当時学生の頃、授業が退屈だったのを覚えている。好き嫌い関係なく、正直怠けていたもんだ。
今の自分はどうだろうか。少し面倒だなと思うけれど、昔ほどではない。勉強というのも悪くないなと思える。
「では、今回は院政についてじゃ、の。天台宗僧侶の慈円が―――」
この歴史教師だけ大学の専門的な所に突入してるんだよな。しかも平安時代だけ。
綾小路先生。S組にいる不死川と同じ日本三大名家。格式の高い家柄出身のためか、たとえ生徒であろうと見下す先生である。よっぽどの関りが無い限り、この先生とはお近づきになりたくはない。
全ての授業が終わり、生徒たちは各々のやることをし始める。部活であったり趣味であったり。S組は補修授業をして学力の維持をする者もいる。
しかし残念なことに。ボッチ君は友達がいないし、部活にも入っていない。帰って勉強して鍛錬ですかねぇ・・・。もちろん交友関係も大事なのだが、何故か話しかけても皆逃げてくんだよなぁ。
「明日はドイツからの転入生が来るんだよな。賭けの具合はどうなんだ?」
「結構男寄りに賭けが傾いてるかな。ちゃんと噂の効果が出てるよ」
川神にある学生寮。島津寮で風間と直江が明日やってくる転入生についての賭けの話をしていた。どうやらドイツから転入生がやってくるということで、男か女か。クラス内外で賭けの頭取をしていた。
ここは軍師と呼ばれる直江。ぬかりはない。すでに女の子が転入するという情報を知った上での賭け。しかも男がやってくるという噂を方方に流していた。
明日確定で転がり込んでくる黒字を思い、二人で大盛り上がり。それが男二人のイチャイチャと見えたのか、ハァハァと身悶えながら眺める椎名京。この風間ファミリー内ではよくある風景であった。
『次のニュースです。昨晩通称親不孝通りのマンションの一角で男性7名が倒れており、全員が麻薬所持をしていたことから中毒により―――』
「また物騒な話だね」
「でもよ、最近多くねぇか?」
これもよくあるニュース。この国がどれだけ終わっているのか分かるニュースだ。
直江大和には夢があった。国をより良い未来へ導く総理大臣になる夢が。残念ながら、そういう無茶な夢なぞ諦めてしまったが。
「オメェらファミリーにも伝えとけ。今の親不孝通りはきな臭ぇからよ」
「そうなの?源さん」
「薬物中毒者やら売人を締めてるやつがいるらしい。警察もいつも以上に調べまわってる」
源忠勝がバイト先で仕入れた情報を告げた。彼自身も仕事の依頼で一時期調べていたが、残念なことに犯人までは分かっていない。宇佐美代行サービスという名の何でも屋では、結局調べられる範囲が固定されているのだ。これ以上はディープな所へ調べる必要がある。
「うん、うちの武士娘だったら大丈夫だと思うけど。ちゃんと言いつけておくよ」
「特に一子。あいつが鍛錬に誘ってる溝上。あいつの住んでる所は親不孝通りに近い場所だ。十分に言っておけ」
「オーケー源さん。源さんも溝上がどんなやつか知らないの?」
源忠勝は首を横に振った。彼が分からないというのなら、本当にただの平凡な青年なのかもしれない。姉さんも溝上については全くと言っていいほど話を振らないもんなぁ。
直江大和は戦いの分野は全くと言っていいほど素人である。その代わり、情報戦で大きな役割を背負っている。仲間内からは軍師などと持て囃されるが、それは単純に他人とのコミュニケーションを怠らずにしていたからである。
学校内ではそれなりに知り合いが多いが、2年C組のあの男だけは、悲しいほどに他人と関わりを持とうとしない。それが直江には不気味に思えるほどだった。
ボッチ!それは孤独との闘い。
また代わり映えのしない学校生活が始まる。今日は皆の雰囲気が浮足立っていた。そうだ、今日は転校生がやってくる日なのである。みんな男子か女子かと話合っていた。
もちろん、その背景には賭けが含まれているのも知っていた。ここは女の子一択でしょ!ということで上食券を50枚賭けておいた。当たれば120枚になってくるので、賭けは男に偏っているようだ。さきほども意を決して、同クラスメイトにどっちに賭けたのか聞いたところ・・・。
「え!あ、あ~・・・。男子に賭けました!すみません許してください!!!」
という話を聞けたぞ。ちょっと悲しいので廊下で泣きますね。廊下にトボトボと出ると・・・。
「ウェイウェ~イ!」
「うおっ!」
突然奇声を上げたテンションアゲアゲの女生徒に話しかけられた。恐ろしいほどのプロポーションであるが、そういった目線を向けると意外と女性は気づくものである。眼も合わせられないほどボッチ化している青年には刺激が強すぎる。制服のネクタイ辺りに視線を合わせておかなければ。
「マシュマロ食べる?」
「ありがとう。飴ちゃん食べる?」
「うわ~い!・・・ハッカじゃん!」
突然マシュマロを口元に突き付けられたので思わず食べてしまった。うん、美味しい!思わずポケットに入れている飴を渡してしまった。いけない、それは眠気防止の飴なのだ。
彼女は最初嫌そうな反応をしたが、それでも食べてくれた。次からは甘いお菓子でも常備しておくべきだろうか。
彼女・・・榊原小雪はSクラスの生徒だ。その真っ白な髪とプロポーションから魍魎の宴にて強い支持を受けている。なぜか彼女は縁も無いCクラスに出没しては、こうしてマシュマロを口に突っ込む仕事をしている。だいたい後ろには葵冬馬と井上準が見守っている。風間ファミリーと同じように、彼らも葵ファミリーと言ったところか。葵と井上が葵紋病院の跡取りだかなんだか。
金持ちっていいよね!と前世では妬んでいたかもしれないが、こういう金持ちは金持ちで大変なのだ。というか人生皆大変なやつらだらけなのだ。
HR途中、他所のクラスから歓喜の声が上がった。どうやら外に転校生がいるらしい。生徒たちはHRそっちのけで興味津々だ。いや、Fクラスからは鞭の音が聞こえるので、梅先生がFクラスだけは大人しくさせているかもしれない。溝上も窓に視線を向ける。
「ふふふ・・・勝った」
外にいる転校生は女の子だった。こつこつ貯めてきた上食券50枚が120枚に化けた瞬間である。しかも転校生は美少女だった。これは男子生徒には朗報と言えるだろう。ドイツからの留学生、クリスティアーネ・フリードリヒ。それが彼女の名前らしい。
これは・・・ついに・・・。この漫画なのかアニメなのか分からない世界が動いたということなのか。転校生イベントならば主人公関係が大きく変わることだろう。
・・・まぁ、主人公が誰なのか全く分からないのだが。