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あれから1年が経った。
ブエルは友達と和解することはできなかった。そもそもブエルはまた外に出られなくなった。引きこもりのように完全に家から出られなくなったのではなく人と会うのを怖がるようになった。だがグレイラット家は大丈夫なようでブエルは今まで通りロキシーから魔術を学びパウロから剣を学ぶ。そんな生活に逆戻りした。パウロたちは元に戻れるように動こうとしたがブエルが外への拒否感を強めてしまうのを恐れて今は任せることにした。
ただ魔術などに集中したおかげで今のブエルは少し強くなった。剣神流初級。水神流中級。北神流初級。そして魔術は全ての系統で初級を発動。治癒、解毒、水は中級。さらに一部はルーデウスの指導の結果無詠唱で扱えるようになっている。
ブエルの一件は全員の心を傷つけた。ゼニスとリーリャは幼い子供が背負ったものの重さに絶望した。
ロキシーはブエルをかつての自分と重ねた。故郷の村、閉鎖空間の中で自分だけがみんなと違う。みんなは私だけが知らない言葉を使って話している。私がどんなに言葉を使って話しかけても誰もわかってくれない。誰も近づいてくれない。ただ私へ好奇の視線を向けるだけだ。そんな自分に両親は苦労した。母は魔神語を勉強し一生懸命に教えてくれた。でも大切なことは私に分からない言葉で話す。だから怖くて嫌になって飛び出した。
ロキシーは今のブエルの状況がかつての自分によく似ていると感じている。そして心配している。この後彼女はどのように生きていくのだろうと。彼女は子供たちのコミュニティで孤立した。今は外へ出られなくなっている。今はいいかもしれない。でもこれから生きていくならば一生外に出ないのは不可能だ。
どうにかしてあげたいと思った。かつての自分と重なるからこそ。自分がなんとかしてあげたい。そう思った。
「ブエル。こっちに来てくれますか?」
ロキシーがそう言うとブエルは素直に来てくれた。
「少し、家の周りを歩いてみませんか?」
ロキシーの提案に対してブエルは首を振る。まだ外の世界への恐怖が残っている。ブエルは大きな人の悪意に晒された。人の感情を強く感じられる彼女は普通の人以上に怖かっただろう。だがロキシーは不思議と立ち直らせられる自信があった。ブエルは声を感じられる。こちらの純粋な心配も分かってくれるのではないか。少なくとも悪意があってやりたいわけではないことを理解してくれるだろう。そう考えていた。
「家の近くを少しだけです。村には行きません。どうですか?」
ロキシーが手を差し伸べるとブエルは赤い目でジッと見つめその手を取った。
ロキシーはニコリと笑いブエルの手を繋ぎ外に出た。門をくぐるとブエルはロキシーの手を強く引っ張った。
「ブエル。外は怖くありません。ゆっくり息を吸って。準備ができたら教えてください」
ロキシーは急かさなかった。ブエルが決心するのを待っていた。そうして待っていると手を引っ張る感覚がなくなった。ロキシーがゆっくり歩き始めるとブエルはついていくように歩き始めた。
ロキシーは家から離れなかった。ブエルから見て家が常に見える距離の間を歩いた。
「ブエル。見てください」
ロキシーが指をさした方には一面の小麦畑が広がっていた。黄金色に穂が実った畑は黄金色に輝いており風に揺れる様子はこの村の平穏さと自然の美しさを表しているようだった。ブエルは久しぶりに見るその光景に目を奪われた。
「ブエル。あなたはとてもつらい目に遭いました。でも世界はこんなにきれいです。家からこんなに近くてもいいところがあります。もう一度外に出る勇気をだしてくれませんか」
ロキシーの言葉にどう思ったのかはブエル以外分からない。でも今回の出来事は確実にブエルにいい影響を与えた。ブエルはそこから少しずつ外へ出られるようになったのだから。
ルーデウスはブエルの一件で傷ついた。だがそれはブエルのことを想って傷ついたのではない。ルーデウスは前世を思い出していた。侮蔑、嘲笑、好奇。あらゆる負の感情が乗せられた視線を向けられる。誰も助けてはくれずただ時間が過ぎるのを待つだけだった。
ルーデウスは思っていた。もしかしたらこの世界ではやりなおせるのではないかと。自分には魔術の才能があった。年からして天才にあたると。だがそんな希望は潰された。
妹がいじめられた。外にはかつて自分をいじめたようなやつらがいる。それを思い知らされたのだ。窓から外を見るとかつての記憶がよみがえる。その度に記憶から消そうとするがこびりつき離れる気配はない。
塀から外を眺めていた。収穫の時期が迫り小麦畑は黄金色で埋め尽くされている。目の前の道を2人の男の子が走っていた。木の棒を持っていてチャンバラをしながら遊んでいる。ぼんやりとその光景を見ていると2人の視線がこちらへ向いた。彼らにしてみればただ自分たちを見ているから見ただけだろう。だがルーデウスにはその視線が恐ろしく感じてならない。彼らの持っている木の棒もあいつらが向けてきたカメラのように見える。心臓が掴まれたかのようにキュッと締まり思わず隠れる。息も上手くできなくて苦しい。
ルーデウスは塀に体を預けて縮こまっていた。早く過ぎ去れと心の中で何度も頼みながら。すると頭を撫でられた。誰かと思い顔を上げるとそこにいたのはブエルだった。少しおびえながら、心配そうな表情をしていた。
「大丈夫?」
ブエルはルディをただ撫でていた。ルーデウスは言葉を返したりせずただ撫でられていた。
「ブエル~?どこですか?」
ロキシーの声が聞こえてルーデウスは慌てて立ち上がる。
「ここにいますよ」
「あぁ、2人でいたんですね。そろそろ家に入りましょう」
「はい!」
sideブエル
おねぇちゃんに外に連れ出してもらってから私の毎日に散歩が必ず入ってくるようになった。外は怖い。人が私に向けてくる感情はお父さんたちと違い冷たいだからだ。でも人がいなければまだ大丈夫。それを知ったみんなは毎日私と家の近くを散歩してくれる。この散歩はいろいろなものが見られるので楽しい。
〈下品な笑い声・絶望〉
今日もロキシーおねえちゃんとの散歩から帰ると家の方からそんな感情が流れてきた。私はその感情の発されている場所へ行くとお兄ちゃんが塀に体を隠しながら体を縮こまらせていた。お兄ちゃんは普段そんな感情を出さない。何があったのかと思い外を見ると知らない子がいた。お兄ちゃんに何かしたのかと思ったが彼らの感情にはこちらへの興味はみじんも感じられなかったので違うと考えた。
お兄ちゃんは何かにおびえている。あの時の私みたいに。気が付いたら私は頭に手を伸ばしていた。
「大丈夫?」
私が声をかけてもお兄ちゃんは何も言わなかった。でも撫でられるのはイヤじゃないみたいだしさっきの感情も薄れているみたいだから少し続けていた。
その後すぐにロキシーおねえちゃんが来てお兄ちゃんはそっちへ行った。
お兄ちゃんはすごい人だ。私にはできない魔術を簡単に成功させてしまう。パパもママもお兄ちゃんをすごいと言っている。でもお兄ちゃんでも弱い部分はあるみたい。
――――――――――
さらに1年が経った。
「ルーデウス!お誕生日おめでとう」
グレイラット家はその日パーティーを開いた。長男ルーデウスが5歳の誕生日を迎えたからである。
ブエルもゼニス達と協力してこの日のための料理を用意した。
「ありがとうございます。」
「じゃあ食べましょう」
ルーデウスがお礼を言いパーティーが始まる。いつもより豪華な食事に舌を躍らせて楽しい時間が過ぎていく。途中珍しく酔ったパウロによる剣飲みの宴会芸はみんなが笑っている中ブエルはドン引きしていた。
食事がなくなった辺りでパウロとゼニスが立ち上がる。そして2人はプレゼントを渡した。
パウロは剣を送った。名剣ではないがしっかりと鍛造されており5歳が持つには重く危険で少し早い。
「いいか。男は心の中に一本の剣を……」
パウロはルーデウスに対して長話をしていたが誰も聞いている様子はない。最終的にはゼニスに「長い」と怒られていた。
ゼニスからは本が送られた。植物辞典だ。ルーデウスはこちらの方が気に入ったようで喜びの声をあげる。その後ろでパウロは面白くなさそうな表情を浮かべていた。
「じゃあ次は私!」
そう言ってブエルは椅子から飛び降り駆け寄る。そして背中に隠していた小さな箱を渡した。
「これは?」
「開けてみて」
ブエルに促されて開けると中にはハンカチが入っていた。
「ハンカチか!ありがとうブエル」
「それだけじゃないんだよ。ほら!」
ブエルが指をさしたとこを見るとイニシャルが縫われていた。
「これ!私がやったの!リーリャが教えてくれたの」
「すごいね!ありがとう」
ルーデウスが頭をなでると嬉しそうな笑顔を浮かべた。
「では私ですね」
そう言ってロキシーが渡したのは杖だった。
「師匠は弟子が初級魔術を使えるようになったら渡すのが慣例なんです。ルディは最初から使えていたので失念してました」
ロキシーは申し訳なさそうな雰囲気を出しているがルーデウスは全く気にせずお礼を言った。
「これで私があげられるものも本当にわずかになりました。明日、卒業試験を行います」
ロキシーはルーデウスの目をまっすぐ見て言った。
――――――――――
ルーデウスは卒業試験をあっさりとクリアした。
卒業試験を村のはずれでやると聞いたときルーデウスは嫌がった。外は怖い。未だ前世のトラウマからは逃れられてない。だがロキシーはそんなこと知らないので連れて行こうとする。ルーデウスは何とか家でやれないかと言うがロキシーも外でやることを変えるつもりはなかった。2人が話しているとブエルが来た。ブエルは何でルーデウスが外に行きたがらないのか力のおかげで何となく理解していた。
ブエルはルーデウスの頭を撫で「頑張って」と言った。そこでルーデウスは思い出す。ブエルも同じようなトラウマを抱えていることを。でも頑張って克服しようとしていることを。自分も頑張ろうと思った。
けれど足は前へ出なかった。結局ロキシーに抱えられて半ば無理やり連れだされた。だがその無理やりのおかげでトラウマは克服できた。
帰ってくるとルーデウスの顔から憑き物が落ちたようにスッキリしていることにブエルは気が付いた。
「よかったね。ところでお馬さん怖がってるけど何かしたの?」
ブエルがそう言うとロキシーもルーデウスも目をそらした。あれはパウロが大事にしている馬だ。何かしたのだろうと察した。
「ブエル。リンゴあげるので黙っててください」
ロキシーは帰りに買ってきたリンゴをおずおずと差し出した。ブエルは「分かった」と言い受け取った。
次の日の朝。ロキシーは旅立とうとしていた。グレイラット家の誰もが引き留めようといた。特に激しかったのはブエルだった。
「嫌ぁぁぁぁ」
ロキシーの足にしがみつき泣いている。みかねたパウロが引きはがした。
「ロキシーちゃんに迷惑かけちゃだめだ。ほら、顔をあげて」
ブエルは言われて顔を上げる。目の前には物心ついたときから仲良くしてくれたおねえちゃんがいる。でももうお別れだ。これが避けられないのをブエルは力のおかげで理解した。
「バイバイ」
絞り出すように言った。
「ブエルこれをあげます。」
ロキシーは緑色の首飾りを渡した。
「ルディにも同じものをあげます。時々これを見て私を思い出してください。それともし魔族に会うことがあればこれを見せると助けてくれるかもしれません」
そう言ってルーデウスにも渡す。
「ルディ、私があなたに教えるには力不足でした。でも私の可能性はまだあると教えてくれました。ありがとうございます」
最後にそう言ってロキシーは本当に旅立っていった。
思ってたより話のペース自体も遅いのでメインで書きたいところまでまきで行かなきゃなと思っています。あんまり長いとつまらないですしね。
とはいえターニングポイントまであと多くて3話です。気長に待ってくれたらなと思います。
読んでいただきありがとうございます。感想など待ってます!