グレイラット家の傷になる少女   作:エナジェティック

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なんか急に寒くなり、風邪をひいて喉をまた痛めました。皆さんも気を付けてください



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第11話 ブエルの1日

「う、ん」

 

 部屋に射し込んだ朝日で1人の少女が目を覚ます。少女は目を覚ましたあとも数分天井を見てボーッとしていた。どうやら寝起きはあまりよくないようだ。

 

 目が覚めてから時間が経って段々と目が覚めてきたのか顔から寝ぼけた様子がなくなる。

 

 ブエルの1日が始まった。

 

 ブエルは最近悩み事がある。それは隣の布団で寝る妹ノルンに関してだ。

 

 目覚めたブエルの鼻に少しツンとして臭いがささる。その臭いにブエルは(あぁ、今日もか)と肩を落とす。

 

 おそるおそる掛け布団をめくるとノルンの布団には大きな世界地図が広がっていた。

 

 ブエルの悩み、それはノルンの再発したおねしょ癖だった。

 

 それはこの宿に泊まり始めてから起きた。最初はたまたまと考えていたブエルだが中々直らず2日に1回のペースでしてしまっている。

 

「ノルン、起きて」

 

 ノルンの肩を揺すると徐々に目を開ける。

 

「ん、お姉ちゃん……」

 

 ノルンも目を覚ましたがブエルと同じように寝起きはあまりよくないようだ。ノルンは頭が冴えてきて自身の状況に気がついた。

 

 〈罪悪感〉

 

「あ、お姉ちゃん……」

 

「うん、大丈夫だよ。とりあえず着替えようか」

 

ブエルはノルンの頭を撫でると洗濯用の桶を取り出して水を入れて洗い出す。その間にノルンには自分の体を拭いて貰った。

 

 服の洗濯をしたらブエルは別の桶を出しそこに魔術で出した水を入れる。桶に水が溜まったらブエルは水に手を入れる。今度は火の魔術を使い水を温めた。

 

「ノルン顔洗うよ」

 

 ブエルが呼ぶとノルンは桶の前に座る。自分でパシャパシャと顔を洗いタオルで水を拭き取った。ノルンが拭いている間にブエルも顔を洗い同じように洗い顔を拭いた。

 

「ノルン、おいで!」

 

 顔を洗うとブエルはベッドに座り膝を叩いてノルンを呼んだ。ノルンは頬をほころばせながら膝に座る。

 

 ブエルはしっかりと座っているのを確認するとブラシを取り出してノルンの髪を整え始めた。

 

「はい完成!」

 

 ノルンの髪を三つ編みに結ったら鏡で見せる。

 

「可愛い?」

 

 ノルンはブエルの方を向いて聞いた。大きくまん丸とした綺麗な目からは期待の色が見える。

 

「もちろん!可愛いよ」

 

 そう言って頭を撫でる。ノルンも嬉しいのか頭をブエルの胸にのせてグリグリと動かした。

 

「あ!せっかく整えたのに崩れちゃうでしょ?」

 

「ごめんなさい」

 

「ふふ、いいよ」

 

「じゃあ次!私がやるね」

 

 そう言うとノルンは膝から降りてブエルの後ろに回った。

 毎日お互いの髪を結うのが2人の習慣だった。

 

 

部屋を出て下に降りるとすでに起きているお客さんがいる。

 

「おはようございます!」

 

「あらおはよう。今日も元気ね。ノルンちゃんおはよう」

 

「おはようございます……」

 

 カウンターの奥から宿のオーナーの奥さんが出てきて2人に挨拶をする。ブエルはしっかりと挨拶をするがノルンはまだ慣れていないのかブエルの後ろに隠れながら小さな声で挨拶をした。

 

「ごめんなさい、、ほらノルン?」

 

「いいのよぉ。それより、今日の分お願いね」

 

 奥さんそう言ってブエルに紙を渡した。

 

「はい、いってきます」

 

 

 宿を出た2人は市場へと向かう。2人の1日、最初の仕事はおつかいである。ただ2人で宿まで運ぶことはできないためするのは注文までだ。先ほどもらった紙を見ながら一軒一軒回っていき商品を準備してもらう。この後宿の人が受け取りに来る。

 

 おつかいが終われば一旦宿へ戻る。

 

「帰りましたー」

 

「はーい。じゃあ次こっちを手伝って」

 

2人がお使いから帰る頃には泊まっていた人たちはほとんど起きていて宿を後にしている人もいる。その時間になれば次は洗濯をする。1部屋1部屋まわりシーツを回収して裏へと持っていく。

 

 「それじゃあお願い」

 

 宿の人と一緒に井戸から水を汲んで桶に入れていく。ブエルが中で横になってもまだ余裕があるくらい広い桶は水と洗濯物でいっぱいになった。

 

 「ノルン、服は濡れないようにまくった?」

 

 「うん」

 

 2人は桶に中に入って洗濯物を踏んでいく。その度に少しずつ洗濯物に泡立っていく。桶に入っている洗濯物全てに満遍なくせっけんの泡が浸透したら桶からでて洗濯板を使いゴシゴシと洗う。

 

 ある程度洗い終わると今度は洗濯ものをすすぐ。すすぐときはブエルの魔術で出した水を使う。井戸から汲むこともできるがすすぐ水は捨てるため大量に使うから枯れないように節約するのと魔術の水の方が綺麗なので洗濯物の仕上がりがいいと喜ばれるからだ。

 

 洗濯が終わるころにはすっかり日が高くなりお昼になっている。この時間になると食堂に呼ばれてお昼ご飯を食べる。時々、人がいっぱいで席がない時は自分たちの部屋に行って食べている。

 

 ここでの主食はご飯と呼ばれる穀物の粒を炊いたもので村で見ることはなかった。パンは懐かしいがご飯も美味しい。ノルンも最初は嫌がっていたが今ではすっかり気に入っているようでリスみたいに頬張って食べている。

 

 お昼ご飯を食べたらやることがないので休憩になる。この間にブエルはノルンに魔術を教えることにした。ブエルは魔術がかなり役に立つことに気が付いた。この宿でも魔術が使えることで少しお金を多くもらえるようにお願いできた。

 

 『魔術を使うならお金をもらいなさい』

 

 ポールさんたちからの知恵の1つだ。もしノルンも使えるようになれば生きていく上で強みになる。それにノルンにも自衛の術を持ってほしかった。そう考えて空いた時間にはノルンに魔術を宿の裏で教え始めた。

 

 「汝の求める所に大いなる水の加護あらん、清涼なるせせらぎの流れを今ここに、ウォーターボール」

 

 ブエルが詠唱をするとその手には水の玉ができる。ブエルはそのまま水玉を桶に入れた。

 

 「じゃあ同じように行ってごらん」

 

 「汝の  求める所に大いなる  水の   加護  あらん、清涼なるせせ  らぎ の  流れを今   ここに、ウォーターボール」

 

 ノルンはたどたどしくもなんとか詠唱をするがその手には変化がない。ノルンはルーデウスやブエルと違い中々成功しなかった。

 

 (やっぱりみんなってすごかったんだな)

 

 ブエルもルーデウスたちと比較したら魔術は得意じゃない。旗から見れば十分なのだが天才に囲まれた結果、その点に関しては自信を無くしていた。

 

 今こうしてノルンが成功しないのはブエルに教える才能がないからだと考えている。何度か教えるのを諦めようかとも考えたことがあったが魔術もないとノルンには何もないのだと思い根気よく自分が使う時の感覚を伝えていった。

 

 

 空が赤色になる夕方頃になるとまたブエルだけの仕事が始まる。

 

 夕方から夜にかけては食堂でウエイトレスの仕事だ。宿の食堂には多くのお客さんがやってくる。夜は特に酒場としても開いているので宿に泊まっている人だけじゃなく他の宿から来た人たちもこの食堂は歓迎している。この仕事をしている間ノルンは奥さんと一緒にいるか部屋で待っている。

 

 ブエルはここの仕事で能力を発揮した。

 

 「お待たせしました。ビールです」

 

 「おぉ、ありがとう嬢ちゃん。小さいのにえらいな」

 

 ブエルはビールを渡した人から頭を撫でられる。

 

 「あ、ごめんなさい。呼ばれているので」

 

 ブエルはそう言って別のテーブルへ向かった。男はよく見ると後ろのテーブルにいた人が手を挙げていた。

 

 「よく聞こえたな……」

 

 ブエルは一定範囲にいる人の感情を感じ取る。酒場は多くの声が飛び交い非常にうるさくなっている。そのためウエイトレスを呼ぶ声も聞こえない時がある。だがブエルは自分へ向けられた感情を感じ取り気が付けるので客からは幼いのに気が利く子として有名になっていた。

 

 「ブエルちゃん、焼酎2つ」

 

 「はーい」

 

 ちなみに酒場の喧騒自体はブエルにとってストレスである。

 

 

 

 ウエイトレスの仕事は夜の浅いうちに終わる。子供は早いうちに寝かせようという宿の人たちの配慮だ。

 

 「ただいまノルン」

 

 「おかえりなさいお姉ちゃん」

 

 

 「あ、またやってる。汚いからダメだよ。」

 

 

 部屋に戻るとノルンは指を口にくわえおしゃぶりをしながら待っていた。駆け寄ってきたノルンをブエルは抱きしめて頭をなでる。ノルンも体に体重を預けて体温を感じていた。

 

 

 仕事がすべて終わった2人はベッドに腰を掛けお互いの髪をとかす。それが終わると厨房から夜ご飯をもらって部屋で食べる。

 

 

 「お姉ちゃん、いい?」

 

ノルンが恐る恐る聞いてきた。最近、寝る前にあることを必ずするようになった。

 

 「いいよ」

 

 ノルンはブエルから許可をもらうと膝に頭を乗せて顔をお腹にうずめた。最近ノルンは甘えん坊になった。こうしてスキンシップを求めてくる。ブエルは何言わずに頭を撫でていた。奥さんは「お母さんに会えなくてさびしいのかも」と言われた。その言葉を聞いてブエルは胸が痛くなった。自分はゼニス、お母さんの代わりになれない。つらい思いをさせていると。

 

 

ブエルはなるべくノルンがしたいことをさせていた。少しでもノルンの気持ちが軽くなる様にと。

 

 

ノルンは満足すると自分で離れる。そうしたら寝る準備を済ましてお互いの布団に入る。そうして意識を夢の中に落とす。こうして2人の一日は終わりを迎える。

 

 

 ――――――――

 

 宿に住み始めてから1か月が経った。

 仕事に慣れたころ、情報が入ってきた。

 

 「フィットア領転移事件」

 

 アスラ王国で起こったこの事件はまさしくブエルたちが巻き込まれたものだった。フィットア領にいた人は世界中のあちこちに飛ばされたらしい。すでに色々な街でフィットア領出身の人が突如現れるという事態が起こり噂になっていた。

 

 

 「じゃあお父さんもお母さんもどこにいるか分からないってことですか?」

 

 

 「あぁ、そういうことになるな。すでに何人も死んでいるし」

 

 

 「おいコラ」

 

 

 ウエイトレスとして働いているとき情報が手に入った。余計なことまで言った冒険者は連れに怒られていた。ブエルは突然体全体におもりがつけられたような感覚になった。これまではいつか探しに来てくれるかもしれないと希望を持っていた。だがそれすら厳しいと告げられた。それどころかお父さん達はもう死んでいるかもしれないと。

 

 

 

 でも帰りたいという気持ちは変わらなかった。もしかしたらお父さんは自分で帰っているかもと思った。だって強いから。

 

 

 ブエルはひとまずお金をためつつ情報を集めると同時に自分のことを人に話し始めた。名前、出身、家族の名前。自分が有名になれば見つけてもらえるかもしれない。誰かが家族の情報を知っているかもしれないと。

 

 

 

 

 

 

  ブエルは幼いから知らなかった。自分の情報を話すことの危険さを。




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