真剣で命を賭けなさい!   作:ポロロン

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ep12

 不死川は自身の愚かさに嘆いていた。昨日のデートで思わず話してしまった過去の事。なぜ言ってしまったのか、何も言わず忘れた方が良かったというのに。

 昨日喫茶店に誘ってもらってから、どうやら溝上が行方不明になっているというらしい。本日川神一子がいつものように溝上に鍛錬を誘おうとしたところ、全くマンションから出てこなかったらしい。

 単純に寝坊では?と思ったが、どれだけ眠くても必ず毎日鍛錬をしていたらしい。とにかく学校には来るだろうと思ったが、それでも来ない。気の探知もできないので強行突破でドアを叩くも反応なし。これは何かあったと一子はようやく気付いたらしい。溝上は同じように友人が多くない。誰かの家で匿われているということは無いはず。

 とにかく不死川は考えられる場所の捜索に当たるのだった。

 

 一方、取り乱していた一子を百代と鉄心が引き留め、川神院で状況の把握をしていた。

 

「どうやらあの4人組を倒したのは溝上のようじゃの」

「あの3姉妹・・・釈迦堂さんの弟子だったんだな」

 

 目が覚めて速攻逃げ出した板垣竜平がどこにいるか不明だが、3姉妹は大人しく事情聴取を受けていた。板垣家は定期的に釈迦堂に修行を受けていたらしい。4人を叩きのめしたのは釈迦堂ではなく、ひょっとこの仮面をつけた若い男性だったらしい。禍々しい気を纏った男と対峙をしたようだ。

 その時点で今までの犯行が溝上であることが決まった。あとは川神院総出で止めに行くしかない。

 

「爺、私が戦うから、他の修行僧たちは手を出さないでくれ」

「ここ一帯を焦土にしたくないからNGじゃ」

 

 百代はむすっとした顔で抗議する。暴れても戦わせてくれないことくらいは理解しているが、戦いができないことも拒否したくない。

 

「爺ちゃん、まずは私が止めます!」

「一子、気持ちは分かるが師範代が止めなければならぬ」

 

 一子は理解していた。自身ではあの男を止められないことを。最後に見た男の攻撃を目で追う事は不可能に近かった。

 

「それでも、いかせてください」

「ぬぅ・・・」

「最悪爺と私、ルー師範代で止めることはできるだろ。爺・・・いや、川神総師範代。お願いします」

「・・・・・・・分かった」

 

 男を止めるため、川神院が動き出した。まずは探し出すことからになるが、心当たりがある一子はいの一番に男のもとに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鍛錬をする場、そこに一子は訪れていた。後ろには百代と鉄心、ルーの3人が警護にあたる。走り込みの後にする稽古。河川の高水敷で毎日毎日技の出し合いをしていた。一子には直感ではなく確信めいたものがあったのだ。やはりそこには慕う兄がいた。

 しかし、そこにはもう一人。想定外の人物がいた。

 

「あなたSクラスの・・・」

「ふふん、一番」

 

 どこか誇らしげに胸を張る榊原小雪がいた。彼女は男と対面で向かい合っていた。そういえば、マルギッテとの試合後にも一緒に保健室にいたが・・・。

 

「なんでここに?」

「いつも見てたから」

 

 なにかゾっとすることを言っている気がする。何故?その疑問に榊原小雪が答えた。

 

「溝上君。私が小学生の時、時々遊んでくれたもんね」

「・・・まぁね」

「嬉しかった・・・。高校生になって久しぶりに会えた時、すぐに話しかけたかった。でも、あなたであってあなたで無い人の時もあったから・・・」

 

 榊原小雪の事情は分からない。ただ、彼女が溝上に対して厚い信頼を抱いているのは理解できた。

 

「それでも今はトーマと準が拾ってくれたから。家族が困るのは見たくないから」

「・・・・・・」

 

 溝上は答えない。口を閉ざしたままだった。少しばかりの沈黙の後、男が一子を見た。お前は何の用で来たのか、そう問われている気がした。

 

「兄ちゃん。もう帰ろ?」

「・・・俺は帰るつもりだよ。ほら、時々あるじゃん。男にはセンチメンタルになる時だってあるんだ」

「うそだよ」

 

 間髪入れずの一子に男が口を閉じる。

 

「省兄ちゃんは『兄ちゃん』って呼ぶと悲しい顔するから。そんな平然に答えるのは省兄ちゃんじゃない」

「・・・・・・っち」

 

 一子は入学式以降、本人を前にして今まで読んでいた呼び名で呼んだことはない。溝上本人としては高校生特有の反抗期やら思春期的なものかと物悲しい思いだったのだが、それが一子にはバレていたらしい。

 その顔を見せない目の前の男を慕う兄とは言えなかった。

 

「いや、そこはもっとあるじゃない。簡単に気づいていいわけないじゃん」

「何が言いたいの?」

「分かんないかなぁ。こそこそやってきたのに、まさか本番の時にバレちゃうなんてさ」

 

 男は足元の土をゲシゲシと蹴っている。よっぽど気に入らなかったのだろう。顔は薄気味悪かった。

 

「あなたは誰なの?」

「え~、言う必要ないよね」

「二重人格、みたいなもんじゃったか」

「おい!川神鉄心!てめぇ勝手に人の事ベラベラ話してんじゃねぇよ!」

 

 男が一子の後ろに控えている鉄心に指をさして言う。彼には怖いものがないのだろうか。男の態度に対して鉄心は柔和な顔をして対峙をする。

 

「ほれほれ、早く言わんと、有ることないこと言ってしまうぞい」

「・・・・・・・」

 

 男はコロコロと顔を変える。般若の顔をしたと思えば気味の悪い笑みを浮かべる。どこか感情が一定でないような気配だ。

 

「川神鉄心は二重人格って言うけど、ちょっと違う」

 

 一子の後ろで百代が腕組をしている。どこか気が漏れていることから戦闘衝動が止められなくなっているのだろう。ただ、その本能を止めて話を聞く手段に入っていたのは最近少しだけ始めた精神修行のおかげだろうか。今までの百代であれば速攻戦闘に入っていた気がする。

 

「ボクには魂が二つある。ボクともう一人の男だ」

「・・・?」

 

 魂が二つという珍妙な事を言い始めた男に一子が思わず首を傾げる。

 

「もちろん心臓が二つあるわけじゃない。魂が二つあるんだ。川神鉄心、あんたは最初から知っていただろう?」

「まぁの。気が二つある幼稚園児が門を叩いたときは珍しいもんじゃと思ったわ。だが、二重人格であれば気が変わることがある」

「ボクは人格を切り替えなくても二つの気が存在するんだ。気だけは表に出せるけど、人格はどちらか一人しか出られない」

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