最近忙しく更新が思うようにできていません
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今回短めです。すみません
転移事件から半年が経った。ブエルたちは宿で働きながらお金を貯めて、冒険者から情報を集めるという日々を繰り返していた。
時間が経つにつれて事件の詳細をよく聞くようになった。その話を聞く中でおびただしい死者が出ていることも知った。その人たちが辿った末路がどんなものか聞く度に耳を覆いたくなるが少しでも家族の情報を知りたくて聞き続けた。だが家族に関する情報を聞くことはなかった。家族が死んだ話を聞かなくてホッとする一方、もしかしたらもう……という考えが頭をよぎるが必死に否定した。
ブエルの中で家族の迎えを待つというプランは現実性がなくなっていくのを実感していった。
ブエル達は次の策を考えた。それはお金を貯めて自力でフィットア領へ帰ることだ。家族の情報を集めていくうちに色々な話を冒険者から聞くことが出来た。
冒険者はいわば何でも屋。その中には護衛の任務も時々あるらしい。そこでブエルたちは自分たちの護衛任務を依頼し送り届けてもらうことを考えた。
さっそく依頼を出そうとギルドに向かったが問題が起こった。
「高い……」
受付の人から聞いた相場の金額がとても払えるものではなかった。
ブエルたちの給料は合計銀貨2枚。フィットア領まで送ってくれる人を雇うには到底届きそうになかった。ブエルは一旦諦めてギルドには周辺の街に家族の情報をのせて情報提供を求める依頼をだした。そして余ったお金を貯めることにした。
「ブエルちゃん!こっちも!」
魔術に新しい使い道が出来た。毎晩働いている酒場。最近、この酒場で流行っているものがある。
「はーい」
ブエルは呼ばれたテーブルへ行くとジョッキに魔術で作った水を入れた。
最近流行っているもの。それはブエルの魔術によって生成される水で酒を割るサービスだ。これが男性にウケる。変な感情を向けられているのを理解していたが気にしないようにした。
ブエルはこのサービスで少し給料を増やすことに成功した。しかしそのお金の何割かは宿に持っていかれてしまった。それでも働き初めより額は増えたので気にしていない。一刻も早く稼いで帰りたかった。
「フィットア領捜索団……?」
ある日のことだった。ブエルの元にとうとう情報が入ってきた。情報を話しているのはたまたまこの酒場にやってきた冒険者だった。ひげが少し長い野性味を感じる男だ。酒に酔っぱらっているようで上機嫌に話している。
「この前の転移災害があっただろ?あの時に転移した人を見つけようってフィットア領の連中が作ったそうだ。」
「へぇーそんな連中が今いるのか」
近くの席に座っていた男も会話に入ってきた。
「あぁ、街とかに飛ばされた奴らはまだマシだが奴隷商人に捕まったやつらなんかを助けるために動いているらしい。おかげでここ最近は色々な人攫いの組織が潰されているんだよ」
ここまで雲をつかむように得られなかったものが突然水のように湧いてきた。目の前が光で刺してくるような高揚感にブエルの心は満ちていった。
「嬢ちゃん、食いつきいいなぁ。もしかして」
「あぁそうか、だが生きているだけ運がよかったな。なにせ……」
男は他の人と同じように死んだ人間の話をし始まる。転移事件の話をする人はいつも死んだ人間の話をする。ある日、空から人が降ってきて死んだ人、魔物の群れの真ん中に転移し辛うじて骨が僅かに見つかった人、奴隷になり死んだ人。相変わらず聞くに絶えない話で聞いていると段々と世界から音が消えていき立っている感覚が消えていく。
「おい……おい!」
体を揺さぶられてブエルに感覚が戻る。音が耳に届き立っている感覚が戻り世界が元に戻る。
「子供に何て話をしてるんだ」
「あぁ……悪かった」
途中で話に入ったきた男がブエルに情報をくれた男を叱る。ブエルが死者の話を聞いたことで体調が悪くなったことを察したようだ。髭の男は気まずそうにしていた。
「まぁ、まずはその捜索団を頼れ。本部はフィットア領だがこの付近に別働隊が来ているらしい。元冒険者の男が率いているようでこの付近の奴隷商人や人さらいは軒並み潰されているらしい。」
「ほー、そんな強い奴らがいるのか。」
「いや、強いのはリーダーの元冒険者だ。確か名前は……
その名前を聞いた瞬間、ブエルは手に持っていたジョッキを落とした。パウロ・グレイラット。間違いなく自分たちの父親の名前だ。
心臓の辺りからじんわりと温かい熱が体に広がっていくのが分かる。お父さんが生きていた。それだけじゃない。お父さんはきっと私たちを探してくれている。もしかしたら仕事かもしれない。でも探している。その事実が体に熱を伝える。湧き出た熱は目尻を熱くした。
ここで泣いてはダメだと頭の中では理解していても抑えられない。もしかしたら死んでいるかもしれない。転移事件の被害の大きさを知ってからずっと考えていた。でも考えないようにしていた。生きている。大丈夫と何度も心に言い聞かせた。被害を知ったノルンが不安に押し潰され泣いてきたこともあった。ノルンを宥めながら心の中では自身も潰されそうだった。
でももう大丈夫。そう思った。もうすぐ父親に会える。そんな希望が見えた。
「その捜索団のリーダーは本当にパウロ・グレイラットなんですか?」
「あぁ、間違いないぜ。知り合いか?」
「お父さんです」
ブエルがそう言うと目を見開いた。
「そうか……よかったな。だが残念な話が1つある」
髭の男は一瞬柔らかな表情をしたがその表情はすぐに険しくなる。
「その捜索団は今、ここから2週間程かかる街にいる。そいつらはミリスを目指している。ルート的にこの街には寄らないだろう」
「じゃあどうすればいいんでしょうか」
「
2週間……確かに行けるかもしれない。だがポールさんの言葉を思い出す。私たちだけで行っていいのだろうか……
街の中ですら人さらいやトラブルに巻き込まれる危険は多々あった。街の外に出ればまず魔物がいる。それに盗賊・遭難・天災数え切れない程の危険があるのが街の外だ。果たして子供の自分たちで渡り切れるだろうか。危険すぎる。やっぱり待った方がいいなだろう。
それに気になるのはこの人の感情だ。さっきから色々と情報をくれるが善意で教えてくれている訳では無い。こちらに何か
果たして信用できるのだろうか……
そんなことを考えていると髭の男がこちらに手を出してきた。
「ほら嬢ちゃん……情報ってのはタダじゃないんだぜ」
なんだお金か…………
仕事を終えてブエルは部屋に戻った。扉を開けるとノルンが駆け寄ってくる。いつも通り待っていてくれたようだ。ノルンはブエルに抱きついた。ノルンから体温が伝わってきた。
「ノルン……」
「お姉ちゃん?」
「実はね、お父さんが近くにいるみたい」
〈喜び〉
「ほんと!?お父さんに会える?」
私が伝えた途端ノルンからは最近感じることができなかった感情が伝わってくる。嬉しそうなノルンにこれからのことを伝えるのは躊躇われたが時間はなかった。
「でもね、お父さんに会うには街に行かなきゃいけないの。」
ブエルがそう言うと服がギュッと掴まれているのが伝わる。
「会えないの……」
〈寂しい・会いたい〉
ノルンのまん丸か目は潤んでいた。ブエルには先程とは真逆の悲しみの感情が痛いほど伝わってきた。思えばノルンはずっと辛い思いをしていた。知らない土地、知らない人、知らない食べ物。そして仕事。事件前とは比べものにならないほど過酷な経験をしてきた。
ブエルは今ノルンに希望を見せたのだ。それなのに自分でそれをへし折っていいのだろうか。
ノルンはギュッと服を握りブエルの胸に顔を埋めた。
「会いたい……お父さんに会いたいよぉ」
ブエルの胸はノルンの体温とは別の温かい何かが伝わる。ノルンの涙だった。
(そうだ……やっと……やっと会える可能性があるのに。これを逃したらもう会えないかもしれないのに諦めていいのか)
ブエルの中にあった葛藤は段々と消えていく。
ブエルはノルンをそっと抱きしめた。
「分かった。会いに行こうノルン」
ブエルとノルンは街を出ることを決めた。