真剣で命を賭けなさい!   作:ポロロン

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ep10

 川神百代には悪癖がある。それはどのような相手でも敢えて油断をして戦闘をするというものだ。それは最強の名を持つ者故の勝手に身についた癖である。

 油断をしなければ相手は一瞬で負けてしまう。だからこそ、相手の一撃を受けて力量を図り、最後に蹂躙をすることに決めていた。戦闘衝動を抑えるため身体が勝手に決めていた。

 

「川神流!無双正拳突き!」

「どっせい!」

 

 川神百代の一撃必殺の正拳突きが襲う。男の正拳突き以上のスピードと衝撃波。男は先ほどと同じように払いのけるわけではなく、腕を掴み投げ飛ばした。そもそも体幹も有り得ないくらいしっかりしているのに、投げ飛ばせるわけがない。これもやはり癖が原因なのだろう。

 

虹色の波紋(ルビーオーバードライブ)!」

 

 川神百代はその拳の連打を防ぐことができない。気で固めた身体でも防ぎきれない内部に響く攻撃に衝撃を受けた。しかし、ここで慌てないのが武神たる百代。化物染みた気で回復をする。瞬間回復。これが武神の手であった。

 男は一瞬顔をしかめたが、すぐ攻撃を仕掛ける。もはや技を使って一撃一撃にかけるよりも、少しでも瞬間回復を使わせて気の消耗を図ろうとしているのか。

 

「爺・・・」

「川神の爺さんか」

 

 もはや全く違う人間として見るしかない。先ほどまでの戦闘衝動が鳴りを潜めた。川神鉄心が橋の上から成り行きを見ていた。いつもは力尽くで止めるというのに、今回はどういう了見か。

 

「爺もお前に起きた事は悔やんでいるんだ。ただ、今回ばかりは私も退けない」

「・・・っち」

「もう終わらせる」

 

 川神百代は男の弱点を見抜いていた。それは先ほどから使っている技。川神流しか使っていないということ。初見技なら防げないものもあったかもしれない。だが、全て見たことや自身も使える技だけである。それを防げないようでは武神の名はついてこない。

 

「川神流!人間爆弾!」

「は?」

 

 それは男も同じことである。初見技は防いでしまうことだろう。川神流の中でも桁違いな周囲の被害が出る事から使っていない技。人間爆弾。周囲に対して爆発を巻き起こす自爆技だ。

 本来であれば使った人間もただではすまないのだが、先ほど使った瞬間回復を使えば何度でも使用することが可能なのである。

 男は初見技を防ぐことができなかった。避ける暇すらなく巻き込まれたのである。

 

「ぐ、っく・・・」

「川神流!人間爆弾!」

 

 爆発によって起きた砂ぼこりが晴れ、男はギリギリ耐えきっていた。それを確認した川神百代は追撃をする。終わらない爆撃。そもそも原型を留めている男も化物の括りと見ていいだろう。数回の人間爆弾の後、川神鉄心が二人の間に入る。

 

「爺。間に入るのが遅いんじゃないか?」

「分かっておるわ。だが、いずれは起こる事じゃった。早すぎるがの」

 

 明らかな戦闘余波に橋の上から見ていた観客は、どこか恐れの感情を抱いていた。それは武神と男両方に対してである。だから本気の試合の時はファミリーに観客を離れさせるようにしていたが・・・。今回は急すぎたか。

 

「その言い方だと溝上の件、何か知ってるな?」

「もちろんじゃとも。わし、これでも師匠だもの」

 

 なんともな言い草だが、今まで話していないということは・・・。

 

「話すことはないぞ。彼が話さない限りは」

「分かってるさ。分かってるけど、納得はいかない」

 

 川神鉄心は微笑みを崩さない。いつも叱るように鬼の形相なら無理にでも聞けていたというのに。川神百代は一瞬目を閉じ思案する。納得はいかないけれど、それが溝上の意見だというのであれば、それは受け入れようと思った。

 一子を含めた風間ファミリーが百代の元へ近づく。彼らは恐れることなく百代を受け入れていた。だが、何も知らない彼らでは現状を受け止めきれることはできないだろう。何よりも一子を傷つけようとした瞬間を目撃したのである。

 

「ほら、妹よ。そんな目を真っ赤にするな」

「私・・・」

 

 一子が涙を目に浮かべていた。それほどまでに男の拒絶が嫌だったのかもしれない。そういえば、川神院に溝上がいた時も一子の世話をよくしていたし、一子も懐いていたものだった。

 

「私、省兄ちゃん助けたい。多分、まだ心はあの時のままなのかもしれない・・・」

 

 鉄心と百代の二人は息を呑んだ。鉄心は娘の他人を思いやる成長に素直に驚き、百代はそこまで考えが至らなかったこと自身に驚いた。強さ故に他人の心を思いやることができなかったということか、それとも自身が鈍感すぎるだけなのか。それでも一子のような人を助けたいと思う力が無かったことは確かである。

 

「一子・・・?何で泣いてるんだぁ?」

「省兄ちゃん・・・?」

 

 男が、いや。溝上が横になったまま語りかける。人間爆弾を食らって一瞬の気絶で済んだのは、やはり鍛えているからなのか。それとも・・・。

 

「な、何か身体動かないんだけど・・・」

 

 どうやら身体は限界を向かえているようだった。目線だけ一子を捉えて話している。

 

「省兄ちゃ―――。兄ちゃん、ごめんね」

「え?今までの呼び方で良いんだよ?」

「兄ちゃん、ほら。川神院で治療受けよう?」

「おいおい、何でいきなり呼び方変えるの?もしかして兄離れ?そういうお年頃ってやつなの?」

 

 完全に先ほどの気配が無くなった溝上に、川神百代は安堵する。困惑している溝上を一子は川神院に連れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、今までの親不孝通りで起きている傷害事件は溝上が起こしている、と?」

「断言はできないがな。だが、これから目覚める4人に聞けば分かるだろ」

 

 金曜集会で百代が一連の事件について説明する。一子は事件の内容を俯きながら聞いていた。4人の被害者とは3人の女性と男性。川神流の技を受けた被害者の事だろう。恐らくは数日で目覚めることだろう。

 

「どうするんだ?モモ先輩。止めに行けばいいのか?」

「いや、それも難しいだろう。あの騒ぎが起きてからすぐに同じ騒ぎを起こすとは思えない」

「まぁ現行犯じゃないとね」

 

 まさか学園内で大捕り物をするわけにはいかない。それはファミリーの意見であった。何か起これば風間ファミリーで止める。それが例え犯罪者を倒す存在であったとしても。

 

「一子、嫌なら今回は参加しなくてもいいんだよ?」

「う・・・」

 

 京が一子に意見を促した。いつも鍛錬をしている一子は、やはり躊躇いがあることだろう。一子は俯いていた顔をガバっと上げた。

 

「私、止めたい。本当に人を傷つけているなら、それは()兄ちゃんが願ってることじゃないから!」

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