真剣で命を賭けなさい!   作:ポロロン

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ep6

 目を覚ますと知らない天井だった。という名言を思い浮かべる。そんな天井見る機会がないので、自室以外の天井なんて、ほとんど知らない天井であろう。ちらりと横を見ると、心配そうに見ている一子と心ちゃん。更に奥には榊原もいた。目が合った榊原は早々に部屋から出ていった。あの子不思議ちゃんなんだよねぇ。

 

「それで?ここは・・・」

「保健室じゃ。気絶しておったのを此方が運んでやったのじゃ」

「ありがとう」

 

 多分マルギッテにタコ殴りされて気絶してしまったのだろう。あの眼帯を外した姿。間違いなく壁超えの威圧感だった。鍛錬し続けても到達することが無い領域。

 

「一子?怪我したのか?」

 

 気まずそうに足をもじもじとしている一子。右腕を包帯でぐるぐると巻いていた。鍛錬の時は包帯をしていなかったはずだが。

 

「こ、転んじゃって」

「一子が転んで怪我するなんて。橋から落ちたのか・・・?」

 

 頑丈娘が怪我するとは。よっぽど大事かもしれない。ふむ・・・。少し休んだおかげか、気も回復しているようだし。

 

「川神流秘孔突き(弱バージョン)」

「わわっ!」

 

 彼女の腕関節に少しばかり気を送る。学園長クラスの秘孔突きであれば一突きで全回復が可能なのだが、自分にできるのは気の巡りを良くして回復を早くすることしかできない。どれだけ鍛錬しても師範代クラスの気を操れるようになるのは無理な話なのだろう。

 

「本当に覚えておらんのか」

「ん・・・?何を・・・?」

 

 え?ボコボコにされただけだよな?いや、一発蠍撃ちできたけども。あれ内臓破壊するから一撃必殺のはずなのだが。

 

「クリはちゃんと叱っておいたから」

「栗?」

 

 誰の事か分からないけれど、何か与り知らぬところで問題が起きていたらしい。一子よ、細かい内容を教えてはくれまいか。何をどう話そうかと悩んでいる中、一子が携帯を弄る。スマホに慣れている身からするとガラケーは不便すぎて・・・。そういえばメールとか全く見ていないし、そもそも自室に置いたきりである。便利な物に慣れると、一世代前の物って使えなくなるよね。

 

「クリ呼んどいたわ」

 

 えーと・・・。クリって誰なんでしょ。完全にあだ名だったら分からない・・・。あ、あぁ!クリスティアーネ・フリードリヒ!普通クリスとかの呼び名だと思うけど、もしかしたら彼女の事かも知れない。

 

「そういえばフリードリヒに攻撃されたような・・・。あの後どうなったんだ?」

 

 朧気に覚えているのは、あの超スピードの刺突に撃ち抜かれそうになったことだ。あれ以降の記憶が無いということは、そのまま気絶してしまったのかもしれない。1日に2回も気絶するってマジ?絶対身体に悪いでしょ。

 

「やっぱり覚えてないんだ」

「え?」

 

 意味深な言葉に冷や汗がダラダラでる。これはもしかして相当ヤバいことをしてしまったということか。しかし、何も思い出せない。

 

「な、何かやってしまったのか?」

「・・・っ!な、何も無かったわ。安心して、あの後クリに事情を話して理解してくれたわ」

 

 流石に何か隠しているのは理解した。ただ、彼女が敢えて言葉に出さないのなら詳しく追及するのは野暮なのかもしれない。というよりも、何をやらかしてしまったのか知るのも怖い。

 冷や汗が止まらない中、ガラガラと保健室の扉が開く。誰かと見れば、先ほど呼んだというフリードリヒだった。長袖の間から見える包帯が目に映った。

 

「・・・」

「すまなかった。自分の早とちりで・・・」

 

 詰まるところ、可能性として挙げるならば一子とフリードリヒの腕の傷。傷は見ていないけど包帯が巻かれている原因に自身が関与しているのではなかろうか。技としては無双正拳突きか、ガードできるけれど全体を攻撃してしまう地球割の衝撃波とかだろうか。

 そもそも一子を怪我させてしまう理由が分からないし、例え起死回生の一撃を与えるためにそのような技を使うだろうか。

 

「そ、その・・・。本当にすまない!」

「え、あ・・・。こちらこそ勘違いさせてしまってすみませんでした」

 

 まぁ話を聞いて欲しかったのが本音であるが。優しい一子が叱ったというのだ。これ以上責めるのは酷だろう。それに―――。

 

「良い友達を持ったじゃないか」

 

 頭に血が上るほど、友達が危険な状態に駆けつけるほどの友達。そういった仲間が一子にできたのは本当に喜ばしい事だった。それに叱った内容をしっかりと理解しているフリードリヒも偉いものである。この世界に来る前の自身は、高校生の頃どうだったろうか。反抗期真っ盛りの当時としては、人の話を聞かなかったかもしれない。

 

「それにマルさんの事も聞いたぞ。まさかマルさんが決闘を仕掛けるだなんて」

「マルギッテの事?あの娘もいきなり攻撃してきたなぁ」

 

 どうやら知り合いらしい。あの娘は大人なのだから、もう少し節度を弁えて欲しいものである。まぁボコボコにされたので、これ以降は狙われることもあるまい。

 

「う・・・。本当にすまない」

「その謝罪は本人から聞くとするから大丈夫」

 

 こちらとしてはあの壁超えと試合が出来ただけでも儲けものなのだが。そんなことを言葉に出したら戦闘狂の目で見られるので止めておく。やっぱり実戦よ。実践しなきゃ自身がどこまで壁を登っているのか分かるのである。

 

「おりゃ!秘孔突き(弱バージョン)!」

「きゃっ!」

 

 とりあえずフリードリヒにも同じように気の巡りを良くしておく。こういった治癒は早めにしておかないと後々後遺症が出るものだ。あの後もそれとなく話をするも、一子は頑なに詳細を話そうとはしないし、フリードリヒも口止めでもされているのかと思うほど怪我の理由を話さなかった。

 いや、心ちゃん。別に無視しているわけじゃないからね。今日学食に新作の饂飩出るらしいから、一緒に食べようね。なんでそんな悲しい顔してるのさ。

 

「さぁ、教室へ戻ろう」




 一子とクリスが手刀を受け気絶した後。それに遅れて戦闘服を着こんだ者が男を包囲する。クリスの護衛をしているドイツ軍たちである。彼らとしては、明らかにクリスお嬢様より弱い存在であるので油断をしていた。まさか一瞬で気絶されるとは思ってもいなかったことだ。

「この男、川神流を使うぞ!」
「銃は使用するな!使っても無駄だ!」

 川神院だけでなく、一定の強さを有するものに銃弾は効かない。マルギッテも同様である。そのマルギッテは本日登校できるギリギリのタイミングで入国することになっていた。まだ日本に到着していない。
 ずんずんと歩を進める男に目を離さない。先ほどの瞬間移動をされる可能性もある。男はまだ攻撃をする素振りを見せない。そして誰も攻撃をすることなく、ついに男は目の前までやってきた。こちらは4人。マルギッテと同じかそれ以上の技量を持つ者に対して随分少ない人数だが、まずはお嬢様を優先して助けなければならない。

「川神流猫騙し!」

 突然男が掌を叩いた。それは言葉通り猫騙しであったが、規模が違った。ただの掌を叩いただけだというのに、衝撃波が広がる。近距離で武器を構えていた4人が衝撃波の範囲内となる。気を交えた衝撃波が聞こえた瞬間、天地がずれたかのような眩暈が起きた。

「ま、まさか・・・鼓膜を・・・?」

 眩暈に耐え切れず地面に跪いてしまう。このまま一方的に蹂躙されるのか、そう思い目を瞑る。

「・・・はぁ。さっさと応援呼んで皆病院か川神院に連れてけ」

 男が言葉を発した。それは慈悲なのか。いや、言葉の端々から苛立ちと気を扱わないものでも分かる邪悪で禍々しい気で慈悲ではないことが直感で理解できた。相手にする価値すらないのだ。
 もう既に応援は呼んである。一瞬で敗北したため時間稼ぎすらできなかった。

「あと、もうボクに挑もうと思うな。次は殺す」

 男は無邪気そうに笑いながらその場を後にした。
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