ZOIDS sequel 二人の英雄   作:なゆ太

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第3話です。段々ときな臭くなっていきます。


第3話 始まり

「こちらです、少将。」

 ロブ・ハーマン少将は、かれこれ十年を超える付き合いの部下、オコーネルに先導されて、密かにニューヘリックシティ郊外の基地を訪れていた。

「これは…酷いな。」

 ハーマンはそれだけ言って絶句する。彼の視線の先では、ゴドスが原型を留めないほど破壊され、白かったはずの装甲板は黒焦げになっている。

「これで三件目か…相変わらず、目ぼしい手がかりもなし…」

 ハーマンはそれだけ呟くと黙り込む。ここ一週間で三件目の謎の襲撃…まるで、六年前のレイヴンの襲撃のように唐突に発生し、犯人らしい犯人も捕捉できないまま被害が拡大している。

「レイヴン…なのでしょうか。」

 恐る恐ると言った様子で、オコーネルがその名を口にする。共和国軍にとっては、いまなおその名は恐怖の対象だった。

「分からん。だが…」

 どうも違う気がする、という言葉をハーマンは飲み込む。上手く言葉に出来ないが、何かがおかしい。だが自分の立場で、根拠の無い憶測を口にすることも出来なかった。

「いずれにしても、これ以上の被害の拡大を食い止めることが先決だ。とはいえ、犯人の行方が掴めんのではな…」

「ガーディフォースに支援を求めますか?」

「気が早いだろう、レイヴンの関与も不明なのに…」

 そう言ったハーマンに、オコーネルが少し声を潜めながら言う。

「実は…兵士達の間で、この襲撃がレイヴンによるものだという噂が広まっているんです。それで、早くガーディアンフォースに…バン・フライハイトに加勢して欲しいと。」

 なるほどな、とハーマンは頷きながらも、内心少し苦々しい気持ちになる。共和国出身のバンがレイヴン、プロイツェン、ヒルツと強敵との戦いで決定的な活躍をしたことで、共和国軍の兵士の間ではバンは崇拝の対象のような存在となってしまい、それはある種の依存も生んでいた。幼い頃のバンを知っているハーマンは、バンが神格化されることに違和感があるし、共和国防衛の責任者としては安易なガーディアンフォース依存も避けたかった。

「いや、ダメだ。バンも今は一つの部隊の指揮官だ、奴を動かせば辺境の警備体制に穴が開く。第一、謎の事件が起こるたびにガーディアンフォースの支援を仰ぐようでは、共和国軍の名折れだ。」

「分かりました。では、まずは共和国軍内で早急に捜索隊を編成し…」

 オコーネルがそう言いかけたところで、別の部下が駆け込んでくる。

「何事だ!」

「申し訳ありません!ですが…さきほど、ヘリックポストにこんな記事が…」

 そう言って部下が手渡した新聞の号外には、「悪魔の申し子再来!」の見出しと共に、ジェノブレイカーの荷電粒子砲の直撃を受けて炎上する基地の写真が掲載されている。

「なんだこの写真は!襲撃したゾイドの姿を捉えた写真など無いはずだぞ!」

「恐らく合成写真でしょう。ヘリックポストですから。」

 オコーネルの冷静な言葉に、ハーマンはハッとする。ヘリックポストは売上のためならゴシップやデマも厭わないタブロイド紙として有名だ。出所不明の合成写真を掲載してもおかしくはない。

「確かにそうだな。放っておいても害はないか…?」

「ただ…この記事は街頭でかなり注目を集めていました。市民の不安が高まれば、ルイーズ大統領も無視できないのではないかと…」

 兵士の言葉に、ハーマンは苦々しい顔をする。デススティンガーの攻撃で壊滅的な被害を受けたニューヘリックシティの市民は、脅威に敏感だ。それがことを大きくしなければいいが…

 

 ハーマンの懸念は、すぐに現実のものとなった。

「レイヴンの背後には、ケイオン半島に潜む旧プロイツェン派の残党がいるらしい。」

「半島のならず者達がレイヴンと結託して、共和国を狙っている。」

「帝国はレイヴンと旧プロイツェン派を野放しにして、あわよくば共和国を再び侵略しようと狙っている。弱腰のルイーズ大統領はなすがままだ。」

 噂には次々と尾鰭がつき、人々の不安を煽った。増大する不安は共和国政府に向かい、政府も軍も次第に無視できない勢いになっていった…

 

「じゃあな、お前ら。次来る時までに、少しは一人前のゾイド乗りに近づいてろよ。」

「ご指導ありがとうございました、アーバイン教官!」

「俺は教官じゃねぇ!」

 アーバインの「特訓」が終わって旅立つ日が来た。口は悪いが情に厚いアーバインは、いつの間にか新兵達にもすっかり慕われているようで、皆名残惜しそうな顔をしている。

「しけたツラすんじゃねぇよ、生きてりゃまた会うこともあるだろうさ。だからお前ら、無茶な戦いはすんじゃねぇぞ。…バン、こいつらのこと、しっかり鍛えてやれよ。」

 ああ、と頷いて無事を祈る言葉を口にしようとしたところで、伝令が駆け寄ってくる。

「アーバイン。別れの挨拶をしようとしたところ悪いけど、俺と一緒に来てくれないか。」

「…何事だ?」

 新兵の前では話せない内容なので、少し離れてから小声で囁く。

「例の基地襲撃犯絡みで、帝国と共和国とガーディアンフォースで緊急会議をやることになった。…レイヴン捜索を名目に、ケイオン半島への出兵が検討されているらしい。」

「なんだと!?」

 短い反応だが、アーバインの表情には驚愕と動揺が浮かんでいる。その驚愕はバンも同様だった。

「折角平和になったってのに…バカなことを…」

 その声は低かったが、怒りが滲んでいる。アーバインの感情はともあれ、事態は急展開して、急速に人々を飲み込みつつあるようだった。

 

 帝国・共和国・ガーディアンフォースの合同会議が開かれたのはそれから三日後、場所はレッドリバー基地だった。

 帝国軍のシュバルツ少将、共和国のハーマン少将やオコーネル中佐など見知った顔も参加しているとはいえ、中央から何年も離れているバンにとっては見知らぬ顔も多い。会議は一筋縄ではいかなそうだった。

 会議はオコーネルが最近の襲撃事件の手口や被害を説明するところから始まった。オコーネルは事実のみを伝えて説明を終えたが、直後に共和国側の出席者が発言する。

「この事件の犯人は元帝国特務兵のレイヴンだという見方もある。この点について、帝国軍及びガーディアンフォースの意見を伺いたい。」

 やはり来たか。そう思っていると、シュバルツが落ち着いた声で話し始める。

「帝国近衛師団長のカール・リヒテン・シュバルツ少将だ。私はかつて帝国と共和国が対峙していた頃、レイヴンの戦いを間近で見ていた。また、その二年後、復活したレイヴンとも対峙した。その記憶と照らし合わせると、今回の犯行はレイヴンのものには思えない。共和国軍側から提出された資料を見ると、一見単独犯のようだが、他のゾイドの支援を受けたと思しき点が見受けられる。また、攻撃の精度も低く、粗雑な点が多い。レイヴンの犯行に見せかけた模倣犯なのではないかという印象だ。」

「そのような判断は早計ではないか。そもそも、レイヴン以外に、他の誰が共和国軍の基地襲撃を企むというのか。この襲撃犯は物資の強奪などもしていない。手口からしても、単なる野盗の類とは思えん。」

「レイヴンはデスザウラーとの戦いの後、5年にわたって行方をくらましてきた。帝国と共和国の軍備が再建された今になって、理由もなく攻撃を仕掛けるとは思えん。奴は凶暴かもしれないが、馬鹿ではない。」

 シュバルツの冷静な口調に対して、共和国側は苛立たしげに声を張りあげる。

「あなたの話は憶測ばかりだ!我々共和国は現に攻撃を受け、甚大な被害を受けているのだぞ!レイヴンの仕業でなければ、誰だと言うんだ!」

「証拠もないのに決めつけて、もし犯人が別にいたらどうするのか。事態の解決が一層遠のくことになるぞ。」

「では、手をこまねいて、被害が拡大するのを待てと言うのか!」

「そんなことは言っていない!」

 二人の議論が口論になりかけたところで、バンが割って入る。

「失礼、ちょっといいだろうか。…ガーディアンフォースのバン・フライハイト中佐だ。皆さんご存知だと思うが、俺はレイヴンとは何度も戦ってきた。その個人的な経験から言っても、シュバルツ少将の見解に同意する。レイヴンはジェノブレイカーに乗り、オーガノイドのシャドーも引き連れている。破壊が目的なら、こんな中途半端な攻撃をするとは思えない。」

 共和国出身の「英雄」であるバンの言葉に、共和国側の出席者もさすがに静まり返る。何とか場の空気を変えられたかと少し安堵していると、帝国側の出席者が挙手して立ち上がるのが見える。

「帝国軍情報部のオットー・ヘルトリング中佐です。この事件の犯人がレイヴンであるかはともかく、彼は帝国・共和国に刃向かった数々の罪状がある。この機会に改めて捜索を強化すべきではないでしょうか。」

「レイヴンの捜索は何度もやっているが、一度も手がかりを掴めていない。もう一度やって、成果が出るとは考えにくいが。」

 シュバルツの冷静な反論に対して、中佐は自信ありげな表情で、手にしていた封筒の中から写真を取り出し、それをスクリーンに映し出す。

「こちらをご覧下さい。ケイオン半島の協力者からもたらされたものです。半島の幾つかの街やコロニーで、レイヴンとリーゼらしき人物が目撃されている。さらに…」

 中佐がスクリーンを操作すると、レイヴンが地元民らしき者達と共にいる姿が映し出される。

「奴は地元の部族の者達を手懐けているようです。悪魔の申し子と青い悪魔が手を組み、南部のならず者どもを従えている。これは国家安全保障上の重大な脅威ではありませんか!」

 中佐が示した写真のインパクトは大きく、会場の空気は一気に変わってしまう。その空気の中で、中佐は更に話を進める。

「とはいえ、無論、この写真だけではレイヴンの存在の確証にはなりません。そこで帝国軍情報部は、ケイオン半島への捜索部隊の派遣を提案いたします。」

「半島の者達は警戒心が強い。我々の捜索隊など受け入れるとは思えん。」

 シュバルツに指摘されても、中佐は意に介した様子を見せない。

「ことは大陸全土の平和に関わります。現地民が抵抗するのであれば、強制捜査という形をとるしかないかと。」

「強制捜索だと!?盗賊の拠点を一つ調べるのとは訳が違うんだぞ!半島全体を強引に捜索するってのはな、事実上の戦争だ!」

 それまでバンの隣で議論を黙って聞いていたアーバインが猛然と立ち上がって反論するが、中佐は一瞥して冷然と言い放つ。

「あなたはオブザーバーだ、不規則な発言は控えて頂けるかな。」

「なんだと、てめぇ…」

 激発しそうになっているアーバインを必死で宥めながら、バンも必死に援護射撃する。

「だが、アーバインの言うことは尤もだ。同意も得ない強制捜索なんて、一歩間違えたら半島の勢力と全面衝突に繋がりかねない。あまりにも危険だ。」

「全面衝突になったら、これを機に南部のならず者どもを一掃すればよろしい。そもそも、この大陸の中であの半島だけが野放しになっている現状がおかしいのです。大陸の安寧のためにも、あの地は…」

 中佐の演説を遮るように、ドンと机を叩く音がする。皆の視線の先では、シュバルツが珍しく怒った顔を見せている。

「中佐、貴官の発言は一軍人の職責を超えるものだ。南部の扱いをどうするかは、皇帝陛下、ルイーズ大統領が決めるべきことだ。この場でそのような議題を持ち出すなど、思い違いも甚だしい。自身の役割を弁えろ!」

 シュバルツの一喝に、場の空気は緊張感を含んだものになるが、相変わらず中佐は動じる様子を見せない。そんな中佐に、シュバルツは指弾を続ける。

「そもそも、このような重要な情報を把握していながら、皇帝陛下にも、その身辺をお守りする私にも知らせないとは、何を考えているのか!ジェノブレイカーの奇襲を受ければ、皇帝陛下の御身にも危険が及ぶかもしれないのだぞ!」

「未確認情報で陛下の宸襟をお騒がせするのは不敬かと思いましてな。」

「おためごかしを言うな!これは情報部の重大な失態だ。近衛師団長として厳重に抗議する!」

「そこまで言うのであれば、情報部としてもシュバルツ少将に情報をお渡し出来なかった理由を明かさざるを得ませんな。」

 中佐はそう言うと、レコーダーをマイクに近づける。スピーカーから流れたのは、先日のバンとシュバルツの会話だった。

「これは、情報部がシギント活動中に偶々傍受したものです。シュバルツ少将、フライハイト中佐、お二人の通話を聞いていると、まるでレイヴンを見逃そうとしているかに聞こえますな。重罪人であるレイヴンを。どう申し開きされるおつもりか。」

「貴様、盗聴しておきながらぬけぬけと…」

 シュバルツは怒りを抑えきれない表情だが、会場の雰囲気はバンとシュバルツに対して冷ややかになっている。その空気の中で、ハーマンが低い声で言う。

「この会話は事実か?フライハイト中佐。」

「…事実だ。」

 弁明の言葉が思い浮かばず、バンはそれだけ答える。ハーマンは落ち着いた様子で会場を見回してから、ゆっくりと口を開く。

「共和国軍の代表として、このような重大情報がこれまで共有されてこなかったのは遺憾だ。フライハイト中佐はもちろんだが、帝国軍情報部もそうだ。現に被害を受けているのは、我々共和国軍であり、共和国の市民は不安に慄いているということを忘れないでもらいたい。」

「…すまなかった。」

 謝るバンを一瞥してから、ハーマンは続ける。

「それはそうとして、半島の部族を一概にならず者扱いし、強制捜査すると言うのは、かつて帝国軍から反乱軍と呼ばれていた共和国軍の一員としては、賛同しかねる。」

 ハーマンの声は大きくはなかったがどっしりとした安定感があり、聞くものを自然と引き込む迫力がある。バンも自然と聞き入り、ハーマンがどんな結論を出すのか、固唾を吞んで見守る。

「とはいえ、もしレイヴンが半島に潜んでいるのであれば、共和国としては野放しには出来ない。この事件への関与の有無に関わらずな。そこで、一つ提案したい。半島への捜索部隊の派遣自体は、共和国としては原則として賛同する。ただし、それはあくまでも半島の現地勢力との合意のもとで、平和的に行われるべきだ。どうだろうか。」

 ハーマンの出した提案はバランスの取れたもので、表立って反対しにくいものだった。もっとも、半島の現地勢力との交渉の難航が目に見えている以上、難題の棚上げという色合いもあったが。

「いいでしょう。ただし、交渉は帝国外務省にお任せ願いたい。我が国は元より、半島の領有権を主張している。この点を認めて頂かなければ、共和国の主張に賛同できかねます。」

 帝国外務省の次官がそう発言し、ハーマンもこの場を収めるためにそれ以上は強く主張しない。いささか居心地の悪い雰囲気の中、会議は幕を閉じた。

 

「すまない、少将。俺のせいであんたの立場を悪くした…」

 会議終了後、人目につかない場所で、バンはシュバルツに謝罪する。想定外だったとはいえ、通信で余計なことを口走ったせいで、シュバルツの立場まで悪くしてしまった。

「お前が悪い訳じゃない、気にするな。」

 シュバルツは冷静だが温かみのある声でそう言ってから、声を潜めて続ける。

「それより…この事件、まだ裏がありそうだ。元々、情報部はプロイツェン派の牙城だ。ヘルトリング中佐はプロイツェンとはほとんど接点が無かったはずだが…注意しろよ。」

 無言で頷くバンに、シュバルツは皮肉っぽく笑う。

「それからな、ハーマンに礼を言っておけ。あの場を上手くおさめてくれた。」

「そうだな。あとで礼を言っておく。あいつのお陰で、最悪の事態は回避できた。」

「まだ分からんがな…」

 呟くように言ったシュバルツの言葉に、バンは思わず目を伏せる。帝国も共和国も、5年前の戦いから復興し、軍の規模も大きくなった。しかし、本当に信頼できる人間がなかなか増えないのは、どうしたものだろうか…




ハーマンとオコーネルのコンビは見ていてなかなか楽しかったですね。
オコーネルは振り回されて大変かもしれませんが…

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