鈴ちゃん好きが転生したよ!( ゚∀゚)o彡°鈴ちゃん( ゚∀゚)o彡°鈴ちゃん 作:かきな
それは突然僕の中に芽生えた感情だった。
ISという作品で出会った元気いっぱいの少女の姿に、僕は不思議なくらい心を惹かれたのだ。その感情が世間的に見てどのようなものなのかは分かっていた。たとえ友人であっても、正直なその感情を打ち明ければ笑われるか、引かれるか……どう考えても立派な感情ではなかった。
それがこの世界に来て正当化された。それはもう僕は嬉しかったよ。それこそ内にため込んでいた感情をそのままぶちまける程度にはテンションが上がってしまった。
でも、それを受け止める側がただのキャラクターじゃなくなっていたこの世界では、その感情は相手を傷つけてしまうようなものであったのだ。それに気づかされて、接し方を変え……てはないかもしれないけど、それでも僕の中での彼女がキャラクターじゃなくなってから、どれほど一緒の時間を過ごしただろう。
あの時、違う次元から見ていた彼女から同じ次元で触れ合えるようになって、僕はますますその感情を膨らませていった。いや、既存の感情とは違うもう一つの感情なんだろうか。
キャラクターとしての鈴ちゃんを好きな気持ちと、
同じ世界で生きる鈴ちゃんを好きな気持ち。
その二つはどちらかを打ち消すことはない。けれど、交わることもない。だから、僕の中には二人の鈴ちゃんがいて、その二人共を好きな僕がいるんだ。
前者の気持ちだけなら僕がとらなければいけない行動は大臣をやっちゃうことだ。でもそれは鈴ちゃんのためではあるけれど、鈴ちゃんの気持ちを汲んだ行動じゃない。
後者の気持ちだけなら、束さんの援助でも貰って二人で逃避行というのもいいかもしれない。
どちらにしても、鈴ちゃんのために行動したという意味で僕は満足できるだろう。
でも、今の僕はその二つの気持ちを内包している。ならばその折衷案がいいのか、と言われるとそれはそれで首をかしげてしまう。違うんだ。僕はそんなに割り切れない。大臣は殴りたいし、鈴ちゃんとも添い遂げたい。それならどうすればいいか。また、束さんに頼るのか、千冬さんにでも頼るのか。いや、それでは僕は満足できない。鈴ちゃんのためを思えば、僕の満足なんてごみのようだと割り切れるほどに僕は大人じゃないんだよね。
『それで、どうするのですか』
ペイルライダーが急かすように僕に問いかけてくる。しかし、僕の中に明確な答えはない。そんなすべてを丸く収めるような案がすぐに思いつくわけもないしね。
だからってこのまま放っておいて状況が好転するわけでもあるまいし、何か行動を起こさなきゃいけないのは事実だ。
「どうすればいいんだ……」
そうして、答えが出ないまま僕は頭を抱えるのだった。
◇ ◇ ◇
そんな風に氷雨が知恵熱を出す勢いで悩んでいる中、千冬が鈴を連れ込んだ指導室で事態はあっけなく好転してしまった。
「は? 大臣の独断!?」
「そういうことだ。嬉しそうに語っていたところを楊が聞いて、確認をとったそうだ」
千冬があのタイミングで鈴を捕まえた本当の理由はこれを伝えるためであった。鈴が授業を休んでいたことも知っている千冬は、大方命令の内容に鈴が動揺し休んだのだろうと考え、一刻も早く伝えてやるべきだと動いたわけである。
「よ、よかった……」
鈴の体は糸が切れたように力が抜け、へなへなと座り込んでしまった。それは安堵からくるものであり、鈴の顔には嬉しそうな笑顔が浮かんでいた。
「しかし、お前も篠ノ之も少し考えればわかったことだろう」
千冬はため息を吐きつつ、何かに気付かなかった鈴と氷雨に呆れているようだった。鈴はその千冬の言葉が何を示唆しているのか、心当たりがなく首を傾げる。
「待機状態の専用機を盗んだとしてもだ、当人のライセンスがなければ展開すらできないだろうに」
「あっ」
そこまで千冬が言うと、鈴もやっと大臣の命令がいかにお粗末なものだったかに気付いた。
「それに、本国にそれを強制的に起動できる装置があったとしても、コアネットワークにつながったままでは位置情報が共有されているのだ、誰が盗んだなんて容易にわかるだろう」
確かに氷雨の専用機は価値のあるものだ。コアを一つ盗むというだけでも価値があるのに、さらにペイルライダーは束の技術が使われている。それを解析できるのなら多少のリスクだって犯す価値はあるだろう。
しかし、それを実行したことがバレてしまった場合、瞬間全世界を敵に回してしまうわけだ。ただコアを盗んだことが悪いからという理由ではない。いち早く攻め落として、そのペイルライダーを我が物にしようと各国が押し寄せてくるだろう。
故に実行するにしても、周到な準備の末バレる危険性を限りなく無くさなければ、国としてそんなことを命令するわけがないのだ。
「ええと、じゃああたしは何もしなくていいってこと?」
「普通ならそんな命令をした時点で中国に罰則を与えたうえで、中国の代表候補生には国に返ってもらうだろうな」
その言葉に鈴は先ほどまでの笑顔を消し、目を見開いて千冬の方を向いた。鈴の視線を受けた千冬はなぜだか少し笑う。
「だが、今回はその大臣の独断だ。それに、凰に実行の意志が無かったことも考慮すれば公にすることはないだろうし、強制送還もしないだろう」
千冬の言葉とその表情から、鈴は自分がからかわれたことに気付き、抗議のまなざしを千冬に向ける。
「千冬さんー」
「ふっ。まあ、そういうことだ。精々篠ノ之と仲良くやればいい」
最後までからかってくる千冬に鈴は抗議の目をやめ、笑顔を浮かべた。
「ありがとうございました」
「礼などいらん。私は何もしていないからな」
そういうと、千冬は、話は終わりだと立ち上がり、廊下へと続く扉に向かう。鈴はその後ろをついていき、同様に部屋を後にした。
「しかし、大臣も馬鹿なことをしたな」
指導室のカギを締めた千冬が呟いた。
「篠ノ之氷雨に手を出すと誰を敵に回すことになるか」
それを思えば、大臣に対して少し同情してしまう千冬であった。
◇ ◇ ◇
自室。
「うーん、うーん」
どうすればいいのか、妙案をひらめくこともなく僕はベッドの上を頭を抱えながら転がる。かれこれ一時間くらいになるかな。そろそろ一夏も訓練を終えて帰ってくる頃じゃないかと思う。
「なんてこった、僕の頭を持ってしても解決法が見つからない!」
『何もしなくていいのでは?』
ペイルライダーがそういうので、それもありなのかと一瞬考える。しかし、それがダメな理由はすぐに思い出せた。
「いや、この命令に失敗したら鈴ちゃん候補生降ろされちゃうんだって」
『そうですね』
ん? 僕の指摘にペイルライダーは全く動じない。何かあるのだろうか。
『先ほどコアネットワークを通じて情報が入ってきました』
「なんの?」
『鈴への命令が大臣の独断であったというものです』
「ふぁっ!」
なんですか、そのとんでもなく重要な情報は! え、なに? それじゃあ、さっきまでの僕の苦悩は時間の無駄だったってこと?
「よし、一刻も早く鈴ちゃんのもとへ向かおう」
『吹っ切れたようですね』
ペイルライダーがさっさとそのことを言ってくれてたらもっと早かったんだけどね。まあ、そんなことで責めても仕方ない。
障害があっさりなくなってしまった。双方が相手の気持ちをわかっているこの状態、長く続けてしまったらそれだけそこから脱するのは困難になる。
だから、僕は行く。
この転生の意味を成すために。
「次回、最終話」
『氷雨、死す。ですか?』
「違うよ!」
降りしきる雨が地面をたたく。雨粒が跳ねる音だけが響く静かな夜。街灯の光が水たまりに反射して不気味に光る。
そんな中に影が三つ。一人は何やら騒いでいるようだが、その音は存外に響かず、闇に吸い込まれるように消える。
そんな雨音しかない静寂の中、呟くような声がする。
「ワールドパージ」
その声を境に騒ぐような仕草をしていた女性の挙動が急におかしなものになった。何かにすがるように道路の中央に向かい、視界の端に現れたトラックが謀っていたかのように彼女に迫る。
「ひーくんにちょっかいかけようとするゴミが。なにがハニートラップだよ、馬鹿か?」
その女性に向けるまなざしは鋭く、侮蔑を含み、まさにゴミを見るような眼と形容するのが正しいものであった。
減速することのないトラックと、それに気づかない……いや、気づけない女性。ことの顛末は明らかだろう。
「さ、くーちゃん、帰ろっか」
「はい」
二人は最期を見送ることもなく立ち去る。
これが、篠ノ之氷雨に手を出すということの意味であった。
はい、お久しぶりの本編更新です
最新話が番外編になってて見にくいですね
どれが更新されたのかわかりづらいですよね?
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更新情報、詳細に呟くので何が更新されたかわかりやすいですよー
え、番外編の位置を変えればいいだろって?
…………
ではまた次回もよろしくお願いします!