真剣で命を賭けなさい!   作:ポロロン

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ep4

「えぇ?不死川との関係?」

「そう!」

 

 不死川と遊んでから数日後、毎日朝の鍛錬をしている一子から妙な質問をされた。鍛錬前に簡単な雑談をすることはあるが、交友関係を聞かれるのは初めてかもしれない。 

 

「心ちゃんとは影絵遊びしたり、短歌詠んだり・・・。友達だよ」

「心ちゃん・・・」

 

 何か気に障ることがあったのだろうか。一子はいつになく不機嫌だ。こんなに不機嫌なのは高校生になって久しぶりに出会った時以来だろうか。いや、単純に小さな頃出会った事のある少女が可愛らしい高校生になっていたのだ。蛹が蝶になったレベルの話である。

 こういう時は適当に話を逸らせばいいのだ。

 

「そういえば風間ファミリーに新しいのが入ったらしいじゃないか。フリードリヒと黛剣聖の娘さん」

「そうやって話逸らさないで」

 

 ダメでした。こういう時の女性とは何とも逞しい。根掘り葉掘り聞かれても、誰に聞かれても恥ずかしくない友達としての関係を保ててはいるが、こうも追及されると何かやらかしたかと思ってしまう。

 

「とりあえず、今日のノルマはしていくぞ」

「むー・・・。分かったわ!」

 

 気になることはあれど、鍛錬となれば一旦話を置いてくれるのである。本当に聞き分けの良い子だ。風間ファミリーに調教されているって話を聞くけど、大丈夫なのかな・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んぇ!?」

 

 気づけばCクラスにいた。しかもHRが終了している。集中して鍛錬後に気づけば自室にいたことは何回か有ったが、ここまでのことは初めてである。思わず周囲をキョロキョロと見渡すが、Cクラスの皆は誰も目を合わせない。こりゃ駄目だ。

 気が滅入る思いで廊下に出ようとした瞬間。

 

「貴様が溝上省だな」

「!!」

 

 突然声をかけてきたのは、170㎝弱の女性。その燃えるような赤髪は目を奪うものだった。

 

「Hasen jagd!」

 

 突然の怒声。気づいた瞬間には美女が手を振り上げ攻撃を仕掛けようとしている。それに一瞬驚くが、溝上はすぐ気持ちを切り替え攻撃を受け止めようと両手を―――

 

「ちぇーーい!」

 

 掌で拳を受け止めようとしたとき、溝上の後ろから足が伸びる。拳と足裏が互いの攻撃を牽制した。気から察するに・・・。

 

「ダメだよ?決闘も無しに戦っちゃ!」

「榊原・・・」

 

 榊原が美女の攻撃を防いだ。この眼帯美女さんは誰なのか、それも気にはなるのだが、それよりもだ。

 

「榊原、足は大丈夫か?すごい足技だったけど」

「う~ん、大丈夫」

「溝上省。だいぶ余裕があるみたいだな」

「そりゃ、こんなこと有ったら即来る人いるし」

 

 ねぇ?学園長。そうやって周囲を見ると川神鉄心が出番を待っていた。そこは止めてくれても良かったんじゃ。多分最初から見てましたよね?

 

「うむ、そうじゃ。決闘の儀も無しに私闘をしてはならん」

「いやさっきの攻撃の時にいたんでしょ?助けてくださいよ」

「なら決闘を断ればよい」

 

 いや待てよ?流れで決闘の話になっていたが、この決闘は学園関係者でしか行われないことである。目の前の美女・・・。

 

「教育実習生?」

「生徒です。本日Sクラスに所属することになりました。マルギッテ・エーベルバッハ。覚えておきなさい」

 

 おっほっほ。嘘をおっしゃい。明らかに年齢が違うでしょ。ちらりと学園長を見やると。ゆっくりと頷く学園長。マジですか。

 と、いうことは。決闘をしても問題は無いわけだ。ただ、ここで彼女の決闘を断った場合、帰宅後襲われる可能性もありそうだ。明らかな殺意。素人でも分かる。

 

「ここで決闘を断れば、我々は24時間貴様を殺しに向かう」

「そんな殺害予告は初めてだよ」

 

 熱烈なアプローチは死に直結する。つまり今闘うしかないのである。先に死ぬか、後で死ぬか。死ぬなら苦しまずに死にたいものである。

 

「ちなみに何故こんなに殺気を?」

「それを貴様が言うか」

 

 何かマジでやっちまったようだ。これはいけない。理由を聞けない状態だ。決闘を・・・受けるしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 決闘場という名の処刑場には、数多くの野次馬がいた。Cクラスのよく分からないボッチの試合を見に来たというよりかは、今日転入してきたSクラスの美女を見に来たらしい。あ、心ちゃんいる。残念なことに一子は見当たらなかった。

 学園長の始めの合図に合わせ、マルギッテが攻撃を仕掛けてきた。

 

「Hasen jagd!」

「うおっと」

 

 彼女はいつの間にか身に着けていたトンファーで薙ぎ払いをかけてきた。瞬間の動きには目を見張るものがあるが、眼で追いかけることができる。トンファー、使ったことは無いが、打つ、突く、払う等々。色々な絡め手を扱える武器である。鋭い一撃が繰り出されるのを、反撃の手が無いか確実に間合いを取りながら対処していく。

 

「トンファーキック!」

「・・・っ!」

 

 トンファーによる乱撃の中、完全に盲点だった足蹴り。完全に骨を砕きかねない強烈な蹴りが溝上を襲った。そう、これは恐らく盲点を突いた必殺技。この技を繰り出した瞬間の隙が相手には生じる。

 

「そこ!川神流蠍撃ち!」

 

 あの川神百代ならば敢えて敵の攻撃を受けていたであろう。それは化物の領域だからこそ出来る技である。溝上は大振りの蹴りを体勢を低くしてかいくぐり、マルギッテの腹に目掛けアッパーの要領で正拳を打ち込んだ。

 蠍撃ち。内臓へ攻撃を当てる川神院の技である。

 

「気の無駄撃ちはできない。すまないな、これは気関係なく内部から破壊する技なんだ」

 

 反撃をもろに食らったのか、膝をつくマルギッテ。驚くべきはその耐久力か。間違いなく一撃が入っていたのだが、ゆっくりと立ち上がった。追撃すべきか悩む。さきほど感じていた気の放出が妙に揺らめいていたからだ。

 マルギッテが眼帯を外す。てっきり眼帯をしているから片目しか見えないと思っていた。しかし、どうやら違っていたらしい。眼帯で隠されていた左目が猟犬のように鋭く溝上を睨む。

 それと同じく気の放出が段違いに変わった。先ほどの眼帯は力を隠すための物だったらしい。どういう理屈なのか分からない。

 

「Hasen jagd!」

 

 先ほどよりも鋭いトンファーの乱撃が繰り出される。初撃を受け流すことができず、腕でガードする。少しばかりの気をやり、骨折をしないようにしているが、いつまで保つか分からない。二撃、三撃。確実にガードが間に合わない。タコ殴りをされる。




 野次馬として観戦していた直江は、Cクラスの溝上を見つめる。岳人は完全に溝上を敵視していた。

「マルギッテが戦わなけりゃ、俺様が決闘してた」
「岳人なら間違いなく蠍撃ちで負けてただろうね」

 岳人の言葉に椎名が答える。そう、あれは一子が時折見せる川神流の技であった。随分昔に川神院で修行をしていたという情報は仕入れたが、技を使うほどとは思わなかった。
 それに、ここまでファミリーが、いや。姉さんと京以外のファミリーが殺気立っているのは初めてと言えるだろう。

「やっぱり!」

 野次馬を掻き分け姿を現したのは一子であった。その腕は包帯でぐるぐると巻かれている。そう、これは鍛錬帰りの一子の姿だった。ただの走り込みではできない包帯。それは溝上がつけた傷なのだとファミリーは直感で理解した。
 ファミリー全員が一子に意識を取られた瞬間。

「川神流無双正拳突き!」

 突然の衝撃波が身体を伝う。決闘の舞台を見ると、先ほど殴られ続けた溝上が仁王立ちで立っていた。マルギッテは完全に倒れてしまっている。まさかあの戦闘の中でマルギッテが負けたというのだろうか。

「勝者!溝上省!」
「・・・」

 溝上は勝利宣言を受けた後も仁王立ちしている。妙な空気が全体を刺激していた。

「川神流!富士―――」
「顕現の参・毘沙門天!」

 何か溝上が技を繰り出そうとしたとき、川神鉄心が一瞬の元で溝上を吹き飛ばした。何か一瞬学園長の後ろに毘沙門天が見えた気がするが、それは気のせいだろう。
 勝利後、溝上が何をしようとしたのか誰も分からない。ただ、川神百代はその顛末をしっかりと目に焼き付けていたし、一子と不死川は倒れた溝上を担いで保健室へと向かうのだった。
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