ゾイドの「その後」については、バンはしばらく軍人やってから旅に出るのかなとか思いますが、レイヴンは(間違いなく指名手配されると思うので)行く末が気になるところであり、妄想が膨らむところでもあります。
常識的に考えれば一生身を隠すか捕まって刑務所にぶち込まれると思うのですが、ファンとしてはそんな未来はあまり見たくないので、新天地を考えてみました。
砂漠の中で、セイバータイガーがレブラプターと交戦している。一体のセイバータイガーに対して、レブラプターは五体。だがセイバータイガーは驚くような身のこなしで、瞬く間に2体を屠る。それを見て、残ったレブラプターが一目散に逃げ去っていく。
「カイ、レブラプターが三体、そっちに向かった!」
セイバータイガーを駆る黒髪の青年がそう言うと、通信機の向こうからまだ少しあどけなさの残る声が返ってくる。
「了解です。…まだだ、まだ…撃て!」
青年の声とともに、物陰に潜んでいたコマンドウルフが一斉に射撃を始める。射線上に飛び込む形となったレブラプターは、文字通り一撃で活動を停止する。
「やった!一撃だ!」
通信機の向こうで無邪気な歓声が聞こえる。だが、黒髪の青年はまだ厳しい表情だ。次の瞬間、三体のうち一つが、起き上がってコマンドウルフに突進しようとする。それに素早く反応して、セイバータイガーは正確な一撃でレブラプターを仕留める。今度こそ息の根を止められ、レブラプターは完全に沈黙する。
「あ…ありがとうございます、兄さん。」
「簡単に油断するな。勝利を確信した瞬間に、一番の隙が生まれる。野良ゾイドは賢いぞ。」
「はい。覚えておきます。」
黒髪の青年は相手の素直な反応に微かに頷いてから、「帰るぞ」と言って踵を返す。彼の後について、コマンドウルフ達も砂漠を歩み始めた。
街に戻り、カイと共に一族の居館でもある城に入ると、壮年の男性が近づいて来る。
「少しは一人前に近付いたかと思ったが…まだまだ半人前にも及ばんようだな。」
「申し訳ありません、父上。」
「…兄の教えをしっかりと守ることだ。焦らず、一つずつな。」
「はい!」
戦いを観戦していた壮年の男がそう言ってカイに言葉を掛ける。ベルル族の族長、ロウだ。怪我でゾイドには乗れなくなったが、まだ戦士としての眼力は衰えていなかった。
「ジュード殿。貴殿には世話を掛けるが…引き続き、愚息のことをよろしく頼むぞ。」
「微力を尽くします。」
黒髪の青年がそう言って一礼すると、ロウはその肩を軽く叩いてから、側近を引き連れてその場を立ち去る。青年は頭を下げたままその姿を見送ってから、しょげた様子のカイに声を掛ける。
「お父上は厳しいな。」
「仕方ありません。オレがあんな初歩的なミスをしたから…」
「だが、ギリギリまで敵を引きつけ、攻撃したタイミングも悪くなかった。最後のを除けば、及第点だな。」
「本当ですか!?」
顔を輝かせるカイに、黒髪の青年は嗜めるように言う。
「最後のを除けば、と言っただろう。幾ら優勢に戦いを進めても、最後に隙を突かれては意味がない。ましてお前は、ベルル族の未来を担う責があるんだぞ。」
「はい…」
再びしょげてしまったカイを見て、黒髪の青年は苦笑して言う。
「だが、今日のところは、よく戦った。ひとまず、帰ってゆっくり休め。」
カイは頷いてから、屈託のない笑顔で言う。
「今日もありがとうございました。最後も一撃でレブラプターを仕留めて…兄さんみたいになれるよう、明日からまた頑張ります。」
そう言って立ち去るカイを見送ると、入れ替わりに青髪の女性が歩み寄ってくる。
「相変わらず、君のことをよく慕ってるじゃないか。」
言葉は少し挑発的だが、表情や口調はそうでもない。黒髪の青年…レイヴンは、リーゼの言葉に苦笑しながら、落ち着いた声で言葉を返す。
「5年近くも兄代わりをやっていればな。」
「君が弟子を取るということ自体が、私にはビックリだけどね。」
そんなことを言うリーゼの雰囲気も、昔と同じではない。保守的な「半島」で過ごしていることもあるが、リーゼは随分と女性らしい雰囲気になった。一人称もいつの間にか「私」に変わっている。
5年前の戦いの後…レイヴンとリーゼは、3ヶ月ほど大陸のあちこちを転々として身を潜めていた。戦いの直後の辺境地域の混乱は酷く、追手を気にせずに過ごすことが出来た。
しかしルドルフ皇帝とルイーズ大統領、そしてシュバルツやハーマンと言った帝国・共和国の政軍の首脳が生き残ったことで、秩序の回復は二人の想定よりも早いものだった。このままでは、早晩足取りを掴まれる。少し大人になったレイヴンは、二人で二大国相手に大立ち回りを演じられると思うほど空想的ではなかったし、捕まった先に待つのは良くて終身刑だと思うと、選択肢は限られていた。
南に向かい、レウス山脈はシャドーの力もあって何とか乗り越えたものの、半島に入るとさしものオーガノイドでもジェノブレイカーを動かすのがやっとという状況だった。どちらにしても、ジェノブレイカーはあまりにも目立つということで、山脈の麓の洞窟に隠し、野良ゾイドであったこのセイバータイガーをシャドーの力も借りて乗りこなした。
セイバータイガーに乗って近くの街を目指していた時、たまたま野良ゾイドに襲われて逃げ回っていたカイと遭遇。彼を助け、是非礼をさせて欲しいというカイの勧めもあり、この街…半島の中心都市ソルラに来ることになった。街を訪れて思い知ることになったが、半島の人間は予想以上に余所者への警戒心が強かった。次期族長であるカイの命を助けた…という経緯が無ければ、とても受け入れられなかっただろう。
「そんなに意外だったか?俺がカイの師匠になったのは。」
昔のことを思い出しながらそう言うと、リーゼは少し真面目な顔になって答える。
「君はバンが絡まないところでは割と常識的なところがあるからね。そこまで意外でもなかったかもね。」
「ふん…」
少し不機嫌そうに、だがなぜか微かな懐かしさも覚えながら、レイヴンはバンのことを思い出す。時の流れとは恐ろしいものだ。リーゼに言われるまで、バンの存在を全く意識しないようになるとは…
「それにまあ…どっちにせよ、他に道は無かったよ。ここで生きていくにはね。」
リーゼの言葉に、レイヴンは黙って小さく頷く。
ここソルラの街は、半島五大氏族の中でも筆頭に挙げられるベルル族の本拠地だ。レウス山脈からほど近い立地で、交易の中心地として栄えている。その富によりベルル族は筆頭氏族としての地位を保って来たが、一方でその富を狙う者も少なくない。だからベルル族は強力なゾイド部隊を有し、族長は優れたゾイド乗りとして部隊を率いる必要があった。
だがレイヴン達が訪れた時、それは過去の話となっていた。その数ヶ月前にゾイドの暴走事故があり、ロウはゾイドに乗れない体に。ロウが最も信頼していた歴戦の戦士達も、ある者は落命し、またある者は半身不随に…という状況だった。次期族長のカイは当時まだ13歳…初めてゾイドに乗ったばかりという状況だった。
ロウは事故のことを口止めしていたものの、いつまでも隠せるわけもない。ソルラの街を狙う者は多く、当時はいつ敵が攻めてくるかという不安で街全体が張り詰めていた。その状況で早く一人前になろうと焦ったカイが勝手にゾイドに乗って街の外に出て、そこで野良ゾイドに襲われたところでレイヴンと遭遇したというわけなのだが…
ともかく、レイヴン達が訪れた時、この街は危機的な状況だった。そしてレイヴンが身を休める暇もなく、危機は現実となる。ソルラの街を狙う半島第二の有力氏族、ロウラン族率いる部隊が攻めて来たのだ。十分な報酬の約束と引き換えに、レイヴンはこの街を守るために戦うことになる。
その実力を遺憾無く発揮して活躍し、街を守ることに成功したレイヴンに対し、ロウは驚くべき提案をする。それは、レイヴンがカイの義理の兄となり、師匠としてカイを一人前のゾイド乗りに育て上げ、次期族長であるカイを守ること。代わりに、レイヴンとリーゼをベルル族の一員に加え、「一族がこの世に存在する限り、能う限りあらゆる庇護を与える」というものだった。
ロウは明らかに、二人を「訳ありの余所者」と見抜いた上で、それを提案していた。それが分かっていても、当時のレイヴンには受け入れる以外の選択肢は無かった。止むを得ず選んだ道とはいえ、結果的には吉と出る決断だった。余所者には厳しい半島の人間だが、一度実力を認め仲間と認めた者には驚くほどの情を示す。ましてそれが次期族長の義理の兄となれば尚更だ。
彼らは確かに二人を一族の一員として偶し、レイヴンもまたそれに応えた。レイヴンはカイと、その同年代の仲間達を鍛え上げ、少しずつ一人前のゾイド乗りに近付けていた。次期族長のカイが順調に育ち、その傍に最強のゾイド乗りが常に控える。こうして、ベルル族とソルラの街は、その力と平穏を取り戻していた。
「まあそれでも…君が『お兄ちゃん』を上手くやるとは思わなかったけどね。」
「カイの奴が素直すぎるだけだ。」
言葉は素っ気ないが、口ぶりは明らかに異なるものが混じっている。突然押しつけられた「兄」の存在に対し、カイは嫌がるどころか、実によく懐いた。兄弟を持ったことがないレイヴンは、自分が上手く兄をやれている自信は全く無かったのだが…
「こんなところで立ち話をしていても仕方ない。帰るぞ。」
「はいはい、分かったよ。」
城からすぐのところにある二人の居宅に戻ろうとレイヴンが歩み出し、リーゼがその後を追って駆け出そうとしたところで、城の中から誰かが飛び出て来て二人に駆け寄る。
「ジュード様、ミレ様。お二人にお客人が。」
ジュードはレイヴンの偽名、ミレはリーゼの偽名だ。最近はそう呼ばれることに慣れてしまい、かつての名前を思い出すことも少ない。それはそうと…
「俺達に客人?カイやロウ族長に、ではなくか。」
「はい。お二人にお会いしたいと。」
その言葉にレイヴンは首をひねる。余所者である二人の元を訪れる客人というのは、かなり珍しい。カイやその仲間、ベルル族の誰かであれば、お客人などという仰々しい言い方はしないだろう。
「どこの誰だ?俺には心当たりが無いが…」
「はあ…星の民からの使者だと仰っていました。」
「星の民だと?」
「はい。確かに見たことのない服装をしていらっしゃいました。」
二人を呼びに来た侍女は、そう言って困惑した表情を浮かべる。だが、困惑はレイヴン達も同様であった。
星の民は、半島中央部のカルモナ砂漠に暮らす一族だ。常に強い砂塵が吹き付ける半島でも屈指の難所で、ベルル族の者でも滅多に近付かない。「星の民」はそんな過酷な土地でひっそりと暮らしており、その実態は半島に暮らす者でもよく分からない。
なんでも、大昔に「青い星」から渡って来た人々の末裔なのだそうだ。古代ゾイド人以外は皆そうなのではないかとも思うが、レイヴンはさほど歴史に詳しいわけでは無かったし、これまでは奇妙な一族だとしか考えていなかったが…
「あまり気は進まないが、わざわざ来たのだから顔くらい見るべきだろうな。」
そいつの目的を確かめるためにも…とは言わず、レイヴンは侍女の後をついて行く。案内された部屋にいたのは、目元までフードを被った不気味な雰囲気の男だった。
「これはジュード殿。ベルル族の危機を救った名高いゾイド乗りにお会い出来るとは光栄ですな。ミレ殿も、お噂に違わずお美しい。」
男は大仰に両手を広げて、見え透いた世辞を言う。レイヴンは眉一つ動かさず、淡々とした口調で言う。
「星の民からの使者だとか。珍しい客人に驚いている。遠いところをようこそ。」
リーゼもその言葉に合わせて軽く会釈する。男は二人の顔を見比べてから、侍女の方を見遣る。
「すまないが、少し外してくれ。」
レイヴンの言葉に応えて侍女が退室すると、男は一礼しながら言う。
「お気遣い痛み入ります。しかし、これは恐らくあなたにとっても聞かれたくない話だと思いましたので…」
男の押し付けがましい物言いに内心微かに苛立ちながら、レイヴンは素っ気なく言う。
「ここの者は口が固い。余計な気遣いは不要だ。」
「そうでしょうな。しかし、これは黙っていられない情報かと存じます。」
「…何が言いたい?」
レイヴンの鋭い視線を受けても、男は動じる様子も見せずに勿体ぶって言う。
「ガーディアンフォースが半島への捜索隊を出すと言う話です。隊長はバン・フライハイト中佐だとか。」
「なっ…」
予想だにしない重大情報にさしものレイヴンも動揺を隠しきれない。それでもすぐに落ち着きを取り戻して言う。
「確かな情報か?」
「ターレスの街近くの基地にガーディアンフォースの先遣隊が派遣され、物資の集積が始まっております。…帝国軍内の複数の情報筋からも、半島への部隊派遣について情報が来ております。」
男がさりげなく付け加えた言葉に、レイヴンの表情が一層険しくなる。半島の人間が帝国軍内に伝手を持つなど、考え難い。この男はまず間違いなく、本土の人間…そしてレイヴンの正体を知っている。
「…お前は何者だ?」
短い問いに、男は態度を変えぬまま答える。
「私はムーロア。プロイツェン閣下の意志を継ぐ者、そして、あなたのお力になりたいと考えている者です。」
懐かしい名前を聞いても、レイヴンはもう動揺することはなかった。過去の亡霊がここまで追いついて来たかと、諦念のような気持ちもある。だがその気持ちは表には出さず、強い口調で言う。
「お前が何を企んでいるか知らないし興味もないが…俺はその企みに加わる気はないし、助けも必要ない。」
「バン・フライハイト率いるガーディアンフォースの大軍がレウス山脈を越えても同じことを言えますかな。」
そう言われて、思わず言葉に詰まる。ベルル族は半島では最大のゾイド部隊を持つが、ガーディアンフォースとまともにやり合うとなると些か力不足だ。ましてバンがいるとなれば…
「お前は知っているだろうが…その名前を聞いて慄かないのは、この大陸で俺だけだ。脅す相手を間違えたな。」
「そうかもしれません。ですが、あなただからこそ分かるバン・フライハイトの恐ろしさというのもあるのでは?」
「どうかな。いずれにせよ…この地でバンであれ、他の誰であれ、本土のゾイド乗りに負けるつもりはない。」
レイヴンはそれだけ言うと、むしろ傲然とした表情で男を見返す。半分はハッタリであったが…
「なるほど。あなたの自信も尤もだ。今日のところは退散することにしましょう。」
そう言って立ち上がった男の姿を見て、レイヴンは内心安堵する。だか男はそんなレイヴンの内心を試すように、言葉を続ける。
「とはいえ、あなたのお力になりたいという気持ちに変わりません。これからも折に触れて本土やガーディアンフォースの動きをお知らせしましょう。」
不要だ、と言いかけてレイヴンは思わず考え込んでしまう。男が得体の知れない存在であり怪しいことは理解していても、その警戒心を上回る程に本土の…特にガーディアンフォースの動きは気になるものだった。
「では、失礼します。お騒がせしました。」
レイヴンが何も言えぬうちに、男は足早に部屋を出ていく。部屋に残った二人は、沈んだ面持ちで視線を交わす。
「レイヴン…」
「…ああ。」
言葉にせずともお互いの考えは分かってしまう。その程度には、長い時間を共に過ごして来た。
「…あまり心配するな。ここは本土の人間が簡単に入れる場所じゃない。どこまで情報が伝わっているかも不明だしな。」
「そうだね。それに私と君が手を組めば、ガーディアンフォースなんて目じゃないよ。バン・フライハイトだってね。」
気丈に振る舞うリーゼを見て、微笑しながら「そうだな」と言って頷く。気休めだと分かっていても、それが必要な時もあるのだ。
そうして少しだけ表情が明るくなった時、ドアをノックする音が聞こえる。
「失礼します。…あれ、兄さん、ミレさん、お客人は?」
「もうお帰りになった。」
そう答えると、カイは驚いた顔をしてから、困ったように言う。
「珍しいお客人が来たと聞いて、母さんが宴会用に沢山の料理を作っているんです。困ったな、あんなに食べきれない…」
さっきまでよりも随分と微笑ましい悩みに、レイヴンは思わずくすりと笑って言う。
「珍しくない客人で申し訳ないが、俺とミレもお相伴に預かっていいか?」
そう言うと、カイは表情をパッと明るくする。
「兄さんなら大歓迎ですよ。母さんに伝えてきます。ありがとうございます!」
カイはそう言って一礼してから、若々しい身軽さで部屋を出ていく。その軽やかな足音を聞きながら、レイヴンとリーゼはやれやれという感じで顔を見合わせる。
べルル族の者は一族の結束のためにもよく宴会を開く。そして浴びるように酒を飲む。話せない過去がある身としては、そんな場所にあまり気軽に行くわけにもいかず、レイヴンとリーゼは何かと理由を付けては誘いの大半を断っていた。だが、こういう事情があっては、たまには仕方ない。とはいえ、万が一にも口を滑らせないよう、気を引き締めねばならなかった。