ベル君がシド君にマークされる話   作:orangena

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 アルファ 参戦!


第03話 幕が上がる

「……全く! 酷い目に遭った!」

 

 留置場的なところで五日間、取り調べ、もとい拷問を受け、僕はようやく解放された。

 僕の担当だったあの二人、途中から楽しんでるように見えたが、彼らの働きで僕のモブさをアピールできたのだから、許すとしよう。

 

 そう考えていると、僕の鼻腔は懐かしい匂いを感じ取った。

 

「……また後で」

 

 囁きのような声で、彼女は告げた。

 

 また会えるのなんて、久しぶりだなあ。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「……久しぶり、アルファ。元気だった?」

 

「ええ、あなたも元気だったかしら?」

 

「元気に見える?」

 

 僕は自分の寮の部屋に帰ると、そこに学園の制服を着たアルファがいた。

 

 初めてあった頃に比べて、大人びた容姿と起伏に富んだ体を持つ彼女は、誰がどう見ても傾国の美女だ。

 僕の『陰の実力者』プレイに付き合ってくれるほどの優しさも兼ね備えているのだから、モテるんだろうなあ。

 

「これ、食べるでしょ?」

 

「お、まぐろなるど。好きなやつだ」

 

「ええ、あなたに喜んでもらえてよかったわ」

 

 僕はアルファから受け取ったまぐろなるどの包みを開けると、それを同じベットに寝た状態のアルファがこちらを見ていた。

 食べたいのかな?

 

「……随分と酷い仕打ちを受けたようね」

 

「ん? まあね」

 

「あの二人、先に消してもいいかしら?」

 

「なんでさ。彼らは自分の仕事をしたまでだ。後で僕から報酬でもあげようかな?」

 

「報酬、ね」

 

 何か深く考えているようだけど、まあアルファなら大丈夫でしょ。

 

「……騎士団は、あなたを犯人にすることしか考えてないわ」

 

「教団の奴らが紛れ込んでる?」

 

「そうよ。末端のね」

 

「しかし、こんな冴えない貧乏男爵家の息子が、よくもまあこんなことに巻き込まれたもんだね」

 

「ええ、あなたが王女様とラブロマンスを繰り広げていたせいでね」

 

 ギロッと睨みつけるアルファに、僕は一瞬息をのむ。

 お金のためだなんて口が裂けても言えない。

 

「今度、一緒に出かけましょう。それ、私の分でもあったのよ」

 

「うん。この件が終わったらね」

 

「ええ、嬉しいわ」

 

 アルファが立ち上がり、僕のネクタイを緩めていく。

 

「あなたが最近、休日になるとあの兎といることが多いから、会う機会がなかったの」

 

「ベルのこと?」

 

 そういえば、学園に来たばかりの頃は、ベルの研究や、ベルといるときにどうモブらしく振る舞えるかの練習ばかりしていたような気がする。

 ベルは御伽話や英雄譚以外にも、いろんなジャンルの本を読み漁っているから、僕も本探しに付き合うことがある。

 ベルは最近、ナツメ先生って人の本がブームになっているとか言ってたな。

 

「……あなた、そっちの趣味なの?」

 

「いやいや、僕は男に欲情しないよ。だって君がこんなに近くにいるだけで、結構戸惑っちゃうし」

 

「——ッ!?」

 

 ん? 

 アルファの様子がおかしいな。

 急にもじもじし出して、『あ、あ……』と開いた口が塞がってない。

 顔も赤いし、風邪でも引いてたのかな?

 

「ん゛ん゛〜〜、そ、そう。嬉しいわ」

 

「大丈夫?」

 

「え、ええ。大丈夫よ。とにかく、後のことは私たち任せて、今は休んでて。いいわね?」

 

「はいはい」

 

 僕のぶっきらぼうな返事を聞いて、少しため息を吐く彼女だが、微笑を浮かべている辺り、こちらを案じているのが窺い知れる。

 

 さてさて、僕も用意しないとね。

 もうすぐ七陰の誰かが来るだろうし、それまでに僕の部屋を陰の実力者の部屋スタンスにセッティングしとこーっと。

 

 うん?

 何か気配を複数感じる。

 この足音だと……あ! ベルか。

 あとは……姉さん? なんで姉さんがベルと?

 

「シド! 大丈夫!?」

「シド! お姉ちゃんが来たわよ!」

 

 なんだか慌ただしい様子で部屋に入ってくる。

 声大きいよ。

 

「何この組み合わせ? どうしたの?」

 

「どうしたのじゃないわよ! こんなに怪我して、誰にやられたの? お姉ちゃんがやっつけてあげるから!」

 

「さっき偶然会ったんだ。そんなことより、なんでシドが……」

 

「まあ王女様の恋人だからね」

 

「ゼノン先生はシドを犯人扱いするし、こんなのおかしいよ」

 

 おうおう、主人公が権力の理不尽に怒りを抱いている。

 なかなかにいい感じを出してるよこれ。

 

「……シド。騎士団は、君以外もちゃんと疑っているの?」

 

 お、直球。

 

「いや、僕以外に取り調べを受けている人はいなかったよ」

 

「——ッ! 私、騎士団の捜査本部に行ってくるわ!」

 

「あ、ちょっと——」

 

 ああもう、聞かない姉なんだから。

 姉さんが出ていくと、ベルが握り拳を緩め、目っすぐ僕を見つめる。

 

「シド」

 

「ん?」

 

「……僕、絶対犯人を見つけるから」

 

「……いいの? ここで騎士団の印象を悪くすると、どこにも所属できなくなるよ?」

 

 ……お、何か、予感がする。

 

「だって、友達を助けたい」

 

 ベルは今、愚者になろうとしている。

 

「ここで何もしないままでいたら、動かないでいたら……僕の夢が、英雄への憧れが消えちゃうと思う」

 

 これで犯人を捕まえられなかったら、ベルは特待生の立場を失い、約束された将来が消えてしまうのだ。

 

「何より、英雄になれるって言ってくれたシドを、助けたい」

 

 そこまでして他人を救おうだなんて、バカでしかない。

 

「君がいたから、ヒョロさんやジャガさんと友達になれた。初めて友達と食べ歩きできた。世界が広がった。そんな君を、見捨てることなんかできない」

 

 でも、もしかしたら——

 

 

 ——それが、英雄の条件なのかもしれない。

 

 

 ……どうやら、本当に君は、主人公のようだ。

 僕の目に狂いはなかった!

 

「そっか。じゃあ助けてよ」

 

「——ッ! ありがとう、シド!」

 

 そして、ベルは僕の部屋から飛び出し、あとは僕だけが残った。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「「アイリス王女!」」

 

 捜査本部の一室。

 僕はクレアさんに追いつき、捜査担当のアイリス王女のいる部屋に直談判しに行った。

 

「君たち! 失礼だろう。出て行きなさい!」

 

 僕たちを追い出すため、ゼノン先生は押し出して、退出させようとする。

 でも、今の僕たちは、シドのためにここにいる。

 ここで引くわけにはいかない!

 

「……ゼノン侯爵。彼らは?」

 

「クレア・カゲノー! シド・カゲノーの姉です! これはあの子の友人です!」

 

「こ、これって……。でも、そうです! 僕たちの話も聞いてください!」

 

「君たち! か、彼らは、学園の成績優秀者と、特待生で、騎士団の体験入団を共にしています」

 

 僕たちの説明に、まだ付け足すところがあるなら、共通点としてシドと親しい仲であるということだ。

 騎士団に体験にきたあの日、僕と一緒に体験しにきた、シドと同じ苗字の彼女と出会った。

 共通の親しい人の話題を出しているうちに、気軽に話せる仲になった。

 クレアさんは、『あんたが持っているシドの情報を全て出しなさい!』っていつも脅迫してくるのが、本当に怖い。

 シドのことを想っているのは確かだ。

 ……過剰なぐらい。

 これがおじいちゃんが言っていた、ブラコンって人種なのかと、世界の広さを知った。

 

「なんで騎士団は、シド以外の候補を調べないんですか!?」

 

「……彼以外の調査も、ちゃんと進めていますよ」

 

「でも、拷問されたのは彼だけです。そこまでする必要があったんですか?」

 

「……疑わしきは、です」

 

 アイリス王女の言葉に、クレアさんは、怒りを露わにしている。

 僕も、自分の握った拳に爪が食い込むのが感じ取れる。

 

 そう思っていた時。

 

 僕は、見えたんだ。

 

 アイリス王女の指を絡めた両手に、力が入るところを。

 

 僕は既視感を感じた。

 いつも、クレアさんから感じ取れる、不器用な愛情表現に似ている。

 きっと、この人も、アレクシアさんのことを想っている。

 だから、なんとしてでも見つけようと、必死になっているのだ。

 

「さあ、もういいだろう。早く出て行きなさい」

 

 僕たちの問答を、ゼノン先生が遮る。

 

「……もし、あの子にこれ以上何かあったら、あなたを……」

 

「クレア君!」

 

 クレアさんの気持ちはわかる。

 もう、他人に構っている余裕はないのだろう。

 アイリス王女もクレアさんも、自分の肉親の危機を前に、余計な邪魔は不快でしかないと考えている。

 

 でも、見てしまった。

 

 アイリス王女の葛藤を。苦しんでいるところを。

 

 なら、僕がこの人にかける言葉は——

 

「……アイリス王女」

 

「……まだ、何か」

 

 今は、一刻を争う事態だ。

 シドの命運がかかっている。

 こんな時に、僕は何を言おうとしているんだ?

 僕にそんな、百を助ける力があるのか?

 一を助けれるかも怪しいのに?

 分からない。

 なのに、こんなことを言うのは——

 

「——アレクシア王女は、必ず見つけます」

 

 この人の笑顔を、見たいからだ。

 

「ッ……!? いきなり……なんですか?」

 

 僕の発言に、クレアさんも、ゼノン先生も、絶句したまま何も言わない。

 

「人は多い方がいいです。アレクシアさんを見つければ、シドの無実も証明できますしね」

 

 僕は、アレクシアさんのことをついでのように言うが、こう言わなければ、今この人は納得しないだろう。

 

「……だから、大丈夫です」

 

 何が大丈夫なのか。

 

 この人は、僕がアレクシアさんの同級生と知った時、『アレクシアはクラスに馴染めていますか?』とか『あの子に友達はいますか?』など、いつも妹のことを聞いてきた。

 こんなにも妹想いの人なのに、僕は、この人がアレクシアさんと仲良く談話しているところを、見たことがない。

 理由はわからないけど、アレクシアさんに会ったら、伝えたい。

 

 あなたのお姉さんは、あなたのことを愛しているよ、て。

 

 叶うなら、この二人が笑い合えるように……。

 

「……はい、感謝します」

 

 そう言うと、アイリス王女の表情は、少しだけ、優しくなった。

 

 もう一つ、約束が増えてしまった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「シャドウ様、準備が整いました」

 

 夜。

 僕の部屋には、スライムスーツのベータがいた。

 『陰の実力者』セットで飾られた部屋に、ベータは目を輝かせてくれる。

 この反応、頑張って資金集めした甲斐があったと言うもの!

 

「構成員114人の配置は、既に完了しています」

 

「114人?」

 

 エキストラでも雇ったのか?

 

「も、申し訳ございません! シャドウ様の舞台に、この程度の数しか用意できず……っ!」

 

「いや、問題ない。必要な役者は、もうすでに揃っている」

 

「必要な……ですか?」

 

 ベータは顔を傾げている。

 僕の言葉に疑問を持っているようだ。

 

「ああ、我らは陰。なら、光も必要だろう?」

 

「それは、アイリス王女のことですか? ですが、いくら彼女が王国最強と名高くとも、シャドウ様には及びません。弱すぎる光は、闇に飲まれるだけです」

 

「いや、彼女ではない」

 

「え?」

 

 そうだ、もう主人公は決まっている。

 あの透明な光が。

 まばゆい光が、王都の夜を、闇を照らすだろう。

 

「彼女の光は、英雄のそれではない」

 

 純白の魂を持って、彼は舞台に上がるだらう。

 

「今宵、英雄は姿を見せる。多くの願いを背負って」

 

 自分の英雄願望と、他人の祈りを抱いて。

 

「我らが陰の世界に、足を踏み入れるのだ」

 

 ワクワクしてくるなあ。

 

「さあ、我々の舞台に上がる資格があるのか、証明するのだ!」

 

 もうそろそろ、幕が上がる——

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ——さあ、始めようか。ベル。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 ベル君の戦闘描写がまだ遠い……
 今回は、まだ登場していなかったアルファとの会話シーンや、お姉ちゃんパワーを出すことができました。

 次回はベル君のかっこいいところを書きたいなあ……

 最後まで読んで頂き、ありがとうございました!
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