鈴ちゃん好きが転生したよ!( ゚∀゚)o彡°鈴ちゃん( ゚∀゚)o彡°鈴ちゃん   作:かきな

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最終章


ツナグミライ
第一話


 氷雨が目を覚ました後、鈴は医師を呼び、その場を後にした。普通なら喜んだ。普通なら側にいた。普通なら……。しかし、そんな想いとは裏腹に目覚めた氷雨の状態は鈴の思い描く普通とは程遠いものであった。

 

 記憶喪失。

 

 氷雨を見た医師によると、脳に異常は見つからなかった。しかし、記憶がなくなっていることは事実。原因は不明であるが、おそらくあの侵入者との戦闘時に使用したHADESというシステムが関与しているのではないかという結論に至った。

 

 だが、その医師の話は肝心なところを言及せずに終わった。

 

 氷雨の記憶が元に戻るかどうか……それが鈴の一番知りたいところであった。だが、それについて何も言ってこないということは、例え鈴が問いかけたところで、返ってくる言葉はありきたりで当たり障りのないものであろうということが容易に予想できた。

 

 一緒に話を聞いていた千冬も険しい表情を浮かべる。それは誰かへの怒りを抑えているようにも見えるのだが、鈴にはそれが誰に向けられているのかを推し量ることはできなかった。

 

「体には異常はないのだな」

 

 その千冬の確認に医師は頷き、肯定を示す。

 

「なら明日から学園に戻ってきてもらう」

 

 その言葉に鈴は驚く。確かに目を覚ました氷雨だが、記憶を失っている彼を学園へ連れ戻すのは早計ではないかと。医師もそれには反対だったようで、引き続きの入院を提案するも千冬は医師を威圧するような眼光を飛ばし、それを一蹴する。

 

「氷雨は普通の患者ではない。世界で二人しかいないISの男性操縦者だ。それがこの病院にいるという情報が漏れてしまえば、どうなるか想像はできるだろう」

 

 そこまで言われて医師は納得……というよりは渋々といった表情で千冬の意向に従ったのだった。

 

    ◇   ◇   ◇

 

 記憶のない氷雨を連れて千冬と鈴の三人は学園に戻ってきた。千冬の不機嫌な顔に萎縮して道中一言も話さなかった彼だったが、学園の入り口に来ると感嘆の声を漏らした。

 

「ここは……」

 

「ここはお前が在籍している学園、IS学園だ」

 

 ISという聞き覚えのない単語に彼は首を傾げながらも、その眼前に広がっている学園の規模の大きさにただただ圧倒されていた。

 

「私は、すごいところに通っていたのですね」

 

「まあ、ある意味すごいわよね」

 

「ある意味……ですか?」

 

 そう鈴に問い返した彼であったが、回答を得る前に千冬が学園の中に歩き出したので二人は続いて歩き出した。

 

「今日はもう遅いからな。お前には私の部屋で寝てもらう。皆への説明はまた明日にでも行う」

 

「あ、はい。分かりました」

 

 薄暗くなった空を見て彼は当然そうなるだろうと思った。誰も、全寮制だと言っていないのだからもうこの学園に生徒はいないのだろうと考えているからである。

 

「あれ? では、君はどこで寝るのですか?」

 

「凰鈴音」

 

 鈴の言葉に少し首を傾げる。しかし、少ししてそれがどういう意味かを理解した。

 

「ああ、凰さんというのですね」

 

「そうよ。あんたの名前は篠ノ之氷雨……って、それくらいはもう聞いてるわよね」

 

「はい。病室の名札にも書いていましたので。読み方はすぐには分かりませんでしたけど」

 

 そう言って自嘲気味な笑みを浮かべる。それに鈴も合わせて笑顔を浮かべる。しかし、浮かべた笑顔と裏腹に、彼女の心は沈んでいる。だが、それを表に出したとて現状は好転しないのだから、彼女は精一杯取り繕った仮面をつけるのだ。

 

 そんな鈴を見て、千冬は思う所があったようで千冬には珍しく曇った表情を一瞬浮かべる。

 

「言っていなかったが、ここは全寮制だ。凰もこの学園の生徒であるから、自室をもっている」

 

「ああ、そうだったのですね」

 

 謎が解けて少し嬉しそうな顔をする。それは知識が増えるにつれて記憶が戻ってきているように錯覚しているが故の笑みだった。

 

 千冬は扉の前で立ち止まる。そして鍵を開け、扉を明け放ち、氷雨の方を見る。

 

「先に入っていろ。私は少し凰と話があるのでな」

 

「……分かりました」

 

 千冬の言う話というのが自分に関するものであることは自明であった。それについて、自分抜きで話そうとしていることに少し抵抗を感じたものの、そこに出しゃばれるほどの立場に自分はいないと彼は思い直した。

 

「凰さん、お休みなさい」

 

「うん、お休み」

 

 そう言うと、氷雨は千冬の部屋の中に入っていき、千冬は扉を閉めた。

 

「それで話って何ですか、千冬さん」

 

「単刀直入に聞かせてもらう。鈴、お前は今の氷雨と一緒にいて苦しいか」

 

 千冬の言葉は鈴の心に深く刺さった。それは今、一番聞かれたくない問いであったからだ。

 

「なんで、そんなこと聞くんですか」

 

 自分の中の違和感を見ない振りすることで平静を保って今の氷雨と接することができていたのだ。それを、千冬は崩そうとしている。

 

「……いや、答えたくないなら答えなくていい。私としては誤魔化せるのならその方が都合が良いからな」

 

 千冬は思いの外、あっさりと退いた。

 

「凰。お前には明日から一組で授業を受けてもらう」

 

「……そういうことですか」

 

 そこまで言われれば、千冬が鈴に何をして欲しいのかが分かった。今の氷雨の状態を知っているのは鈴しかしない。であれば、彼の側にいて明日からの学園生活でのサポートをしろということなのだろう。

 

 故に千冬は鈴に問いかけた。今の氷雨といて苦痛かどうかを。

 

「ずるいですね」

 

 鈴は少し恨めしそうな顔を千冬に向ける。

 

「あたしが氷雨と一緒にいて苦しいなんて、言えるわけないじゃないですか」

 

「……すまない。だが、適任者がいなくてな。私がずっとついていられればいいのだが……」

 

「それはそれであたしが嫉妬しちゃいますよ?」

 

 鈴は冗談めかしてそう言いながら笑顔を浮かべた。

 

「強くなったな、鈴」

 

 そう言って千冬は鈴の頭を撫で、話は終わりだと踵を返した。

 

「お休み」

 

「お休みなさい、千冬さん」

 

 氷雨ではない氷雨の目覚めは始まりだった、二人が繋ぐ未来までのプロローグの。

 

    ◇   ◇   ◇

 

 IS学園、一年一組の教室は騒々しいものになっていた。それもそのはず、一週間学園を休んでいた氷雨が登校しているのだから騒がないはずがなかった。箒でさえ目覚めたことを知らされていないのだ。クラスメイトがするはずもなく、それはもう一種のパニック状態だった。

 

「静かにしろ」

 

 そんな狂乱も千冬の一声で治まる。

 

「今日から篠ノ之が登校を再開する。が、今のこいつには記憶がない」

 

 淡々と紡がれたその言葉に皆は驚愕を顔に浮かべた。そんな中、箒はおもむろに立ち上がり、声を荒げ千冬に問いかける。

 

「氷雨の記憶がないとは、どういうことですかっ!」

 

「言葉の通りだ。先の戦いで記憶を失った。それだけのことだ」

 

「それだけって……」

 

 千冬の言い方に箒は苛立ちを覚えた。記憶がなくなったことは、それだけと一蹴するには大きすぎる問題だ。そんな箒を見て、一夏が宥める。

 

「落ち着けよ、箒。千冬姉に怒ったって仕方ないだろ」

 

「それはっ……そうだが……」

 

 箒も分かってはいるのだ。千冬の言い方に苛立ったのは間違いない。だが、怒りの根幹にあるのはあの時何もできなかった自分の不甲斐なさだ。そう理解しているが故に、箒は一夏の言葉で沸き起こった怒りの矛を収めた。

 

 そのまま着席する箒を見て、千冬も自分の言い方が悪かったと反省する。だが、詳しいことは語れない、いや、語りたくないのだ。HADESシステムによって記憶を失ったといえば、それは原因が束にあると悟られてしまうのだから。氷雨が記憶を失っている今、箒と束の関係を更にこじれさせることは、得策ではないのだから。

 

「記憶がないこいつ一人では何かと不便だろう。よって、こいつの世話に適任の人物を一時的にこのクラスに加えることにした」

 

 世話という表現が少し引っかかったが、その紹介に応じて鈴が教室に入ってくる。

 

「二組の凰鈴音よ」

 

 その登場に動揺はなかった。むしろ鈴が出てきて納得している生徒すらいた。

 

「一時的な措置だが、凰には一組で授業を受けてもらう」

 

 それを受けて一組では席替えが行われた。最前列の正面に鈴と氷雨を配置して、その周囲に氷雨と関係が深かった専用機持ちなどが座るように変更されたのだった。

 

    ◇   ◇   ◇

 

 昼休みになると、氷雨の周りにはクラスのみんなが集まってきた。みんな心配していたのだからそうなるのは当然のことだろうと思っていた鈴であったが、大多数の女子はどこか面白がっているような節があった。

 

「篠ノ之くん、覚えてないの! あたしとあなたは恋人だったのよ!」

 

「私も篠ノ之と恋人だったよ」

 

「私は愛人だったんだよー」

 

「私もー」

 

「私も」

 

 そんな風に嘘を吹き込もうとする女子たちに鈴は呆れた顔をする。ため息を一つ吐き、彼女たちを氷雨の側から引っぺがす。

 

「はいはい、あんたたちいい加減にしないと後で千冬さんに告げ口するわよ」

 

「わー、それは卑怯だよー」

 

「仕方ない、てっしゅー。てっしゅー」

 

 氷雨を囲んでいた少女たちが散っていくのを見送り、いつものメンバーが氷雨の周りに集まってきた。

 

「大丈夫だった?」

 

 鈴が問いかけると、彼は暗い表情をしていた。なにかあったのかと鈴は心配になる。

 

「わ、私は複数の女性と関係を持っていたのですか……」

 

 そう言って記憶を失う前の自分を想像して絶望を顔に浮かべる彼であったが、それが的外れな心配であることを一番知っている鈴は笑う。

 

「あはは、そんなことないわよ。みんな、からかってるだけよ」

 

「そ、そうなんですか? よかったぁ」

 

 安堵の笑顔を浮かべる。そんな彼の様子を見て、一夏たちはやっぱり氷雨が記憶を失っているのだということを再度認識した。

 

「やはり、記憶はないのか、氷雨」

 

 箒が語りかける。正直、氷雨が記憶を失ったという事実に彼女はピンと来ていなかったのだが、鈴と彼が話をしている様子を見て理解した。彼には鈴への好意がなかったからだ。

 

「えと、あなたは……」

 

「ああ、私は篠ノ之箒。妹だ」

 

「妹さん……あ、双子なんですか?」

 

 確かに同じクラスに妹がいるとなるとそう認識するのも無理はない。だが、実際には二人は双子ではない。

 

「いや、同じ学年だが双子ではないぞ。私が小学一年のころに氷雨が養子としてうちに来たんだ」

 

「なるほど。そう言う事情があったのですね」

 

 彼はそう言うと、箒の方を見つめる。その視線に箒は少しむず痒くなって恥ずかしげに顔を逸らす。

 

「な、なんだ。まじまじと見て」

 

「いえ。確かに双子にしては僕と違って整った顔立ちだと思いまして」

 

「なっ!?」

 

 思いもよらず褒められてしまい、箒は顔を紅く染める。その仕草が何とも可愛らしく、妹だと思うと、一層彼には愛らしく見えた。

 

「で、俺の名前は織斑一夏だ」

 

「織斑……あ、先生と同じ苗字ですね」

 

「おう。その織斑先生の弟だ。氷雨と俺は小学一年の時に出会って仲良くなったんだぜ」

 

「そうなんですか。長い付き合いだったんですね」

 

 長い付き合い‘だった’。なんてことない言葉の中に、一夏は少し彼との間にある壁を感じた。感性の強い一夏なので、その程度のことも気になってしまう。しかし、それを仕方ないことだとも思っている。故に彼はその壁をすぐに取り去ってやると、むしろ息巻いたのだ。

 

「ああ。氷雨が家の都合で引っ越すまでの4年間ずっと一緒だったんだぜ」

 

「私も一緒だっただろ」

 

「そうだな。二年のころからは箒も一緒に遊んでたよな」

 

 昔話を懐かしそうに語る彼らの表情を見て、その記憶のない氷雨は以前の自分がどれほど彼らと深い仲だったのかを見出した。それは自分を肯定してくれている証拠であって、彼は安堵した。以前の自分が少なくとも、この二人には好かれているのが分かって安心したのだ。

 

「で、俺と氷雨は男でISを扱える世界でたった二人の人間だったわけで、この学園に入学させられたんだ」

 

「あ、その辺りのことは昨晩、織斑先生に聞きました。ISという女性しか扱うことのできない人型外骨格の操縦者を育成するのがこの学園なんですよね?」

 

 千冬が彼に説明した部分は彼の記憶……というよりは彼が置かれている状況であった。この状態の氷雨には人間関係の情報よりも優先されるものだと千冬は判断した。それは彼の身の安全を守るために、一番彼に認識しておいてほしい事柄だったのだ。

 

「そうそうだからこの学園には世界中からIS操縦者が集まってくるんだ」

 

「その最たる例がこのわたくし、セシリア・オルコットのような国家の代表候補生なのですわ」

 

 そう胸を張って氷雨の前に躍り出たセシリアに氷雨は視線を向ける。原作知識などという先入観のない彼にとって、その姿は眩しく見えた。

 

「え、オルコットさんは国の代表の候補生なんですか。すごいですね」

 

 素直に褒められてしまったセシリアは何故か少しの困惑を覚える。

 

「え、ええ。そうですわ。わたくしはすごいのですわ!」

 

 戸惑いながらも徐々に自信を取り戻し最後には高らかに宣言するその姿はまさに出会ったころの姿そのものであった。

 

「ですが、わたくしは氷雨さんに負けているのですわ」

 

「え?」

 

 彼は驚愕する。それは以前の自分が国の代表候補になるような人物に勝利してしまうような凄い人物であったなど、到底予想することはできなかったからである。

 

 しかし、その後に聞かされた試合の内容で彼の中の以前の自分に対しての評価は少し低いものになった。当然、不意打ちのような勝ち方をしたからである。

 

「まあ、あの試合はうまいこと氷雨に踊らされたな」

 

「ええ。ですが、あの試合展開まで含めて氷雨さんの実力だとわたくしは思っていますわ」

 

 だが、彼の評価に反して二人の評価は高かった。どうしてそんな風に肯定するのか彼には分からなかったが、二人にはその試合以外の氷雨が見えているからそのように評価するのだ。

 

「僕はシャルロット・デュノア。色々あってね、氷雨にはすごく感謝してるんだ」

 

「そうなんですか?」

 

 彼は少し困惑する。第一声に感謝の言葉を述べられても、それは自分に向けてであって、自分に向けられたものではない、何とも反応に困るものだったからだ。

 

「うん。あまり詳しくは言えないけど、氷雨は僕のために色々してくれたんだ」

 

 シャルが男装して学園に入学した本当の理由は一夏と氷雨にしか明かされていない。なので、ここで多くを語ることはできない。

 

「それは僕の人生を大きく変えるくらい……それくらい大きな存在だったんだ、氷雨は」

 

 以前の自分のことを聞かされ、彼は一層自分が分からなくなる。人から好かれて、代表候補生を超える力を有し、人生の転機を作ってしまうほどの大きな存在。

 

「……私とは、いったいどんな人物だったのでしょうか」

 

 そんな独り言を呟く彼の心境は一気にお披露目された『氷雨』という人物像によってかき乱されていた。

 

 しかし、そんな彼の混乱もよそに最後の刺客が自己紹介と共に彼をさらに混沌へと誘った。

 

「私はラウラ・ボーデヴィッヒだ。私はお兄ちゃんとの戦いで救われて、お兄ちゃんの妹になった」

 

 氷雨はその文字列に混乱した。理解するにはその言葉はよくわからないものだったのだ。彼女の視線からお兄ちゃんという単語が指す人物が誰なのかは予想がついている。しかし、それはおかしいのだ。彼女の名前はどう考えても日本人のそれではないのだから、彼女が妹であるというのはおかしい。それだけでなく、妹とはなるものなのかという疑問も生まれる。

 

 彼は混乱する頭で恐る恐る確認する。

 

「その……お兄ちゃんというのは……どなたのことですか?」

 

 それを受けたラウラは胸の前で腕を組み、堂々とした表情で宣言する。

 

「むろん、氷雨のことだ!」

 

「私という人物は、一体どういう人物なんですかぁー!」

 

 彼が氷雨を理解する道はあまりに険しかったのだった。

 




最終章が始まりました
もうすぐ投稿から一年になるのですね
ちょうど一年目で完結できたらそれはそれで面白いのではないかと思っています


こみトレの方ですが、初のサークル参加ということもあってなかなかに準備不足であった私ですが、イベントに参加する空気を味わえてとてもいい経験になったと思います
当然赤字でしたが、授業料ということで納得しました
差し入れをしてくださった方、本当にありがとうございました!
名前を聞かなかったのが悔やまれます……

また機会があれば参加したいですね
鈴ちゃんの方も完結したら本にまとめても面白そうです
とりあえず、表紙買いしてもらえるだけの画力になりたい
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