剣と、同じ剣だからだと思うけど」

 

「……どういう意味よ」

 

 アレクシアの目が鋭くなった。

 射殺すかのような視線が僕の横顔を突き刺す。

 

「凡人の剣」

 

「——ッ!」

 

「君と同じ剣で、僕の好きな剣だ。だから強く見えるんじゃない?」

 

「……馬鹿にしてるの? それって、私もあなたも、単に才能がないだけじゃない。それとも、あなたには才能があるっての?」

 

「いや、そんなことはないよ。ここ最近、ずっと一緒に稽古してるアレクシアなら、分かるでしょ」

 

「だったら何? なんでこんな剣を好きだなんて言えるのよ?」

 

 アレクシアは僕の目の前に立ち尽くし、顔を険しくさせている。

 どこか悲痛の表情を浮かべながら、アレクシアは剣を柄を撫でた。

 

「……私は嫌いよ。こんな天才の剣に及ばない、弱い剣なんて」

 

 アレクシアは、どこか遠い目をしている。

 

「昔、お姉様にも言われたわ。あなたの剣が好きよって。どれだけ惨めだったか」

 

「……僕は、天才とか、凡人とか、そういうのあまり気にしたことない。向き不向きはあるしね」

 

「……何が言いたいのよ」

 

「僕が大事だと思うのは、自分の最も得意とする何かを、誇れるくらいに磨き上げることだと思う」

 

 最近の主人公は、血筋やら、才能やら、特別な力やらを持っているケースが多い。

 そういうのが、読者には好かれているのはわかる。

 でも、それは読者に『こいつのこれが凄いんだ』という印象を与えるためのものだと、僕は思う。

 そういった、みんなの記憶に残るものが、結局は一番強いんだ。

 

 フィクションでも、ノンフィクションでも、それは変わらない。

 

 凡人の剣だからってなんだ。

 

 結局、何が言いたいかというと——

 

「アレクシアの剣は、地味で、基本的だけど、美しくって、理にかなった強い剣だ。少なくとも、僕はアレクシアの剣が好きだよ」

 

「——ッ」

 

「アレクシアの剣で、ゼノン先生も、お姉さんも、倒せばいいんだよ。君ならできるって」

 

「……随分と軽く言うのね。人の気持ちも知らないで」

 

「まあね。僕はアレクシアじゃないし。ただのしがない落ちこぼれだから」

 

「……ホント、生意気」

 

 そういうと、アレクシアは帰路に戻って行った。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 翌日。

 

 アレクシアは誘拐された。

 

「——ち、違います! シドは決して、そんなことする人間じゃない!」

 

「なんだ貴様! ゼノン様に近づくな! 無礼だろうが!」

 

 そして今、その第一容疑者として、連行されている。

 

 

 




 次回、ようやくアルファ参戦!

 ベルの活躍も書ければと思っています。

 最後まで読んで頂き、ありがとうございました!
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