またシド君とベル君の活躍を書いていけるように頑張っていくので、これからもよろしくお願いします!
ミドガル王都
王国で最も栄えある都市の、
瓦礫の中で、少女は見た。
街灯より高い背丈。
醜悪な肉体。
絶望に満ちた容姿。
まさしく、
その巨躯を振り翳せば、瓦礫の下敷きになっている我が身など、羽虫のように潰されるだろう。
幸い、彼女の両親が、身を挺して少女を守ってくれたおかげで、軽傷ではなかったが、両親のように重傷でもなかった。
しかし、街路のシミと化した、騎士の血肉が、自分の結末を連想させてならない。
少女は今まで血とは無縁の人生を送っていたため、その衝撃は金槌で頭を殴られたような、といった例えが近しい。
最も、少女は家族や友人から、そういった暴力を受けたことがないので、違っているのかも知れないが……。
現実は、そんな少女の人生を、知ったことかと踏み潰そうとする。
自身を見下ろすその化け物が、そう告げている。
少女は、覚悟を決められない。
まだ短い自分の人生との別れに。
こんな結末を、受け入れられない。
「……た……ぇ」
少女の掠れた声が、化け物の鼻息で掻き消える。
「たす……けて……」
その時、祈りが届いたのか……。
気づけば、少女の前には、少年がいた。
「だいじょうぶ……?」
その少年は、見るからに恐怖で冷や汗をかいている。
震えるその声と、無理して作った笑顔からは、自分をなんとかして安心させたいという暖かい優しさが伝わる。
そんな彼のことを、今日、少女は今生忘れられなくなるのは、次の瞬間。
彼は、化け物の一撃を、振り払ったのだ。
綺麗な白髪の少年は、不安でいっぱいでも、それでも少女のために誓うのだ。
「絶対、死なせない……!」
ーーーーーーーーーーーー
五分前
「……どうしたものかしら」
王都を見渡すことができる屋上で、アルファはため息混じりにつぶやいた。
「彼、どうしてくれようかしら」
彼女が悩んでいるのは、デルタを除けば一番扱いに困るベルだ。
特攻兵器である彼女には、やりすぎないかという心配はあるが、やられる心配はしていない。
問題なのは、やはりあの兎だ。
彼は今、無差別テロの起こる王都の中、全く手がかりのない状態で、アレクシア・ミドガルの捜索をしているのだ。
しかも、民間人の救援をしながらだ。
「全く、あの愚兎。あれほどシャドウ様に期待されておきながら、本当に大丈夫なのかしら?」
「そうね。まあ、小動物は小動物だから仕方ないんじゃない?」
後ろでベータとイプシロンが、ベルを罵っている。
この二人には珍しく、仲のいい様子だ。
表の顔とはいえ、シャドウに特別扱いされているベルは、七陰やナンバーズに目の敵にされている。
シャドーガーデン内で暗殺対象にもなりかけたこともある。
相当この二人も、ベルのことが嫌いなのだろう。
私も、人のことは言えないが……。
(このままでは、彼のシナリオ通りに進まないわね……)
この場にシャドウがいないということは、あの愚兎のことは私に任せたということだ。
ならば、私たちは彼の意思に従うまで。
「あなたたち、そこまで」
七陰の二人が萎縮する。
「あの兎は、シャドウが利用するに値すると言った者よ。ならば、舞台に導かなければならないわ。私があの兎を誘導しておくから、二人は舞台のセットを」
「「はっ!」」
そういうと、二人は残像も残さずに姿を消した。
さて、目下課題はあの兎が、それらしい功績を上げないといけないということ。
これからの教団関連の事件に介入させるための、箔が必要なのだ。
アルファが思案していると、ベルに動きがあった。
「ん? あそこは……」
この気配から、ベルの向かう先には、化け物へと姿を変えさせられた哀れな存在がいる。
ここで彼にあの子の相手をさせてはならない。
しかし、彼のスピードなら、もうじきついてしまう。
「全く、世話が焼けるわ」
そう呟くと、また気配を感じ取った。
少し離れた地下から、彼の魔力が収束しているのが分かる。
「……そう、もう始めるのね」
シャドウも動き出した。
なら自分も、彼のために最高の準備をしなくては。
ーーーーーーーーーーーー
一体、なんだこの
目の前にいる存在に、僕は驚愕している。
冷や汗が止まらない。
こんなに禍々しい魔力を持つ生物が存在するなんて、それこそ童話や英雄譚の中にしか出てこないだろう。
さっきはなんとか防いだけど、あれはただ腕を振るっただけ。
あの腕の大きさと質量をそのままぶつけてきたにすぎない。
多分次からは力も入れてくる。
どうしたものか、自分にはこの状況を打開できるだけの力と頭がない。
でも、やるしか……ない!
「そこまで」
覚悟を決めたその時、夜空から星が落ちてきた。
いや、彼女の金髪が夜中でも分かるぐらいに、煌々としていたから、そう見えただけだ。
びっくりするほどの美人なエルフさんが、とんでもないボディスーツでそこにいた!
え、いや! ちょっ!
こんな街中で、なんて格好をしてるんですか!?
都会って、こんな感じなの!?
こんな美人が頭上から降りてきたのも驚いたけど、すごいな。
僕は改めて思った。
おじいちゃん、ヘスティアさん。
王都にはいろんな意味ですごい人がいるんですね……と。
「この子を苦しめてはいけないわ」
僕が自分で勝手に動揺していると、金髪のエルフさんは、目の前の化け物を憐れむような目で、優しく見ていた。
この街道だけでも、数十人はその手で殺し、数百人以上を瓦礫の下敷きにしたあの化け物をだ。
だけど、彼女が”この子”と言ったのを思い出して、僕は化け物の表情を見て、思わずこう言った。
「……女の子?」
僕の言葉に、エルフが驚いたのか、目を少し大きく開いて僕に視線を向けた。
「……そう、あなた、分かったのね」
彼女がそう呟くと、突然、東の方から轟音が響いてきた。
まるで、地面が崩壊したかのような……。
「行きなさい。あなたのいる場所は、ここではない」
「……え?」
「この子は私が相手する。あなたには、果たさなければいけないことがあるのでしょ?」
「——ッ!」
そうだ。僕はあの二人を助けなきゃいけないんだ。
この人なら、哀れなこの子を相手してくれるだろう。
なら、自分にできることは……。
「……お願いします」
僕はその場を後にした。
異変が起こるこの王都で、今あの
ーーーーーーーーーーーー
二分前、王都の地下。
そこには、今回の騒動の主犯——ゼノンが、
いや、正確に言えば、遊ばれていた。
自分を幼児のように相手していたあのゼノンが、突然の来訪者によって、今度は赤子の手を捻るように相手されている。
アレクシアは、シャドウの剣から目が離せられなかった。
……ああ、本当に……あったのか。
幼き頃の自分が追い求めていた、理想の剣。
基本を積み重ねて……積み重ねて、積み重ねて、積み重ねて……ようやく辿り着ける、凡人の自分が考え抜いた、美しい剣。
天才の姉と比較し、周りの人間から揶揄されたことで、いつしか諦めてしまった、正に夢のような剣。
ポチの剣に出会ってから、たまに考えてしまう。
もし、諦めていなければ、どこまで行けたのかと。
……生意気にも、私の剣を好きなんて言ったアイツの顔が忘れられなかったから、なんてことはない。
とにかく! 私は、目が離せないんだ。
凡人が、天才を圧倒する光景から……。
「……この程度か? 次期ラウンズ」
「ッッゥぅぅぁあああアアア!!」
ゼノンは激昂する。
肥大化した自尊心が、目の前の男によって踏み躙られて、怒りを爆発させている。
もう、勝ち目はないというのに……。
シャドウは、私の目からでも明らかなほどに飽き飽きしている。
もうゼノンの太刀筋を見切っており、最小限の回避で躱し、剣の柄で小突く。
たったそれだけで、ゼノンは向こう側の壁にめり込む。
「ガッ……」
シャドウがゼノンに近づいて行くと、ゼノンは何を血迷ったのか、笑みを浮かべていた。
「ククク……いいだろう。貴様は自分の方が上だと勘違いしているようだが、今までのはほんの遊びだ」
そう言うと、ゼノンは懐から赤い錠剤の入った小瓶を取り出した。
「貴様たちのような凡俗の次元に合わせていたに過ぎないんだよ! 次期ラウンズの真の力! 見せてやろう!」
ゼノンが錠剤を飲むと、ゼノンの姿はみるみると怪人へと変化していった。
ガタイは一回り以上大きく、肌の色は黒ずんでいき、目は充血している。
狂気そのものとなったゼノンは、怪人と言って差し支えないほどの見た目と、溢れんばかりの魔力を帯びていた。
「どうだ凡俗! これが選ばれし者にのみ許された力だ!」
そう宣うゼノンに、私は、えっと、なんというか、その……
「「……醜い」」
あ、シャドウと同じことを呟いてしまった。
「み、醜いだと!?」
「ああ、借り物の力で得たその風貌、魔力、剣……どれをとっても、醜いな」
「——ッ! 黙れ黙れ黙れ! 貴様はここで死ぬことに、変わりはないんだよ!」
言い終わった瞬間、ゼノンはシャドウへと飛びかかる。
今までよりも数段早い動きで襲いかかる。
もう、同じ人間だとは思えない。
しかし、そんなゼノンの姿を見ても、私はシャドウが負けるなんて到底思えなかった。
ーーーーーーーーーーーー
んー、なんかつまんないなー。
さっきまでアレクシア達の前で陰の実力者ムーブをかましていたのだが、僕は満足できないままでいた。
ゼノン先生の相手をしているけど、ドーピングしてからはさらにつまらなくなったし、僕の美学に反する行為をしたことに、少々イラッときている。
こうなったら、真の最強を示す究極奥義『アイ・アム・アトミック』をかまして、陰の実力者を演出すれば良くないかなーなんて思っていた。
だけど、僕の前世の知識がこう囁いたのだ。
——コイツ、中ボスに最適なんじゃね?
そうだよ! ぴったりじゃん!
いわば第一章のボス。
修行編に入る前に、主人公が持っているものを全部読者に魅力的に見せるために必要な、『噛ませ犬だけど倒せばみんなから一気に注目されること間違いナシ』的なキャラ。
今、ベルはまだ周囲の目からは特別な存在として、認知されていない。
せいぜい、『近年稀に見る有能な人材』レベルだ。
この認識から抜け出すには、彼が強敵と戦う必要がある。
何故かって?
主人公だからだよ!
大抵、主人公はその時点で自分より強い相手と戦えば、なんやかんや周りの人間がその姿に何かを見るはずさ。
僕はそう信じている!
なら、まずは……。
「……そろそろだな」
「なんだ!? 一体何をっぶ……!」
ゼノン先生の斬撃を潜り抜け、僕は顔をアイアンクロウで鷲掴みにした。
魔力探知でベルの位置は把握している。
なんと、僕たちのいる場所に近づいているみたいだ。
魔力の痕跡でも追ってるのかな?
よし、それじゃいきますか!
目指せ! ストライク!
「もはや堕ちたお前に用はない。だが、最後に舞台に案内してやる」
「ま、て……ま……!」
よーい、しょ! っと。
ゼノン先生が何か言いたげだったけど、気にせずに僕は彼を投げ飛ばした。
天井を突き破って一直線にいったため、ここもすぐ崩壊するだろう。
アレクシアはー、まあ、気絶させておくか。
「うっ!」
よし、あとはアレクシアを連れて脱出するだけだね。
外はなんだか騒がしそうだし、手伝いはしておこうかな。
でも、早めに終わらせとくか。
せっかくのメインイベントをこの目で見ておきたいしね。
——さあ、主人公の腕の見せ所だよ。ベル!
ーーーーーーーーーーーー
「……シャドウぅぅぅっッ! 舐めたマネしてタダで済むと……ん?」
シャドウへの怨嗟を垂れていると、雨の中、たった一人こちらを見据える者に気づく。
「……ゼノン、先生?」
聞き慣れた声。
見慣れた顔。
お人よしを隠せない態度。
短い間だが、彼に対してはいつも手間を掛けさせられていたため、自分の名前を呼ばれてだけで、誰なのか分かった。
「なんだ君か。残念だけど、見られたからには消えてもらう。それに、君のような平民に時間を割いている場合ではないんでね」
そう言って、遇らうように放った魔力の籠った一撃を、彼に放った。
一瞥もせずに地下へ戻ろうとすると、突然背後に気配を感じた。
「——なっ!」
咄嗟に剣で受け止めるも、すぐに離れた場所に戻っていたため、反撃の隙もなかった。
「……教えてください。……ゼノン先生は、もしかして、その……」
「ん、なんだ。察しが悪いのかい? それとも、現実を受け入れたくないのかい? ……まあいいか、君はここで殺すから」
「え……?」
「私だよ。犯人は」
「——ッ! ……そう、なんですね」
どうやら、彼は顔見知りの私に対して、剣を向けたくないようだ。
なら、そこに付け込んで殺してしまおう。
手間が省けて助かる。
頭の中で、彼をどのように始末するか考えていると、彼は口を開き始めた。
「……僕、約束したんです。必ずシドとアレクシアさんを助けるって」
私はそこで、雨に濡れた白い前髪で見えなかった彼の赤い目が、決意を宿していることを知った。
なんなんだコイツ。
『約束』だの『助ける』だの、青すぎる言葉に鳥肌が立ちそうだ。
まるで英雄気取りなその態度、気持ち悪いにも程が…………。
そこで、私は気づく。
これでは、そう、これではまるで、舞台の上の演出ではないか。
「だから、だから……」
シャドウめ、私をこの愚鈍の兎の引き立て役にするつもりか!?
どこまで私をコケにする気だ?
「——あなたの目論見を、全力で阻止します!」
ああ、そうか。
ならばいいだろう!
この兎を狩ったあと、死体をやつの足元に投げつけてやる!
「君如きが? 少しは身の程を弁えたまえよ」
私は、今までにない殺気を放ちながら彼に告げる。
「……ここで引いたらダメなんだ。きっと、ここで逃げたら——」
彼は構える。
私の教えた剣術ではなく、ナイフと呼ぶには少し刀身の長いナイフを両手に持って。
私を見据える。
「——英雄になんて、なれやしない!」
ミドガル王都の一角。
戦いの幕が、上がった。
次回 ベル君 大活躍
最後まで読んで頂き、ありがとうございました!