12月になりましたね、、、最近は冷えているため布団からでるのが難しくなってきました。
そして今回は難産でした、、、、
転移事件が発生してから7か月ようやくパウロは自分の家族を助けることができた。毎晩のように語りかけてくる悪霊をすこし追い払うことができた。それなのにパウロの胸中は穏やかではない。娘は生きていたのに。間に合ったというのに。パウロは夜の悪夢一変、目の前の現実に苦しめられていた。
人攫いの拠点からブエルを奪還した後、シェラの治癒魔術により一命を取りとめたブエルは宿の一室に運び込まれた。ブエルはそこから一度も目を覚ましていない。今もパウロの目の前で小さな寝息を立てているだけだ。パウロを今蝕んでいるのは攫われたことではない。ブエルの今の状態だ。
体の傷は治癒魔術により完璧に治された。パウロが切ってしまった傷ももうない。だが1つ治らない部分があった。ブエルにはあるはずの髪が生えていなかった。そして代わりに魔法陣のような模様の刺青が入れられていた。パウロから見ても他人だったら近寄りがたく白い目を向けるだろう容姿だった。
パウロの脳裏に転移前の日常が呼び起こされる。
朝、鍛錬を終えて家に入るとリーリャとゼニスが朝食の準備をしている。スープのいい匂いが家に入ると鼻に届いた。
「おはよう」
階段の上からぽてぽてと可愛い足音を立ててブエルが降りてきた。まだ寝ぼけているのか目をこすっていて髪はボサボサだ。
「ブエル、顔洗ってきなさい。朝ごはんにするわよ」
「はーい」
ゼニスの言うことを聞いて外へ出ていく。自分とすれ違う時におはようと言ってくれた。
「お母さん!髪結って!」
「はいはい」
朝食を食べるとブエルはゼニスの元へ行きそうセガんだ。ブエルは毎日どちらかに頼んで結ってもらっている。ゼニス達もこの時間は楽しそうに3人であぁじゃないこうじゃないとブエルの髪をどうするか
と談笑している。
「はい!出来たわよ」
ゼニスがそう言って鏡を見せる。鏡に写った自分を見ると目をキラキラさせながら「可愛い?」とブエルは聞きゼニス達は可愛いと答える。
ゼニスとリーリャ、ブエルの3人は毎日ブエルの髪をどうしようかと話していた。年齢を重ねて年相応にオシャレに興味を持ち始めた娘。でもこの村では貴族のように服を何着も買ったり街のように服屋があるわけではない。だからせめて髪型だけはとゼニスとリーリャは工夫してブエルを楽しませていた。
ブエルは結った髪を俺に見せてきては可愛いか尋ねてきた。その度に可愛いぞと返してあげたんだ。俺にとって本当に可愛い娘だから。
ブエルにとって、女の子にとって髪の毛はとても大事なものなのにそれを踏みにじられた。パウロは気が付くと膝の上でこぶしを強く握っていた。爪が食い込み出血するほどに。パウロの心の中は激情があふれんばかりに渦巻いていた。それは自分の娘にされた所業への怒りだけではない。自身のふがいなさにでもある。
あの時、ブエルは喉を薬品でつぶされていて声が出せなかった。だから意識が戻った時パウロの足をつかんだのだ。必死に助けを求めたのだ。それなのにパウロは娘と気が付かず顔に蹴りを入れてしまった。どれほどの絶望だっただろうか。
それだけじゃない。手紙を受け取った時点で会いに行けば……そうじゃなくても誰かを向かわせていればさらわれる事態は回避できたのではないか。パウロは自身の過去の選択を思い返しては後悔し続けている。もしも青の時と考えずにはいられなかった。
「団長、すみません。そろそろ会議を……」
「あぁ、すぐ行く」
ヴェラに呼ばれてパウロはブエルのいる部屋から出て行った。
sideブエル
目を開けるとまず感じたのは明るさだった。あの地下とは違ってこの部屋は窓があり外からの光が差し込んでいる。随分と明るい光を見ていなかったため眩しくて目を閉じる。少ししてようやく目を開けるようになった。
(ここはどこ)
周囲を見渡すと誰もいない。どこかの部屋のようだった。私はベッドに寝かされている。
(頭が痛い)
色々と状況を確認したいのに起きてからずっと頭がガンガンしていて考えがまとまらない。そして何でここにいるのかも分からない。
最後の記憶は確か、、、確か
そこまで考えるとブエルに強烈な吐き気が襲ってくる。とっさに口を押えて息を何度も吸うことで吐き出すのは防げたが気分が一気に悪くなる。息を吸っているはずなのにドンドンと苦しくなっていっている。ブエルの脳裏には焼きついた恐怖が再生されていた。
(そうだ、逃げなきゃ)
私の体が拘束されていないことに気が付き立ち上がる。立ち上がった途端頭の重さに引っ張られるようにベッドに再度倒れこんだ。
(何で……?)
極度の疲労に栄養失調も重なってブエルの体はまだ本調子には程遠い状態だった。その上数日間寝込んでいたこともあり体は立ち上がり方すらも忘れかけていた。
(逃げなきゃ、、早く)
何度も立ち上がって転んでを繰り返してようやく窓にたどり着いた。幸いにも開閉式だったため力が出ない状態でも簡単に開いた。外を見ると建物の1階だったため私はよじ登ってアジトから脱出に成功した。
sideパウロ
ブエルを取り戻しこの辺にいた遭難者はほとんど回収できた。俺たちはいよいよミリス大陸を目指して動き出していくことになる。今行われている会議の議題はもっぱらそれだ。俺たちは最短ルートを模索するため意見を出し合っていた。
「パウロさん大変だ」
会議をしていると一人の男が飛び込んでいた。患者などの監視を担当していた男だ。
「ブエルちゃんがいなくなった。」
「なんだと!?」
「俺がアンタの交代で入ったら窓が開いていて誰もいなかった。多分あいつらにまだ捕まってると勘違いして逃げたんだ。」
ブエルがいなくなった。その言葉に俺の頭はついていけなかった。周囲が騒いでいるはずなのにその声が全く聞こえない。
ブエルはまだ体調だって万全じゃない。絶対安静と診断されていた。そんな状態で外に出たらどうなるだろう。もしまた人さらいに見つかったら。見つからなくてもそのまま衰弱して死んでしまうのでは。頭の中で色々な考えが巡る。どれも最悪を予見したものだ。
「団長……団長!」
ヴェラの声で薄れていた意識が呼び戻される。
「しっかりしてください団長」
「あぁ、すまない」
「会議を中止に!みんなで探しに行きましょう。時間は経ってません。すぐ近くにいるはずです。」
ヴェラの呼びかけでみんながゾロゾロと外へ向かう。本当にありがたい
「団長、気をしっかり。大丈夫です。すぐに保護できます」
「あぁ、」
俺もヴェラに促されブエル捜索へと乗り出した。
sideブエル
外に出ると頭痛が酷くなった気がする。呪いの影響かもしれない。歩こうとしているのに頭痛に引っ張られてフラフラと横に逸れてしまうまっすぐに進めない。周りには思ったより人がいっぱいいる。外に出て分かった。ここはどこかの街らしい。私がノルンといた時と同じような雰囲気を感じられる。少なくともあのジメジメとした地下ではないことは確かだ。
でもなんで街にいるのだろう。頭の中で考えても思考が頭痛で遮られる。記憶も曖昧で最後の瞬間からどこかで飛んでいるようだった。
でもあのジメジメしたところから街に移動しているのはなぜだろう。まず考えたのは誰かに売られた可能性だ。
それなら知らない街に今いる理由もわかる。ずっと日の光を見なかった影響もあってあの日から何日経ったかは分からない。知らない間に運ばれている可能性も十分にある。
まだ安心できないのでとにかく離れることを優先する。あの建物から離れてから色々と聞いていけばいい。今はこのチャンスを逃してはいけない。
そう思っているのに少し歩くだけで稽古が終わった後のような胸の苦しさに襲われる。私ってこんなに体力なかったっけ?
そんなことを考えていると違和感に気が付く。街がすごく静かなのだ。無音ってわけじゃない。でもいつもより聞こえる声が少ない。ブエナ村にいた時ももっといろんな声が聞こえていたはずなのに。この気味の悪い違和感について考えていると一つ違う点があった。みんなの感情が分からないのだ。いつもは聞こえてくる声。その声が聞こえない。だから静かに感じるんだ。
「おーいどこにいる」
私の体の変化に違和感を覚えていると後ろから誰かを探している声が聞こえてきた。振り向くと何人かの男たちが走りながら声を上げている。万が一を考えて走ろうと考えたけど体力的に厳しいと考えて私は目立たないように道路の隅の方へ移動してやり過ごそうとした。
「あ、いたぞ」
「ほんとだ。誰か見つけたと知らせてきてくれ」
だが男たちは私の方を見ると指をさせて声を上げた。間違いない。あの人たちは人さらいだ。見つかった。逃げなくちゃ。
私は無我夢中で走り出す。息が上がって苦しいけれどそんなことを言っていられない。捕まればまた、あの場所に、、、
それに私は逃げた。逃げたからまた殴られるかもしれない。もっと痛いことをされるかもしれない。そう考えると全身に悪寒が走る。絶対に捕まっちゃダメなんだ。捕まったらもう二度とノルンにみんなに会えないかもしれない。
イヤだ。捕まりたくない。
そのことだけが頭にあって走る。でも向こうの方が足が早くてすぐに追いつかれてしまう。
「もう大丈夫だよ。戻ろう」
男の人はそう声をかけてくる。でもその笑顔にある感情が分からないから私にはあの人たちと同じようにしか見えない。
嫌だいやだイヤだ
「あ、待て」
私は逃げようとして走り出すが小石につまづいて転んでしまった。膝を強くうってジンジンと痛む。
「もう大丈夫なんだ」
「ーーーー」
色々と声をかけてくるが誰も知らない人で怖い。何を考えているか分からないから怖い。優しそうな顔をして話しかけてきているけど目の前にいる人のことが信用できない。感情が分かる「声」を聞けばすぐなのに聞こえないから目の前にいる人が不気味でならない。
「いやぁ」
私は突き飛ばして走り出す。
「あ、待ちなさい」
男たちはすぐに追いかけてこようとしている。走っても追いつかれるのは避けられない。それならと私は魔術を使って殺すことにした。
手を突き出して魔力を練る。使えば魔力切れの可能性があったけど一か八かやるしかなかった。そしていつものように使おうとした瞬間全身に激痛が走った。何が起こったのか分からなかった。その痛みによって全身の力が抜けて倒れこむ。急いで立ち上がろうとするも体が言うことを聞かずに動かすことができない。
「ブエル!」
目の前に誰か来た。茶髪の男の人。
「ごめん、、ごめんな。もう大丈夫だ」
そうお父さんだ。
sideパウロ
「こっちです」
ブエルが見つかったと報告を受けて俺は急いで現場へと向かう。その場所は宿目の前道から数分のところ。俺が探しに行った方とは逆方面だった。駆けつけると道の真ん中で騒ぎが起きている。その場所でブエルが団員たちに手を突き出して構えていた。あの構えは魔術を放つときにするものだ。このままだと団員に被害が出る。防がなくては。そう考えていると魔法陣が光だしブエルが突然叫びだす。
苦痛に満ちた悲鳴だった。
叫び声が聞こえるとブエルの体から力が抜けていき地面に倒れこんだ。団員たちはこれを好機と考えて拘束しようとしている。ブエルは意識を取り戻して事態を把握したようだ。
「いやぁぁぁ。」
ブエルは叫んでいた。
「やめて!やめてください」
壊れた人形のように何度も何度も懇願していた。
こんな声を上げる子ではなかった。あの状況でされた記憶が蘇っているのかもしれない。泣きながら叫んでいた。
「ブエル!」
ようやく追いついた俺はブエルの目の前に座る。他の団員も俺の存在に気が付いて大丈夫を判断し抑え込もうとするのをやめた。
ブエルの顔は涙や土で汚れている。何より絶望しきった表情をしていた。俺のせいでこんな顔を……
「ごめん、、ごめんな。もう大丈夫だ」
「お父さん……?」
俺がそう声をかけるとブエルはすぐに気が付いてくれた。そして抵抗するのをやめた。
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ブエルを連れて宿に戻った。まだ回復には程遠いブエルは俺が抱っこして帰った。ブエルを抱くなんて何時ぶりだろうか。随分と重くなっていて成長を感じた。
ベッドに座らせて団員にシェラを呼ぶように頼んだ。今はそばにいてやらないとどこかに行ってしまいそうで怖かった。
しばらくするとシェラが来る。緊張した面持ちでブエルのことを見ていた。シェラが来たのは他でもない。ブエルの頭の魔法陣を消すためだ。
服従させる魔術に関しては人さらいから情報を得られなかった。というのも パウロはあの場にいた人さらいをほとんど殺してしまった。仕方がないと生きているやつを捕まえて尋問をするが術者は殺しておりしかも生き残った奴曰く「あの魔法陣は術者が突然神お告げがきたとか言って作ったやつ」としか言われず、めぼしい情報が手に入らなかった。
だが魔法陣は大抵が使い捨てだ。何回も使えるものを用意するには大金が必要で戦争や大国が大きな利益を得るためにしか基本は使われない。一度発動させれば消せると考えていた。
「ブエル、気が付いていると思うが頭のことだ」
「え、頭?」
俺がそう言うとブエルはキョトンとした表情をした。ブエルは気が付いていなかった。少し考えればわかった。ブエルはついさっき起きたばかり自分の状況を把握する時間なんてなかったのだ。ブエルは俺が何かを言う前に自分の頭を触ってしまい異変に気が付く。
「え……ね、え、お父さん。私どうなっているの」
知らせるしかなかった。髪が元に戻るまでには何か月何年もかかる。最初から誤魔化せないとは思っていた。俺はヴェラが持ってきた鏡を見せる。ブエルの目には変わり果てた頭が映っているだろう。
「え……なにこれ……」
ブエルは自分の惨状を目の当たりにすると固まってしまう。そして段々と状況を理解したのか顔は青ざめていき突如口を抑えた。
「うヷぁ」
ブエルが苦しそうなうめき声を上げた。ブエルはショックのあまり嘔吐してしまった。幸いだったのが胃に何も入っていなかったため唾液が数滴垂れただけだった。
取り乱すブエルを何とか落ち着かせて話を続ける。
「これから魔法陣を消す。少しだけ我慢していてくれ」
「うん」
「シェラ頼んだ」
「はい」
シェラはブエルの魔法陣に手を当てて魔力を送り込む。魔術が一度発動すれば消えるはずだった。
魔法陣が光るとブエルが叫びだす。さっきと同じような状況だ。シェラはその声に驚いて魔力を注ぐのをやめてしまう。魔法陣から光が消えるそれでもブエルはベッドでのたうち回っていた。
事前に想定していた事態とかけ離れた状況に3人は混乱していた。
その後、色々と調べた結果魔法陣の解除は俺らでできないことが分かった。そして魔法陣に関しても少し。
あの魔法陣は術者が正しい手順で魔力を注ぐことで発動できるらしくブエルが魔力を使って抵抗しようとしたりほかの人間が無暗に魔力を注ぐと全身に激痛が走るようになっている。この機能は奴隷が反乱したり同じ牢屋に入れていたら解除される事態を避けるためと推測した。シェラは魔術を使えるが知識が多いわけではないのでブエルの魔法陣を解除する方法は分からないらしい。
そしてもう一つ判明したことがある。ブエルはこの激痛効果が微弱ながら発動し続ける。ブエルの呪いは魔力の放出度によって強弱を決めれるが0にはできない。つまり呪いは魔力を使っている。そして呪いが常に発動しているブエルは魔力を放出し続けているのだ。魔法陣はその魔力を検知して常にブエルの体に痛みを与えている。
ブエルが頭痛を訴えるもシェラの治癒魔術で治らなかったことで判明した。
「俺は何をしているんだ」
いつの間にか食堂にいた。横を見ると窓から外の様子が見える。目の前の机には何も置かれていなかった。食事をしたわけではないのだろう。自分のことなのにだろうは変だがいつの間にか記憶が飛んでいた。
ずっと俺はブエルに何ができるか考えていた。あんな状態のままでいいはずがない。だが思考はぐるぐる回るだけで何かいい案がでたわけではなかった。どこまでも無力な男だった。あの頭では外にも出られない。女の子なのに髪が一切ない状態はどれほど辛いか想像できない。きっと男の俺には理解できないほどの苦しみなんだろう。
鼻の奥がツンとなり目尻が暑くなる。こんな時、ゼニスならリーリャならと考えていた。
「団長」
ヴェラが声をかけてくる。手には袋を持っていた。
「あのこれを渡そうと思うんです。」
袋から出てきたのは帽子だった。かわいい柄でブエルが好みそうだ。
「これを被っていれば多少は気持ちも落ち着くかと思いまして」
ヴぇラに言われてハッとした。そんなこと考えもしなかった。俺はここで何もできない間に彼女はどうにかしようとしてくれたのだ。
「何か一つでのあの子にできることをと思いまして」
「ありがとう。ヴェラ」
そうだ。俺にだってやれることはあるはずだ。前向きに考えると少し元気が湧いてくる。考えもまとまってくる。
ミリスへとにかく行こう。あそこは神級の治癒魔術がある。ブエルの魔法陣もきっとどうにかなるはずだ。
「ヴェラ本当にありがとう。準備ができたらミリスへ向かうぞ」
「はい!団長」
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パウロはミリスを目指して進むことにした。ブエルを治せる可能性があると信じて。
ここで第1章が完結となります!!ここまで読んでくださった皆さんありがとうございます。
次回からは第2章ミリス編です!!
こんな感じで前回、しれっと章を追加しました。
これからに関してですが次回ブエルの設定集の投稿をできたらしてその後は一旦更新をお休みしようと思います。
理由としては更新頻度が落ちていること、新しいお話を考えてプロットの修正がミリス編に必要になってきたことが挙げられます。
8月から始めましたが段々と月に更新できる回数が減ってきてこのままではエタる可能性が高いと個人的に感じています。
また皆さんの感想を読んでいる中で新しい曇らせを思いつき入れようと思い、組み立てなおすことにしました。
一旦、物語の設計に注力して書き溜めをしてから更新したいと思います。できれば年内、遅くても年明けには投稿を再開します。
最後になりますがここまでやってこれたのは感想や評価をくださったり毎回読んでくださる皆さんおかげです。ありがとうございます。
今回も感想等待ってます!!!