グレイラット家の傷になる少女   作:エナジェティック

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前回、感想書いてくれた方ありがとうございます!!

本当に励みになります。

というわけでいよいよ皆さんがみたいであろう回が始まっていきます。

自分としてもやっとここまで来た感じです。

ぜひ感想待ってます。


第15話 パウロの転移事件  ☆

 王竜王国のとある街。

 街でも規模の大きいその宿屋は酒場も併設されている。

 

 酒場は今日も街に住まう多くの人間たちが夜を大騒ぎで過ごす場になっていた。

 その酒場の端に茶髪で腰に剣を携えている男がいた。男は1人で、誰とも話そうとせずに飲んでいる。その机には1杯のジョッキと多少のつまみが乗せられていた。だが男は出された料理には目もくれず手に持った手紙を何度も読み返していた。

 

 そうこの男はパウロ・グレイラットだ。

 

 「フフッ、ふへへ」

 

 ブエルたちが目指していた街に滞在しているパウロはこの日娘たちから届いた手紙を何度も読み返してはニヤニヤと笑っていた。普段は酔えない酒もこの日は少ない量で楽しく酔えていた。もしルーデウスが今のパウロをみたとしたら「気持ち悪い笑みだ」と毒ついていただろう。

 

 「団長?また読んでるんですか?」

 

 そんなパウロのそばに一人の女性が近づいてきた。短髪にそろえられている明るい印象だが落ち着いた雰囲気を感じさせている。パウロがリーダーを務める「フィットア領捜索団」の右腕ヴェラだ。

 

 「あぁ、」

 

 「団長~?」

 

 「あぁ」

 

 完全に上の空なパウロを見てヴェラため息をつく。

 

 「団長、手紙に夢中になる気持ちは分かりますがもう夜も遅いですしそろそろ寝た方がいいですよ」

 

 

「あぁ、だがいつこの街に来るか分からないだろ?」

 

 

 ヴェラはパウロから返ってきた返事を聞いて呆れため息をつく。

 

 「今、何時だと思っているんですか?キャラバンにしろ、冒険者に連れてきてもらうにしろこの時間ならもう寝てますよ」

 

 「いや、でもだな」

 

 「い い か ら」

 

 

 「あぁ分かったよ」

 

 

 パウロは机にある食事を平らげてしぶしぶと自分の部屋へと移動する。

 

 

 部屋へ戻ったパウロはベッドへ腰かける。部屋には1人。狭いはずの部屋は広く感じた。

 

 

 

 パウロは一人、自分の転移事件を思い出す。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 あの日は魔物の討伐のためにブエルと近くの森へ行っていた。ブエルは俺の教えを忠実に守りどんどんと力をつけていった。元々の呪いも相まって村の近くの魔物はもうブエルにかなわないだろうとすら考えていた。

 

 俺たちは仕事を終えて帰ってきた。

 

 家の中に入るとノルンがゼニスに抱かれながら大泣きしていた。それを見たブエルはすぐにノルンを受け取ってあやし始めていた。

 

 

 「いいお姉ちゃんになったな」

 

 俺はゼニスの隣に立って話しかける。

 

 「そうね。あなたは抱いてあげなくていいの?」

 

 「俺は厳格で慕われる父を目指すからな。いいんだよ」

 

 「そんなこと言っていられるのも今のうちよ。女の子は父親を嫌悪し始めるのは早いんだから。そのうち抱っこできなくなるしブエルもあなたと距離を取り始めるわよ」

 

 「いや、ブエルに限ってそんな」

 

 俺はゼニスの言葉を否定したがあいつの視線は鋭く真実を物語っているように思えた。

 

 

 それならばとブエルたちに近づこうとしたときふと窓の方に目線がいった。

 

 「なんだありゃ」

 

 そんな感じのことを呟いた気がする。そして空が黄色やら赤やらに変色したと思ったら光に俺は飲み込まれた。

 

 

 

 

 「ここは、、、」

 

 

 気が付くと俺は草原にいた。

 

 「なんで」

 

 さっきまで確かに家にいたはず。厳格でもない限りありえない。だが鼻が訴えてくる。草のにおいを。肌が訴える。吹いてくる風の感触を。ここはさっきまでいた家ではない。

 

 

 (何が起こったんだ)

 

 俺の頭の中でまず思いついたのは転移だった。迷宮において最悪の罠。これにパーティーがハマれば手練れであっても全滅の可能性が出てくる細心の注意を払わなければならないものだった。

 

 だが転移を我が家に仕掛けるには大掛かりすぎるしそんなことをしている輩がいれば誰かしら気が付く。その可能性は捨てた。

 

 いろいろと考えていると段々と頭が回ってくる。そして今いる場所に見覚えを感じるようになった。記憶をひっくり返していると一つのことを思い出す。ここはリーリャの故郷だった。

 

 門下生時代、リーリャにも道場にも不義理を働いた。俺がリーリャと結婚したことを知った当時の門下生が復讐しに来たのかと一瞬考えたが先ほど人為的に起こされた可能性は自ら消したのでありえない。

 

 ひとまずリーリャの故郷を目指した。

 

 

 その後、配達の依頼を受けて馬を借りた。やはり俺はリーリャの故郷。アスラ王国の南部にいた。とにかくフィットア領を目指して全速力を出した。俺の頭の中は家族のことでいっぱいだった。最悪の想像をするたび別のことを考えて忘れようとした。

 

 

 戻る途中嫌な話を聞いた。フィットア領が消滅したと。

 

 

 そんなはずはない。ありえない。心にそう言い聞かせながら馬を走らせる。自分の目で確かめる必要があった。

 

 

 だが現実は残酷だった。20日ほどで俺はフィットア領に戻った。そこに広がっていたのはかつての黄金に輝く小麦畑ではなく荒野だった。ある場所を境にきっぱりと荒野になっていた。

 

 避難所があるということで案内された。そこに広がっているのは絶望だった。

 

 あの光はフィットア領全域を覆ったらしい。そしてその範囲にいた全ての生物が世界のあちこちに転移された。

 

 命がけで戻ってきたら街はなく、無限に広がる荒野を見せられているのだ。

 

 

 

 「まて早まるな!」

 

 怒号が俺の耳に届く。声の方を見ると男がナイフを自身の首に刺そうとしているのを止めている。

 

 「死なせてくれ!!!やっとの思いで帰ってきたのに家族が全員死んでいたんだ。もう俺は生きていけねぇよ」

 

 冷や水をかけられたかのような感覚が男の言葉で全身を包んだ。そうだ。俺の家族はどうなった。ゼニス、リーリャ、ブエル、ノルン、アイシャ、ルディ。

 

 生きていてくれ

 

 俺は行方不明者などが載っている掲示板で血眼になりながら探す。

 

 

 行方不明者の欄には俺を含めて全員が載っていた。死亡者には誰もいなかった。

 

 まだ誰も死んだとは確認されていない。その事実に安どする。まだ望みはあるのだ。

 

 

 

 

 「パウロ・グレイラットさんですか?」

 

 

 振り向くと老年の紳士に話しかけた。

 

 

 「相談とお願いがございます」

 

 

 男の名前はアルフォンス。ノトス家で執事をやっていた男だった。

 アルフォンスは俺に捜索団設立の打診をしてきた。実務はできるが実践はできず人をまとめるには限界があるということで俺に白羽の矢が当たったのだ。

 

 

 俺はその提案を飲んだ。家族を探すには資金も人手もいる。これを利用しない手はなかった。こうして俺はフィットア領捜索団を立ち上げメンバーを募り活動を始めた。

 

 

 

 俺は転移していた時のことを考えていた。転移は接触している人同士は一緒に転移する。少しでも手がかりを思い出したかった。

 

 

 ゼニスは一人だった。だから転移も一人だ。残りは違った。アイシャはリーリャに抱かれていた、、、はずだ。ノルンはブエルと転移したに違いない。

 

 

 ゼニスとルディは大丈夫だろうと考えた。元冒険者だ。前衛を担っていたわけじゃないがS級パーティーにいた。そこらの駆け出しよりよっぽど動ける。ルディは天才だ。きっとどこにいても上手くやるさ。

 リーリャとアイシャも多分大丈夫。リーリャは王級で護衛をしていた時期がある。多少は戦闘の心得があるし頭が回る。きっと上手いことアイシャと生きているだろう。

 

 そこまで考えて、ブエルたちのことを思う。9歳と4歳。保護する大人がいない場所に転移して生きていけるのかと。ブエルは歳にしては強い聡い。魔物は対処できるだろう。だがノルンがいてはどうだ?守りながら戦えるのか?そもそも人里離れたところに転移してたら?サバイバルの知識はない。恐らく生き延びれないだろう。

それに転移した場所はどこなんだ?俺は中央大陸のアスラだったからどうにでもなった。もし世界で1番過酷な魔大陸だったら?

 

 1度その思考に陥るとドンドンとハマっていく。

 

 人里に転移しても脅威はなくなったわけではない。都合よく保護される可能性はあるがいきなり現れた子供を守ってくれるだろうか?

 

 それにブエルの前に現れる大人が善良である保証いない。ブエルを利用するかもしれない。

 

あの瞬間、俺がノルンを抱っこしにいけば、タイミングが合えば一緒に転移できたかもしれない。あそこで俺がいつもみたいに格好つけずに子供たちへ歩み寄っていれば……

 

 もう有り得ない未来。それを考えると息が苦しくなる。後悔が大波となって寄ってくる。

 

 (頼む、みんな生きていてくれ)

 

 この時、最悪を想像しつつもどこかすぐに会えるだろうと考えていた。

 

 

 ――――――――――――

 

 俺は難民キャンプにいた人から捜索を手伝ってくれる人を集めてフィットア領を出発した。中央大陸はアルフォンスを中心にアスラ王国が捜索することに。俺はゼニスの実家があるミリスを目指した。そっちの方はアスラの手が回らないからだ。

 

 ミリスを目指して中央大陸を南下している最中も仲間を救出し続けた。俺は被害者の家族から感謝された。泣いて言われた。

 

「あなたのおかげで旦那ともう一度会えました。なんとお礼を言っていいのか」

 

「子供を助けてくれてありがとう」

 

 ドンドンと見つかる転移させられた人たち。これなら俺の家族も……

 

 

 その考えは甘いことを突きつけられる。

 

 段々と俺に届く声は感謝から罵倒に変わっていった。

 

「なんでもっと早くあそこを探してくれなかった!探してくれれば母さんは……」

 

「メアリー!頼む、、息をしてくれ。もうお前しかいないんだ」

 

「…………殺して」

 

 

 段々と上がってくる報告は生存から死亡へと変わっていく。家族の死を知らされた家族は俺を罵倒した。

 そんな中、手伝ってくれる仲間も増えた。

 ヴェラとシェラ。俺が人攫い組織を潰した時に着いてきてくれるようになった。他にも自力でアスラへ帰れない人が協力してくれるようになった。

 

 だが暗いニュースは続く。

 

 

 その日渡された死亡者リストを見た時、俺の手は震えた。

 

 (ロールズが……ロイも)

 

 シルフィの父が……俺が村に来た時から仲良くしていた近所のロイが死んだ。

 

 死者は見続けていたはずなのにどこか楽観的に考えていた俺に現実を叩きつけたような報告だった。今までは同じ被害者でも会ったことの無い他人。どこか冷静でいられた。だが、知り合いの死を知ったことで自分の家族の死も現実になることを突きつける。

 

 

 俺の家族も全員死んでいるかもしれない。その可能性が絶望がジワリジワリと足元から俺を飲み込もうとしていた。

 

 

パウロの絶望は心の内から容姿に現れ始める。髭は整えられなくなり髪もボサボサに、目には隈が濃く現れていた。周囲も自身のリーダーが弱っていく様を見ているしかできなかった。

 それでも希望を捨てずにミリスを目指していた。

 

 

 

 

 王竜王国の辺境にあるこの街。この辺りは紛争地帯の影響を受けて人攫いが多いという情報を得た。ここなら恐らく被害者がいるだろう。俺たちはそう考えてここを拠点に少し活動することにした。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 街に拠点を整えて3日経った。

 

 

「パウロ・グレイラットさん〜」

 

 拠点にしている宿にギルドからの人間が来た。なんの事だろう。来たその日にギルドで手続きをして捜索の張り紙と情報提供を呼びかけた。何か不備があったのだろうか。

 

「お手紙を届けに参りました。こちらにサインをお願いします。」

 

「あぁ、分かりました。」

 

 パウロ宛の手紙だった。恐らくアルフォンスからだろうと考える。そう思い特に考えることなくサインをして受け取った。

 

 アルフォンスはギルド宛に送ったからギルドの人間が来たのだろう。

 

「ありがとうございました〜」

 

 仕事を終えたギルドの人は気だるそうに帰って行った。

 

 さて読もう。そう思い手紙の封を切ろうとした瞬間パウロの時は止まった。

 手紙に書いてあった差出人はアルフォンスではなかった。

 

〈ブエル・グレイラットとノルン・グレイラット〉

 

 そう書かれていた。

 

 パウロは息を吸うのを忘れるほどの衝撃だった。ここまで全く手がかりがなかった家族からの手紙だ。驚かない方が無理だった。

 

 すぐに部屋に駆け込んだ。手紙を開けようとするが手が震えて中々開けない。

 

「クソ」

 

 苛立ちを抑えながら何とか封を開けて中身を取り出す。封筒の中には一通の手紙が入っていた。

 

  中にはブエルとノルンの現在いる場所と2人の無事を伝える内容が書いてあった。2人は仕事を見つけて転移してから働いていたらしい。そして手紙を出したのはパウロ達がこの街にいることを聞いてそこに行くまで待ってもらうためだそうだ。

 

 手紙の最後には赤い2つの手形があった。最初に見た時は一瞬2人の血なのかと思ってしまったがキツイ匂いが鼻にくるあたりインクなんだろう。小さな手形の下には拙い字でノルンの名前が書いてあった。

 恐らくノルンも何か書きたかったが名前が限界だったので手形にした感じだろう。

 

 ひとまず、2人が生きていることに安堵した。

 全身の力が抜けてしまいベッドに倒れ込んだ。再度手紙を見る。2人の手形はまだ小さくパウロの手ですっぽりと覆えてしまう。こんなに小さな手で半年以上生き抜いてくれたと考えると胸が、目頭が熱くなってきた。

 

 そのままパウロは泣いてしまった。

 

――――――――――――――――――――

 

 ブエルの居場所を知ったパウロは2人を迎えに行こうとした。だがパウロには重要な役目がある。フィットア領捜索団は構成員がほとんど元農民など非戦闘員だ。ヴェラシェラの姉妹は辛うじて戦えるが対人を想定すると他は戦力としてはギリギリだ。

 

 今、この街の付近でも捜索活動は始まっている。それをリーダーである自分が投げ出す訳にはいかなかった。

 

 パウロは悩んだが、手紙には大人に連れていってもらうと書いてあったのでその大人が信頼出来る人間であることに賭けて待つことにした。街で待つ判断を下したのは他にも理由がある。

 

 ブエルが書いた2人の現在地はこの街から2週間以上かかる。手紙は速達だったが1週間は届くまでにかかっていると見ていいだろう。1週間経てば向こうの状況も変わる。もしかしたら既に出発しているかもしれない。今迎えにいけばすれ違いになる可能性の方が高い。ならばこちらが待つ方が得策だろうと考えたのだ。

 

 

 パウロはその後すぐに団員達を集めて説明をした。そしてこの街にしばらく滞在させてもらうように頼んだ。

 

 団員は快く受け入れた。さらに合流のために協力を約束した。元々同じ転移で家族を失った者同士。再開のためなら協力を惜しむ必要は無い。それにずっと自分たちのために必死になっていた団長の願いだ。叶えてあげようと一致した。

 

 特に喜んだのはヴェラシェラだった。そして再開の準備をし始めた。

 

「団長、髭を剃ったほうがいいと思いますよ」

 

「……そうか?別にいいと思うんだが」

 

「娘さん、9歳と4歳ですよね?今の団長の顔怖いですよ。せっかく会えるのに怖がられてもいいんですか?」

 

 そう言われてパウロは悩む。そして転移前のゼニスの話を思い出した。娘たちは父親から離れるのが早いという話だ。

 

 パウロは鏡に写る自分を見る。

 

「ハハ、こりゃひでぇな」

 

 せっかく会えるのに「パパ汚い」なんて言われたら恐らく立ち直れないだろう。

 

 パウロはヴェラのアドバイスを素直に聞いていた。

 

 そしてパウロは待ち続けた。この街で開かれている門は1つしかない。必然的に来訪者は全員その門からやってくる。パウロは入ってきた人に次々と聞いて回った。だがブエルを知る人はいない。

 

 こうして手紙を受け取ってから10日ほど経過した頃ついに引っかかる。この日、昼頃に1つのキャラバンが街に入ってきた。

 パウロはキャラバンに近づいて話しかけた。

 

「なぁあんた。小さな子供を乗せてたりしないか?9歳と4歳くらいの子だ」

 

 パウロがそう話しかけると今までと違った反応が帰ってきた。目を見開いて驚いてたのだ。

 

「ちょっと待ってろ」

 

 男は隊列の中央の方へ行ってしまった。

 

 今までと反応が違った。確実に何かを知っているような反応だった。いるのか……?会えるのか……?

 

 ドクドクと心臓がなり始める。足が震えて真っ直ぐに立っていられなくなる。

 

 パウロの口は自然と開いて息が漏れ出る。

 

 だが男が連れてきたのは2人ではなかった。

 

「初めましてキャラバンの団長です」

 

 男はそう名乗った。

 

「初めまして。パウロ・グレイラットです。フィットア領捜索団の団長をしています。」

 

「本当にグレイラットなんですね」

 

 パウロの名前を聞いた男はそう呟いた。

 

「どういうことでしょう?」

 

「失礼、娘さんの名前を教えて貰えますか?」

 

「ブエルとノルンだ」

 

「どうやら本当に親のようですね。信用しましょう」

 

「娘達は今どこにいるんですか?」

 

 パウロがそう言うと男は目を逸らした。よくない反応であるのは間違いない。道中で何かあったのかと予想する。

 

 

「2人に関して話しましょう」

 

 キャラバンのリーダーはノルンが途中で体調を崩し村に置いてきたことを話す。

 

パウロは初め怒りを覚えた。当人の体調があるからと言ってまだ10歳に満たない子供を置き去りにした対応に。だがその怒りはすぐに消える。思えば彼らは村で途中下車するまではしっかりとブエルたちを護衛してくれていたのだ。それなのにこちらが一方的に責めるのはどう考えても間違っている。

 

 パウロはかつてルーデウスと喧嘩し間違えた経験から学んでいた。

 

 「そうですか。ありがとうございます」

 

  

 2人の会話は和やかに進んだ。リーダーは2人をどこで降ろしたのかなどパウロに渡せる情報を渡して別れた。パウロはせめてものお礼として礼金を渡した。

 

 

 宿に戻ると団員たちがパウロを待っていた。パウロが1人で戻ってきたところを見ると顔を俯かせた。団員達全体へ暗い雰囲気が漂った。パウロは空気を察して団員に状況を説明する。

 

 「パウロさん。村はここから2日なんだな」

 

 「あぁ、そう言っていた。実際キャラバンもその日数で来ているらしい」

 

 「なら俺が迎え行ってくる。誰か一緒に来るやつはいないか?」

 

 

 「よし、俺も行こう」

 

 

 

 説明をを受けた団員がブエルを迎えに行くと志願した。1人が声を上げると何名かが同行するという。あっという間にブエルたちを迎えに行く班が完成した。

 

 「団長はここに残っていてください」

 

 「いつも助けてもらってますから。俺たちに任せておいてください」

 

 「お前ら、、、、」

 

 

 団員はパウロを慕っていた。それはパウロの人望でありこれまでの働きから評価されたものだ。班はその日の昼過ぎに街をたった。

 

 

 

 

 

 あと数日もすればブエルたちに娘に会える。パウロの心中は期待と緊張で穏やかではなかった。一度、肩透かしを食らっているからこそ期待感は高まっていた。

 

 数日前注意されたばかりだというのにまたパウロは寝ることなく食堂にいた。

 

 

 「団長~?」

 

 そしてヴェラも寝るつもりのないパウロを見つけ叱ろうと近づいた。

 

 

 「団長!シェラ!誰でもいい。誰かいないか」

 

 

 その時宿の扉が勢いよく開き誰かの大声が響き渡る。豪快な足跡が廊下に響き食堂に入ってきた。

 

 

 「頼む、治癒魔術が必要だ。誰かいないか」

 

 

 男の声で食堂は静まり返り視線が一転に集中する。声の主は昼間に出発した男だった。男は腕に女の子を抱えていた。

 

 女の子は金髪で服が赤く染まっている。

 

 

 パウロの目にもその女の子は映った。パウロはその子をよく知っている。

 

 

 

 「ノルン」

 

 

パウロは持っていたジョッキを床に落とす。中身がこぼれて靴が濡れるがそんなこと気が付かなかった。

 

 

 「ノルーーーーン!」

 

 

 パウロは一目散に駆け寄った。

 

 「ノルン!ノルン!おいしっかりしろ」

 

 パウロが言葉をかけるもノルンは反応しない。全身が濡れておりぐったりとしている。顔も元々白かったのがさらに色が抜けて生気を感じられなかった。

 

 

 「ノルン、ノルン」

 

 パウロはなおも呼びかけるもノルンが返事をすることはない。

 

 

 「おい、何があった。」「分からない。川の岸でぐったりしているのを見つけたんだ。」

 

 

 「あ、あぁ」

 

 

 パウロは全身から力が抜けていくのを感じた。目の前にいるはずの娘がどんどんと遠ざかるのを感じる。呼吸が浅くなり体に酸素がいきわたらなくなるのを感じる。溺れているような感覚に陥っていた。

 

 

 「こっちにその子を」

 

 

 騒ぎを聞きつけたヴぇラはシェラを呼んでいた。団員たちはテキパキと治療の準備を始めていた。

 

 

 「ノルン、、ノルン」

 

 「しっかりしてください!」

 

 娘の名前をうわ言のように呟くパウロを見て団員が 責する。おかげでパウロは戻ることができた。

 

 

 「大丈夫。呼吸はしてる。気をしっかり持ってください」

 

 

 「だが血が、、」

 

 

 「あれはあの子のじゃない。あの子には精々擦り傷がある程度だ」

 

 

 「あぁ」

 

 

 パウロと違い団員たちは冷静に対処していた。それはこれまで色々な経験をしてきた賜物だろう。パウロも優秀だったが、やはり家族には脆かった。

 

 

 パウロは治療されるノルンを見てあることに気が付く。そしてノルンを連れてきた団員に話しかけた。

 

 

 

 「なぁ、もう一人いなかったか。」

 

 

 

 団員は重い唇を開いた。

 

 

「その子しかなかった。今、他のやつが探しに行ってる。その子のそばにいてやれ」

 

 

 パウロはまたも意識が遠ざかりそうになったが今度は団員に支えられすぐに立て直した。

 

 

 

パウロの思考がグルグル回る。なぜこんなことになったのか。何があったのか。なぜブエルはいないのか。

 

 

 そしてもう起こりえない〈もし〉を考え始める。

 

 

 もし手紙を受け取った時点で俺が迎えに行く判断をしたら?昼間、団員ではなく俺が行けば何か変わったのではないかと。

 

 

 

 意識の戻らないノルンを眺めることしかできない中パウロは自分の判断が間違っていたことを見せつけられ続けた。

 




曇らせ回には☆をつけようと思います。

思いつきなので需要がなさそうなら消します。


とにかく感想・評価を待ってます!
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