いよいよ初対決です。
ガーディアンフォースの出撃準備は極秘で進められた。奇襲を成功させるためには情報管理の徹底が欠かせない。そのため、ガーディアンフォースの正式なメンバーでない者には、作戦を一切明かせなかった。フィーネやアーバインでさえ、例外では無い。
二人とは長い付き合いだ。多分、薄々勘付いているだろう。何も言わないのはバンの立場を気遣っているのだろうが、その優しさが心苦しくもあった。
出撃の日、バンはフィーネに「今日の夜から急な会議が入った」とだけ告げた。フィーネは素直に頷いたが、「気を付けてね」と言われたのを見ると、勘付かれているのかもしれない。
その日の夕刻、格納庫に向かう途中で、アーバインが待ち構えていた。
「これから出撃か?」
やはりアーバインにも気付かれていたかと思いつつ、もし連れて行けと言われたら困ったことになるなと考える。無論、仲間としても戦力としても頼りになるが、隊長のバンが勝手なことをしては示しがつかない。
「まあそんな顔をするな。答えられないってのは分かってるし、連れてけとも言わねえよ。…ただまあ、何だな…フィーネには言ったのか?」
「…緊急の会議があると言った。」
「気付かれてると思うがな。」
「そうかもな。」
それがバンの言える精一杯だった。アーバインも分かっているのか、深くは追求して来ない。口は悪いが、情に厚い男だ。昔から…
「お前一人で背負いこむ必要はねえって言ってやりたいがな。今の状況では、そうも言ってられねえか。まあ、ちゃんと生きて帰れよ。フィーネの泣き顔を見るのは嫌だからな。」
「分かってるさ。負けるつもりはない。すぐに戻るつもりだが…フィーネのこと、よろしく頼む。」
バンの言葉に頷いてから、アーバインは目を細めて言う。
「レイヴンの奴には色々と借りがある。俺の手で返せないのが残念だが…」
「まあ、何にせよ任せておけよ。」
少し気取ってそう言って、アーバインに会釈して格納庫に向かう。基地から半島までは、ホエールキングなら数時間。明日の払暁と同時に攻撃開始予定だ。レイヴンとの再対決まで、あと半日ほどだった。
「まだ寝ないんですか?当番は俺がやりますから、兄さんは寝て下さい。」
その日の夜、レイヴンは寝ずに格納庫で待機していた。心配して見にきたカイにマグカップのコーヒーを差し出しながら言う。
「今夜は新月だ。夜闇に紛れて接近するなら、こんなに良い日は無い。」
「…敵が今夜襲ってくると?」
「あくまで、他の日より可能性が高いと言う話だ。だが…」
人と話していると考えがまとまってくる。レイヴンは、自分の中に浮かぶ懸念を一言ずつ言語化していく。
「最も効率の良い戦術は、乗り手のいないゾイドを破壊することだ。帝国と共和国はそれをよく知っている…」
かつてレイヴンのジェノブレイカーも、その誕生の直前にその戦術で攻撃された。あの機体は特別強力なシールドがあったから耐えられたが、この基地の機体はそうではない。
ジェノブレイカーを使うべきだろうか。それは、数日前からのレイヴンの一番の悩みだった。半島では動きが制約されるとは言え、それでもなお大きな戦力となるだろう。だが、ジェノブレイカーを使えば一発で存在が露見してしまうし、帝国と共和国を必要以上に刺激することになるかもしれない。結局、忙しくて、あの機体を取りに行く時間も無かったが…
「あれ?いま、少し光ったかな?」
レイヴンの思考を中断するようにカイが言う。弾かれたようにカイの視線の先を見ると、小さな瞬きが何度か見える。
「スリーパーガイサックが野良ゾイドに反応してるんでしょうか。」
「いや…」
あの距離ならギリギリ長距離砲でこの基地を狙える。そう考えた次の瞬間、レイヴンはセイバータイガーに飛び乗っていた。
「兄さん!?」
「出撃する!基地に残ってる奴を全員叩き起こしてゾイドに乗せろ!」
新月の闇夜に紛れて半島に上陸して基地に近づき、小高い丘の陰に隠れて攻撃開始の時間を待ちながら、バンは少し苛ついていた。作戦ではカノントータスが配備されたトーマの指揮する第二攻撃部隊の火力支援のもと、バンが指揮する第一攻撃部隊が基地に突入することになっていたが、慣れない地形でカノントータスの展開に時間がかかっているようなのだ。本来なら攻撃準備が完了している時間なのに、第二攻撃部隊は手間取っているようだ。夜明けと同時に攻撃を開始出来なければ、完璧な奇襲とはならない。
加えて、偵察機が撮ってきた基地の写真もバンを悩ませていた。基地にはジェノブレイカーの姿はなく、セイバータイガーやコマンドウルフが並んでいる。もちろん、だからと言ってレイヴンがいる可能性が無いわけではない。しかし本当に確証がない状態で攻撃開始していいのか…一抹の迷いが生じてしまう。
「フライハイト中佐!基地に動きが…」
部下の言葉に、現実に引き戻される。偵察機から送られた映像の中で、十体余りのゾイドが基地を出て走り出すのが見える。
「あの方角は…気付かれたか!?」
敵は明らかに第二攻撃部隊を目指していた。バンは背筋に嫌な汗が流れるのを感じる。
「隊長、攻撃しましょう!このままでは第二部隊が…」
部下の声にも切迫感がある。第二攻撃部隊は長距離砲撃機が中心で、護衛の数は多く無い。敵に襲撃されたら大損害が出るだろう。
「…分かった。全機攻撃開始!敵ゾイド部隊を殲滅後、基地に突撃する!」
指示と同時に、バンはシールドライガーを駆って走り出す。
「くっ…機体が重い!」
全力疾走しようとすると、機体の動きに制約がかかっていることがはっきりと分かり、これが半島での動作不良かと思い知らされる。こんな状態でレイヴンと戦うことになったら、勝ち目があるのか。だが、そんなことを考える暇も無いほど、敵機は目前に迫っていた。
「兄さん!あのゾイドは…」
「間違いなく本土の部隊だ。カイ、発光信号を打て!緊急集合だ。」
「了解です。緊急集合の発行弾を打ちます。」
カイの機体から発光信号が上がったのを確認しながら、レイヴンは敵部隊を確認する。バンを象徴する機体、ブレードライガーの姿は無い。別の部隊にいるのだろうか?もしかしたら、どこかに潜んで挟み撃ちを狙っているのかもしれないが…
「まずはあの部隊を叩く。全機、俺に続け。カイ、側を離れるなよ!」
まずはブレードライガーの姿が見えない敵部隊を殲滅しようと、突撃を開始する。敵機は半島の磁場の影響で、哀れなほど鈍い動きをしている。その動きを見て、レイヴンは自身の中の狩猟本能のようなものが久々に覚醒するのを感じる。
「数は多いが…それだけで勝てるほど甘くはないことを教えてやる!」
双方が意図しない形で、偶発的な接触戦のような形で始まった戦いは、この地の「磁場」によってその力を制約されたガーディアンフォース側を、ベルル族のゾイドが蹂躙する形で展開した。特にレイヴンの活躍はまさに鬼神のようであり、瞬く間に二個小隊を壊滅に追い込んだ。
「フライハイト中佐、第二中隊は二個小隊を失い壊滅状態です!あのセイバータイガーが…うわぁっ!?」
悲鳴と共に通信が途絶する。セイバータイガーという言葉に、バンは嫌な予感がする。
「そのセイバータイガーは俺が対処する!第二中隊残存機は撤退しろ!」
そう指示してから、バンは相棒の出番が来たことを悟る。
「ジーク!」
バンの叫びと同時にジークがシールドライガーと合体する。オーガノイドのサポートで、シールドライガーの動きは格段に良くなる。速くなったシールドライガーで眼前の敵を倒してから、セイバータイガーの元に向かおうとする。そこに部下からの通信が入った。
「フライハイト中佐、敵の増援のゾイド乗りが基地に向かっているようです。敵の増援を許しては、奇襲は完全に失敗です。敵増援の阻止を具申します。」
「分かった。第三中隊は敵増援を阻止。第一中隊各機は時間を稼げ。あのセイバータイガーを倒せば勝機はある!」
「喰らえっ!あっ、やっ、やった!」
レイヴンの隣でカイが初めての戦果に戸惑ったような声を出している。
数では遥かに劣っているものの、ベルル族は奮闘していた。敵の三個中隊のうち一個を壊滅させ、もう一つにもかなりの打撃を与えている。
「基地に残ったゾイド、間もなく出撃準備が整うそうです。」
カイがそう報告した直後、比較的無傷の敵の一個中隊が基地に向かうのが見える。
「チッ、こっちの増援に気付いたか。ここは俺が…」
「その必要は無いよ。こっちは任せておきな。」
そう言って通信画面に現れたのはリーゼだった。
「いけそうか?」
「今日は調子が良くてね。」
リーゼの精神操作は日によって波がある。声音を聞く限り、本当に調子が良さそうだった。
「分かった、そっちは任せる。」
「ああ。久々に腕が鳴るよ。」
リーゼがそう言った直後、基地に向かっていた敵部隊で同士討ちが発生する。仕事が早いな、と舌を巻くレイヴンの前で、敵部隊は大混乱に陥っていく。
「兄さん、敵はなぜ同士討ちを…?」
「さあな、本土のゾイドはここでは誤作動を起こしやすいからな。」
カイの質問にとぼけてから、戦場を見回す。敵の中に一機、やたらと動きが良いシールドライガーがいることに気付く。
「あのシールドライガー、もしや…」
「あの機体だけで二機も倒してるんです。あっ、また…くそっ、俺に任せて下さい!」
「待てカイ、あれは…!」
レイヴンが止めるのも聞かず、カイは一人で走り出してしまう。慌てて後を追うが、カイは頭に血が上っているのかレイヴンの制止を無視して突っ込んでしまう。次の瞬間、カイのコマンドウルフはシールドライガーにあっさり弾き飛ばされてしまう。
「うわーっ!」
「カイ!」
レイヴンの視線の先で、倒れたコマンドウルフにシールドライガーが砲口を向けるのが見える。このままでは間に合わない…
「シャドーッ!」
その叫びに応えて黒いオーガノイドが合体し、セイバータイガーは生まれ変わったような動きを見せる。それを見て、シールドライガーは一瞬戸惑ったような反応をする。
「遅い!」
レイヴンは砲撃でシールドライガーを牽制してから、カイの機体を庇うように動く。
「カイ、無事か?」
「オレは大丈夫です。兄さんも気を付けて下さい…!」
見たところコクピットは無事なようだ。レイヴンは思わず安堵してから、シールドライガーと対峙する。バンなのか?なぜシールドライガーに乗っている?様々な疑念が脳内を渦巻く。
「…レイヴンか?」
無線機からバンの声が聞こえる。無線機を切ると、身構えて戦闘体勢を取った。
勝負は一瞬だった。レイヴンのサーベルタイガーは、一撃でシールドライガーの装甲板を剥ぎ取る。お互いオーガノイドのサポートがある状況では、機体性能の差がモロに出る。磁場の影響で性能が発揮できないバンのシールドライガーでは、到底勝ち目はなかった。
何とか一撃での致命傷は避けたものの、あちこちでアラートが鳴っており、とても戦える状態ではなかった。次の一撃を喰らえば、確実に動けなくなるだろう。
それに先ほどの光…明らかにオーガノイド、シャドーだ。バンは目前のセイバータイガーの乗り手がレイヴンであることを確信していた。そうである以上、自分がやられたら、他に対抗できる者もいない。まだ自分の機体がギリギリ動けるうちに、撤退を始めなければならなかった。
「全部隊に告げる。奇襲は失敗した。敵は手強く、こちらには地の利も無い。これ以上の損害を避けるため、即時撤退を開始する!第三中隊は第二中隊の生存者を救出しつつ後退。第一中隊は俺と共に敵を足止めして、味方の撤退を援護しろ!」
バンの指示に従い味方部隊が動き出すが、敵もそれを黙って見過ごすほどお人好しではない。目前のセイバータイガーも隙あらばこちらを完全破壊しようと構えている。どうやってこの場を切り抜ける?と固まっていると、次の瞬間、セイバータイガーの至近距離に複数の土煙が上がる。
「何だ!?」
戸惑うバンだが、すぐに正解が判明する。
「こちら、第二攻撃部隊だ。すまないバン、遅くなった。ようやく砲撃準備が完了した。味方部隊の撤退援護及び敵の増援阻止のため、砲撃を続行したいと思う。」
トーマからの通信だった。経緯はともあれ、今のバンにとっては干天の慈雨となる。
「助かった。全弾使い尽くしてもいい、敵機…特にあのセイバータイガーを動けないようにしてくれ。」
「了解!」
バンの指示に応えて、セイバータイガーに砲弾とミサイルが降り注ぐ。砲撃の正確さは、さすがトーマ指揮下の部隊といったところだ。さしものレイヴンも、この状況では身動きが取れないようだった。
味方の砲撃支援の効果もあり、撤退は思ったより順調に進んだが、それでもあちこちでトラブルはある。元々、磁場の影響のある土地だし、レイヴン以外にも敵機は多い。
バンは最後の一機、確認できる全ての生存者が脱出するまで、戦場に留まって味方を援護した。それはレイヴンを足止めできるのは自分だけという自負もあったし、自分の指揮で敗北したという自責の念も一因だった。
「兄さん、大丈夫ですか?だいぶ集中砲火を喰らってましたが…」
「軽傷だ、問題ない。しかし、敵を取り逃したな。」
敵の砲撃で足止めされているうちに、バン達は撤退していた。最後まで戦場に留まっていたバンのシールドライガーも、先ほど後退している。
「追いますか?今なら追いつけるかもしれません。」
「いや、深追いはするな。全機に告ぐ、追撃は禁じる!本土は飛行ゾイドも豊富だ。砂漠のど真ん中で爆撃されたら大損害を被るぞ!決して追撃するな!」
レイヴンの通信を聞き、追撃を始めていた味方のゾイドも後退する。一息ついて周囲を見回すと、荒野に二十機近いゾイドが倒れている。そのうちの9割近くが敵の機体だった。
「味方の損害は大破が2、中破が3です。大破した2機はいずれもあのシールドライガーにやられたものです。」
「大破した2機の乗り手は無事か?」
「はい、一人は骨を折ったようですが、命に別状は無いようです。」
「それは何よりだ。急いで医者を呼んでやれ。」
そう言いながら、レイヴンは思わず考えに耽る。さっきのバンの様子から察するに、本土はレイヴンの存在の確証を得ないまま奇襲を仕掛けてきたようだ。だが、今度のことで、確実にバレただろう。そうなれば、本土は必ず再び攻めてくる。今回とは比べ物にならない大兵力で…
「…さん。兄さん!」
レイヴンの思考は、カイの声で中断される。どうした、と問うと、カイは弾んだ声で答える。
「大勝利ですね!特に兄さんの活躍は凄かったです!本当に大活躍でした。指揮も的確で…兄さんがいれば本土の奴らなんて怖くないですね。」
カイの無邪気な喜びように、レイヴンは言葉に詰まってしまう。これを勝利と言っていいのか分からないのに。そんなことを考えていると、カイがおずおずと言う。
「それと…さっきは助けてくれて、ありがとうございました。オレ、まだまだ兄さんがいないとダメですね。」
「…そうだな。お前は脇が甘い。まだまだ鍛錬が必要だな。」
そう言われて、カイが困ったような声で笑う。レイヴンはいま、一匹狼ではない。この部隊のリーダーとして、カイの兄として、内心はともあれ、強く明るく振る舞わねばならなかった。
9月14日のトークショーに行ってきたのですが、25年越しにゾイドのイベントに参加できるとは、ありがたい限りですね。