ZOIDS sequel 二人の英雄   作:なゆ太

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第5話 緊迫

共和国では、相変わらず散発的に謎の襲撃が続いていた。その中には、明らかに野盗の類いによると思われるグスタフへの襲撃などもあったが…ともかく、あらゆる事件に共和国の世論は過敏に反応し、ハーマンや、ルイーズ大統領でさえその声を無視する事は出来なくなっていた。

そして困ったことに、帝国側からも共和国の世論を後押しするような声が出ていた。ケイオン半島の五大氏族が一致して帝国特使の要求を拒絶したことは、帝国の政府と軍のメンツを酷く傷付けた。

帝国は数年前まで、共和国を反乱軍と見做していたほどだ。共和国と比べても遥かに格下の、ならず者集団と見下す者も少なくないケイオン半島の勢力に門前払いされてすごすごと引き下がるというのは、威信を重視する帝国にとってあり得ないことだった。

二大国の指導者…ルドルフ皇帝とルイージ大統領はいずれも争いを望んでいなかったが、高まる一方の国内からの圧力を無視し続けることも出来なかった。そしてこの日、両首脳の間で極秘の会談の場が設けられていた。出席者は僅か五人…ルドルフ、シュバルツ、ルイーズ、ハーマン、そしてバンである。ここまで出席者を絞ったこと自体が、事態の異常さを物語っていた。

「陛下もご存じでしょうが…共和国内では、レイヴンの捜索のために半島に派兵すべきという声が日増しに高まっています。これは極秘ですが…数日前、軍と情報部の一部が結託し、派兵の口実作りのために証拠を捏造してメディアにリークしようという動きがありました。直前で察知して止めましたが…いつまで世論を抑えられるか…」

ルイーズ大統領はそう言うと、思慮深そうな表情を曇らせる。隣に住むハーマンも、苦虫を噛み潰したような顔をしている。

「帝国内でも、出兵論が日増しに高まっています。半島との交渉は公表していなかったのですが、新聞に抜かれてしまって…。軍も国民も、不逞な半島を討てという声が大きくなっています。」

ルドルフはそう言って頭を抱える。帝国は、ルドルフが即位してから、次第に開明的な統治に移行している。それはメリットも大きかったが、メディアに世論を動かされるというデメリットも生んでいた。

苦悩する二人の首脳を見ながら、バンは自分がここに呼ばれた意味を考える。この会議の参加者は、二人の国家元首と、二人が最も信頼する軍の幹部だ。中佐に過ぎない自分が呼ばれた意味は、それほど考えずとも分かることだった。

「ルドルフ。今は敢えて…友人として聞きたい。俺が呼ばれた理由はなんだ?」

バンが切り出すと、ルドルフは躊躇う様子を見せる。心根の優しいルドルフらしいと思いながら、バンは感情を押し殺して言う。

「この会議はガーディアンフォースの派遣を決定するためだ。…そうだろう?」

「…バンは、それでいいのですか?」

押し殺すような声でそう言ったルドルフに対して、バンは平静を装って言う。

「みんなのことを信じてるよ。この場にいる全員が出した結論なら、俺は従おう。」

本心を隠して、軍人らしくバンは言う。本音を言えば、口に出したこと以外の感情もある。しかし、軍という組織で何年も過ごしたバンは、この場で個人的な感情を出すべきでは無いという分別を備えてしまっていた。

「すまないな。俺の力不足だ。軍を抑えきれず…」

ハーマンがそう言って立ち上がり、頭を下げる。ルドルフ、ルイーズ、シュバルツがそれに倣った。彼らは皆、誠実な人柄であり、またバンとの個人的な付き合いも長い。彼らが積極的に戦いを望んでいるわけではないこと、そして苦渋の決断の末にバンにこの責務を頼んでいることも分かっていた。だからこそ、バンとしても、彼らの頼みを断りにくいのだ。

「…レイヴンのことは、いずれ決着を着けなきゃいけなかった。ジェノブレイカーとシャドーを持つあいつを、いつまでも行方不明のまま野放しには出来ない。もしあいつが半島で力を蓄えているなら、それを討つのが俺とガーディアンフォースの役目だ。」

自分に言い聞かせるように決意を語るバンの言葉を、皆が静かに聞く。バンの発言が終わってから、シュバルツが後を継ぐように口を開く。

「現時点で分かっている情報を元に、ハーマン少将と二人で作戦を考えた。情報部によると、半島最大の勢力をもつベルル族が拠点とするソルラの街で、レイヴンらしき青年が複数回目撃されている。また、あくまで噂だが、べルル族は本土から来たよそ者を一族に招いて重鎮にしており、それが理由で帝国の要求に対して強硬な姿勢で反対しているらしい。」

「そのベルル族がレイヴンを匿っている可能性が高い、ということか…」

バンの呟きに、シュバルツは頷きながら続ける。

「いずれにせよ、ベルル族は半島の筆頭氏族で、本土との交渉役でもある。このベルル族のソルラの街を包囲し、レイヴンを捜索、見つけ次第捕縛する。万が一この街で見つけられなかった場合は、ベルル族の協力を得られるよう交渉する。」

「結局、力づくだな。」

バンの言葉に、シュバルツとハーマンが苦笑する。それから、ハーマンは拡大写真を何枚か取り出して、説明を引き継ぐ。

「これは、偵察用ストームソーダーで高高度から撮影したものだ。ソルラの街はオアシスに面した街で、周囲の地形は開けている。そこで、この地点とこの地点にホエールキングで部隊を送り込み、一気に街を包囲する。」

「ホエールキングだと、輸送できる部隊に限りがあるが…」

「作戦は、ガーディアンフォースを中心に、帝国近衛師団と共和国特殊部隊の一部を加えた戦力で行う。秘密保持を徹底し、少数精鋭で決行する。理由は分かるだろう。」

バンの疑問に、シュバルツが厳しい声で答える。

「どこから情報が漏れるか分からない、ということか?」

「情けないことだが、そうだ。今回の一件と関係があるかは分からないが、プロイツェン派の残党の活動が活発化しているという情報もある。近衛師団の者なら、安心して任せられる。」

シュバルツの言葉に、バンは脳裏に浮かんでいた疑念…今回の一件そのものが何らかの陰謀なのではないか、という考えが更に強まる。だが、両国の首脳が集まるこの場で、根拠の無い疑念を軽々しく口にするほど、バンは幼くはなくなっていた。

「事情は分かるが、これだけの戦力だと一つの街を包囲するにはギリギリだな。」

バンはぼやきながら、ハーマンが持ってきた写真に目を通して、あることに気付く。

「ゾイドの集まるこの基地…街から少し離れた場所にあるんだな。」

「ああ…何でもこの街では、数年前にゾイドの暴走事故が起こって、街の住人にも被害が出たらしい。それで少し離れた場所に基地を移したと、情報部の報告書に書いてあったな。」

シュバルツの言葉を聞いて、バンは一つの策を閃く。

「高速ゾイド部隊でこの基地を急襲すれば、乗り手のいないゾイドを制圧できるんじゃないか?そうすれば、街にも被害を及ぼさない。レイヴンだって、流石に生身ではゾイドに対抗できないだろ。」

「しかし、この地点で上陸してからだと、街まではそれなりに距離があるだろう。そう上手くいくか?」

シュバルツの疑問に、バンは写真を差し示しながら答える。

「リスクはあるが、夜間に奇襲をかけるのはどうだろうか。この街は、近くにコロニーや民家らしきものも見当たらない。夜闇に乗じれば、上手くいくかもしれない。」

「なるほど…。慣れない土地での夜間移動は危険もあるが、やってみる価値はありそうだな。」

「そういえば、ドクターディが開発した夜間用の高性能センサーがあるぞ。まだ試験生産段階だが、数機分はあるはずだ。」

「助かる。各部隊の隊長機にそのセンサーを付けさせて貰おう。」

ハーマンの申し出に感謝したところで、ルドルフが口を開く。

「バン。あなたにこんなことを頼むのは本当に申し訳ないですが…全てお任せします。レイヴンを捜索し、戦うにしろ捕縛するにしろ、あなたよりも適任な人間はいません。」

「任せてくれ。レイヴンは確かに強敵だが…今度も必ず勝つ。」

ルドルフの手前、バンはそう言って見栄を張る。それから、シュバルツとハーマンと、三人で作戦の詳細を詰める。半島への出撃は、三日後と決まった。

 

「ターレスの街近くに、ガーディアンフォースに加えて帝国、共和国の部隊が集結しているという情報がある。本土はどうやら本気のようだ。」

レイヴンはそう言って、基地に集まったゾイド乗り達にブリーフィングする。本土の軍事情勢に明るいレイヴンは、いつの間にかリーダー的な役目になっていた。

「かなりの数だな…レムリア族の援軍を得て互角といったところか。」

ムーロアと名乗った男から渡された写真を掲示すると、歴戦のゾイド乗り達がざわめく。レイヴンは、帝国と共和国の本気がこんなものではないというも知っていたが、それは口に出さず続ける。

「ゾイドに描かれた徽章から、ガーディアンフォースに加えて帝国近衛師団、共和国特殊部隊が加わっているものと推察される。いずれも両軍の精鋭だ。…厳しい戦いになるぞ。覚悟を決めておけ。」

レイヴンの言葉に、再び出席者達がざわめく。少し落ち着いてから、列席していたカイが言う。

「レウス山脈で待ち伏せ攻撃するのはどうでしょう。あそこなら敵の不意を衝けます。」

「それも考えたが…今回はやめた方がいい。」

「なぜです?兄さん。」

カイの疑問に、写真の側を指し示しながら答える。

「部隊の規模の割に、輸送用グスタフの数が少ない。敵は恐らく、少数精鋭でこの街を奇襲し、一気に決着をつける気だ。ホエールキングを使う気だろうな。」

「ホエールキング?」

「ガイロス帝国が運用している超大型の空輸用ゾイドだ。一機で一個大隊のゾイドを輸送できる。」

「そんなものが…!!」

レイヴンの説明に、カイのみならず他の者も一様に驚きの表情を浮かべる。本土との格差を見せつけられているようで、苦々しい気持ちになりながら、レイヴンは説明を続ける。

「このホエールキングでレウス山脈を突破し、この街の近くに着陸、一気に部隊を展開するつもりだろう。残念だが、この街の近くには着陸に適した場所が多数ある。敵の着陸地点を予測するのは難しい。」

レイヴンの言葉に、ゾイド乗り達がまたもざわつく。ある程度行動パターンや進軍経路が分かる半島内の他の氏族との違いが、改めて突き付けられた格好だった。

「敵の攻撃の日時は現時点では全く不明だ。よって、今後は三交代制で基地に詰めてもらう。非番の時も街からは離れないように。敵の攻撃の予兆があったら信号弾を打つから、すぐに基地に駆けつけてくれ。」

レイヴンはそういって当直表を掲示する。本当は全員にこの基地に詰めて欲しいのだが、この基地にはロクな宿泊設備がない。本土の攻撃が三日後か三ヶ月後か分からない以上、ある程度は休憩を取らせる必要もあった。

「何か質問があるものはいるか?無ければ解散!」

レイヴンがそう告げると、ゾイド乗り達はどことなくのんびりした足取りで部屋を出ていく。帝国軍のエリート教育を受けたレイヴンには、彼らのそのどことなく牧歌的な雰囲気が、どうしても素人集団的に見えてしまう。ゾイド乗りとしての腕は悪くないのだが、「軍隊」としては未熟なのだ。

それが嫌いなわけではない。だが、本土の軍隊と戦うなら、それは致命的な弱点だった。いずれ訓練を付けるにしても、今はそんな猶予もない。結局、自分が何とかするしかないだろう。だが、バンが出てきたら、どこまで自分一人で対処できるか…

「兄さん。どうしたんですか?」

カイに声を掛けられてハッとする。気付けば部屋に残っているのは二人きりだった。

「いや、何でもない。お前は一旦、街に戻れ。」

「兄さんは戻らないんですか?」

「俺は基地に詰める。いつ敵の襲撃があるか分からないからな。」

若い頃は野宿のような環境で長く過ごしたこともある。少し歳をとったとはいえ、ここの貧弱な宿泊施設でも不満はなかった。

「なら俺も残ります!」

「お前は一旦戻れ。無理すると肝心の時に持たないぞ。」

「オレは平気です!少しでも兄さんの役に立ちたいんです。」

「お前は次期族長なんだぞ。少しは自重して…」

「いいじゃないか。残らせてやりなよ。」

カイを説得しようとしていると、意外なところから横槍が入る。リーゼだった。

「本土は長距離砲も飛行ゾイドも豊富だ。街にいるのが安全とは限らないよ。ここにいれば私達で守ってやれるからね。」

「しかし…」

「帝国や共和国がならず者の街に容赦をかけると思っているのかい?そうだとしたら甘いよ。」

そう言うリーゼの声は恐ろしいほど冷たい。ある意味、彼女はレイヴン以上に本土の軍隊の残酷さを身に染みて知っている。それに、慕ってくれるカイのことを可愛がっているということも知っていたから、何も言えなくなってしまう。

「分かった。カイも基地に残れ。さっきの口ぶりだと、お前も残るのか?」

話を振ると、リーゼは頷いてから耳元で囁く。

「敵が奇襲をかけてくるなら、私の力があれば何かと便利だろ?」

「…まあな。敵を混乱させて時間を稼ぐのに、お前以上の適任者はいない。頼めるか?」

「お安い御用だよ。…本土の奴らに好き勝手されるのも嫌だからね。」

案外そこが本音なのかもしれない。ここで過ごした五年間でリーゼは随分と丸くなったが、だからと言って過去が消えるわけではない。リーゼのその感情は頼もしくもあったが、不安も感じないではない。だが、いま彼女の力が必要なのも事実だった。

「敵がいつ攻めてくるか分からない。気を抜くなよ。」

レイヴンはそう言って、手のひらの傷をちらりと見る。バンとの5年ぶりの対決の時は、確実に迫っていた。




ウェンディーズ・ファーストキッチンのゾイド惑星Ziセットを食べたのですが、令和の時代にゾイドコラボが実現するとは…と感動しました。ちなみに量がかなり多いです。
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